Candida albicans をサブロー・グルコース培地とメチオニン培地で生育させ, それぞれの培地から酵母形 (Y形) と菌糸形 (M形) を得た. 両形の菌体を,
Arthrobacter luteus から得られた細胞壁溶解酵素 (ザイモリエース60,000) で処理してプロトプラストにし, 低張処理と分画遠心により形質膜を調製した. 得られた両形の形質膜の脂質構成と物理化学的性状について比較検討した. リン脂質構成はホスファチジルコリンとホスファチジルエタノールアミンが大部分であり, 両形に差はみられなかつた. 一方, 脂肪酸構成では, オレイン酸 (C
18:1) が主要成分であり, ついでリノール酸 (C
18:2), パルミチン酸 (C
16:0) とパルミトオレイン酸 (C
16:1) などが多い. また, C
17:0 と C
17:1 の奇数脂肪酸も少量であるが含まれている. M形にリノール酸が多く, Y形の約2倍であるのに対して, オレイン酸と C
17:1 はY形に多い. ステロール含量はM形に高くY形の約2倍であつた. また, 電子スピン共鳴法 (ESR) による膜の流動性を測定した結果, M形とY形に相違が見られ, Y形膜の方がM形膜より流動性が高いが, その1つの理由としてエルゴステロール含量の差が考えられる. つまり, エルゴステロールは前者に少なく後者に多い. 形質膜に局在している脂質依存性酵素のキチン合成酵素 (chitin synthetase, EC:2.4.1.16) の活性は, M形がY形の約3~5倍高いことが示された. これらの結果より, 二形性真菌の
C. albicans は形態に応じて形質膜の脂質構成に変化が生じ, それが膜の物理化学的性状に反映され, ひいては形質膜に局在するキチン合成酵素の活性に影響が及ぼされるものと示唆された.
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