陸水学雑誌
Online ISSN : 1882-4897
Print ISSN : 0021-5104
ISSN-L : 0021-5104
67 巻, 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総説
短報
  • ―赤雪の垂直分布と藻類との関わり―
    山本 鎔子, 林 卓志, 落合 正広, 福原 晴夫, 大高 明史, 野原 精一, 福井 学, 菊地 義昭, 尾瀬アカシボ研究グループ
    2006 年 67 巻 3 号 p. 209-217
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     尾瀬ヶ原では例年5月~6月の融雪時期にアカシボと呼ばれる彩雪現象がみられる。この着色の原因は, 雪中の赤褐色粒子に起因し, 融雪時期に積雪下の湿原表面から雪原表層にむけての水の動きに従い着色が進み, 融雪の後期には雪原表面全体に赤褐色化が拡大する。赤褐色粒子は緑藻類, Phacotaceae科Hemitoma sp. の休眠胞子で, 被殻には多量の酸化鉄が存在した。この赤褐色粒子数は雪の中の全鉄量と高い相関関係があった。尾瀬ヶ原のアカシボ現象はHemitoma 属の休眠胞子に由来すると推測した。
資料
  • 伊藤 寿茂
    2006 年 67 巻 3 号 p. 219-222
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     日本に帰化した淡水魚カダヤシGambusia affinis の塩分耐性を水槽内で調べた。飼育水の塩分を様々な上昇幅で24時間毎に上げていき, その生残率を調べた。1日で海水濃度まで上げた水槽では, 殆どの個体が死亡したが, 3日以上かけて徐々に塩分を上げた水槽では, その生残率は大幅に高まり, 海水に高い適応性のある魚種であることが確認できた。カダヤシは汽水域や海水域を一時的に生活場所と出来, 海水域を介して分布を拡大する可能性が示された。
  • 山内 健生, 有山 啓之, 向井 哲也, 山内 杏子
    2006 年 67 巻 3 号 p. 223-229
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     2002年の5-6, 10-12月に, 島根・鳥取県境に位置する中海において, オゴノリGracilaria asiatica とスジアオノリEnteromorpha prolifera に生息するヨコエビ相の調査を行った。その結果, 7科10種3117個体のヨコエビ類を確認した。これらのうち, Eogammarus possjeticus, Apocorophium acutum, アリアケドロクダムシMonocorophium acherusicum, トンガリドロクダムシMonocorophium insidiosum, ツルギトゲホホヨコエビParadexamine setigera, アゴナガヨコエビPontogeneia rostrata, ヒゲツノメリタヨコエビMelitasetiflagella, シミズメリタヨコエビMelita shimizui の8種は中海における新記録種であった。なお, これらの種が採集された水域の塩分濃度は9.99 psuから25.9 psuの範囲内であった。中海のオゴノリ葉上ヨコエビ相においてはモズミヨコエビAmpithoe valida が優占種であり, スジアオノリ葉上ではトンガリドロクダムシが優占した。
特集 : 集水域の生物地球化学シミュレーションモデルの有用性と課題
  • 吉岡 崇仁, 舘野 隆之輔, 楊 宗興
    2006 年 67 巻 3 号 p. 231-234
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     集水域環境を研究する上で, 陸上生態系と陸水生態系の間での物質循環を通した密接なつながりを無視することはできない。物質循環・水循環のシミュレーションモデルは, 森林・水資源の持続的利用や森林集水域系の適応的管理をはかるためだけではなく, 森林集水域における物質循環・水循環の科学研究にとっても有効な手段である。われわれは, 2005年9月に開催された日本陸水学会第70回大会 (大阪教育大学, 柏原市) の課題講演「集水域の生物地球化学 : 物質循環・水文過程に基づく集水域環境のシミュレーションモデル」において, シミュレーションモデルの有効性と限界について議論した。そこでは, 森林, 河川, 湖沼生態系の生物地球化学的, 水文学的モデルが紹介された。異なる気候・環境条件の場所に適用するには注意が必要であるが, シミュレーションモデルが集水域における環境変化を理解し, また予測するための有効で強力な手段であるという認識を得ることができた。各講演のタイトルは, 1. 「森林生態系の生物地球化学モデル : PnETモデルの適用と課題」, 2. 「シミュレーションモデルを用いた森林攪乱の長期影響評価」, 3. 「森林生態系からの溶存物質の流出をモデル化するために考慮しなければならない事柄」, 4. 「河川シミュレーションモデルの現状と課題」, 5. 「湖水の流動モデルと生物地球化学的物質循環モデル」であった。ここでは, これら5講演を総説としてまとめた。総説の内容は, 講演発表に基づいているが, 内容としてより詳しく, 充実したものになっている。
総説
  • 柴田 英昭, 大手 信人, 佐藤 冬樹, 吉岡 崇仁
