陸水学雑誌
Online ISSN : 1882-4897
Print ISSN : 0021-5104
ISSN-L : 0021-5104
68 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
原著
  • 神戸 道典, 伴 修平
    2007 年 68 巻 3 号 p. 375-389
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/12/31
    ジャーナル フリー
     琵琶湖固有種であるアナンデールヨコエビ(Jesogammarus annandalei)について, 8,15,20および25℃における生残率,呼吸速度,アンモニアおよびリン排出速度を測定し,その水平分布に与える水温の影響について考察した。本種は,年一世代で,日中7~8℃の湖底に生息し,夜間温度躍層下部まで上昇する。飼育水温を8~15℃に変化させても生残率に影響はみられないが,20あるいは25℃まで上昇させると1日以内に50%が死亡した。呼吸速度はいずれの季節でも水温上昇に伴って増加する傾向を示し,また1~3月と10月に比べて5~6月に高かった。これは成長に伴う増加を示しており,呼吸速度(R)は体乾燥重量(W)と水温(T)で,logR = 0.695·logW + 0.03·T-0.34と表すことができた。一方,アンモニアおよびリン排出速度は5~6月には水温上昇に伴って増加傾向を示したものの,1~3月と10月には温0度に伴う増加はみられず,20℃を上回る高水温ではむしろ低下する傾向を示し,その影響は若齢個体で顕著だった。琵琶湖北湖における本種の水平分布は,湖底水温が周年を通して10~15℃以下の地点に偏っていた。本研究は,このことをよく説明し,水温が本種の水平および鉛直分布を決定する重要な環境要因の一つであることを示唆した。
  • 永井 孝志, 恒見 清孝, 川本 朱美
    2007 年 68 巻 3 号 p. 391-401
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/12/31
    ジャーナル フリー
     重金属の水生生物に対する生物利用性と毒性は水中での金属の存在形態に依存する。そこで,薄膜拡散勾配(DGT)法と化学平衡モデルを用いて国内の河川水中におけるニッケル,銅,亜鉛の化学種の分別(スペシエーション)を行った。具体的な方法として,市販されている標準のDGTサンプラーを河川水中に約24時間沈めて,速度論的にlabileな(生物利用可能な)金属を捕集し濃度を分析した。また,フミン物質と金属の結合モデルを組み込んだ化学平衡計算ソフトであるVisual MINTEQを用いて,pH,硬度,溶存有機物濃度などの水質パラメータから生物利用可能な無機態の金属濃度を推定した。結果として,実測したlabileなニッケル濃度の存在割合は高い地点と低い地点があり,これは全地点でほとんどが無機態として存在するというMINTEQによる推定結果との違いがみられた。実測したlabileな銅濃度の存在割合は全地点で低く,MINTEQによる推定結果と一致した。実測と推定の両方で亜鉛はほとんどが生物利用可能態として存在するという結果となった。実測値と推定値の違いが大きい地点では下水処理水中に含まれるEDTAなどの合成キレート物質の影響が示唆された。
短報
  • 木村 成子, 伴 修平, 吉川 徹, 須戸 幹
    2007 年 68 巻 3 号 p. 403-413
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/12/31
    ジャーナル フリー
     琵琶湖集水域では古来より農業が営まれ,長年にわたって農薬や化学肥料などの化学物質が幅広く使用されてきた。これら化学物質が琵琶湖に生息する生物に及ぼす影響が懸念されている。本研究では,田植え期の4月中旬から6月下旬の期間,水田排水とそれが流入する河川水,そして琵琶湖水について,琵琶湖の植物プランクトンを用いたバイオアッセイによって農薬毒性および化学肥料による栄養塩負荷の影響について評価した。琵琶湖表面水は,5月中旬を除くその他の時期には,植物プランクトン成長にとって栄養塩制限下にあるが,河川水と水田排水には,水田からの栄養塩負荷によって植物プランクトン成長に充分な栄養塩の存在することが分かった。ただし5月中旬には,琵琶湖表面水でも植物プランクトンは栄養塩制限を示さなかった。一方,この時期には,農薬によると考えられる植物プランクトンの成長阻害が認められ,同時に測定された農薬濃度との関係をみると,除草剤であるPretilachlorとの間に有意な正の相関関係が認められた。このように,5月中旬には植物プランクトンに対する水田排水からの農薬影響が認められたものの,栄養塩負荷による成長促進が,農薬による成長抑制効果を上回っている可能性が示唆された。
