産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
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66 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
Issue Information
総説
  • 河野 啓子, 武澤 千尋, 後藤 由紀
    原稿種別: 総説
    2024 年 66 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2024/01/20
    公開日: 2024/01/25
    [早期公開] 公開日: 2023/08/03
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    目的:わが国において今まで行われてきた「産業看護に関する研究」の推移を概観し,今後どのような研究の強化が求められるのか,その方向性を見出すことを目的とした.対象と方法:医中誌Webを用い,キーワードを(「労働衛生看護」or「産業看護」)and「研究」とし,1903年~2022年12月に発行されたすべての文献を対象とした.全760件の中から,商業誌を除外した483件とハンドサーチにより追加した3件を加えた486件について,その種類及び年代別の発行数を集計した.研究内容の分類は,原著・総説論文に該当する194件について行い,実践方法と実践能力の側面から分類した.結果と考察:486件の文献全体を種類別に見ると,会議録230件(47.3%)であり,全体の5割近くを占めていた.原著・総説論文は194件(39.9%)であり,ほぼ4割を占めていた.原著・総説論文のうち,実践方法の側面からの分類では,総括管理107件(55.2%),健康管理86件(44.3%),作業環境管理1件(0.5%)であり,作業管理,労働衛生教育はともに0件であった.実践能力の側面からの分類では,知識125件(64.4%),技術23件(11.9%),コンピテンシー46件(23.7%)であった.年次推移をみると,論文数ではいずれの種類の論文も年代区分が進むにつれて増えていた.また,全486件中,会議録が最も多く,1992年までは8割を超えていたが,次第にその割合は減少し,直近では5割を下回っていた.一方,原著論文は当初2割を下回っていたが,年代区分が進むとともにその割合が増加し,直近では4割を超え,数も会議録を上回り,よい経過をたどっていると考える.論文の内容についてみると,実践方法に関する論文では,作業環境管理,作業管理,労働衛生教育に関する研究がほとんどみられなかった.また,実践能力に関する論文では,知識に関する研究が最も多く,技術ならびにコンピテンシーに関するものもある程度なされてはいるものの,産業看護職にとって重要と考えられるにもかかわらず,まだ手がつけられていない領域があることが浮き彫りにされたと考える.結論:わが国の産業看護に関する論文については,1980年に初めて会議録が発表されて以来,論文数は着実に増えていることが明らかになった.論文の内容について,実践方法の側面からの分類では,総括管理が最も多く,そのうち産業看護管理が8割近くを占めていたことから,研究を通して産業看護の発展を目指した努力がうかがえた.一方で,作業環境管理に関する研究は,ごく少なく,作業管理,労働衛生教育に関する研究は0件であったことから,今後,これらに関する研究の必要性が示唆された.実践能力の側面からの分類では,知識に関するものが全体の6割を超え,産業看護職としての成果を上げるために必要なコンピテンシーに関する研究は2割強であった.また,コンピテンシーの内訳についても数の少ない領域があり,これについても今後の強化の必要性が示唆された.

原著
  • 赤川 景子, 渡井 いずみ
    原稿種別: 原著
    2024 年 66 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2024/01/20
    公開日: 2024/01/25
    [早期公開] 公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー HTML

    目的:COVID-19第2波流行時におけるバス事業労働者のメンタルヘルスと新型コロナウイルス恐怖,雇用の不安定性との関連性を明らかにすることである.対象と方法:2020年9月に,東海地方の私鉄系バス会社3社の従業員1,889名を対象に無記名自記式質問紙を配布した.調査項目は,抑うつ,不安,新型コロナウイルス恐怖,雇用の不安定性,基本属性,労働属性である.従属変数を抑うつ,不安,独立変数を新型コロナウイルス恐怖,雇用の不安定性,基本属性,労働属性としたロジスティック回帰分析を行った.結果:回収した調査票のうち,精神疾患の既往あり等を除いた1,316名を分析対象とした(有効回答率69.7%).多重ロジスティック回帰分析の結果,抑うつのオッズ比は,新型コロナウイルス恐怖および雇用の不安定性の低群と比較して中群と高群で有意に高かった.また,不安のオッズ比についても,新型コロナウイルス恐怖および雇用の不安定性の低群と比較して中群と高群で有意に高かった.考察と結論:COVID-19第2波流行時のバス事業労働者において,新型コロナウイルス恐怖および雇用の不安定性はそれぞれ抑うつと不安のリスク因子であることが明らかになった.さらに雇用の不安定性が新型コロナウイルス恐怖よりも抑うつ,不安に対するリスク要因としてより高いリスク要因であることが明らかになった.エッセンシャルワーカーであるバス事業におけるメンタルヘルス対策としては,十分な感染対策の徹底と,労働者の雇用の不安定性に対する対策を同時に進めることが重要と考える.

短報
調査報告
  • 櫻谷 あすか, 津野 香奈美, 井上 彰臣, 大塚 泰正, 江口 尚, 渡辺 和広, 荒川 裕貴, 川上 憲人, 小林 由佳
    原稿種別: 調査報告
    2024 年 66 巻 1 号 p. 31-44
    発行日: 2024/01/20
    公開日: 2024/01/25
    [早期公開] 公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー HTML

    目的:近年,質の高い産業保健活動を展開するために,産業保健専門職がリーダーシップを発揮することが求められている.本研究では,産業保健専門職が権限によらないリーダーシップを発揮するために必要な準備状態を測定するチェックリスト(The University of Tokyo Occupational Mental Health [TOMH] Leadership Checklist: TLC)を開発し,TLCの信頼性・妥当性を統計的に検証することを目的とした.対象と方法:文献レビューおよび産業保健専門職を対象としたインタビューに基づき,6因子54項目(自己理解10項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行3項目,人間関係構築10項目)から構成される尺度のドラフト版を作成した.次に,産業保健専門職(人事労務,安全衛生,健康管理のいずれかの部門に所属する者)300名を対象に,webによる横断調査を実施し,信頼性・妥当性を検証した.結果:主因子法・プロマックス回転を用いた探索的因子分析を実施した結果,5因子51項目が得られた(自己理解8項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行12項目).次に,確認的因子分析を行った結果,適合度指標はCFI = 0.877,SRMR = 0.050,およびRMSEA = 0.072となった.また,TLCの5つの下位尺度のCronbach’α 係数は,0.93~0.96となった.TLCの合計および下位尺度はいずれも,ワーク・エンゲイジメント,職務満足度,および自己効力感との間に有意な正の相関が認められた(p < .05).一方,心理的ストレス反応との間に有意な負の相関が認められた(p < .05).加えて,「権限によらないリーダーシップを発揮したことはあるか」という質問に対して「はい」と回答した群は,「いいえ」と回答した群に比べて,TLCの合計得点および下位尺度得点が有意に高かった(p < .001).考察と結論:本研究で産業保健専門職向けに新たに開発したTLCは一定の内的一貫性,構造的妥当性,構成概念妥当性(収束的妥当性および既知集団妥当性)を有することが示唆された.

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