白神山地・津軽十二湖湖沼群の王池流出河川で,捕食寄生が知られているヤドリハモンユスリカPolypedilum kamotertiumと宿主であるシマトビケラ類(ウルマーシマトビケラHydropsyche orientalisおよびコガタシマトビケラ属Cheumatopsyche spp.)を中心とした底生無脊椎動物群集の動態を調査した。ライトトラップによる採集では,調査河川から61種を超えるユスリカ科成虫が確認され,このうちヤドリハモンユスリカが最も優占した。ヤドリハモンユスリカ幼虫のシマトビケラ蛹への寄生は,シマトビケラ類の蛹や成虫の出現期間と同じ5月から9月まで継続的に起こっていた。この点から,ヤドリハモンユスリカの生活史は,宿主であるシマトビケラ類の生活史に強く依存しているものと推測された。調査河川におけるシマトビケラ類の蛹への寄生率は8~32%にものぼることから,ヤドリハモンユスリカの寄生はシマトビケラ類の個体群に大きな影響を与えていると推測された。
群馬県藤岡市の旧笹川と岡之郷用水,埼玉県川島町の長楽用水に生息するマツカサガイについて,その幼生が寄生利用している魚種を調べた。各水域で魚類を採集して個体数を計数するとともに,各魚種に対するマツカサガイ幼生の寄生数を魚の部位別,被嚢の有無別に計数した。さらに,岡之郷用水で採集したジュズカケハゼ類を水槽(水量6 L,水温24~27℃)で10日間飼育し,魚体から離脱する幼生や稚貝の有無を確認した。
採集された各魚種に対するマツカサガイ幼生の寄生率や寄生数,被嚢率は,水域や魚種,寄生部位によって違いが見られた。幼生は,旧笹川と岡之郷用水においてはドジョウやオイカワ等を主とした限られた魚種にしか寄生していなかったが,長楽用水においてはオイカワやメダカ類,ヨシノボリ類,コイといった多様な魚種に寄生していた。
さらに,飼育に供したジュズカケハゼ類からは,変態を完了させたマツカサガイ稚貝が3個体離脱した。これらを試験管(水量30mL,水温約21℃)で飼育したところ,最長で62日間以上生存した。このことから,ジュズカケハゼ類がマツカサガイの宿主として機能することが判明した。
以上の結果から,マツカサガイは,その生息水域によって利用する宿主の種類が異なり,宿主適合性も異なることが示唆された。
2012年8月に名古屋港藤前干潟で15 cm長の5本の柱状試料を採取し,それらのスライス試料(1.5 cm長)50個について,無機・有機元素,炭素・窒素安定同位体比,5種類の形態別リンを分析した。これより,都市河口域に位置する干潟堆積物の生物地球化学的特徴を明らかにし,有機物の起源が形態別リン鉛直分布に与える影響について考察した。
無機元素のPbとZnの濃縮係数はそれぞれ1.72,1.66で人為的な重金属濃縮を確認した。C / Nモル比の平均値は15.1,δ13Cは河川懸濁物と同等の-25.81 ‰を示し,有機物は陸源由来の河川懸濁物が卓越していた。またリンの形態別鉛直分布では,鉄結合態リンが卓越し表層0 - 1.5 cmでゆるく吸着したリンと合わせTPの約70 %を占め,深さとともに減少し6 cmより深い場所ではTPの約38 %でほぼ一定となった。これは,深さ6 cm付近に鉄の酸化還元境界層が存在していたことを示唆する。このように表層付近が酸化的であったのは,干潟の干出に加え,難分解性の陸源性有機物が卓越したことによって,堆積物間隙水や直上水の溶存酸素濃度の低下が抑制されていたことも原因として考えられる。
汽水湖である宍道湖において,高水温時の堆積物からの窒素・リンの溶出を調べるため,毎週一回の調査を行った。リンに関しては8から9月にかけての高水温時に激しい堆積物からの溶出が観測された。一方窒素に関しては7月に溶出が観測され,8から9月の高水温時に明確な溶出は観測されなかった。この時,水中には亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素はわずかであったため,脱窒による影響は小さいものと考えられた。フィールド調査の結果から,窒素はリンよりも溶出が早い段階で発生すると考えられた。
我々は1984年から2013年までの30年間の斐伊川流量データとLQ式を用いて,放水路の存在を仮定して宍道湖へ流入する水量,全窒素(TN)負荷及び全リン(TP)負荷の削減量の計算を行った。30年間の全水量に対する削減水量は1.6%とわずかなものであった。一方で,TN及びTP負荷量の削減はそれぞれ2.8%及び8.9%と計算され,TPの削減量が大きかった。この原因はTP濃度の方が流量に対する依存性が大きいことが原因と考えられた。2003年から2014年までの宍道湖湖心におけるTN:TP比は10であったが, 放水路の稼働によって比率が上がり,宍道湖において珪藻が藍藻よりも優占する可能性が考えられた。