日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の290件中1~50を表示しています
発表要旨
  • スペイン・カタルーニャ自治州パナデスにおけるエノツーリズム
    齊藤 由香
    セッションID: 505
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    近年,ヨーロッパの多くのワイン生産地が,従来のブドウ栽培・ワイン醸造業に加え,ワインをテーマとした観光(エノツーリズム)に力を入れるようになっている。ワイナリー訪問がその中核を占めるなかで,新たな観光対象として注目されているのが,ブドウ畑の景観である。世界遺産条約への「文化的景観」の導入(1992年),ヨーロッパ景観条約の成立(2000年)などを背景に,ヨーロッパではブドウ畑の景観のもつ遺産的価値への関心が高まり,これを観光資源の一つとしてエノツーリズムに結びつけようとする取り組みが各地で行われている。 今回は,こうした新たなタイプのエノツーリズムの事例として,スペイン・カタルーニャ自治州パナデスを取り上げ,とくにブドウ畑の景観を観光に活かす一つの試みとして,ハイキング・ルートの設定に焦点を当てて報告を行う。
  • 劇場Aにおける劇団Hの公演を事例として
    山本 健太, 久木元 美琴
    セッションID: 711
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    大都市における文化創造機能については,これまで主として生産者の視点から議論されてきた.他方で,文化を消費する人々の行動については,十分な知見が得られていない.特に,従来の研究蓄積において,消費者の行動とその空間性について言及したものはみられない.本研究では,大都市における文化産業として演劇をとりあげ,観劇者の属性と消費行動の特性の一端を,アンケート調査の結果から考察する.
    具体的には,小劇場劇団Hの劇場Aにおける公演(10月26日~31日,10公演)の観劇者を対象として,アンケート調査を実施した.当該公演の客入数は合計617,回答数は98であった.アンケートでは,これまで明らかにされてこなかった観劇者の居住地や職場の位置,観劇前後の行動などの質問を設定した.
    劇団Hは,2001年に旗揚げし,現在は劇団代表で脚本・演出も手掛ける俳優Nの下で9人が活動している.劇場Aは1984年に設立され,舞台配置にもよるが,60席程度を設置できる規模である.小劇場の中でも知名度の高い劇場で,中堅劇団の公演地として選択されることが多い.最寄駅は京王井の頭線駒場東大前駅である.
    観劇者の属性:性別年齢別回答数では,女性の20代後半から30代前半がボリュームゾーンになっている.職種では,事務職(24)が最多で,その他専門技術職(13)が次ぐ.最終学歴では大学卒(非芸術系)が卓越するが,芸術系出身者も少なくない.居住地の最寄駅をみると,劇場の立地を反映して,JR中央線沿線や東急田園都市線,京王線,小田急線など,新宿や渋谷を起点とする路線沿線に居住するものが多い.一方,広島県(2人)や富山県(2人)など,遠距離地域からの集客があることも注目される.
    観劇に至る経緯:公演を知るきっかけは,「チラシ」が98人中37であり,重要な情報収集ツールになっている.また,劇団関係者(21)や友人(17)からの情報も多い.さらに,本公演では,劇場Aを通じて観劇に至ったことに言及したものが8人(9%)いた.このことは,劇場による宣伝が公演を実施する際に無視できないことを示している.観劇に来た理由では,「演出家[m3] Nの演出/脚本が好きだから」(50)が最も多く,「好きな俳優が出演する」(24)との回答も少なくない.誘われて観劇に来たものは13あり,ここでも,友人ネットワークを通じた「口コミ」による観劇者動員の重要性が指摘できる.
    劇場の立地と観劇者の行動:観劇を決定する際に,劇場の立地をどれくらい重視するか尋ねた結果,劇場の駅からの距離や劇場周囲の雰囲気はあまり重視されないことが示された.他方で,職場や自宅からのアクセスは,「気にする」「とても気にする」の合計(46)が,「あまり気にしない」「全く気にしない」の合計(38)を上回った.これは,仕事帰りに観劇に立ち寄る場合や,終業後に一度帰宅してから観劇に至る場合が少なくないことによる.このことから,終業後に公演時間に間に合う劇場立地であることが,観劇を決定する上で重要な要素となっているといえよう.
    劇場周辺における観劇者の消費行動:観劇前後の訪問場所をみると,57人中15人が,単館系映画館や小劇場,美術館などを挙げ,近在する文化施設を「ハシゴ」している様子が認められた.劇場Aは,渋谷と下北沢の中間地点に位置し,いずれの街からもアクセスしやすい.渋谷や下北沢といった盛り場や,そこに立地する文化施設に近いことが,本事例における回答者の「ハシゴ」行動を支えていると推察される. 消費者のこうした行動は,都市における演劇文化の消費行動の実態や,ひいては「都市の魅力」「地域の魅力」の要因を検討するうえで,無視できない知見であろう.このような消費行動が他地区での公演においても認められるのか,事例の蓄積が必要である.
  • 菅野 洋光, 渡部 雅浩
    セッションID: 707
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    東大AORI/国立環境研/JAMSTEC共同開発の全球気候モデル「MIROC5」によるヤマセの再現性について検討した。MIROC5では稚内と仙台の気圧差指数(PDWS)と八戸気温の関係が、現在の実測値と同様に明瞭に再現されている。また、海面気圧データに主成分分析を行ったところ、ヤマセ型の気圧配置及び気温の東西コントラストを再現している2成分が抽出できた。これらの2成分は将来も頻出しており、ヤマセ型の気圧配置は将来も出現することが予想される。
  • 根田 克彦
    セッションID: 502
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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      本発表は,イギリスの中央部に位置するイーストミッドランズ地方の中心都市であるノッティンガム市(人口27万人、2001年)を事例として,周辺商業地であるディストリクトセンターの2000年代の変化と,センターにおけるエスニックビジネスの実態を紹介するものである.
      ノッティンガム市では,1997年に全市的土地利用を規定するローカルプランを作成し,センターの役割と整備の方針を示した.ローカルプランの都市計画図では,シティセンター,ディストリクトセンターおよびそれより小規模なローカルセンターの3階層が設定されている.
      1997年都市計画図ではシティセンターを中心として,ある一定の距離をおいて市街地にディストリクトセンターが4地区指定されている.それらは、Bulwell、Sherwood、Clifton、Hyson Greenであり,いずれも周囲を住宅地に囲まれている.4地区のディストリクトセンターごとに概要と計画指針,課題が詳細に示されている.ディストリクトセンターには,自家用車を利用しなくてもすべての住民が容易に来訪できるようにする必要があることを明記しているが,駐車場が不足するディストリクトセンターとローカルセンターでは,駐車場の整備が必要である.   ローカルプランは,2005年に改訂された.1997年のローカルプランでディストリクトセンターとされた4地区は,タウンセンターと名称が変更された.タウンセンターに関しては,サスティナブルなコミュニティの核として位置づけられ,周辺住民の日常生活を支える拠点としての役割を維持・強化することが示される.それらにおける開発許可は,ショッピングエリアのコンパクト化,センター規模と特質に整合するかどうか,センターの魅力を高めるか,障害者のための近接性の確保と,センターの環境を向上することに寄与するかどうかを考慮する必要がある.
  • 今井 修
    セッションID: 314
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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     これまで住民主体の地域づくりとして「地元学」が知られており、この手法は、地域資源を可視化し、地域主体で最大限に活用する方法を示している。本研究では、地元学の手法を参考し、住民により作成された地域資源をGISはとして格納し、その資源を活用する一手法としてカントリーウォークを計画した。カントリーウォークの計画には、地元住民によるストーリ作り、ルート作り、ガイド役の手配等を行った。
    カントリーウォークを実施したことにより、来訪者の楽しみだけでなく、地元としての楽しさに気づくことができ、GISを活用した新たな地域づくりの動きに結びついてきた。
  • ゲルハルト・リヒターの風景芸術
    成瀬 厚
    セッションID: 803
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    景観・風景は人文・社会科学において広く議論されている。地理学においても1980年代の展開から1990年代の論争を経て,近年では表象よりもむしろ物質性を強調する傾向も強く,地理学内でも非常に多様化しているといってよい。本報告では,景観概念の起源としての風景芸術に焦点を当てたい。ルネサンス期以降確立された景観を見る方法は21世紀に生きるわたしたちにも受け継がれているが,それらは徐々に解体されつつもある。その一端としての視覚芸術の現代的あり方を調査することも景観研究の重要な側面だと思われる。 このように,わたしたちの自明視された風景を見る方法を問い直すには,古風な芸術ジャンルとしての風景画に挑戦し,新たな風景芸術を創出する現代芸術家の作品を詳細に検討することも有効である。本報告では,世界的に重要な現代芸術家とされるゲルハルト・リヒターに焦点を当てたい。 リヒターは1932年東ドイツ生まれの芸術家であり,特に西ドイツに移住してからの1960年代から数多くの作品を手がけ,その主題や形態は非常に多岐にわたる。そのなかでも,彼の名前を有名にさせ,1960年代から取り組み,多くの風景画にも応用されているのがフォト・ペインティングである。印刷メディアに掲載された写真やリヒター自身が撮影した写真を元にし,それを油彩で模倣し,ぼかしや重ね塗りなどを施す手法である。また,彼は抽象画も多く手がけており,具象と抽象,写真と絵画などの二項対立を止揚する芸術家といわれている。本報告ではDeitmar Elgerによって編集され,1998年に展示・出版された『Landscapes』を中心に考察する。 リヒターの風景画はタイトルにLandschaftの語が用いられたり,具体的な地名が用いられたりする。一方で,抽象画のタイトルは直接的にAbstraktes Bildとされたり,色の名称などの一般名が用いられたりする。形式的には区別される風景画と抽象画は図像的には連続,ないしは相互浸透している。 風景の代替的な見る方法は,日常の動態的で複雑な地理的経験を絵画空間に創造することだけでない。リヒターは風景写真を用いることで,複雑な地理的経験を排除し,風景画という画像を単なる色彩構成とみなし,風景が有する事物の空間的近接性に基づく美的秩序を内省的に批判するのだ。
  • ―「ダイダイプロジェクト」に着目して―
    則藤 孝志
    セッションID: 416
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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     本報告では,和歌山県田辺市における農商工連携の展開を地域づくりの観点から検討する.地域づくりの観点からすれば,農商工連携とは,そこに暮らす人々が手を取り合い,地域資源の高度な活用を通じて地域課題に取り組むことと捉えることができる. 
     和歌山県田辺市上秋津地区では,2年前から農業者,加工業者,行政が連携して柑橘の一種であるダイダイの特産品化の取組を進めている.柑橘の一種であるダイダイは,主に正月の飾り物(しめ縄や鏡餅)向けに出荷されるが,飾り物需要が減少するなかで市場価格は低迷している.また一部は食酢としても利用されるが,ユズやスダチに比べると知名度が低く,地元の柑橘農家でもダイダイの食べ方を知らない人は多い.そこで,ダイダイの食用利用を地域内外に普及させ,田辺市の新たな特産品に育てることを目的に,上秋津地区の柑橘農家や柑橘加工業者,商工会議所等が手を取り合い,ダイダイの加工品開発や販路開拓を進める「ダイダイプロジェクト」が2009 年11 月に立ち上がった. 
     この取組には,耕作放棄地の発生抑制と中心市街地の活性化という農村・市街地双方の地域課題の解決が期待されており,地域づくりの実践としての意味合いが強い.そこで本稿では,取組の展開過程と現状を明らかにしつつ,プロジェクトが上記の地域課題に貢献する可能性について検討する.特に,耕作放棄地の発生抑制については,まずダイダイの生産流通構造を明らかにしたうえで,プロジェクトが柑橘農家に与える影響を踏まえて検討する.
