九州等各地の堆肥化施設17ヵ所から採取した21点の堆肥製品試料中の各種の微生物数を蛍光染色法および培養法により測定し,堆肥中の細菌の測定に蛍光染色法が有効であるか検証するとともに,各種有機物分解菌数を平板培養法で測定し,比較検討した.得られた結果は以下のとおりである。1)これら堆肥の含水率は13.0〜58.3%で,pHは6.3〜9.4,ECは3.0〜13.4mScm^<-1>の範囲にあり,CECは31.4〜79.0cmol_c kg^<-1>の範囲にあった.炭素率は7.6〜20.9の範囲にあり,完熟堆肥の持つべきC/N比の範囲にほぼ入っていた。2)エチジウム・ブロミド(EB)蛍光染色法により,堆肥中の細菌が明瞭に観察でき,有機物との識別は容易であった.これを用いて定量した結果,全細菌数は7.8×10^9〜9.3×10^<10>(相乗平均3.7×10^<10>) cells g^<-1> dry matterの範囲にあった。一方,6-carboxyfluorescein diacetate(CFDA)蛍光染色法では,有機物はほとんど染色されず,暗色の背景に生きた細菌が黄緑色の蛍光を発して明瞭に観察された。CFDA蛍光染色法による全生細菌数は1.4×10^9〜8.2×10^<10>(相乗平均1.2×10^<10>) cells g^<-1> dry matterで,生菌率(全細菌数に対する全生細菌数の比)は5.4〜169%(平均41.8%)であった.生菌率が100%を超えることがある理由として,EB蛍光染色法よりもCFDA蛍光染色法の方が,有機物とのコントラストが大きく,過小評価が少ないことが推察された。3)希釈平板法による測定の結果,Nutrient broth(NB)寒天培地によるNB細菌数は4.6×10^6〜5.2×10^9(相乗平均4.6×10^8) cfu g^<-1> dry matterであった.これらの値は,100倍希釈NB寒天培地によるDNB細菌数より数倍〜数100倍高く,堆肥の富栄養的環境を反映していると考えられた。コロニー形成率(CFDA蛍光染色法による全生細菌数に対する培養可能な細菌数の比)は0.1〜46.9%(平均8.5%)と低かった。このことは,堆肥中の細菌の約9割が,生きているが培養できない状態(Viable but nonculturable, VNC)にあることを示しているとともに,堆肥中の培養できない細菌を観察・定量する目的に,蛍光染色法が有効であることを示唆していた.4)牛糞堆肥および生ゴミ堆肥には放線菌が10^6〜10^8 cfu g^<-1> dry matter存在し,一方,鶏糞堆肥では10^6 cfu g ^<-1> dry matter以下で少ない傾向が認められた.5)牛糞堆肥や生ゴミ堆肥には,セルロース分解菌やデンプン分解菌,油脂分解菌が10^7〜10^8 cfu g^<-1> dry matter存在し,鶏糞堆肥や汚泥堆肥と比べて多い傾向が認められた。6)蛋白質分解菌数の測定には,カゼイン法では堆肥試料の測定に適さない場合があり,ゼラチン法により,10^7〜10^8 cfu g^<-1> dry matterの菌数が得られた。以上の結果から,堆肥中の細菌の多くはVNCであり,全細菌数などの定量には蛍光染色法が培養法よりも卓越していることが検証された。同時に,有機物分解菌など,現在では蛍光染色法で定量できない微生物もあり,蛍光染色法と培養法とを補完的に使用することが必要と判断された。
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