産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
59 巻, 3 号
選択された号の論文の2件中1~2を表示しています
原著
  • 松岡 朱理, 小林 祐一, 梶木 繁之, 上原 正道, 佐々木 規夫, 小田上 公法, 平岡 晃, 中西 成元, 五十嵐 侑, 森 晃爾
    2017 年 59 巻 3 号 p. 71-81
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/05/31
    [早期公開] 公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    目的:日系企業の海外勤務者やその帯同家族が現地医療機関を受診する際,日本と受診システムが異なることや,医療費が日本より高くなる傾向があること,言語の問題など,様々な困難を経験することが報告されている.各企業の産業保健専門職が,海外勤務者及び帯同家族が安心かつ適切に現地医療機関を受診できるよう支援するためには,事前に現地の医療機関に関する情報や医療制度,緊急搬送システムなどを把握していることが必要である.そこで,産業保健専門職がより効率的かつ効果的に現地医療機関の情報収集を可能とするための情報収集チェックリストを作成することを目的として,本研究を行った.方法:文献調査および研究班メンバーの知見をもとに,産業保健専門職による海外勤務者に対する支援ニーズを明らかにし,そのために必要な情報収集チェックリスト原案を作成した.次に,海外勤務者及び帯同家族の健康管理に関する外部専門家へのインタビュー調査及び現地医療機関での試用による妥当性検討を行って情報収集チェックリストβ版を作成した.その上で,β版を用いた有用性の検討と改善というプロセスを経て,各国・地域において,海外勤務者及び帯同家族が受診しうる現地医療機関の情報を効率的に収集するための情報収集チェックリストを完成させた.結果:完成した情報収集チェックリストは,窓口・事務サービス,病棟,可能検査項目,外来体制,救急体制,小児科,産婦人科,歯科,一般健康診断,予防接種,感染症対策,その他から成る大項目12項目及び,中項目51項目,小項目131項目から構成された.考察:本チェックリストを用いることにより,産業保健専門職が海外勤務者の支援実務の中で必要となる情報を網羅的かつ効率的に入手できると考えられる.しかし,訪問時間は限られているため,実際に本チェックリストを用いて現地で情報収集を行う際には,医療機関ホームページ等を用いた事前の情報収集を行うとともに,訪問時には優先順位を決めて情報収集を行う必要がある.また,より多くの情報を正確に収集するためには,可能な限り日本人専用窓口や外来,病棟,救急外来,心臓カテーテル室等のチェックリストの項目に関連した施設を訪問し,各現場の医師や看護師などの専門スタッフからも情報収集できる機会を得ることが望ましい.

  • 岩切 一幸, 松平 浩, 市川 洌, 高橋 正也
    2017 年 59 巻 3 号 p. 82-92
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/05/31
    [早期公開] 公開日: 2017/03/17
    ジャーナル フリー HTML

    目的:本研究の目的は,介護者に福祉用具を使用させるプログラムを作成し,そのプログラムによる組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響について検討することとした.対象と方法:アンケート調査は,対象施設とした2つの特別養護老人ホームのうち,1つを対照施設,もう1つを介入施設とし,その施設の介護者全員に対して介入前,介入1年後,介入2年半後の時期に実施した.調査票は,施設用および介護者用アンケートを用いた.介入施設では,福祉用具を適用すると判断した入居者に対し(全入居者の27.5%),移乗介助において移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを必ず使用するプログラムを作成し,介護者に実施させた.一方,対照施設では,福祉用具の使用に関する指導は行わなかった.両施設とも,介入前の時期から福祉用具は導入されており,介護者の判断で個々に使用されていた.結果:施設用および介護者用アンケートの平均回収率は100%と90.3%であった.介護者用アンケートの解析対象者は,3回の調査全てに回答した対照施設の23名,介入施設の29名とした.福祉用具は,介入前調査の時点において既に対照施設と介入施設に導入されていたが,福祉用具を必ず使用している介護者はいなかった.その2年半後には,介入施設の31.0%の介護者が,移乗介助時にリフトを必ず使用していた.しかし,対照施設では必ず使用していた介護者は4.3%のみであった.また,介入施設の27.6%の介護者は,スライディングボートまたはスライディングシートを必ず使用していたが,対照施設にて必ず使用していた介護者は4.3%のみであった.介護者の腰痛の訴えは,両施設とも2年半の調査を通して約6~7割を占めており,施設間および調査期間において統計的有意差はなく,介入施設における施設全体としての介入効果は認められなかった.しかし,介入施設では移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを積極的に使用していた介護者に腰痛の改善効果が認められた.一方,対照施設では福祉用具を使用していた介護者に腰痛の改善効果は認められなかった.考察:これらの結果から,介護者の腰痛症状を緩和したり,腰痛を予防したりするには,福祉用具を導入するだけではなく,介護者に福祉用具を使用させる組織的な取り組みが必要と考えられる.また,福祉用具を適用する入居者が今後増えると,この組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛をさらに改善し,より安全で健康な介護環境を構築するものと思われる.

feedback
Top