腐植酸を灰色低地土,褐色森林土,黒ボク土から抽出し,腐植酸の濃度を変化させてイネ幼植物を20日間水耕栽培した結果,いずれの腐植酸も,75mgL^<-1>または100mgL^<-1>添加区でクロロシスによる生育阻害が見られた.葉身部の陽イオン元素濃度を比較すると,すべての腐植酸の添加濃度の上昇に伴い,1価陽イオンのK^+の元素濃度はほぼ一定(黒ボク土腐植酸を除く)であったのに対し,2価陽イオン(Mg^<2+>,Ca^<2+>)の元素濃度は増加した.また,腐植酸の添加濃度の増加とともに,重金属イオンのMn^<2+>の元素濃度は増加し,Fe^<3+>,Cu^<2+>の元素濃度は減少した.培養液中のCa^<2+>,Mg^<2+>は腐植酸の負電荷近傍に濃縮しており,イネの根の表面から放出されるH^+イオンとのイオン交換反応により腐植酸の負電荷近傍から根表面へ移行し,吸収されて葉身部のMg,Ca濃度が高まると推定された.Fe^<3+>とCu^<2+>は腐植酸と安定な錯体を形成し,カルボキシル基に配位結合しており,H^+によるイオン交換反応は起こらない.したがって,根から吸収されないため葉身部のFe,Cu濃度が減少し,クロロシスを発症したと推定された.腐植酸濃度が100mgL^<-1>でクロロシスが発症する実験区にFeを過剰量添加し,20日間栽培した結果,Fe添加量の増加に伴い葉身部のFe濃度は急激に増加し,クロロシスは発症しなかった.腐植酸添加により発症するイネ幼植物のクロロシスの程度の違いは腐植酸のカルボキシル基含量の違いに対応していた.添加腐植酸のカルボキシル基量(モル)の5%以上のFe量(モル)を添加すればクロロシスは起こらず生育促進が可能となることが明らかとなった.
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