    2006 年 67 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     森林生態系における生物地球化学プロセスは, さまざまな環境変化に対する生態系機能や河川水質変化と密接な関係がある。生態系の物質循環は生物・非生物の相互作用のもとに変化し、その変化をシミュレートするために開発されたプロセスモデルは, 将来における生態系機能の変化予測や, 時空間的に変化する物質循環の変動要因を解明するための研究ツールとして有用である。本稿では, 既往の研究における代表的な生物地球化学モデルであるFOREST-BGC, CENTURY, TEM, PnETモデルの構造と適用例について概説するともに, 河川へのNO3-溶脱予測が可能であるPnET-CNモデルを北海道北部の森林流域に適用した事例とその課題について述べた。PnETモデルは葉の光合成と蒸発散を基本としたモデルであり, 北海道北部の森林流域における河川硝酸イオン (NO3-) 濃度の季節変化を比較的良く再現していたものの, 冬期間にはやや過大評価し, 無雪期間には過小評価する傾向も認められた。既存のモデル構造やバリデーションの解析結果などから, 積雪―融雪プロセスに伴う大気窒素沈着の流入速度や, 地中の水文プロセスを考慮に入れたモデルの改善が必要であることが示唆された。
  • 徳地 直子, 舘野 隆之輔, 福島 慶太郎
    2006 年 67 巻 3 号 p. 245-257
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     森林生態系の撹乱に伴う影響について既往の研究をまとめ, その長期影響評価を北米で開発されたPnETモデルをわが国にも適用するための検討を行った。
    森林生態系の撹乱は, 生態系内での主要な物質循環経路である植物による吸収を断つため, 物質循環に大きな影響を及ぼす。特に, 窒素は植物-土壌系において吸収・分解の再循環を最大の経路とするため, 撹乱の影響が顕著に現れる。撹乱により吸収されなくなった余剰の窒素は, 硝化過程を経て硝酸に変換され, 渓流中へ流亡し下流へも影響を及ぼす。PnET-CNで森林撹乱の長期影響予測をしたところ, 林齢に伴う現存量の頭打ちや加齢に伴う葉の窒素濃度の低下といったパターンはほぼ再現された。しかし, 個々の数値には既存の研究にみられる実測値と大きな隔たりがあった。これらのことから, 諸現象の再現は擬似的なものに過ぎず, 今後は水分条件や養分条件, 根系の発達過程などに基づいたパラメーターの設定を行うことが必要であることを示した。さらに, 精度の向上のために必要な新しいプロセスとして更新プロセスが, わが国への適用のためには地形的異質性を加味した新しい水文プロセスの改良が重要であると考えられた。加えて, わが国で精度の高い長期的な森林撹乱の影響予測を行うためには, 長期のモニタリングデータベースの整備を進める必要がある。
  • 大手 信人
    2006 年 67 巻 3 号 p. 259-266
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     森林流域を対象とし, 渓流や河川の水質形成をモデル化するためには, 森林の物質循環と, そこから流出する溶存物質や浮遊物質が運ばれる水移動過程が記述できなければならない. 従来, 北東アメリカや北欧の気候条件下の観測データを基に, いくつかのモデルが開発されてきたが, 降水量の季節変動がはっきりとしたモンスーン気候下の森林流域では渓流水の水質を十分にシミュレートできない可能性がある. これは, モンスーンに起因する降水量の季節変動が地下水と土壌水の混合の変動を制御し, それによる渓流水質の季節変化が色濃く表れるからである. こうした現象のモデル化には, 土壌水, 地下水の貯留効果を十分に再現できる地下部の水文モデルを, 物質循環モデルと組み合わせる必要がある.
  • 山下 三男, 市川 新, 佐藤 冬樹, 柴田 英昭
    2006 年 67 巻 3 号 p. 267-280
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     水をめぐる情報共有の重要なツールとして分布型モデルが提案されている。分布型モデルは河道水理モデルと支流域の降雨流出モデルからなる。河道水理モデルについては高性能の市販モデルが利用できるが, 支流域からの流出の記述に関しては十分な議論がされていない。森林小流域を対象とする降雨流出モデルの要件は, 連続的な降雨流出の記述と測定可能な土壌の状態に基づくモデル係数の同定である。筆者らはこれらの要件を満たすべく, 竹下の土壌分類に基づく2段階の貯留と3段階の排水過程で流出を記述する山下モデルを開発した。必要なモデル係数は分類に対応する水分量で表現した。
    このモデルを実際の森林小流域において検証した結果, きわめて再現性の高い結果を得た。今後は条件の異なる小流域にモデルを適用し, モデル係数の一般化を行う必要がある。本モデルに限らず, 降雨流出モデルの向上のためには, 多くの条件の異なる森林小流域における短時間間隔の降雨流出データが蓄積されるべきである。
  • 中田 喜三郎, 日野 修次, 植田 真司
    2006 年 67 巻 3 号 p. 281-291
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2008/03/21
    ジャーナル フリー
     森林伐採のような人為的なインパクトに対する環境影響, 特に湖沼生態系への影響を評価するために, 湖沼の流動場と生物地球化学的な循環を記述するモデルを結合したモデルを開発する事が必要である。ここでは対象を朱鞠内湖とし, 湖水の流動モデルの適用の結果と, 今後開発する生物地球化学的な循環モデルの考え方について紹介する。
feedback
Top