  • 宇都宮 陽二朗
    セッションID: 805
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    2011年日本地理学会春季大会要旨集に、「Hitlerの地球儀」について記載したが、その後の調査と昨秋のBerlinト゛イツ歴史博物館、Märkisches Museum、MünchenのStadtmuseumなどの駆け足調査旅行で得た資料等をもとに内容を補足・修正した。
  • 王  鵬飛
    セッションID: 511
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    本報告は、北京市近郊農村の村を五つ例にして、1999年と2010年における実地調査を通して、この十年間、北京市近郊農村における変貌を考察している。フィールドワークした五つ村はそれぞれ平野地区に属している懐柔区の張各荘村、昌平区の魯瞳村、大興区の留民営村で、丘陵地区に属している劉店村で、及び山区に属している黄山店村である。
  • 黒木 貴一, 磯 望, 後藤 健介, 宗 建郎, 黒田 圭介
    セッションID: P1123
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    自然災害予測に不可欠な地形区分は,主に空中写真の実体視判読で実施するが,広域を対象とする場合には,衛星画像による判読やDEMを用いた自動分類が知られている。DEMを用いた地形区分は,山地・丘陵地の斜面に対しGIS解析による微地形区分手法が近年検討されたが,平野の微地形に関しては区分の試みが十分ではない。そこで筆者らは福岡平野の二級河川に対し,DEMで作成した陰影図による微地形区分を試み,空中写真以上の詳細な区分が可能で,結果は氾濫の背景を説明しやすいことを確認した。しかし多様かつ大規模な地形を持つ河川での同様の検討が残された。そこで大分川(一級河川)を対象に陰影図による地形区分を実施し,地形の特徴を地形縦断曲線から分析した。
  • 水谷 千亜紀
    セッションID: 210
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    本研究は,ポリゴン型土地利用データを用いた時空間分析により,土地利用の遷移過程と土地利用の幾何的な特徴を明らかにすることを目的としている. まず,任意の属性が空間的に連続する同質区画を一つのポリゴンとして識別し,土地利用の「形状」と「用途」の両面に着目して考案した遷移過程の分析手法,ポリゴン・イベントとポリゴン・ステイトを援用する.土地に対して人為的作用が加わると利便性や生産性を高めるため,土地利用ポリゴンの形状が矩形に近づくことが仮定される.このことを踏まえて,ポリゴンのコンパクト性を計測し,遷移の特徴を表すポリゴン・ステイトと照らし合わせることにより遷移過程における土地利用の幾何的な特徴を明らかにする.事例として,つくば中央部を対象に,2000年,2005年,2008年の3時点から,つくばエクスプレス開通前後の土地利用の遷移を分析する.  対象地域では森林・荒地から造成中地,造成中地から住宅地といった段階的な遷移構造が認められた.2000年から2005年にかけての造成中地の造成時には,隣接部にそれまで存在しなかった新たな土地利用が形成される「飛び火型」の空間パタンがみられたのに対して,次時点間では造成中地の隣接部において造成中地への変化が確認されるなど「連担型」の空間パタンが認められた.このような遷移構造は,住宅地開発においても確認された.また2時期を比較すると,ポリゴン・ステイトのうち,形状も用途も変化しない「Stability(安定)」に該当するポリゴンが増加した.さらに,変化のないStabilityポリゴンではとくに,コンパクト性の高いポリゴンが増加した.これと同時に,形状の変化を伴う4種類のポリゴン・ステイト(Division (stable), Division (change), Expansion, Conversion)では,ポリゴン数は少ないものの,時間の経過とともにコンパクト性が低下していることがわかった.  このことは,変化を終えた土地利用ポリゴンは,矩形に近いコンパクな形状に整備されるのに対して,遷移過程の途上にあるポリゴンの形状は歪になりやすいことを意味する.遷移過程においては,隣接関係や「飛び火型」など空間パタンの異なる変化が混在することによって,結果的にポリゴンの形状が歪になったものと考えられる.
  • 清水 昭吾, 菅原 広史, 成田 健一, 三上 岳彦, 萩原 信介, 高橋 日出男
    セッションID: S1403
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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     都市内に存在する緑地には,都市のヒートアイランドを緩和する効果が期待されている.緑地の周辺市街地へ冷却効果をもたらす緑地内冷気の流出に関しては,一般風による移流と,静穏な夜間に緑地内の冷気が重力流の作用により周囲へと流出する「にじみ出し現象」がある.にじみ出し現象に関しては,新宿御苑での一連の観測(たとえば,成田ほか 2004)などによって実測例があるものの,にじみ出し現象の詳細を直接的かつ明確にとらえた事例報告は多くない(成田・菅原,2011).国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金台)では,夏季を中心としてにじみ出し現象の詳細を明らかにするための気象観測を行っている.自然教育園は樹林の密な緑地であり,園内外とも地形の起伏が大きいことが特徴である.
     2011年夏季の観測結果では,晴天日(気象庁大手町のデータから12日を抽出)を平均したクールアイランド強度(緑地内外の気温差)は日中に大きく,夜間は約1.5℃,日中は約3℃であった.冷気のにじみ出し現象がみられた夜の気温分布をみると,地形的に緑地内から市街地へと下っていく方向の北側市街地では時間の経過とともに緑地から数十 mの地点において緑地内と同程度にまで気温が低下していた.さらに,夜遅くなるにつれて緑地に近い市街地の地点ほど緑地内との気温差が小さくなり,気温断面分布は緑地に近づくほど低下するという形状になっていたことから,緑地からのにじみ出しの冷気は緑地から200 m以上にわたって市街地の気温を低下させたと思われた.一方,反対側の南側市街地では緑地の近くで非常に低温となる現象はみられなかったことから,地形の違いや交通量の多い道路の存在によって,にじみ出し現象による緑地からの冷気の到達範囲が変わってくることが考えられた。また同夜の気温鉛直分布から,日没直後は緑地内の標高の低い場所や地表面付近で冷気が溜まり,その後樹冠より下で冷気が厚みを増し,最終的には冷気の厚さが樹冠付近(高さ16 m程度)まで達していたことが明らかになった.
  • 沖縄県水納島,慶留間島,大神島,鳩間島を比較して
    堀本 雅章
    セッションID: 313
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    学校の第一の役割は教育の場であるが、特に山村や離島において学校は、地域の中心的な役割を果たすことが多い。本研究では、沖縄県内に位置する日帰り海水浴客の多い本部町水納島、成人の大半を学校教職員と役場職員が占める座間味村慶留間島、島民の70%が70歳以上の高齢者である宮古島市大神島、テレビドラマの影響で急速に観光地化した竹富町鳩間島における学校の役割等について比較した。これらの島を取り上げたのは、同一県内にあり、人口規模が類似するなどの共通点が多いことによる。研究目的は、小規模離島における学校の必要性について4島における住民意識を比較し、さらに学校の役割は子どもの教育以外に何があるのか、学校を存続させていくための方法について考察することである。調査は、中学生以下を除く全住民を対象とし、2008年8月から2010年9月の間に行った。有効回答者数は、水納島37人中34人、慶留間島41人中32人、大神島30人中28人、鳩間島41人中31人である。調査当時の幼小中学生数は、水納島5人、慶留間島14人、大神島なし、鳩間島6人である。
    学校の必要性について「絶対必要」、「あった方がいい」、「学校の存続はそれほど問題ではない」のどれに該当するかについて質問を行った結果、大神島以外では「絶対必要」が大半を占めた。特に、島で生まれ育った子どもがいる水納島および慶留間島では学校の必要性が極めて高くなった。学校の役割について4島全体では「島の発展・活性化・明るくなる」、「地域のコミュニティー・交流の場・行事参加」、「大切なもの・場所」と続き、これらは「教育の場」を上回った。学校を存続させるための方法について4島全体では「子どもを増やす(出身者の親子・孫の呼び寄せ、若者の帰島、里子・海浜留学生の受け入れなど)」が最も多く、「就労場所・産業の整備」と続いた。ただし、調査当時既に休校になっていた大神島では、「学校存続は難しい」が最も多かった。小規模離島において、学校は教育の場以外にも多くの役割があるが、住民や出身者だけでなく、鳩間島では全国各地から海浜留学生としてやってくる様々な生活体験を持った子どもに、自然豊かでゆっくりと時間が流れる島での学校生活を送る機会を与えている。 
  • 都市の居住地域構造研究との関連を中心に
    桐村 喬
    セッションID: 406
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    I 背景と目的
      市区町村よりも小さい空間単位で集計された小地域統計は,対象とする地域全体をミクロな空間単位で扱うことのできる研究資源であり,都市地理学を中心として人文地理学の諸分野で盛んに用いられてきた.日本における小地域統計の本格的な整備は,国勢調査結果を中心に1960年代に始まっており,社会地区分析や因子生態研究など,小地域統計を活用した都市地理学的な研究の多くは,おおむね1970年代以降に行なわれている.一方,1960年代以前については,1950年代以降の統計局による小地域統計の整備史がまとめられているものの(梶田2008),自治体などによる局地的な作成状況や,1960年代以前の小地域統計の資料的な価値などはこれまで明らかにされてこなかった.
      そこで,報告者はこれまでに,戦前からの日本の大都市である六大都市(東京,横浜,名古屋,京都,大阪,神戸)に対象を絞り,国勢調査を中心とする人口調査に関する小地域統計(小地域人口統計)の作成・残存状況を調査し,入手した資料のデジタル化と対応するポリゴンデータの作成を行ない,近現代の小地域人口統計に関するGISデータベースの構築を進めてきた(桐村2011).本研究の目的は,社会地区分析や因子生態研究などの居住地域構造研究に対する,これまでに構築してきた六大都市に関する小地域人口統計のデータベースの利用可能性を示すことである.そのうえで,発表に際しては,本データベースが日本の都市地理学に対してどの程度貢献しうるのかについても若干の検討を加え,紹介する予定である.
    II 本データベースの概要
      六大都市における小地域人口統計の作成・残存状況について調査した結果,第2次世界大戦前後を除けば,1910年前後から1990年までの多くの時点に関する,町丁・字単位の小地域人口統計資料の残存を確認でき,入手することもできた.しかし,継続的かつ各都市で共通して利用可能な集計項目は,総人口,男女別人口,世帯数という基本的な項目に限られている.小地域人口統計資料のデジタル化および対応するポリゴンデータの作成に関しては,町丁・字単位かつ基本的な項目のものから優先して進め,Excel形式での統計データの作成を完了した.ポリゴンデータに関しては,現在,東京および京都のみ,すべての時点の統計データに対応するデータの作成が完了している.
    III 居住地域構造研究における課題とそれに対する利用可能性
      居住地域構造研究に関する既往研究の動向について整理した上野(1982)は,都市の居住地域構造を発達史との関連から総合的に解明しようとする長期的な視点からの研究が増加しているものの,日本の都市に関しては,そうした事例が少ない点を指摘している.現在でも,1960年代以前の日本の都市を対象とした研究や1960年代以前を含む長期的な視点からの研究は,上野(1981)を除けばほとんどない.報告者による六大都市に関する小地域人口統計資料の残存状況の調査によれば,多くの都市に関して,戦争前後の時期を除く,少なくとも1910年前後から1990年までの間の小地域人口統計を連続的に利用できる.そのため,1960年代以前の日本の都市を対象とした,長期的な視点からの都市の居住地域構造の分析は一定程度可能と考えられる.
