産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
65 巻, 5 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
Issue Information
原著
  • 南谷 優成, 向井 智哉, 立道 昌幸, 片野 厚人, 福吉 潤, 中川 恵一
    原稿種別: 原著
    2023 年 65 巻 5 号 p. 231-247
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/25
    [早期公開] 公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー HTML

    目的:職域でのがん検診受診率向上に繋がる対策には,エビデンスが乏しいものが多い.がん対策推進企業アクションの実態調査から,企業・団体で行われている対策中で有効性が高いものを明らかにすることが目的である.対象と方法:2021年度推進パートナー企業・団体への実態調査に回答した企業・団体を対象とした.5がん(胃がん,肺がん,大腸がん,乳がん,子宮頸がん)検診受診率とがん検診推進の取組みに関してウェブ上で回答を得た.取組みによって非階層的クラスター分析を行い,群毎の5がん検診受診率を分散分析によって比較した.さらに胃がん/肺がん/大腸がんと乳がん/子宮頸がんの2つの各平均受診率を従属変数,各取組みの実施を独立変数,企業・団体の規模と業種を統制変数とした重回帰分析を行った.結果:704企業・団体より回答を得た.クラスター分析によって分類された3群を,積極群,中庸群,消極群と定義した.すべてのがん検診で,群の主効果は有意であり,多重比較から,積極群と消極群(ts > 3.30, ps < .01, Hedges’ ds > 0.73),中庸群と消極群(ts > 3.70, ps < .01, Hedges’ ds > 0.88)の差は有意であった.肺がん以外の4がんでは積極群と中庸群の差は有意でなく(ts < 0.21, ps < .84, Hedges’ ds < 0.02),肺がんでは有意であったが効果量はわずかだった.重回帰分析より胃がん/肺がん/大腸がんでは,「大腸がん検査キットの全対象者への配布(β = 0.14)」が,乳がん/子宮頸がんでは「企業・団体実施のがん検診費用補助(β = 0.24」,「就労扱いでの検診受診(β = 0.18)」,「受診時の女性受診者への配慮(β = 0.17)」がそれぞれの平均受診率への効果が有意であった.考察と推論:企業・団体における,がん検診受診率に関係した,がん検診推進の取組みが抽出された.これらの取組みを受診率が低い企業・団体に実践してもらえば,受診率向上に結びつく可能性がある.

調査報告
  • 錦戸 典子, 田島 麻琴, 安部 仁美, 松本 泉美, 今井 鉄平, 寺田 勇人, 齋藤 明子, 茅嶋 康太郎
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 65 巻 5 号 p. 248-259
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/25
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー HTML

    目的:中小企業におけるコロナ禍の職場環境変化とストレス,展開された取り組みと成果,および促進要因を,企業関係者の視点から明らかにすることを,本研究の目的とした.方法:従業員300人未満の中小企業の経営者または人事労務担当者を対象に,2021年秋に,コロナ禍による職場環境の変化とストレス,取り組み,成果,促進要因について半構造化面接を行った.逐語録または聞き取りメモからコードを抽出し,内容の類似性に着目してカテゴリー化した.結果:16社へのインタビュー調査の結果,コロナ禍による職場環境の変化とストレスとして,【感染蔓延下でも出社せざるを得ない葛藤と感染不安】,【急激に突き付けられた新たな働き方への不慣れや孤独感】,【職場仲間との横のつながりや気分転換の機会が消失】,【将来不安,疎外感,メンタルヘルス不調の出現】の4つの大カテゴリーが抽出された.それらに対する取り組み内容として,【感染予防と体調管理への手探りの対応】,【業務継続に向け,テレワークを緊急導入】,【オンライン上での情報共有の工夫・促進】,【社内の情緒的なつながりを維持できる場・機会の確保】,【社員の生活を守り会社の存続を図る経済・経営対策】,【社員の健康維持増進に向けた支援】,【社員のニーズ・アイデアを基に対応し,活動継続を支援】の7大カテゴリーが抽出された.成果として,【情報共有が効率化し業績もアップ】,【遠隔でも連帯感や一体感を維持・醸成できた】,【危機に立ち向かう中で,社員自身の主体性や健康意識が高まった】,【新たな状況に適応できつつある】の4大カテゴリーが抽出された.取り組みの促進要因として,【経営者の社員を大切にする姿勢や経営理念】,【社員が意見を出し合い助け合う職場風土】,【情報獲得・資源活用への積極的な姿勢】の3大カテゴリーが見出された.考察と結論:感染対策と業務継続の両立を求めてテレワークを緊急導入した結果,孤独感の増加など新たな働き方へのストレスが増大したことを受け,社員のアイデアを取り入れつつ,人と人のつながりを維持する取り組み等が展開されており,中小企業の特徴と考えられた.その成果として,職場の連帯感の維持や社員の主体性の向上ができたと感じている企業が多く,平時から経営者の社員を大切にする姿勢・経営理念のもと,社員の意見を反映しやすい職場風土を醸成することが有用と考えられた.

  • 川又 華代, 金森 悟, 甲斐 裕子, 楠本 真理, 佐藤 さとみ, 陣内 裕成
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 65 巻 5 号 p. 260-267
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/25
    [早期公開] 公開日: 2023/03/19
    ジャーナル フリー HTML

    目的:身体活動の効果のエビデンスは集積されているが,事業場では身体活動促進事業は十分に行われておらず,「エビデンス・プラクティスギャップ」が存在する.このギャップを埋めるために,本研究では,わが国の事業場における身体活動促進事業に関連する組織要因を明らかにすることを目的とした.対象と方法:全国の上場企業(従業員数50人以上)3,266社を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を行った.調査項目は,身体活動促進事業の有無,組織要因29項目とした.組織要因は,事業場の健康管理担当者へのインタビューから抽出し,実装研究のためのフレームワークCFIR(the Consolidated Framework For Implementation Research)に沿って概念整理を行った.目的変数を身体活動促進事業の有無,説明変数を組織要因該当総数の各四分位群(Q1~Q4),共変量を事業場の基本属性とした多重ロジスティック回帰分析を行った.最後に,各組織要因の該当率と身体活動促進事業の有無との関連について多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:解析対象となった事業所は301社であり,98社(32.6%)が身体活動促進事業を行っていた.Q1を基準とした各群の身体活動促進事業の調整オッズ比は,Q2で1.88(0.62–5.70),Q3で3.38(1.21–9.43),Q4で29.69(9.95–88.59)であった(傾向p値 < .001).各組織要因と身体活動促進事業との関連については,CFIRの構成概念のうち「内的セッティング」に高オッズ比の項目が多く,上位から「身体活動促進事業の前例がある」12.50(6.42–24.34),「健康管理部門の予算がある」10.36(5.24–20.47),「健康管理部門責任者の理解」8.41(4.43–15.99)「職場管理者の理解」7.63(4.16–14.02),「従業員からの要望」7.31(3.42–15.64)であった.考察と結論:組織要因該当数と身体活動促進事業の有無に量反応関連が認められ,組織要因の拡充が身体活動促進事業につながる可能性が示唆された.特に,社内の風土づくりや関係者の理解の促進が有用であると推察された.

資料
feedback
Top