日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
92 巻, 3 号
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報文
  • 森下 瑞貴, 木田 仁廣, 川東 正幸
    2021 年 92 巻 3 号 p. 225-237
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/06/15
    ジャーナル フリー

    分解作用を強く受けた泥炭物質を黒泥や腐朽質泥炭とよぶ.泥炭物質の分解度の判別指標には,灰分含量が国際的に広く用いられている.しかしながら,日本の泥炭地は,沖積堆積物または火山放出物の供給を受けやすいという特徴がある.そのため,灰分含量は有機物の分解度に関わらない湿地系外から混入した無機物の影響を反映している場合があり,国内における泥炭物質の分解度判別には不十分な可能性がある.そこで本稿では,国内に分布する泥炭物質の特徴および生成過程を反映した分類法の構築を目的とし,国内外における泥炭物質の分解度に関わる用語の定義および基準を整理した.さらに,北海道の沖積低地に分布する泥炭物質について繊維含量と灰分含量を変数としたクラスター分析を行い,算出された各クラスターの判別基準を決定木学習により抽出することで,灰分含量の高い泥炭物質についての新分類を以下のように提案した.すなわち,繊維質泥炭物質(無機堆積質):繊維含量≧25 vol%かつ灰分含量≧25 wt%,普通繊維質泥炭物質:繊維含量≧25 vol%かつ灰分含量<25 wt%,非繊維質泥炭物質(無機堆積質):繊維含量<25 vol%かつ灰分含量≧45wt%,普通非繊維質泥炭物質:繊維含量<25 vol%かつ灰分含量<45 wt%,の4区分を設けた.これにより,無機堆積物が供給されやすい泥炭地環境を考慮した泥炭物質の判別が可能と考えられる.

  • 石川 葉子
    2021 年 92 巻 3 号 p. 238-248
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/06/15
    ジャーナル フリー

    わが国において,メタン発酵消化液(消化液)を化学肥料の代替肥料として施用する試みがイネや様々な野菜を対象に行われ,化学肥料区と比較して遜色ない収量が得られることが報告されてきた.しかしながら,消化液による化学肥料の代替が収穫物の成分や養分含有量へ及ぼす影響の検証例や消化液の肥効率を推定する試みは限られている.本研究では,秋冬ダイコンを対象に,化学肥料を施用した施肥体系(化学肥料グループ),化学肥料慣行区の窒素成分換算で50%以上を消化液により代替した施肥体系3水準(消化液グループ)を含む圃場試験を2年間実施し,消化液による化学肥料の代替がダイコンの収量と品質に及ぼす影響を対比のある分散分析法により明らかにするとともに,化学肥料慣行区との比較により消化液の肥効率を推定した.本研究で用いた消化液のリン酸濃度は低かったが,化学肥料によるリン酸の補正施用を行わなかったため,消化液グループは化学肥料グループと比較して低リン条件での栽培となった.規格内収量は1年目には消化液グループが化学肥料グループよりも有意に低かった.消化液グループにおける窒素の肥効率は2年間のデータから50%程度と推定された.また,収穫後の土壌無機態窒素濃度は化学肥料,消化液にかかわらず全量を基肥施用した区が低く,施用上の利便性に優れる消化液の全量基肥施用が,収穫後の窒素溶脱の視点からも有効な選択肢と考えられた.

  • 丹羽 勝久, 横堀 潤, 石倉 究, 原 圭祐, 笛木 伸彦, 今田 伸二
    2021 年 92 巻 3 号 p. 249-254
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/06/15
    ジャーナル フリー

    北海道の畑作地帯では土壌窒素肥沃度マップに基づく窒素可変施肥技術が導入されつつあるが,その効果は,窒素肥沃度が圃場内の作物生育のばらつきと正の相関を示す圃場で高いと考えられる.本研究では土壌腐植含量を窒素肥沃度の指標として着目し,十勝地域の123圃場で衛星画像から表層の土壌腐植含量,テンサイおよびバレイショの地上部の生育量を推定し,それらの関係から窒素可変施肥が効果的であろうと思われる圃場の実態を把握した.衛星画像は表層土壌が写る2016年4月と作物生育期の2016年7月(多雨条件)の2枚で,各画像には調査圃場123筆が含まれている.4月の画像では,赤域のデータと土壌腐植含量実測値の決定係数(R2=0.71)が最も高く,その回帰式から調査圃場の土壌腐植含量を推定し,7月の画像からは調査圃場のNDVIを把握した.土壌腐植含量とNDVIは10 mメッシュに再編成し,各圃場の両者の関係を線形回帰により評価した.その結果,多雨年にも関わらず,1%水準で正の相関を示した圃場はテンサイで20圃場(34.5%),バレイショで31圃場(47.7%)にも及び,一方,負の相関を示した圃場では腐植含量の高い場合の排水不良や低pHによる生育抑制が示唆された.したがって調査地域では,多雨年でも表層の土壌腐植含量とNDVIに正の相関が得られる圃場では窒素可変施肥は有効であろうと考えられた.

  • 城 惣吉, 間塚 真矢, 門脇 正行, 佐伯 雄一
    2021 年 92 巻 3 号 p. 255-262
    発行日: 2021/06/05
    公開日: 2021/06/15
    ジャーナル フリー

    地球温暖化に伴う気候変動の作物生産への影響に関する基礎的知見の蓄積の一環として,異なる栽培温度環境下におけるダイズの生育と有用ダイズ根粒菌の接種効果および感染ダイズ根粒菌群集構造への影響について調査を行った.供試ダイズ品種として,‘オリヒメ’,‘ボンミノリ’,‘フクユタカ’を用い,供試菌株としてBradyrhizobium diazoefficiens USDA110Tを用いた.栽培は温度傾斜型チャンバー内で行い,低温区,中温区,高温区を設けた.異なる温度環境下での栽培試験の結果,無接種区と比較して,USDA110の接種により主茎長,主茎節数,茎葉乾物重,莢数,莢乾物重,地上部乾物重,根粒数が有意に増加したが,栽培温度の上昇により根粒数を除く項目が有意に減少した.各調査項目間の相関係数は根粒数と茎葉乾物重との関係など多くの組み合わせにおいて有意な正の相関関係を示した.USDA110の根粒占有率は,全ての温度区で接種したUSDA110が優占したが,低温区と中温区,低温区と高温区を比較すると栽培温度の上昇により減少する傾向を示した.以上の結果から,高温環境下では根粒数が減少することでダイズの生育が抑制され,その後の生育や収量に影響すると考えられた.しかし,根粒数とUSDA110の根粒占有率を確保することができれば栽培温度の上昇によるダイズの生産性低下を抑制することができると考えられる.

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