群馬県中央部に位置する榛名湖を対象として,夏季停滞期における溶存無機炭素(DIC)の起源および供給プロセスについて,炭素同位体組成(δ13CDIC)と水質組成を用いて検討を行った。水温の深度プロファイルから榛名湖水は表水層と深水層という大きく二つの層に分類され,その間にある深度7~8 mには水温躍層を持つことが明らかとなった。表水層では深水層と比較して,より高いpHと溶存酸素(DO),より低いDIC濃度,CO2分圧(logPCO2),δ13CDIC値を持っており,これらは有光層としての表水層における光合成の結果により生じたものといえる。同位体濃縮係数(ε)を-16.6‰としたRayleigh modelによる検討を行った結果,深水層から表水層にかけて認められたDICの濃度低下およびδ13CDIC値の上昇は,最大30%のDIC消費をともなう光合成で十分に説明することができた。さらに,榛名湖水と初期状態で平衡にあるCO2ガスのδ13C値について算出を行ったところ,約-21‰と求められた。この値から判断して,榛名湖水のDICのほとんどは呼吸を通じた有機物分解によりもたらされており,大気CO2ガスの影響は無視できるものといえる。
石礫下部に生息するミツトゲマダラカゲロウ(Drunella trispina (Uéno))老齢幼虫について,河床分布と細粒底質の関係を明らかにするために,2016年6月に多摩川水系の山地渓流において,周囲もしくは直下の細粒底質量が様々である石礫における本種幼虫の在不在を調べた。ミツトゲマダラカゲロウの老齢幼虫は,直下や周囲の河床表面を細粒底質が占める割合が大きい石礫ほど出現確率は高く,かつ幼虫が出現したのは直下の河床表面を細粒底質が占める割合が大きい石礫(面積割合 > 75%)のみであった。本研究の結果は,瀬の石礫底に生息するとされ,砂や砂利を直接利用しない底生動物種においても,細粒底質が微生息場の構成要素として重要である可能性を示すものである。