結核性関節炎につづいて多発性リウマチ様関節炎の診断で長期間抗結核化学療法, 抗生物質, 副腎皮質ホルモン剤の投与をうけていた衰弱した17歳の少年の足背にギプス包帯除去の際肉芽腫性潰瘍が発見された. これを初発病変として, 全身性に膿疱, 結痂, 次いでびらん面を生じ, 趾爪次いで指爪の溷濁, 肥厚, 脱落, 外耳道の痂皮による閉塞を来し, 一時は死の転帰が必然と思われるほど重篤な全身症状を伴つた皮膚ならびに爪ムコール症を18年ぶりに回顧した.
各種治療に抗したが, 抗生物質, 副腎皮質ホルモンの全廃によつて, 初発病変出現後1年8月で治癒せしめ得た.
分離菌は椿啓介博士によつて
Absidia ramosa と同定され, ラット, マウスのほか鳩, ひよこに対する毒性が証明せられた.
診断確定には同一菌が毎常皮膚, 爪, 外耳道から分離されたことのほか, 胞子エキスを抗原とした血清補体結合反応が特異的に陽性を呈し, 病勢の最盛期には2560倍にも達したのち軽快と共に40倍に下降したこと, また皮内反応が分離菌ならびに近縁菌に対して強陽性を呈したことがあげられる.
皮内反応においては即時反応, ツベルクリン紅斑型遅延反応が共に陽性を示したほか, 25日後に湿疹型遅延反応が出現したことは興味深い. なお皮内反応は2年後ならびに5年後にも再施行したが依然陽性を持続した.
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