      しかし,都市の居住地域構造は,地域的な差異があるにせよ,一般的に3つの主要な次元(社会経済的状況,家族的状況,民族的状況)によって構成されると考えられており,職業や世帯構成,国籍などの変数が利用できる必要がある.本データベースにおいて連続的に利用可能な集計項目は,総人口や男女別人口,世帯数という基本的な項目に限られるため,3つの主要な次元のうちでは家族的状況と関連した検討のみが可能である.ただし,特定の都市や時点によっては,職業や国籍に関する集計項目が利用でき,断片的な分析を行なうことは可能である.
      発表では,本データベースにおいて利用可能な項目やその空間分布を示しながら,より具体的に利用可能性を示していきたい.
    参考文献
    上野健一1981.大正中期における旧東京市の居住地域構造―居住人口の社会経済的特性に関する因子生態学研究.人文地理33: 385-404.
    上野健一1982.都市の居住地域構造研究の発展―因子生態学研究と都市地理学研究との関連を中心として.地理学評論55: 715-734.
    梶田 真2008.国勢調査における小地域統計の整備過程とその利用可能性.東京大学人文地理学研究19: 31-43.
    桐村 喬2011.日本の六大都市における小地域人口統計資料の収集とデータベース化―近現代都市の歴史GISの構築に向けて.人文科学とコンピュータシンポジウム論文集2011-8: 169-176.
  • 和田 崇
    セッションID: 318
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    近年,漫画やアニメ,ゲームを始めとする日本のコンテンツが海外で注目されるようになり,日本政府もこれを踏まえるかたちで,日本独自のコンテンツを海外に積極的に発信する「クールジャパン」戦略を展開してきた。一方で,日本国内においても,地方の自治体や経済団体などが漫画やアニメ,映画などのコンテンツを活用した観光振興や文化振興に取り組む事例が増加している。本発表では,日本におけるコンテンツを活用した地域振興活動について,その発展要因と活用パターンを概観する。
    コンテンツを活用した地域振興活動が活発となってきた要因(背景)として,製作者と消費者,地域それぞれの環境変化を指摘できる。コンテンツの製作者は,デジタル化に伴って情報の編集・複製が容易になったこともあり,リスク削減と収益拡大のために,コンテンツの二次使用を積極的に行うようになり,地域もメディアの一つとみなされるようになった。また制作に当たり,新たなストーリーやロケーションを地域に求める動きも活発となってきた。消費者は,メディアごとにコンテンツを楽しむ従来からの消費形態に加え,インターネット上でコンテンツをめぐるコミュニケーションを楽しむという形態が確立した。その一方で,コンテンツゆかりの場所やリアルに再現される場所を訪ねることにより,コンテンツをより深く味わおうとする行動もみられるようになってきた。 各地域の自治体や経済団体などは,地方分権が進展する一方で,地域間競争を勝ち抜くことが求められるようになり,地域資源を活用した地域の個性化・魅力化に取り組むようになった。その際,手軽に制作あるいは活用可能な資源としてコンテンツが注目されるようになった。
    コンテンツを活用した地域振興活動にみられるコンテンツと地域の関係については,3つのパターンを見出すことができる。第一は,歴史や風景など場所の持つ力がコンテンツに組み込まれている点である。それによって,製作者はコンテンツの魅力を高め,自治体や経済団体などは地域の魅力を発信している。第二は,地域がキャラクターの新たな活動場所となっている点である。それによって,製作者は二次使用の機会を広げ,自治体や経済団体などは地域や商品の知名度向上とブランド化に結びつけている。第三は,地域がコンテンツ消費者のライブ体験,購買,交流の場所となっている点である。
  • 春山 成子
    セッションID: P1105
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
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    1)昭和時代と平成時代の土地利用の現況図を作成し、2)土地利用変化を生じさせている地形環境を地形分類図上で確認し、3)当該地域の地盤状況についてボーリングデータをもとに解釈し、4)2011年3月の液状化地区を土地利用変化・地形の両面から見直し、5)脆弱性評価を与えるために各々の空間情報をメッシュマップとして重ね合わせによって相互評価を試みた。液状化発生地域に関わる脆弱性を評価するに当たり、各メッシュマップの重ね合わせに各々5つの脆弱性評価のレベルを与えた。また、地盤情報、地形分類図のメッシュマップ、土地利用変化図のメッシュマップとの重ね合わせでは、旧河道に当たる地域および旧河道と砂州の境界部分、干拓地における近年の土地利用変化で住宅地に変更された地域でのリスクは大きく表示されることになった。
  • -現存する氷河の可能性-
    福井 幸太郎, 飯田 肇
    セッションID: 613
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    飛騨山脈,剱岳(2999 m)にある小窓雪渓および三ノ窓雪渓で,2011年春にアイスレーダー観測を行い,厚さ30 m以上,長さ900~1200 mに達する日本最大級の長大な氷体の存在を確認した.同年秋に行った高精度GPSを使った流動観測の結果,小窓,三ノ窓両雪渓の氷体では,1ヶ月間に最大30 cmを超える比較的大きな流動が観測された.流動観測を行った秋の時期は,融雪末期にあたり,雪氷体が最もうすく,流動速度が1年でもっとも小さい時期にあたる.このため,小窓,三ノ窓両雪渓は,日本では未報告であった1年を通じて連続して流動する「氷河」であると考えられる. 立山の主峰である雄山(3003 m)東面の御前沢(ごぜんざわ)雪渓では,2009年秋にアイスレーダー観測を行い,雪渓下流部に厚さ約30 m,長さ400 mの氷体を確認した.2010年秋と2011年秋に高精度GPSを使って氷体の流動観測を行った結果,誤差以上の有意な流動が観測された.流動速度は1ヶ月あたり10 cm以下と小さいものの,2年連続で秋の時期に流動している結果が得られたため,御前沢雪渓も氷河であると考えられる.
  • 小玉 芳敬, 河本 悠佑
    セッションID: 116
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    2009年8月に兵庫県播磨北西部を中心に集中豪雨が発生した。9日午後8時~9時には激しい豪雨となり,佐用川の水位が急激に上昇して氾濫をおこした。約1年後に聞き取り調査および現地測量調査を実施して,佐用水害の実態を明らかにした。その結果,洪水氾濫を激化させた要因は,橋梁にひっかかった流木による洪水流の堰上げにあることが判明した。なかでも山脇鉄橋は,佐用川を斜めに横断していることから,河道内に橋脚が6本もあり水流に対する抵抗が大きく,効率的に堰上げが生じ,洪水流が堤防を越え長時間にわたり流れ出たと考えられる。この地点の氾濫水は最大水深1.8mを記録した。堰上げ部分より上流側では河川水位は堤防を越えていなかった。つまり,流木による堰上げがなければ,佐用町の多くの地域で氾濫被害を免れた可能性が残る。なお,2004年には極地風「広戸風」による倒木被害がこの地域で発生した。倒木の一部は玉切りにされ,搬出段階にあった。2004年の広戸風による倒木被害と,2009年の佐用水害の関連性は,今後に残され課題である。いずれにしても流木の供給源対策や橋などの構造を見直すことが,減災・被害未然防止を考えるうえで重要となろう。
  • 春日 あゆか
    セッションID: 501
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    1821年、M.A.テイラー発案による、蒸気機関由来の煙害の起訴、軽減を促進する法律がイギリスで成立した。この法律はこれまで大気汚染史ではほとんど取り扱われてこなかった。しかし、ヨークシャーではこの法律に刺激され、工場主たちに完全燃焼技術を取り入れるよう求める中産階級主体の市民集会が開かれ、何十人もの工場主たちが起訴されている。この研究は、リーズに焦点をあて、テイラー法がどのように煙に対する様々な考え方に影響を与えたかを検証するものであり、地理学上の議論としては、特に科学や知識のネットワーク理論によっている。
    テイラー法の成立の鍵となったのは、完全燃焼技術の存在である。特に、ウォーリックの工場主パークスの完全燃焼技術の完成度はテイラー法成立に大きな影響を与えた。リーズではパークスのような全国的に知られるようになった完全燃焼の装置とは別に、リーズのエンジニア、プリチャード考案の装置も宣伝された。しかし、リーズ最大級のウール工場の工場主であるB.ゴットはプリチャードの完全燃焼装置導入によって、幾度にもわたる工場の停止を経験した。ゴットはこれにより完全燃焼技術への不信感を得、リーズの反煙害委員会との間で裁判に持ち込まれる事態となった。一方でリーズの多くの工場主たちは訴訟を恐れ、完全燃焼技術を取り入れており、リーズの反煙害運動は完全燃焼技術の導入という点においては成功を収めている。
    このような運動の盛り上がりのなか、リーズの地方紙であるリーズマーキュリーに、リーズの隣町、ブラッドフォードの市民による投書が掲載された。これは煙を工業発展のシンボルとしてとらえる詩であり、反煙害運動への反感はここでも示されている。これはリーズ周辺で煙に対する新たな考え方「繁栄の象徴」が生まれることを示すものである。同様に、医学の煙に対する知見も反煙害運動を契機に変わっていく。17世紀後半から医学の専門的な見解では、石炭由来の煙は健康には悪影響を与えないとされていた。しかし、リーズで外科医を務めたR.ベイカーは1840年ごろ、石炭由来の煙が健康に影響を与えるという見解を記している。
    煙をめぐる考え方は相互に影響しあいつつ変化していったといえる。
  • 菅原 広史, 清水 昭吾, 成田 健一, 三上 岳彦, 萩原 信介
    セッションID: S1404
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    都市内に存在する緑地において熱収支解析を行った.夏季の弱風夜間において市街地への冷却量は平均65Wm-2であった.これは放射冷却で冷えた熱量とほぼ等しい.
  • 宇根 寛, 青山 雅史
    セッションID: S0102
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     東北地方太平洋沖地震では、津波被害とともに、東北から関東地方にかけて極めて広い範囲で地盤の液状化や流動化による大きな被害が発生した。特に、千葉県北西部の東京湾岸と、千葉・茨城県境の利根川下流域において被害が大きかった。内陸部の液状化は、いずれも被害が狭い範囲に集中し、局所的な土地の履歴と密接な関係をもって発生している。このうち、我孫子市布佐では、液状化は幅100メートル、長さ500メートル程度と幅100メートル、長さ200メートル程度の2つの長方形の範囲にほぼ限定されて発生している。この範囲は1869年の利根川の洪水により生じた押堀が沼として残っていた場所で、1952年に利根川の浚渫土砂で埋め立てられて宅地化され、現在は周辺の市街地と一体化している。我孫子市が2010年に作成、配布した液状化危険度マップでは、液状化被害が著しかった範囲は大部分が液状化の危険度がほとんどないとされている。液状化危険度マップの作成にあたっては、5万分の1土地分類基本調査の地形分類図を用いて50メートルメッシュの微地形区分データを作成し、メッシュ毎に地表最大速度を計算して液状化危険度を評価したとしている。しかし、結果的には、微地形区分データの単純な読み替えによる評価となっている。該当範囲は地形分類図では盛土地となっており、「人工改変地」の評価が適用されたと考えられる。すなわち、既存の5万分の1地形分類図のみを用いた読み替えを行ったため、空中写真や旧版地図等で比較的容易に知ることのできる土地の履歴の情報が参照されることなく液状化危険度が評価されたこと、加えて、メッシュ毎に平均化された微地形区分をもとに危険度の評価を行ったため、仮に小面積の脆弱な地形の情報を取得しても、それを反映できない可能性もある。これらが液状化の危険度を十分に評価できなかった原因と考えられる。ハザードマップは住民が生活空間における自然の営みを理解するための参考資料と考えるべきであり、そのためには土地の成り立ちが理解できる地図とすること、メッシュによる評価は場合によっては平均化により地域のリアリティを失わせることになることに留意して、これからのハザードマップのあり方を議論するべきである。
  • 増野 高司, 中須賀 常雄, 岸本 司
    セッションID: 524
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本報告の目的は,沖縄本島を事例として,マングローブの分布地とその現状を把握するとともに利用方法を示すことである.そして,その利用の地域性について考察を試みる.