  • 丸尾 雅啓, 戸田 全則, 左部 智子, 小畑 元
    2007 年 68 巻 3 号 p. 415-423
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/12/31
    ジャーナル フリー
     フェロジン-Fe(II)錯体の固相濃縮法を改良し,淡水中の3 nmol L-1 までのFe(II)の検出を行った。好気的環境である琵琶湖表層および流入河川におけるFe(II)の濃度分布をこの方法によって初めて明らかにした。2005年11月,琵琶湖北湖の表層(0m)において溶存Fe(II)濃度の最大値が測定された。水中に存在する全Fe(II)に占める割合も他の深度(5, 10, 20 m)と比較して最大であった。琵琶湖流入河川におけるFe(II)は河川の汚濁や地質に関係なくほとんどが溶存態であった。地下水の湧出が豊富な犬上川について6地点で測定を行った結果,pHの上昇に伴い,全Fe(II)/溶存Fe(III)濃度比が減少する傾向が認められた。さらに,塩化物イオン濃度の増加に従って濃度比が減少する傾向が認められたことから,Fe(II)が湧出し,表層の河川水との混合過程において酸化を受けていた状況にあったと考えられる。
  • 宇田川 弘勝, 高村 典子
    2007 年 68 巻 3 号 p. 425-432
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/12/31
    ジャーナル フリー
     近年,霞ヶ浦(西浦)の湖水が白濁する現象がしばしば観察され,湖内生態系への影響が懸念されている。そこで,この現象の原因物質を特定することを目的として,白濁時における懸濁物質(SS)の化学組成ならびに鉱物組成を明らかにし,平水時(非白濁時)との比較を試みた。化学組成に関しては,白濁時のSSは平水時よりも顕著にCa含量が多かった。一方,粉末X線回折法(Cu-Kα)によって鉱物組成を検討したところ,白濁時のSSは格子面間隔0.30 nm付近に明瞭な回折線を示した。この回折線は塩酸処理により消失し,また,強熱処理によって0.28 nmへ移行したことから,方解石(CaCO3)であることが明らかになった。さらに,走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析装置の併用により,白濁時のSSに含まれる方解石は,概ね粒径1μm以下であることが観察できた。一方,飽和指数の算出結果から,霞ヶ浦の湖水は方解石に対してしばしば飽和状態にあることが熱力学的に示めされた。以上から,霞ヶ浦の白濁現象は,溶存物質のマスバランスにより湖水中で生成した微細な方解石粒子の懸濁に起因するものであると結論した。
  • 古田 世子, 吉田 美紀, 岡本 高弘, 若林 徹哉, 一瀬 諭, 青木 茂, 河野 哲郎, 宮島 利宏
    2007 年 68 巻 3 号 p. 433-441
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/12/31
    ジャーナル フリー
     琵琶湖(北湖)の今津沖中央地点水深90 mの湖水検体から,通常Metallogeniumと呼ばれる微生物由来の特徴的な茶褐色のマンガン酸化物微粒子が2002年11月に初めて観測された。しかし,Metallogeniumの系統学的位置や生化学については未解明な部分が多く,また特に継続的な培養例についての報告はきわめて少ない。今回,Metallogeniumが発生した琵琶湖水を用いてMetallogeniumの培養を試みたところ,実験室内の条件下でMetallogenium様粒子を継続的に産生する培養系の確立に成功した。Metallogeniumを産生する培養系には,真菌が存在する場合と真菌が存在せず細菌のみの場合とがあった。実際の湖水中には真菌の現存量は非常に少ないため,細菌のみによるMetallogeniumの産生が湖水中での二価マンガンイオン(Mn2+)の酸化的沈殿に主要な役割を担っていると考えられる。真菌が存在する培養系では約2週間程度の培養によりMetallogeniumが産生された。しかし,細菌のみの培養系においては,Metallogeniumの産生に4週間から6週間を要した。本論文では特に細菌のみの培養系におけるMetallogeniumの発育過程での形態の変化を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡を用いて継続観察した結果について報告する。
特集:外来淡水産底生無脊椎動物の現状と課題
feedback
Top