産業衛生学雑誌
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65 巻, 6 号
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Issue Information
総説
  • 廣 尚典
    原稿種別: 総説
    2023 年 65 巻 6 号 p. 329-340
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/11/25
    [早期公開] 公開日: 2023/06/14
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    わが国において,職場のメンタルヘルスに関する研究は,労働者のメンタルヘルス不調の第三次予防から,第二次予防,さらには第一次予防にまで,その主題を広げてきた.最近では,産業保健以外の領域の議論も取り込む動きがみられ,労働生活の質の向上や,組織の活性化といった,ゼロ次予防とも呼ばれる範疇の視点を持つものも散見される.

    こうした流れを踏まえて,拙論では,まず第三次予防,第二次予防に関する議論の成果であるとともに,研究や実践の基盤にもなってきたメンタルヘルス不調に係る用語,概念をまとめた.

    次に,1990年代以降の数々の研究で用いられてきた,仕事関連のストレスとそれがもたらす影響に関する主要なモデル,精神健康(不調)の指標などを紹介した.これらは,本領域の研究の拡がりに多大な貢献をしたと言える.

    他方,仕事関連のストレス要因と健康問題との関係に介在する影響因子は多数存在し,社会,文化的なものも少なくない.そのため,わが国で汎用性の高いメンタルヘルス対策の手がかりを得るためには,対象を国内に限定した大規模研究やメタ分析などを含む系統的なレビューが必要である.そうしたことから,第三に,わが国における本領域の代表的な大規模研究を,それらの推進に対する期待を込めて拾い上げた.

    もっとも,それらがいかに推進されても,その結果を現場での実践にどのように活用するかという課題がなくなることはないであろう.産業保健従事者が自らの担当する職場の実情を把握し,実践に落とし込む努力は重要であり続けるはずである.

短報
調査報告
  • 池上 和範, 安藤 肇, 馬場 宏佳, 世古口 真吾, 吉武 英隆, 菅野 良介, 野澤 弘樹, 長谷川 将之, 大神 明
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 65 巻 6 号 p. 347-354
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/11/25
    [早期公開] 公開日: 2023/04/07
    ジャーナル フリー HTML

    目的:本邦で実施されている職域の定期健康診断において,標準的な問診票として示されたものがない.そのため,問診情報が産業保健スタッフにとって有益なものとはなっていない可能性や,問診情報を縦断データとして管理することが困難であることなどの諸々の問題が存在すると考える.本研究は,産業保健実務の視点から,定期健康診断において必要とされる項目を検討し,標準的な問診票の試案作成を目的とする.方法:本研究は産業保健専門職の協力を得て,デルファイ法による定期健康診断の問診項目について検討を行った非介入研究である.2018年2月から2020年11月に実施された.産業保健に関連する資格を有し,定期健康診断の問診票の情報を業務で利用している産業医および産業看護職の全22名の専門家に研究参加を依頼した.全国の70の企業外労働衛生機関で使用されている問診票を入手し,全ての問診票の項目を抽出した.そして,重複項目および類似項目を整理・統合し,8の大項目(「個人属性」,「仕事関連情報・業務歴」,「生活歴,自覚症状」,「現病歴,既往歴」,「家族歴」,「妊娠の有無」)と589の小項目にまとめた.参加者に,個人属性と妊娠の有無に関する小項目を除いた小項目の必要性について,5段階リッカート尺度で評価してもらった.評価が低い問診項目を除外した調査用質問票を再作成し,参加者へ集計結果を添えて配布し,同様に評価してもらう手順を3回繰り返し,3回目の合意割合が7割を超えた問診項目を採用した.最終的に採用された問診項目を再度参加者に確認してもらい,全ての参加者の合意を得た.結果:最終的に5の大項目と85の小項目が採用された.大項目別の内訳は,「仕事関連情報・業務歴」が12項目,「生活歴」が11項目,「自覚症状」が22項目,「現病歴」が37項目,「既往歴」が3項目であった.考察:本研究で,仕事情報・業務歴や自覚症状,現病歴の大分類から多くの問診項目案が採用され,産業保健の実務に活用可能な問診情報を概観できた.今後,本研究を踏まえて,実装可能な問診票を開発し,健康情報管理や利活用の方法などを検討する必要がある.

  • 森岡 郁晴, 竹下 達也, 宮下 和久, 藤吉 朗, 生田 善太郎
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 65 巻 6 号 p. 355-365
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/11/25
    [早期公開] 公開日: 2023/06/23
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    目的:2021年に策定された「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(以下,ガイドライン)」は,事業者に実施可能な高年齢労働者の労働災害防止対策に積極的に取り組むことを求めている.そこで,本研究では,事業場におけるガイドラインの周知状況と,高年齢労働者に配慮した職場改善の取り組み状況を事業場の規模別に明らかにすることを目的とした.対象と方法:和歌山産業保健総合支援センターの事業場リストから,無作為に抽出した和歌山県内の780事業場を対象に,無記名自記式の質問紙を郵送により配布した.質問紙は,事業場の概要,ガイドラインの周知状況,安全衛生の総括管理,労働条件・作業者・作業負荷軽減・作業姿勢・作業環境・安全・健康への配慮を尋ねる内容とした.結果:質問紙は171事業場から回収された(有効回収率:21.9%).ガイドラインは,小規模(労働者数50人未満)の事業場で「名前も聞いたことがない」が39.0%と多く,中規模(労働者数50–99人),大規模(労働者数100人以上)の事業場で「名前は聞いたことがあるが,内容は知らない」が多かった(中規模33.3%,大規模47.8%).高年齢労働者が安心して安全に働くための職場環境の整備等に要する費用を補助する制度(以下,補助制度)は,いずれの規模の事業場でも「名前も聞いたことがない」が多かった.安全衛生の総括管理では,高年齢労働者による労働災害の発生リスクに対する相談しやすい体制整備を行っている事業場はいずれの規模でも半数を超えていた.労働条件や作業者への配慮ができている事業場は,いずれの規模でも半数を超えていた.しかし,作業負担軽減・作業姿勢・作業環境・安全・健康への配慮ができている事業場が半数を超えている項目は,事業場の規模に関係なく少なかったことから,職場改善はあまり進んでいないことが明らかになった.結論:高年齢労働者に配慮した職場改善を進めるためには,ガイドラインの周知と補助制度の活用による職場改善に積極的に取り組む必要性が示唆された.

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