     沖縄本島全域を対象として,マングローブの分布を把握した.その主要な分布地における面積については,航空写真を利用することから分布域を把握した.また,マングローブ林の利用方法については,近隣の住民への聞き取りとともに,エコツーリズムおよび環境教育に関わる方々への聞き取りを実施した.現地踏査は2009年度,2010年度,2011年度に実施した.
     沖縄島では,現在,マングローブが燃料や柱材として利用されることはなくなっている.おもなマングローブ林の利用方法として,(i) 海岸・川岸保護,(ii) 環境教育,(iii) エコツーリズム,(ⅳ) 漁撈,(ⅴ) 植林活動,がみられた.
     沖縄島のマングローブは,小規模であるが日本では鹿児島以南の汽水域でしかみることができないという希少性から,観光資源としての認識が定着している.エコツーリズムの利用では水質とともに,シーカヤックが利用できることが求められるため,北部地域で実施されることが多い.漁撈は水質の問題から,中南部では難しくなっている.マングローブを利用した環境教育は,マングローブ林の規模や水質にかかわらず実施可能であることから,沖縄島の各地で広く実施されており,沖縄島における主要なマングローブの利用方法になっている.
  • タイ北部の山村における家畜導入の事例
    増野 高司
    セッションID: P1316
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本報告の目的は,王室による農村開発プロジェクトが開始されたミエン族の山村を事例として,家畜の導入に着目することから,プロジェクトに対する住民の対応を示すことである.
     調査地はタイ北部パヤオ県に位置するミエン族が暮らす山村(PD村)である(図1).2011年には,21世帯に約130名が暮らしている.村のおもな生業および経済活動は農業で,自給用の陸稲とともに,販売用のトウモロコシが栽培されている.村では各世帯が庭先でニワトリ,ブタ,イヌなどの家畜の飼育がおこなわれてきた.
     PD村では2009年から王室によるプロジェクトの準備が開始され,2010年から農業開発を中心としたさまざまな取り組みが実施されつつある.現地での実際の活動は,タイの公共団体(H協会)が実施している.PD村にはH協会から1名の男性職員が派遣され,現場作業を監督している.
     現地調査は,2010年3月,7月,11月,2011年2月,8月に実施した.
     2011年8月までに,王室プロジェクトから,各世帯に対しアヒルの雛,ウサギが配布された.また参加世帯を選定して,改良品種のブタの飼育が開始されている.家畜以外ではゴムノキの苗木,コーヒーの苗木,ホームガーデンで栽培する苗の配布もおこなわれている.
     村民は家畜や苗木が無償もしくは安価で提供される点で,今回のプロジェクトに対して好意的である.その背景には,王室がおこなうプロジェクトであることも関係していると考えられる.しかしながら,農村開発プロジェクトで実施される取り組みの実効性およびプロジェクト終了後の継続性については,悲観的な声が多く聞かれる状況となっている.
  • 與倉 豊
    セッションID: S1304
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    Ⅰ はじめに現在,地域イノベーションをめぐる議論では,地域内・外の多様な主体が協力し,ネットワークが構築されることによるイノベーションの促進に力点が置かれている.本発表の目的は,日本の科学技術振興政策の下で推進されている,企業,大学および公的な研究支援機関などによる共同研究開発における連携(以下,産学公連携とする)が,地域イノベーションや知識創造において果たす役割を解明することにある. 
    Ⅱ 分析対象と分析手法本発表では産学公連携の事例として,①文部科学省の知的クラスター創成事業,②文部科学省の指導のもと科学技術振興機構(JST)によって推進されていた地域結集型共同研究事業,③経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業を分析対象とする.上記3事業では特定の技術分野や研究テーマのもと,イノベーションや事業化の達成を目的としている点で共通している.本研究では多数の主体が参加する共同研究開発プロジェクトを取り上げ,社会ネットワーク分析とGISを適用し,研究実施主体間に構築されているネットワークの関係構造と,研究開発ネットワークの地理的な広がりについて検討する.              
    Ⅲ 分析結果本研究で取り上げた3事業では,域内の知識フローが,公的な研究支援機関を中心に企業と大学がともに参加して研究開発のネットワークがローカルに形成されていることが明らかになった.域外からの情報・知識の流入においては,主に,大学と一部の企業が中心的な役割を果たしていることが示唆された.主体間の関係構造のタイプをみると,知的クラスター創成事業では,共同研究開発において中心的な役割を果たしている主体が限定的で,「分断的」な構造をとるものが多い.一方,地域新生コンソーシアム研究開発事業では,共同研究開発相手を多く持つ主体が複数存在し,「星雲状」にネットワークが広がっていることが示された.また新技術や新産業の創出を目指す地域結集型共同研究事業では,広域的な共同研究開発ネットワークの形成において,遠方の企業の果たす役割が他事業よりも重視されていることが明らかになった.
  • 村山 良之
    セッションID: S0103
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    2011東日本大震災による丘陵地等における被害  表者らによる現地調査結果によると,丘陵地等の地形改変地における被害の特徴は以下のとおりである。  ①過去の事例と同様に,切土部で被害が小さい/少ないのに対して,盛土部や切盛境界部で被害が大きい/多い。②盛土部の沈下や移動,切盛境界部での不同沈下によって,住宅がひどく被災した事例が認められる。1970年頃以前の古い造成の住宅地に多い傾向が明瞭である。③開発の古い造成地間にも被災程度の差が認められる。地形改変の度合いが小さい造成地の方が,被災程度がひどい傾向が認められる。一方で,厚い谷埋め盛土末端部で,盛土の法面が変形・せり出す等の被災をした場所もある。④切盛境界部等で,1978年と2011年の両年とも被災した場所が数多く認められる。しかも,2011年の方が地盤変状の程度がひどく,住宅等の被害も大きいものが多い。また2011年には複数箇所で認められた谷埋め盛土の明らかな地すべり的変動は,1978年にはほとんど認められなかった。2011年と1978年の全体的傾向を比較すると,明らかに2011年の方が被災宅地・住宅が多い。⑤新しいRC造の擁壁は,ブロック積みや練玉石積み擁壁に比べて被害が少ない。⑥1978年には,地盤変状によって住宅の基礎が破壊された事例が多かったが,新しい住宅は,とくに基礎が堅牢になったため,ある程度の地盤変状が生じても構造的被害を免れた事例が多い。ただし地盤変状が大きい場合は住宅全体が傾斜する等の被害は免れない。  仙台市宅地保全審議会(同技術専門委員会)による被災宅地に関する詳細な調査の結果,被害形態・地盤変状メカニズムに関する知見が得られ,盛土部のきわめて小さいN値や盛土内の地下水が被災に強く関与すること等が明らかになっている。   仙台市における被災宅地の復旧支援  仙台市は,2011年11月「仙台市震災復興計画」を策定し,同市宅地保全審議会は「丘陵地等における宅地復旧の支援方策」を提示した。その骨子は以下のとおりである。対象は,被災宅地危険度判定等に基づく危険宅地・要注意宅地4,031宅地に関わる個別擁壁等までで,住宅自体はこの対象外である。 ・公共事業(国庫補助事業)による宅地復旧 (4,031被災宅地の約8割が該当) 造成宅地滑動崩落緊急対策事業 災害関連地域防災がけ崩れ事業 公共事業に係る所有者負担制度創設(個別擁壁等工事費の1割を宅地所有者負担) →条例化へ ・仙台独自の支援制度(上記対象外の約2割が該当) 擁壁復旧及び地盤対策への助成(100万円を超える部分の90%を助成,それ以外は所有者負担)  これにより,仙台市は,被災団地ごとに住民への説明会を実施している(2012年1月現在)。移転案が提示された団地もある。被災宅地所有者に対して手厚い内容と考えられるが,被災者の個人負担は,割合は低いが絶対額はけして小さくはない。被災住民からは不満の声もある(河北新報2012年1月10日)。  宅地造成等規制法(2006年改正)では,造成宅地の防災のために,被災前の対策として下記が規定されていた。   盛土分布図作成 → 2段階スクリーニング →   「造成宅地防災区域」設定 → 対策工(補助+所有者負担) しかし,仙台市では事前の 「造成宅地防災区域」 設定および対策工事は行われず,被災後に上記の支援を行うことになった。   防災とハザードマップ・ハザード情報:大震災をふまえて ・対策工への期待  軽度の地盤災害に対しては,建物の基礎・構造の堅牢度向上により被害軽減が可能であることがわかった。一方,重度災害についても,事例積み重ねによる対策工法の進歩が期待できる。 ・丘陵地等における地震災害の予測精度向上の可能性  「造成宅地防災区域」指定および事前対策工は,技術的により適切に可能となろう。また,より適切なハザード情報提供とリスクコミュニケーションの進展が期待される。 ・事前対策へのインセンティブ?  所有者負担はあるものの被災後の手厚い支援の実績は,事前対策推進にとってポジティブとはいえない面もあると考えられる。宅地造成等規制法の手法見直しが求められよう。
  • 小荒井 衛, 岡谷 隆基, 中埜 貴元
    セッションID: 101
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    仙台平野の津波浸水域について,海岸線から1km毎にバッファを発生させて,国土数値情報の100mメッシュ土地利用データ,土地条件図と写真判読に基づく地形分類情報,地震後の航空レーザ測量による詳細DEM,空中写真判読による3段階に区分した津波被害状況,MMS(Mobile Mapping System)と現地調査で計測した津波浸水深等とGIS上でオーバレイ解析を行い,津波被害の状況と地形や土地利用等との関連性の解析を行った.
    多くの建物が流出するような壊滅的な被害域(Rank1)については,浸水深がおおよそ4m以上,かつ海岸線から約1kmの範囲に限定され,標高よりは浸水深や海岸線からの距離との関連性が高かった.一方,建物等の破壊が一部で認められ周囲をがれきで覆われるような地域(Rank2)は,海岸線から2~3kmの範囲までで標高1m以下,浸水のみが認められる地域(Rank3)は,海岸線から4~5kmの範囲までで標高2m以下という結果で,概ね標高で決まっていた.
