東北地方における1969~1978年の10年間の白癬菌相を, 青森県(1969~1978年), 秋田県 (1972~1978年), 宮城県 (1969~1978年) の培養成績にもとづいて検討した結果, 以下の成績をえた. 1. この10年間の白癬例数を年次別にみると, とくに増加傾向はみられず, さきの1959~1968年の成績と比較しても明らかな増加は認められなかつた. 2. 性別頻度は, 各年次とも男子の方が20~60例多かつたが, これは主として股部白癬における顕著な男子優位によるものであり, 他の白癬では男女ほぼ同数であつた. 3. 6,302例の疾患別頻度は, 足白癬3,069例 (48.7%), 股部白癬1,098例 (17.4%), 体部白癬826例 (13.1%), 爪白癬797例 (12.6%), 手白癬461例 (7.3%), 頭部浅在性白癬12例, ケルスス禿瘡18例, 白癬性毛瘡12例であつた. 4. 4,428菌株が培養されその菌種別頻度は
T. rubrum 3,096株 (69.9%),
T. mentagrophytes 1,144株 (25.8%),
E. floccosum 107株 (2.4%)
M. canis 28株,
T. verrucosum 27株,
T. violaceum 21株,
M. gypseum 5株であつた. 5. この10年間における白癬菌相の変遷, 特徴を, さきの1958~1967年10年間の成績との比較から勘案すると,
M. ferrugineum の消滅と
T. verrucosum, M. canis のほぼ東北地方全域にわたる新たな浸淫である. 6. 新たに東北地方に浸淫した
T. verrucosum は主として体部白癬, ケルスス禿瘡から,
M. canis は頭部浅在性白癬, 体部白癬, ケルスス禿瘡から培養された. 7. 地域別白癬菌相の特徴を概観すると, 東北地方北部に位置する青森県では
T. mentagrophytes の浸淫がより著しく, この菌による足・手白癬, 股部および体部白癬が他の2県よりも多くみられた. これに対して, 東北地方南部に位置する
E. floccosum の培養頻度は北部地方に比して約2倍で, 足・手白癬から多く培養された. 8. 足白癬の主要原因菌である宮城県における
T. rubrum と
T. mentagrophytes との分離比は3県によつて多少異なり, 青森県で1:1, 秋田県で1.2:1, 宮城県で1.5:1を認めた. 9. 白癬性毛瘡の主要な原因菌は, さきの10年間と同様に
T. rubrum であつた.
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