積雪寒冷地の稲わら施用水田から発生するメタン発生量の年次変動要因を明らかにするため,山形県内の標準的な水稲連作水田において1992年から2013年までの17年間(1997~2002年は欠測)の栽培期間中に測定した21事例のメタン発生量とメタンフラックスを解析した.その結果,水稲栽培期間中のメタン発生量は積算気温と正の相関がみられた.次に,メタン発生量が多かった6~8月に着目し,気温,水管理に影響を受ける土壌Eh(酸化還元電位)とメタンフラックスとの関係を時期別に解析した.6月のメタンフラックスは,同時期の土壌還元が進行しなかった年次には低く,土壌還元が進行した年次には高い傾向があった.6月に土壌還元が進行した年次として,同時期の土壌Ehが−100 mV未満であった年次に限ると,6月のメタンフラックスと平均気温との間に強い正の関係がみられた.このように,6月に気温が高く,土壌還元が進行した年には6月のメタンフラックスが高いが,水稲生育や土壌状況に応じた判断によって6月後半から行われる中干しの程度が強くなり,その結果,7月の土壌還元が進行せず,メタンフラックスが低下したと推察される年次が多かった.一方,中干しの程度が弱い年次は6月と7月のメタンフラックスの間に正の相関関係がみられた.これらのことから,強めの中干しが7月以降のメタン発生量を少なくしている可能性が示唆された.
前報において,山形県内の標準的な水稲連作水田における7月以降のメタンフラックスは6月下旬から行われる中干しの影響を受け,強めの中干しが以降のメタン発生量を少なくする可能性が示唆された.そこで,山形県内の標準的な水稲連作水田において,中干し期間の延長が水稲の生育,収量,メタン発生量に及ぼす影響を検討した.その結果,中干しを慣行より7日間程度前または後ろに延長すると水稲の生育が影響を受け,1穂籾数,m2当たり籾数,収量が減少傾向となるが,精玄米粒数歩合が高まり玄米粗タンパク質含有率が低下傾向を示し,品質や食味に良好な影響を与えると考えられた.また,中干しの延長は7月のメタン発生量を低く抑える効果があり,それにより栽培期間を通したメタン発生量を低減することができた.その低減効果は,中干しを後ろに延長するよりも,前に延長する場合で大きかった.