  • 三上 絢子
    セッションID: 811
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1、はじめに
    1946年2月2日、北緯30度線以南のトカラ列島、奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島は、日本政府から政治上・行政上、分離されて、アメリカ海軍軍政府の支配下に置かれた。鹿児島と奄美諸島との間の海上が境界線で閉ざされ、この「海上封鎖」で自由渡航も禁止、日本本土との交易は断絶した。海上封鎖が解禁され自由渡航が実現したのは、日本国とアメ リカ合衆国との間で、日本返還の締結が発効したことによって, 1953年12月25日に奄美諸島が1972年5月15日に沖縄が日本に返還されたことによる。
    奄美において、1946年3月、軍政府は食糧問題について「食糧は、米食本位の考えは改めよ、補給はするが米の外に缶詰類、メリケン粉等を送る.」「一人一日2000カロリーは絶対に保障するであろう」と島民にメッセージを送った。放出食糧の配給価格も1946年6月当時から次第に値上りする。さらに配給基準量が半減し大人1人1日につき2000カロリーの基準は、実質的には1200カロリーから1400カロ リー となり、5月下旬には500カロリーと激減している。その結果、奄美においては食糧が不足することになった。
    2、研究目的
    食糧不足を補うために食糧生産を増加させる必要に迫られた。その1つの事例として、三方村大字有良集落は、農地は狭く三方が山に囲まれ耕地の少ない中で、条件の悪い山の耕地を使わなければならなかった。山の耕地での農産物は主食となる甘藷栽培で、大量の甘藷が生産されて名瀬の食糧不足を補っている。この事実から有良集落において、どのような生産過程であったか、どのようなルートによって、農産物が流通したかを明らかにしたい。
    3、結果
    有良集落の特徴は、藩政時代の黒糖生産に土地が狭いために集落を囲む東西の山は,背後から集落周辺まで砂糖黍耕作地であった。その土地の再活用に着手して、共同体のユイワクによって条件の悪い山の耕地において、大量の甘藷の生産を可能にしている。
    その結果、名瀬の消費を目的に大量の農産物が生産され、カツギ屋や集落所有の板付け船によって、名瀬に運ばれ食料不足を補っている。
    本研究によって、事実から有良集落において、食糧不足を補った農産物の生産過程と農産物が、有良集落と名瀬との間における流通の仕組みが明らかにされた。
  • フードレジーム論との関係から
    荒木 一視
    セッションID: P1313
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.背景と問題意識 日本の食料供給が海外に大きく依存していることは論を待たず,大量の小麦や大豆,トウモロコシがアメリカ合衆国から輸入されている。また,大洋州や東~東南アジアからの食料輸入も少なくない。しかしこうした農産物・食料の輸入パターンは戦後形成されてきたものであり,戦前,戦中までの時期に同様なパターンがあったわけではない。同時に当時の日本が農産物・食料資源を自給できていたわけではない。植民地をはじめとした近隣諸国との,また植民地間での農産物・食料貿易が活発に展開されていた。それは今日のこの地域の農産物貿易のパターンとは異なるものであるが,第2次大戦終了まで,日本が国策として展開してきたものでもある。戦後の地理学においてこうした側面はこれまで充分に研究されてきたわけではないが,今日のわが国や東アジアの食料問題や貿易を考える上で,極めて重要な視座を提供してくれると考える。  そこで,当時日本の植民地支配下にあり,温暖な気候を利用した農産物・食料生産拠点であった台湾に着目して,当時のアジアでの農産物食料貿易を検討する。 2. 理論的背景と資料 戦前期の農産物・食料貿易を検討する上で参考としたのがフードレジーム論であり,とくに第1次フードレジームに着目した。第1次レジームの眼目は戦前のヨーロッパとヨーロッパ人ディアスポラ国家との間に成立した最初の基本的な食料の国際市場というものであり,こうした枠組みとの対比から当時の台湾,東アジアをめぐる状況を検討したい。欧米中心に議論が展開されてきた同論をアジアにおいて再検討する意義は大きいと考えたからである。  なお,当時の貿易状況の検討にあたっては,山口大学経済学部東亜経済研究所に所蔵されている戦前期の資料や貿易統計などを利用した。具体的には「臺湾の貿易」「臺湾貿易三十年對照表(明治29~大正14)」「臺湾貿易四十年表(明治29~昭和10)」「臺湾對支那,香港,及南洋方面貿易一覧(大正7,昭和7,8)」「臺湾對中華民國,満洲國,香港及南洋貿易一覧(昭和7~9)」「臺湾對南支,南洋貿易表(昭和10~15)」「日本・臺湾對南洋貿易統計」などである。
  • 岡谷 隆基, 乙井 康成, 中埜 貴元, 小荒井 衛
    セッションID: 113
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    斜面崩壊等,災害が発生する場所については,地形や地質のほか,土地被覆が関連していることが示唆されている.航空レーザ(LIDAR)測量は,レーザを地表に発射して戻ってくるまでの時間から航空機と地表との間の距離を求める測量手法であり,植生があるところでは,樹高や植生の疎密度なども把握できる特性を有している.近年この航空レーザ測量による詳細な地表面データの蓄積が進んでいる.これらを踏まえ、本研究では新潟県出雲崎地区を対象として,航空レーザ測量データを用いた植生の樹高を考慮した土地被覆分類について試行したので報告する.
  • 菊池 慶之, 手島 健治
    セッションID: 322
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    オフィスビルの取壊と建替を空間的に扱った研究は非常に少ない.これは,オフィスビルの取壊に関して公表されているデータが非常に少ないことや,オフィスビルの耐用年数は長く,取壊自体が少なかったことに起因するものと考えられる.しかし東京においては,大型オフィスビルの大量供給と企業のオフィススペース再編の動きを背景に,2003年頃から老朽化した狭小なオフィスビルの取壊と建替の動きが顕在化してきた.このようなオフィスビルの取壊と建替は,CBDをより高密で集約された業務地域に再編成する可能性がある.そこで本稿では東京都心3区におけるオフィスビルの取壊と取壊後の建替動向を検討し,オフィスビル建替の空間的特徴を明らかにする. 分析にあたっては,日本不動産研究所が実施している全国オフィスビル調査の詳細資料を用いる.全国オフィスビル調査では,2006年から全国のオフィスビルストックに関するデータを公表し,取壊ビルについても集計結果を公表している.調査対象は建物用途が主に事務所機能のビルであり,東京都心3区においては床面積5,000㎡以上のすべてのオフィスビルについて,毎年12月末時点の状況が分かる.このうち本稿では,オフィスストックの全数を把握できる2004年から2010年にかけての取壊を分析対象とした.
    2.オフィスビルの取壊
    東京都心3区においては,2004年~2010年にかけて182棟(257万㎡)の取壊があり,2003年末時点のオフィスビルの11.2%(床面積:8.3%)にあたる.取壊オフィスビルの平均築後年数は38年となっている.区別にみると千代田区55棟(123万㎡),中央区66棟(66万㎡),港区61棟(68万㎡)となる.2003年末時点のオフィス床面積に対する取壊比率を町丁別にみると,JR山手線沿線などの利便性に優れたエリアで高くなる傾向にある.
    3.オフィスビルの建替
    取壊後の建替の動向を見ると,取壊182棟のうち167棟は建替が完了しているか計画・建設中で建替後の用途が判明している.建替後の用途はオフィスが138棟(83%)と最も多く,続いて住宅が15棟(9%),商業店舗9棟(5%)の順となる.建替後の用途を区別にみると,千代田区では92%がオフィスであるのに対して,中央区,港区では2割強がオフィス以外に用途転換されている.
    4.おわりに
    東日本大震災を受けて,オフィスビルの耐震性が改めて注目されているほか,省エネ性能やエネルギー効率などの環境対応も重視されつつあることから,今後性能の劣る築古ビルの取壊が増えていくことが予想される.一方で,立地に劣るオフィスビルでは取壊後の用途転換が進む傾向にあり,東京都心3区では業務地域の再編成が進行しつつあるものと言えよう.
  • 菅 浩伸, 浦田 健作, 長尾 正之, 堀 信行, 大橋 倫也, 中島 洋典, 後藤 和久, 横山 祐典, 鈴木 淳
    セッションID: 629
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     海底地形図や空中写真から沈水カルストの存在は指摘されていた。しかし,多くは陸上の露出部によって沈水カルストであると認識されており,海底の地形図は提示されていない。浅海域の地形を具体的に可視化することは難しく,地形の広がりについて議論されることは世界的にもなかった。本研究では石垣島名蔵湾中央部の1.85km×2.7kmの範囲でワイドバンドマルチビーム測深機R2 Sonic 2022を用いた三次元地形測量を行い,沈水カルスト地形を見いだした。本発表では測深によって作成した1mメッシュの詳細地形図を基に,潜水調査結果などをあわせて,大規模かつ多様な形態をもつ名蔵湾の沈水カルストについて報告する。<BR>
     測深域では多数の閉じた等高線をもつ地形が可視化された。類似の地形はサンゴ礁地形など海面下で形成される地形になく,スケールもサンゴ礁の微地形より大きい。このため閉じた集水域より,地下水系によってつくられた地形,すなわちカルスト地形と判断できる。ここでは以下の5つのカルスト地形が認められ,これらがブロックごとに異なったカルスト発達過程を反映しているようである。 1) ドリーネカルスト,2) 複合ドリーネおよびメガドリーネ,3) コックピットカルスト,4) ポリゴナルカルスト,5) 河川カルストである。名蔵湾ではこれらのカルスト地形が現成の礁性堆積物によって覆われ,海底の被覆カルストを形成する。この過程で「カレン」のような規模の小さなカルスト地形は埋積されたとみられる。礁性堆積物の被覆により,水中の露頭で母岩を観察するには至っていない。名蔵湾でみられるような比高30mに達する凹凸の大きいカルスト地形は一般に透水性が低い石灰岩の弱線に沿って発達する。琉球石灰岩は透水性が高く,このようなカルスト地形を形成しにくい。名蔵湾の地形が頂部および旧谷底部に定高性をもつことから,母岩は陸棚で発達した第三紀宮良石灰岩ではないかと推定される。<BR>
     本研究では名蔵湾の中央部で沈水カルスト地形が確認された。空中写真で視認できる沿岸域の地形とあわせて,名蔵湾のほぼ全域が沈水カルスト地形の可能性が高いといえる。名蔵湾は南北6km,東西5kmの広がりをもつ。この範囲は南大東島や平尾台とほぼ同じ大きさであり,日本最大の沈水カルスト地形の存在が示唆できる。
  • 苅谷 愛彦, 高岡 貞夫
    セッションID: 624
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    [はじめに]赤石山地鳳凰山東麓には岩屑なだれ堆積物(ドンドコ沢岩屑なだれ堆積物=DDAD)が存在する.DDADに関連した木片の年代から岩屑なだれの発生は780−870 ADと推定された.また誘因には豪雨や歴史地震が想定された.しかし通常の14C年-暦年較正では約100年の誤差があるため,岩屑なだれという突発事件と歴史記録とを対照させることは困難だった.この場合,DDADの堆積(発生)年代を限局する手法に樹木ウィグル・マッチング(WM)がある.[調査地域]韮崎市のドンドコ沢・大棚沢沿いである.DDADは地蔵ヶ岳を発生源として標高1100 m付近まで流下した.DDADは大棚沢に堰きとめ湖沼を出現させた.湖沼堆積物に樹幹が含まれる.[方法] 樹皮を残す樹幹(DDKD2)について年輪を数え,最外年輪(1枚目)-5枚目までを分取した.以後11-15枚目・・・81-85枚目まで,10年間隔で9試料を得た.AMS年代測定を実施し,WMは視覚的パターン合わせと,OxCAL4.1+IntCal09による定量解析を行った.[結果] (1)最外部試料(DDKD2−0)は1174±18 BP,最内部試料(DDKD2−80)は1315±18 BPを示した.一方,これらの間の試料は規則的年代配列を示さなかった.(2)視覚的パターン合わせの結果,較正曲線から外れる一部試料を除き,それら以外の年代配列はIntCal09の変動パターンとよく合致した.パターン合わせからDDKD2−0の年代は785-790 AD頃と推定された.(3)全試料について定量解析した結果,DDKD2−0は778−793 ADと算出された.ただし9試料を一括計算すると一部試料について較正曲線との合致性が悪いと警告された.そこで一部試料を除外し再計算した結果,DDKD2−0は778−792 ADとなった.本稿ではこの値をDDKD2枯死年代とする.[考察]  (1)DDKD2が岩屑なだれの発生と同時に運び出され湖沼に漂着堆積したならば,岩屑なだれは778−792 ADに発生したことになる.(2)778−792 ADには歴史地震の記録はない.一方,「続日本紀」には宝亀十年七月(779年9月)に駿河国で洪水が生じたとの記述がある.年代の符号性と本地域が静岡県北部の赤石山地に接する点から,岩屑なだれの誘因はこの時の豪雨だった可能性がある.
