日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
95 巻, 1 号
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巻頭言
報文
  • 平井 英明, 豊田 理桜, 吉川 美幸, 吉田 貴洋, 高橋 行継, 出口 明子, 白石 智子, 北村 里香, 早川 智恵
    2024 年 95 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2024/02/05
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル 認証あり

    小学校学習指導要領の解説家庭編には「米は,我が国の主要な農産物であり,主食として日本人の食生活から切り離すことができない食品である」,同解説社会編には「国民の主食を確保する上で重要な役割を果たしている稲作については必ず取り上げる」と記されている.しかし,稲作に水田や水田土壌の保水機能が必要である点や,稲作に必要な水の供給には,森林および森林土壌の水源涵養機能が必要である点に関する記述はない.稲作と森とのつながりに気づくには,土壌機能を取り上げる必要がある.そこで,森・土・水・田・イネ・コメの一連のつながりを可視化するために,①施肥法の異なる水稲栽培圃場において作物・土壌学的調査を行い,②野外フィールドでの土壌教育プログラムを発展させ,給食の人気メニューであるカレーライス1杯(米飯150 g)に必要な白米粒数,イネの株数,およびその生産に必要な表土の面積,質量および水分量を定量的に示すことを目的とした.その結果,カレーライス1杯分の白米粒数を3,571粒とした場合,堆肥区,化肥区,無肥区に必要なイネはそれぞれ2.25株,2.22株,3.85株,必要な湿潤土は30.6 kg, 30.6 kg, 50.8 kg(内,含水量は16.5 kg, 15.9 kg, 26.3 kg)となり,無肥区は堆肥区・化肥区よりもイネの株数と水を多く必要とすることが示された.このように,森・土・水・田・イネ・コメのつながりを実感できる土壌教育プログラムを提案する.

  • 石倉 究, 笛木 伸彦, 原 圭祐, 丹羽 勝久, 瀬下 隆
    2024 年 95 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2024/02/05
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル 認証あり

    圃場内で保水性不良となるエリアを見出すことを目的に,北海道十勝・オホーツク管内の畑作圃場において衛星画像や地形情報と保水性との関係を解析した.秋まきコムギ作付圃場において幼穂形成期頃と収穫前の正規化植生指数(NDVI)が圃場内で相対的に低い不良エリアは対照となるエリアと比べて砂質で礫層の出現上端が浅く,易有効水分と熱水抽出性窒素が低い傾向にあった.このような不良エリアでは保水力が相対的に低く初期生育が抑制され,また早期に黄熟するため,保水性不良の可能性が高い.一方,異なる地形をまたぐ圃場や前歴の異なる圃場を合筆した圃場では作土層の熱水抽出性窒素含量が著しく異なり,それがNDVIに影響を与えていたと考えられた.また雑草繁茂の程度もNDVIに影響を与えていたと考えられた.結論として,このような雑草繁茂や障害の発生がみられず,同じ前歴をもち同一の地形に位置する圃場では,秋まきコムギの幼穂形成期頃と収穫前のいずれの時期もNDVIが相対的に低いエリアは保水性不良の可能性が高い.

  • 石倉 究, 笛木 伸彦, 原 圭祐, 丹羽 勝久, 瀬下 隆
    2024 年 95 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2024/02/05
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル 認証あり

    一筆圃場内の排水性不良を見出すことを目的に,北海道十勝管内の畑作圃場において衛星画像や地形情報と排水性との関係を解析した.秋まきコムギの正規化植生指数(NDVI)が幼穂形成期頃は一筆圃場内で相対的に低いが収穫前には逆転する不良エリアでは,対照となるエリアと比べて斑紋やグライ層が出現する上端や地下水位が浅く,飽和透水係数が低かった.このような不良エリアでは(1)初期生育が遅延し,生育後半には心土からの窒素・水分供給が卓越したために生育が旺盛となった,または(2)豪雨による冠水に伴い秋まき小麦が枯死し,その後雑草が繁茂したと考えられ,いずれの場合も排水性不良の可能性が高い.また,各圃場では生育初期のNDVIと標高の間には有意な正の相関がみられ(P<0.001),地形的な低部への集水も排水性不良の一因であると考えられた.同一圃場の異なる気象条件でNDVIの推移を確認したところ,排水性不良エリアにおけるNDVIの遅延は,降水量が平年並みの年には確認されたが,少雨年では確認できなかった.結論として,同様の肥培管理を行ってきた障害発生のない一筆圃場において,降水量が平年並み以上の年で秋まきコムギのNDVIが幼穂形成期頃には低いが収穫前には逆転して高くなる地形的低部は排水性不良の可能性が高い.

  • 佐藤 健司, 濱 武英, 田中 理奈, 脇田 梨左, 中村 公人, 伊藤 紘晃
    2024 年 95 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2024/02/05
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル 認証あり

    日本の代表的な水田土壌である灰色低地土において,ヒ酸とリンの競合吸着およびヒ酸吸着に与えるpHの影響についての研究知見は限られている.また,灰色低地土はヒ酸の吸着能力が低く,ヒ酸吸着に与える初期含有リンの影響を無視することができない.そこで本研究は,(1)先行研究で報告された黒ボク土のヒ酸吸着特性との比較によって,灰色低地土のヒ酸吸着特性を評価すること,(2)灰色低地土に含まれるリンの溶出特性とヒ酸吸着への影響を評価することを目的とした.その結果,本研究で供試した土壌では,灰色低地土のヒ酸吸着量は黒ボク土の約10%であった.ヒ酸吸着量は,黒ボク土では平衡pH 3.8で最大となったが,灰色低地土では平衡pH 3で最大となった.さらに,ヒ酸とリン酸を同時添加した場合,いずれの土壌においてもヒ酸とリン酸の吸着競合がみられた.灰色低地土では,ヒ酸のみを添加した場合でも,弱く吸着したヒ酸の画分が32%を占めた.これは,カルシウムや不安定な鉄と結合したリンなどの容易に溶出する初期含有リンが溶出し,リンとヒ酸の吸着競合が生じたためと推察された.灰色低地土の初期含有リンは,蒸留水の継続的な添加によって溶出し続けた.したがって,ヒ酸の吸着能力が低く,吸着サイトがすでにリンによって飽和している土壌では,流入したヒ酸は土壌にあまり吸着せず,かつ弱く吸着する割合が高いため,長期間作土中にとどまりにくいことが示唆された.

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