  • 宮城 豊彦
    セッションID: S0104
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    地域レベルでの防災対応策は津波減災にどう役立ったかのかを実例に基づいて検証する。
  • 飯島 慈裕, 小谷 亜由美, 太田 岳史, マキシモフ トロフィム
    セッションID: P1201
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    東シベリアのヤクーツク周辺では、2004年以降の冬の積雪、夏の降水の異常増加によって、永久凍土表層の融解が進行して活動層が厚くなると同時に、活動層内が急激に湿潤化した。この現象に伴い、カラマツ(Larix cajanderi Mayr.)を主要樹種とする北方林(タイガ)では、数年に及ぶ過湿土壌の影響を受けて、枯死する個体が目立ち始めている。 本研究では、境界層タワーのあるスパスカヤパッド実験林において、湿潤化によるカラマツの撹乱後の蒸散活動の変化を明らかにするため、2006年(撹乱顕在前)と2009年(顕在後)にGranier法による樹液流測定を実施し、各個体の気孔コンダクタンスの変化を調べた。50x50mの地形測量と活動層厚分布から、活動層が厚くなり、土壌水分が過飽和に達していると考えられるのは、微地形で凹地、谷形状を示す地域であり、展葉が著しく抑制された樹高15m以上のカラマツ個体はそのような地形内に選択的に分布していた。 樹液流測定したカラマツ15個体に対し、アロメトリー式から撹乱前の葉面積を仮定した単位葉面積あたりの蒸散量を基に、飽差が1kPaでの各個体の気孔コンダクタンスを算定した。その結果、2006年と2009年でコンダクタンスにほぼ変化が見られない個体がある一方で、2009年に著しくコンダクタンスが落ちた個体が認められた。現地調査によって、コンダクタンスの変化が大きい個体は葉面積が減少していることが確認された。 また、タワー上と林床での渦相関法に基づく蒸発散率(蒸発散量/可能蒸発量)によると、2005-2008年で林床では変化が無い一方で、群落上では2007、2008年で減少を示した。これらの結果は、近年のシベリアでは、湿潤環境でありながら、森林からの蒸散量が落ちていることを意味している。
  • 小松原 琢
    セッションID: 625
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.はじめに2004年新潟県中越地震時には多くの斜面変動が生じ、その特徴が議論されている(たとえば千木良,2005;八木ほか,2005;岩橋ほか,2006;関口・佐藤,2006;ハスバートルほか,2009).しかし山地全体の地形発達過程から斜面変動の特徴を議論した事例は関口・佐藤(2006)と下河・稲垣(2009)を除いて例がない.本発表では,魚沼山地の形成過程と地すべり発生場所の関係について議論する.
    .2.地すべりの発生場所中越地震時には,深さ約10m以上のすべり面をもつ地すべりは芋川流域で多発したほか,信濃川近傍や和田川流域でも少数発生した.一方,強震域の中では最も総隆起量の大きな東山背斜の近傍では大規模な地すべり地形が発達するにもかかわらず地すべり(表層崩壊を除く)はほとんど発生していない.
    3.魚沼山地の地殻変動過程 この地震の強震域である魚沼山地では,広い範囲で中期更新世初頭に堆積を終了した魚沼層群を,Ata-Th(約240ka)が挟在する(武田ほか,2005)御山層が不整合に覆う.また破間川右岸の高位段丘面(道光高原面)を覆うローム層の中部よりIn-Kt(130~150ka)起源のカミングトン閃石が多産する(小荒井ほか,2011).ローム層の堆積速度を一定と仮定すると高位段丘面の離水時期は少なくとも30万年前以前と考えられる.以上より当地域の地殻変動は中期更新世前期に始まったと考えられる.
    4.山地の隆起と地すべり前線芋川流域で多くの地震地すべりが発生した背景には活褶曲を伴った隆起による芋川の急速な下刻(小荒井ほか,2011)によって地すべり末端部の斜面が不安定化していたことが考えられる.また魚沼山地の地すべり・斜面崩壊は尾根と谷の比高が大きな場所で多発している (黒木ほか,2011).一方,東山背斜近傍には大規模地すべり地形が発達するが地震時に地すべりの再活動はごくわずかしかなかった.このことは,単に誘因としての地震動の違いだけでなく,東山背斜周辺が地震時に大規模な地すべりを起こしにくい地形条件を持つことを示唆する.その要因として大規模地すべり地形が発達したことによって尾根-谷間の比高が減じたことが挙げられる.以上は,地すべり発生を素因に着目して見た際に,活褶曲に伴って隆起しつつある山地において,尾根-谷間の比高が大きく河川の下刻が活発となりやすい場所が「地すべり前線」ともいうべき場となって山地が開析されつつあること,総隆起量が大きな場所であっても過去の地すべりによって尾根-谷間の比高が小さくなった場所では地震に伴う地すべりが生じにくいことを示唆する.
  • 建石 隆太郎
    セッションID: 215
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    地表環境を総合的に理解するためには多数の異なるデータを重ね合わせて解析する必要がある。しかし、既存の無料で誰でも自由にアクセスできる地理情報データベースではデータの検索、入手、表示、重ね合わせが容易ではない。このため、世界中の研究者が容易に利用できる地理空間データの蓄積共有システムCEReS Gaiaを開発した。このシステムの特徴は次のとおりである。 a) クラスター型の複数サーバーシステム、 b) オープンソースによるシステムソフト提供、 c) 国際的なサーバーの拡張性、 d) 多言語機能(初期は英語のみ)、 e) 誰でもユーザー登録なしにアクセス可能 f)、 ユーザー登録することによりデータのアップロード可能、 g) 蓄積公開できるデータ:衛星データ、主題図データ、数値化地図データ、地上観測データ、地上調査写真、地理座標にリンクした文献、 h) 地理的位置またはキーワードによる検索、 i) ユーザー所有データとシステム内データの重ね合わせ表示、 j) データ共有の範囲の選択が可能:不特定多数へのデータ公開あるいはユーザーグループ内でのみのデータ共有。    本システムは、図1に示すように、スーパーユーザー、システムマネジャー、グループリーダー、登録ユーザー、未登録ユーザーの5タイプに分けられる。システムマネジャーはデータを蓄積するサーバーを管理する。グループリーダーは、ある共通の関心を持ったユーザーの代表者で、グループ間のデータ共有が可能となる。ある個人は複数のグループに属することが可能である。  未登録の一般ユーザーは自由にシステム内のデータを表示および(許可されたデータのみ)ダウンロードすることができる。登録ユーザーはデータをシステムにアップロードし、データをグループ内共有あるいは一般公開することができる。  本システムは2012年4月に運用開始する予定である。   謝辞:本研究は科研費(22220011)の助成を受けたものである。
  • 畠山 輝雄
    セッションID: 402
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    1999年以降に全国各地で行われた平成の大合併がひと段落して6年がたち、各市町村では合併後の新たなまちづくりが始まっている。平成の大合併の全盛時には、合併のデメリットとして「周辺部の過疎化」という問題点が行政および多くの研究者から指摘されていた。しかし、これらの指摘は、感覚的な経験談からのものがほとんどであり、データに基づく実証的な研究は官見の限りない。そこで本発表では、平成の大合併に伴う市町村の周辺部の過疎化について検証する。特に、人口面からの考察を行うために、市町村合併後の旧市町村別の人口変化に注目する。合併後の人口変化を分析するために、2005年と2010年の国勢調査統計を使用し、人口変化率を算出した。ただし、2007年以降に我が国の総人口は減少に転じており、また市町村合併が多く行われた農山村部ではそれ以前より過疎化が進んでいたため、市町村合併の影響を差別化することは困難である。そこで、非合併市町村や1995-2000年・2000-2005年の2期間の平均の人口変化率と比較することで、市町村合併の影響を明確化することとした。対象市町村は、合併特例法が改正され平成の大合併が始まった1999年以降の中でも、人口変化が合併直後に生じることも想定し、国勢調査実施前後の2005年4月1日から2006年3月31日の1年間に合併した1012(合併後では320)市町村とした。なお、分析に際して、合併形態による特徴を明確化するために、合併市町村について新市町村を構成する人口の首位市町村と第2位市町村の人口比および、首位市町村の人口規模から12の地域区分に分類した。また、合併年度別、合併後の役所機能別、本庁と支所との距離別にも分析した。さらに、周辺部の過疎化の要因を探るため、年齢別集計、産業等基本集計による分析も実施した。その結果、全国的に人口減少は進んでいるものの、合併市町村において1995-2000年・2000-2005年の人口変化率の平均に対する2005-2010年の人口変化率の減少度が顕著であった。特に、首位町村の人口規模が1万人と小規模ではあるものの、それ以外の市町村規模がさらに小さく、首位町村に包括される形で合併し、合併前の役所(場)が支所化された町村の減少度が顕著であった。また、支所化された市町村の中でも、本庁から遠距離の市町村において減少度が顕著であった。
  • 池永 正人
    セッションID: 507
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     ガソリ車の乗り入れを禁止した山地の観光地,いわゆる「カーフリーリゾート」に共通した立地条件がある。それは,まず自然条件についてみると,観光客を魅了する優れた景勝地であるが,土地が狭く自家用車で多数来訪する観光客用の駐車場整備が困難であること,域内の道路は起伏に富み,カーブの多い狭幅員の生活道路であること,また積雪・雪崩・落石・洪水といった自然災害に見舞われる危険度の高い場所であること,などである。一方,社会条件としては,自然・人文両分野の魅力的な観光資源を有し,それを有効に活用できる鉄道・路線バス・ロープウェイ・ケーブルカー・リフト・遊歩道などのアクセス交通が域内において整備され,一年を通じて多くの観光客が来訪できる場所である。スイス・カーフリー観光地共同体(Gemeinschaft autofreier Schweizer Tourismusorte,以下,GASTと略称)は,1988年の設立以来,観光客に満足のゆく観光活動を提供することを目標とし,加盟9箇所の村または集落では,宿泊・観光施設,交通機関,観光情報などにおける質の高いサービスと環境保全に努めている。なお,域内の交通手段は,電気自動車・馬車・自転車である。カーフリーリゾートは,上述した住民の生活環境や生業を維持するための必要性から生まれたことから,経済的にも精神的にも住民生活を向上させるものでなければならない。つまり,快適な住民生活あってのカーフリーリゾートの成立である。 アレッチ地域は,ローヌ河谷上流の標高1900mを超える日向斜面に位置するフィーシャーアルプ(人口1,250人),ベットマーアルプ(520人),リーダーアルプ(350人)の3集落の領域である。このうち,ベットマーアルプとリーダーアルプがカーフリーリゾートである。これらの集落へは,観光客はローヌの谷底地からロープウエイで到達する。観光の始まりは1930年頃であり,1950年代のロープウエイの開通により観光地として発展するようになった。2010年の宿泊客数は,ベットマーアルプ39万人,リーダーアルプ30万人を数え,その8割が冬季客である。つまり,アレッチ地域のカーフリーリゾートはスキーを楽しむ冬季滞在型である。アレッチ地域のカーフリーリゾートでは,山地の自然や農業,歴史や文化を観光資源として有効活用した体験型観光が盛んである。これは,年間を通じて多様なスポーツや文化的催事が可能な自然環境と,宿泊・交通・スポーツ・商業・医療など各種施設が十分に整備されていることに起因する。    
  • 山田 和芳, 齋藤 めぐみ, 原口 強, 五反田 克也, 米延 仁志, 中川 毅, 竹村 恵二
    セッションID: 627
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本発表では、一の目潟および水月湖の湖沼年縞堆積物から、過去の地震や津波イベントの推定がどの程度まで可能なのか明らかにして、災害検出計としての湖沼年縞堆積物の有効性について検討をおこなった。
  • 小笠原諸島父島を事例に
    有馬 貴之
    セッションID: S1207
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ 課題提起―観光地理学と大地の遺産
     観光地理学とは観光現象を対象とした空間と人間の諸相を探求する学問である。日本の観光地理学はその生起を1920年代とする比較的歴史の浅い分野であり、地域地理学の視点を中心に発達してきた。近年では、社会の観光への期待と注目により、研究論文と研究者も増加している。また、観光地理学はその盛運と共にさまざまな隣接分野の概念を取りこんできた。しかし、これまでの研究を総括すると、その主たる視点は【観光と住民生活の関係】、【観光客の行動と意識】、【観光現象の空間的特徴】の追及にある。
     このような学問的背景のもと、本発表では小笠原諸島を事例としながら、大地の遺産選定作業における観光地理学の有用性について議論する。

    Ⅱ 観光地理学の研究動向
     観光地理学の中核を担ってきたのは地域地理学の研究であり、そこでは主に【観光と住民生活の関係】が考察されてきた。特に、民宿経営やリゾート経営に関わる地域住民の就業変化の諸相が明らかにされた。フィールドは温泉、海浜、スキー場などが中心であったが、近年では農村や自然地における観光と住民生活の関係も考察されている。これらのフィールドの多くは地方部を対象としているのが特徴である。
     【観光客の行動と意識】についても研究がなされ、主に各々の時空間スケールにあわせた観光行動のパターン把握とその説明が行われている。さらに、観光施設の分布や観光に関わる土地利用についての把握とその説明も行われ、数種の【観光現象の空間的特徴】が明らかにされている。

    Ⅲ 小笠原諸島と観光地理学の視点
     観光地理学の学問的視点について、小笠原諸島を事例に具体的に示してみる。小笠原諸島は東京の南約1000kmに位置する海洋島である。
     人口約2000人の父島における産業構成をみると、観光業従事者が多い。観光業では民宿経営とガイド業が主たるものである。その背景をみると、近年小笠原に移住してきた住民は移住時から観光業を続けている一方で、古くから島内に住み続けていた住民は漁業からダイビングやホエールウォッチングへと職業を転換することで生計を立てるようになっている。つまり、小笠原の観光化が住民の職業転換を進めているといえる。当事者である観光客は島内でどのように行動しているのであろうか。彼らの活動空間と時間を調査すると、その多くが父島周辺の海上利用であることがわかる。しかし、彼らの活動空間は旅程の中で徐々に変化していた。なお、父島の観光地としての空間的特徴は宿泊施設や飲食店、土産物店などの集中にあり、その要因は国立公園等のゾーニング規制によるところが大きい。
     上述した観光地理学的な特徴を持つ父島は、島独特の生態系が認められ、2011年からユネスコの世界遺産に認定されている。登録以降、父島では観光客の量的増加と質的多様化、住民構成の変化が起きつつある。

    Ⅳ 観光地理学の視点からみる大地の遺産の選定
     最後に、これまでの議論を踏まえ、観光地理学が大地の遺産の選定に寄与できる事項をまとめた。観光地理学の核となる【観光と住民生活の関係】についての研究成果を踏まえれば、サイトの観光地理学的な学術的価値の判定を行うことが可能とみられる。ただし、当該研究は社会状況と密接に関わっており、「観光地理学において真正な学術的価値と何か」が問われているといえる。
     一方、【観光と住民生活の関係】は、観光による地域への影響とも言い換えられる。その意味からすれば、大地の遺産の選定によってもたらされる住民生活の変化の把握と予測が可能かもしれない。また、観光客の需要把握や政策・管理運営の効果も【観光客の行動と意識】や【観光現象の空間的特徴】の視点による研究成果から算出できる可能性がある。
     以上のように、学術的価値の判定に加え、大地の遺産の選定によってもたらされる地域への影響を踏まえることは、観光地理学としても重要なテーマである。したがって、大地の遺産の選定自体が地域にどのような効果を生じ得るのかという事も選定において加味すべき事項ではなかろうか。
  • 野上 道男
    セッションID: 807
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     魏志倭人伝は日本の地誌に関する最初の文書である.方位や里程の定義が示されていないので、記事の地名がどこに相当するかについて、様々な説がある.日本では倭(ヰ)国をワ国と読み、元祖ヤマト近畿説の日本書記がある.中国では随書の倭国伝・旧唐書の倭国伝・新唐書の日本伝に混乱した記述がある、江戸時代には新井白石/本居宣長(18世紀初頭/紀末)の研究があり、明治時代を経て皇国史観の呪縛を離れたはずの現在に至るまで、いわゆる邪馬台国論争として決着がついていない.そして現在では所在地論は大きく近畿説と九州説に分けられ、観光(町おこし)と結びついて、ご当地争いが激化し、学術的な論争の域を越える状況にある. 年代の明らかでない出来事の記述は歴史にならない.同様に場所を特定しない事物の記述は地理情報ではない.つまり、魏志倭人伝の読み方は全て場所の特定(方位と里程)から始まる.倭人伝は記紀と重なる時代についてのほぼ同時代文書である.そこに記述された歴史がどこで展開されたのか、これは古代史にとって基本的な問題であろう. 主な要点は以下の通りである
    1)記事に南とあるのはN150Eである.(夏至の日出方向)
    2)倭及び韓伝で用いられた1里は67mである.(井田法の面積に起源があると推定)
    3)古代測量は「真来通る」「真来向く」方向線の認定が基本である.
    4)里程は全て地標間の距離である.
    5)来倭魏使の行程記述には往路帰路の混同がある.
    6)子午線方向の位置(距離)を天文測量で得る方法を知っていた.
    7)邪馬台国は卑弥呼が「都せし国」である.
    8)倭国の首都は北九州の伊都(イツ)国である.
  • 中田 高, 後藤 秀昭, 渡辺 満久, 鈴木 康弘
    セッションID: P1112
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    詳細な測深データを用いて作成された3秒グリッドDEMをもとに海底地形立体視画像を作成し,日本列島周辺の海底活断層の解析を行っている.本発表では,日向海盆周辺の海底活断層と地震との関連について考察を行う.
  • 梶山 貴弘, 藁谷 哲也
    セッションID: 615
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1 はじめに
     アジア内陸部に位置するカラコラム山脈は,大規模な山岳氷河が発達する地域の一つである.この地域の氷河台帳は,2005年に作成された(Mool et al.,2005).しかし,この氷河台帳は,氷河の高度や岩屑被覆の有無などの項目が記載されていない.これらの形態的特徴は,カラコラム山脈の氷河に特有なものであり,その違いによって氷河末端位置の変化の生じることが知られている.そこで,本研究は,大規模な山岳氷河が発達するカラコラム山脈北西部のフンザ川流域において,氷河変動解析の基礎資料とすることを目的に,既存の台帳に新たな項目を追加した氷河の台帳および分布図を作成した.そして,これらから,氷河の形態および分布の特徴について考察する.
     研究対象地域としたフンザ川流域は,インダス川の支流で,パキスタンの北部に位置する(図1).谷底部の標高は,約1,500~4,000mである.一方,山稜部の標高は,上流域が約5,000~6,000m,中・下流域が約7,000~8,000mで,上流域よりも中・下流域の方が高くなっている.
    2 解析のデータと方法 
     本研究では,2009年および2010年の秋季に取得された「ALOS AVNIR-2(空間分解能10m:以下ALOS)」および「Terra ASTER(空間分解能15m:以下ASTER)」画像と2009年作成の「ASTER GDEM(1秒メッシュ:以下DEM)」を用いて,フンザ川流域の氷河台帳および分布図を作成する.ALOSおよびASTERは,現地で取得したGPSデータおよび「Google Earth」の位置データを用いて幾何補正した.
     台帳の項目は,番号・位置・氷河名・長さ・面積・流域の最高点高度・最低点高度・岩屑被覆の有無・涵養域の方位・消耗域の方位である.このうち,新たに作成した項目は,流域の最高点高度,最低点高度および岩屑被覆の有無である.
    3 氷河の形態的特徴と分布
     対象としたフンザ川流域には,765の氷河が認められ,これらは,長さが0.3~57.3km,面積が0.05~473.04km2,流域の最高点高度が4,540~7,850mであった.また,長さと面積,長さと流域の最高点高度の間に,それぞれ相関関係がみられた.一方,これらの氷河は,氷河末端部における岩屑被覆の有無によって,岩屑被覆の無いC型(586氷河)と岩屑被覆の有るD型(181氷河)に分類された.このうち,C型は,長さが短く流域の最高点高度が低い氷河に,D型は,長さが長く流域の最高点高度が高い氷河に多く認められた.
     氷河の分布は,フンザ川の上流域にC型氷河が,中・下流域にD型氷河がそれぞれ多くみられた(図1).これらの分布の違いは,流域の最高点高度,すなわち山稜の高度分布の違いに起因するものと推察された.
    4 まとめ
     フンザ川流域の氷河は,流域の最高点高度が低いと長さが短いC型氷河が,流域の最高点高度が高いと長さが長いD型氷河が多く認められた.氷河の流域の最高点高度は,山稜の高度を示していることから,フンザ川流域の氷河の分布は,山稜高度の不規則な分布に起因するものと推察された.
  • タイ北部ナーン県におけるモン村落の事例比較
    中井 信介
    セッションID: 516
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1 はじめに
     人々の生業活動は地域により異なっていると考えられるが、ではそれは具体的にどのように異なっているだろうか。これは地理学をはじめとするさまざまな学問分野に共通する大きな問いのひとつである。実際に詳細な現地調査・文献調査から、国、地方、村落といった、さまざまなレベルの大きさの空間とそこに暮らす集団を対象に、それぞれの生業像が描かれてきた。本報告は、一定地域内の特定の民族集団において、生業活動の多様性がどの程度みられるかを村落レベルで検討する試みである。なお、本報告ではこれを生業活動の「域内多様度」と呼び、具体的には、タイ北部ナーン県のモン(Hmong)村落の事例から比較検討する。
    2 調査対象と方法
     タイ国の2002年の報告書によると、ナーン県内には29のモン村落がある(MSDHS, 2002)。筆者はナーン県での現地調査を2005年から開始しているが、本報告では、これまでに現地調査を行った22村の事例(2010年9月、2011年2月と9月の調査)について比較検討する。各モン村落では、自給用の陸稲栽培に加えて、換金作物栽培と家畜飼育を行っているが、本報告ではとくに換金作物栽培と家畜飼育の状況から検討する。
    3 結果
     調査対象とした各村落は集落標高から、次の3つに分類できた。A型(5村):標高1100m~1350mに位置する山村、B型(11村):標高400m~900mに位置する山村、C型(6村):標高300m~350mに位置する平地村。
     各村落の畑地が分布する標高の高低幅は十分明らかではないが、各村落の集落標高に拠る分類は、換金作物の栽培状況と次の関係を示した。すなわち、B型とC型の村落ではトウモロコシが、A型の村落ではキャベツなどの野菜類が主要に栽培されていた。またC型の村落の一部では、マンゴーが栽培されていた(4村)。
     家畜飼育の状況からは、次の関係が確認できた。豚に関しては、A型とB型の村落では4割~8割の家で飼育していたが、C型の村落では、ほぼ飼育しない事例が存在した(地方都市近郊の3村)。牛に関しては、A型、B型、C型に共通して多くの村落で数戸程度が飼育していたが、近隣に放牧可能な林地が存在する村落では(A型の2村とB型の4村)、数十戸程度が飼育していた。
    4 考察
     調査結果からは、集落標高と相関して異なる換金作物が栽培される状況にあること示された。また、山村では行われる豚飼育が、平地村(とくに地方都市近郊の村落)ではあまり行われず、牛飼育は放牧可能な林地が存在する一部の山村においてのみ盛んに行われていた。これらのことは、ナーン県におけるモンの生業活動に、村落レベルの域内多様度が確認でき、それは少なくとも、集落標高(直接には畑地標高)、地方都市との関係、放牧可能地の有無、といった要素から規定されている可能性を示唆する。
    文献
    MSDHS 2002. Highland communities within 20 provinces of Thailand, 2002. MSDHS: Ministry of Social Development and Human Security, Bangkok. (in Thai)
  • 高橋 日出男
    セッションID: S1402
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
      近年,都市域における対流性(雷雨性)の短時間強雨に伴い,雨水集中による下水道や都市内中小河川の逆流・溢水(都市型水害)の多発が指摘されている.このような強雨の発生に与える都市の影響に関し,St. LouisやAtlantaなど合衆国の諸都市を対象とした観測的研究(Changnon 1978,Shephard et al. 2002など)では,都市中心部から30~75km風下側に降水の増大域が現れることが指摘され,その要因として数値モデルによる解析(Rozoff et al. 2003など)からは,一般風に対する都市表面の粗度によるdragと都市の高温(ヒートアイランド現象)との非線形作用の効果があげられている.これに対し,東京首都圏を対象に気象庁アメダスを用いて降水に対する都市の効果(強雨の増加)を示唆した佐藤・高橋(2000)やFujibe et al.(2009)などは,東京都心域(大手町など都区部)の降水統計にそのシグナルを見出している.このような差異には,都市の位置する場の特徴として,強雨発現に関わる複雑な関東地方の局地循環・風系(藤部ほか 2002,中西・原 2003など)の影響もあろうが,都市規模の観点から巨大都市ではその内部に雷雨活動の変化が現れる可能性が指摘されている(Changnon 2001).稠密な観測点を用いた高橋ほか(2011)によれば,都区部内部には強雨頻度やその経年変化傾向に建築物群の分布構造との関係性が示唆される局地性が認められる.すなわち,強雨の発現に与える都市の影響把握には,「(一様な)都市域とその周囲」および「複雑な巨大都市内部」という複数の構図が存在し,そのため,①都市の空間構造や影響範囲を考えるための空間スケールの設定・吟味が重要と考えられる.
      上記の研究を含め,都市に起因する収束や上昇流の形成を論じたり,ファーストエコーの捕捉に基づいた,対流雲の発達期に関わる議論は多数行われている.その一方で,対流雲の成熟期に現れる冷気外出流やそれに伴うガストフロントなどの現象に対する都市の影響はあまり議論されていない.しかしながら,これらは新たな対流雲の形成に関与する場合があり,地表面の影響を受けやすい大気の下層に現れる現象である.したがって,②都市域に現れた対流雲の様々な挙動に与える都市の影響についても,十分な把握が必要と考えられる.
       本シンポジウムでは,特に都市における建築物群の分布構造の観点から,上記①と②に関する発表者ほかの解析・観測結果を提示し,都市の短時間強雨に関する話題提供としたい.
  • 平成16年風水害を例に
    古田 昇, 中条 義輝, 小林 郁典
    セッションID: 117
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    土地条件図に代表される微地形分類と、レーザープロファイラによる高精度DEMを用いた地盤高環境マップを用いて、高潮や洪水被災実績とのクロス分析を行い、その活用方法を検討する。具体的には、四国北東部における平成16年の風水害との関連について述べる。
  • 渡辺 満久, 中田  高, 後藤 秀昭, 鈴木 康弘, 隈元 崇, 徳山 英一, 西澤 あずさ, 木戸 ゆかり
    セッションID: 112
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    南海トラフ・相模トラフ・日本海溝周辺には、変位が累積した海底活断層が複数確認されている。しかし、最近関心が高まっている「連動型地震」の考え方においては、これら海底活断層にはあまり注意は払われていない。プレート境界において発生する巨大地震の中には、これらの海底活断層が引き起こす固有地震もあると考えられ、巨大地震と海底活断層との関係を詳しく検討してゆく必要がある。
    本報告では、日本海溝周辺における海底活断層の分布と歴史地震の震源域との対応、とくに2011年東北地方太平洋沖地震(以下、3・11地震と略称する)の震源域との比較を行う。3・11地震時の津波発生域と海底活断層との関係や、大きな地震空白域が存在することなどを指摘し、以下の結論を得た。
    3・11地震は、その位置・形状から、日本海溝軸付近からやや陸側に認められる延長約500kmの長大な逆断層が引き越した可能性が高い。この撓曲崖(断層崖)の比高は1,000m以上に達しているため、同様の固有地震が繰り返されていると考えられる。
    M9の3・11地震はプレート境界の複数の破壊領域が連動したものであり、海底活断層とは無関係であるという見解もある。その理由として、津波の波源域が海溝軸に達しており、上記の長大な活断層の分布域とは異なるという「誤解」がある。海溝軸付近で大きな変動が確認されている牡鹿半島の東南東では、我々が提示した長大な活断層もまさに海溝軸付近を通過しており、「観測事実」と一致している。それ以外の地域では、海溝軸から数10km異なる位置にある活断層による変位が大きな津波を発生させたと考えても、何ら問題はない。
    地震時のすべりが、プレート境界に沿って海溝軸へ進むのではなく、途中からやや高角な逆断層に沿って陸側斜面下部へと現れたと考えられる。このように、海溝周辺における巨大地震の発生予測をする場合、海底活断層の位置・形状は非常に重要な基礎データである。
    これまでに知られている歴史地震の震源域は、今回判読された海底活断層の位置と非常によく対応している。海底活断層と歴史地震との関係はさらに詳細に検討しなければならないが、下北半島東方と房総沖の三重会合点付近の活断層は、比較的明瞭な地震空白域にあるため、今後十分な注意を払う必要がある。
  • 初澤 敏生
    セッションID: 107
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本発表は原町地区(旧原町市域)の工業の実態と、それらが直面している諸課題についての調査報告である。原町地域の事業所の実態を把握するため、2011年11月に原町商工会議所会員事業所を中心にアンケート調査を行い、工業部門では160通の回答を得た。回答企業中、地震・津波による死者・行方不明者は29名、物的損害があった事業所は85に上った。このうち過半数の49事業所が被害額500万円未満であるが、損害額が1億円以上に上る事業所も3社ある。原発事故の影響としては、約3分の2にあたる107事業所から受注が減少しているとの回答が寄せられた。また、85事業所からは従業員の確保が困難であることが指摘されている。当初、原発事故は雇用調整助成金の助成対象とならなかったため、各企業は従業員を解雇せざるを得なかった。この結果、企業と従業員との関係が切れてしまい、多くの市民が市外に避難したのと相まってその後の操業再開に大きなマイナス要因となっているのである。回答企業の従業員数を合計すると、2月の2,987人から10月の2,416人へと、約2割減少している。売上の変化を見ると、2010年と2011年の各10月を比較して、売上が増加した事業所は12、減少した事業所は91、あまり変わらない事業所は26となっている。建設業関連の事業所が比較的多いことから、売上を伸ばしている事業所もある一方、70%の事業所が売上を減少させている。売上を減少させている事業所では、3割ぐらいの減少が最も多い。機械工業関連事業所22社の取引関係の地域別変化をみると、受注はすべての地域において減少している。しかし、関東地方が1割強の減少にとどまっているのに対し、相双地域は6割、市内・東北地方は3割、県内は2割の減少となっている。特に相双地域の減少幅が大きく、製造業の衰退が非常に深刻な状態になっている。一方、発注事業所数は減少幅こそ受注に比べると小さいものにとどまっているものの、市内・相双地域を中心に減少している。このような取引関係の縮小が、各事業所の経営の悪化につながっている。今後、地域産業の復興を進めるためには地域の産業集積を維持するとともに、それらの連関関係を深めていくことが必要である。
  • 仁科 淳司, 三上 岳彦
    セッションID: 727
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    仁科・三上(2010)は,1990年以降の時別値データを用いて熊谷における夏季の地上気圧日変化曲線の特徴を検討した。これらの特徴のいくつかがヒートアイランド現象に起因するものかを判断する一つの方法として,まず,1961年まで遡って,1日4回(3時,9時,15時,21時)の地上気圧の経年変化と年々変動を検討した(仁科・三上 2011,以後NM11と表記する)。もう一つの方法として,他の地点で同様の解析を行い,NM11の結果と比較することがあげられる。本研究では,8月を中心に,銚子の地上気象観測日原簿を用いて,1961年~2010年の1日4回の地上気圧の値から,経年変化と年々変動を検討した。まず,銚子における8月の地上気圧は,どの時刻でもわずかだが上昇傾向にある(図省略)。しかし,15時で最小だった熊谷と異なり,上昇の割合はどの時刻でもほぼ同じである。次に,8月の日照時間と月平均地上気圧の経年変化及び年々変動(図1)を検討した。熊谷で示した1980年代の前後で5年間移動平均した両者の変動傾向が異なる事実(NM11の図2)は,銚子では不明瞭である。さらに,5年間移動平均値をもとに,銚子における8月の月平均地上気圧の経年変化(図2)を検討し,熊谷における経年変化(NM11の図3)と比較した。熊谷では,1980年代前半までは,地上気圧の5年間移動平均値が上昇する期間は15時の上昇量が小さく,下降する期間は15時の下降量が小さい。銚子でもこの傾向が見られるが,1980年代から3時の地上気圧下降量がしだいに大きくなり,1990年代からは21時で大きくなるという熊谷の特徴は,銚子では見られない。以上の結果は,NM11で得られた熊谷における解析結果が,都市化の進展が顕著でなく,かつ海洋の影響が強いと判断される銚子ではあてはまらないことを意味する。換言すれば,NM11で主張したような熊谷の地上気圧の経年変化や年々変動の成因に関する一連の考察を支持している。
  • 野口 泰生
    セッションID: 722
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     中部日本のほぼ中央に位置し、南風の卓越頻度が他の地域をはるかにしのぐ(年平均で70%を超える)中信高原霧ヶ峰(1925m)を対象に南風の特徴について吟味する。使用した気象資料は、霧ヶ峰山岳測候所気象原簿(1943-48)、中部日本155地点のAmedasデータ、富士山測候所データの時別値などである。
     霧ヶ峰の風速は夏に最小(4~5m/sec)、冬に最大(8~9m/sec)となり、風速や季節変化は富士山の観測値に似ている。風向の月別頻度は南風が60~79%で、この中に西寄り(冬)と東寄り(夏)の明瞭な季節変化があり、この点も富士山など高層の風の特徴を示す。霧ヶ峰の南風(北風)に含まれる出現時間の特徴(昼夜の違い)を1945年の時別値で調べたが、出現時間(昼夜の違い、すなわち日変化)、南風・北風の継続時間、出現頻度に季節変化などの規則的な特徴は見られなかった。
     これに対し、南風が高頻度で出現する低地の観測地点(長野県奈川、飯島、松本、福井、富山県泊)で、南風の出現時間を調べると、いずれの地点でも出現時間に昼夜の違い(日変化)が明瞭であった。この日変化は日照時間(日照率)を減らすことによって減少するものの、日照率セ゛ロ(一日中曇天や雨天)にしても、日変化は完全には消失しなかった。
     中部日本のAmedas地点では、南風の出現時間に地域差があり、福井、泊、奈川では一年を通して夜間に卓越し、暖候期の昼間にはあまり見られなかった。同じ伊那谷の延長線上でも、飯島では一年中南風が出現し、午後の時間帯に多発するが、松本では午前中に南風出現時間のヒ゜ークがあり、日射の季節変化に伴うと思われる年変化が見られた。
     中信高原で卓越する冬の南風は、積雪分布や凍結融解地域を決定し、春の地温分布や土壌湿度の分布を通して、植物の分布に決定的な影響を与えていると思われる。
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