都市計画論文集
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46 巻, 3 号
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  • 清家 剛, 三牧 浩也, 原 裕介, 小田原 亨, 永田 智大, 寺田 雅之
    2011 年46 巻3 号 p. 451-456
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    急速な人口減少や高齢化に直面し、我が国では詳細な人口変動分析に基づく都市の再構築が必要になっている。しかし、国勢調査などの既存の基幹統計では、都市内部における人口変動を十分に捉えることができない。NTTドコモのモバイル空間統計は、携帯電話サービスを提供するために必要な運用データから時間毎に変化する人口の地理的分布を推計した統計情報であり、都市解析の新たな手段となることが期待される。本稿では、千葉県柏市におけるケーススタディを通じて、モバイル空間統計の信頼性の検証並びに、まちづくりにおける活用可能性の検討を行った。
  • 管理運営及び床所有形態、床利用形態に着目した事例分析
    村瀬 大作, 海老原 雄紀, 八木 祐三郎
    2011 年46 巻3 号 p. 457-462
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    商業用途を中心とする再開発ビルは、厳しい商業環境の中、核店舗の撤退や空き店舗の発生などに対して継続的な競争力強化の取組を行う必要があるが、取組がうまく進んでいる事例は少ない。そのため、本研究においては、管理運営や床の所有形態、床利用形態に着目した事例調査を行うことで、競争力の維持強化の実態を把握し、商業用途を中心とする再開発ビルの競争力の維持強化の可能性と課題を明らかにするものである。その結果として、プロパティマネジメントを実施するマネージャーや組織の必要性、一体的な床利用が可能な空間形態としておく必要性、地権者組織など各地権者との合意形成をしやすい条件づくり、地権者の現状認識と理解、権利者組織や管理運営組織等による権利の集約の必要性が確認され、将来的な大規模修繕や建替え等の資金調達の課題や、区分所有に関わる課題などが浮き彫りになった。
  • 木下 勇, ハンス ビンダー
    2011 年46 巻3 号 p. 463-468
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、日本における都市再開発について、アイデンティティと持続可能性の観点から、その特徴と課題について調べようとしたものである。調査方法は市街地再開発事業実施市町村の担当者へ、2008年と2010年に行った配票調査をベースに、聞き取り調査とヒアリング調査を実施した。その結果、事業実施地区の3割ほどがアイデンティティを有し、そこではオープンスペースのランドスケープが貢献している割合が高い。地域アイデンティティは持続可能性の指標と考えられており、エリアマネジメント組織が形成されている例はまだ10%と少ないが、PDCAサイクル等で低炭素都市づくりに向けて、経済的および文化社会的持続可能性を考慮すれば、アイデンティティを明確にすることはブランディング作用という点からもより重要な課題となる傾向が把握できた。
  • 中国西安市を事例として
    孫 立, 大西 隆, 城所 哲夫
    2011 年46 巻3 号 p. 469-474
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    21世紀に入り、1980年代後半から生まれてきた中国の特色的な低所得者地域である城中村に対する再開発事業が各地において次々と行われ始めた。本研究は現行の城中村再開発の政策・手法のモデルの解明、ケーススタディを通じて改造効果などを把握した上で、現行事業の到達点の解明に試みた。調査・分析の結果、再開発事業における制度改革(無形改造)は、形式的なものであり、名称上の変更に止まってしまい、福祉、社会保障などの実質的な問題の抜本的な解決には及ばなかった。物的再開発(有形改造)は、物的住環境の抜本的な改善を通じ、村民の生計維持・向上の問題を解決した。一方、低所得な借家人は住み続けることが困難となっており、社会的公平性や都市経済発展の鈍化等の問題をもたらす恐れがある。
  • 野村 理恵, 森 傑
    2011 年46 巻3 号 p. 475-480
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、大規模な小学校区の再編が進む中国桂林市において、中国に共通する社会的課題を踏まえた小学校と地域社会の関係を考察することを目的とする。桂林市の都市中心部である5区において小学校再編の経緯を把握し、再編された小学校周辺の住民意識を分析した。日本では人口減少を理由に統廃合が進むことが一般的であるが、当該地域では、市町村合併や農村部からの人口流入を契機として大規模校の増設を主とした再編が進んでいる。住民は、学区再編を概ね評価しているが、再編タイプにより満足度や関心が異なることが分かった。
  • 高松市丸亀町商店街を事例として
    木田 恵理奈, 後藤 春彦, 佐藤 宏亮
    2011 年46 巻3 号 p. 481-486
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、水神祭の運営における商店街組織と地縁組織の連携による社会関係資本構築のプロセスを示すことを目的とし、以下の4点を明らかにした。(1)水神祭復活以前の水神社及び八幡神交会と商店街の関わり、(2)商店街再開発に伴う水神社の変遷、(3)水神祭の運営における各主体の関係構築過程、(4)水神祭復活による効果
  • 水木しげるロードをケーススタディとして
    依藤 光代, 松村 暢彦, 澤田 廉路
    2011 年46 巻3 号 p. 487-492
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    地方都市の商店街ではにぎわいを喪失しており、商業の活性化が課題となっている。長期間にわたる商店街活性化に関する活動や組織の変化を追跡するだけではなく、まちづくりの担い手間の関係に着目することにより、まちづくり活動の担い手の継承の要因について考察した結果、次のように考えられた。(1)1993年以降、担い手となるセクターは、行政組織、地元市民組織、新規市民組織、広域市民組織の順に変遷してきた。(2)担い手が継承されるための要因は、地縁・志縁の担い手間のネットワークや、問題意識および課題解決の方向性が担い手間で共有されること、課題を解決するためのスキルを担い手が提供できること、活動の場としての組織の存続が担保されていること、の4つが考えられた。共通して重要であるのは、志縁の関係が行われるような、実践的な活動が積み重ねられることである。
  • 大田区大森南における住工共存地区に着目して
    大熊 瑞樹, 野原 卓
    2011 年46 巻3 号 p. 493-498
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    中小工場の集積する住工共存地区である大田区大森南地区では、中小工場の高い技術を連携的に利用する、「仲間回し」と呼ばれる工場間の水平的な受発注ネットワークは、大森南地区内及び周辺の工場同士で築かれており、地区内に立地する工場の工場主や従業員も同地区もしくは周辺の居住者でもあることから、地理的近接性が重要な要素となっている。これらの企業間では、小規模再開発内の「工場ミニ開発型」、ゴルフなどの付き合いによる「インフォーマル型」、祭礼行事や自治会などの「地域活動型」といった中間的交流活動を通して地域ネットワークと産業ネットワークが重層的に構築されてきたが、創業主と二代目の世代交代の中で地域ネットワークが弱体化すると同時に、産業ネットワークも求心力を失いつつあるため、今後これらを補完しながら新たな関係を構築する必要がある。
  • 東京都台東区根岸4丁目における転入者を対象として
    葛野 亮, 後藤 春彦, 佐藤 宏亮
    2011 年46 巻3 号 p. 499-504
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    現在東京の下町は戦後65年が経ち、住宅寿命の超過や町工場の廃業等の理由から更新の時期に差し掛かっている。こうした地域開発による建築の更新と、都心回帰による住民転入の流れの中で、下町の風情が失われてきている事が問題として挙げられている。このような状況の下、下町への転入者がどのように生活を順応させていっているのかも考える必要性が高まっている。本稿では、都心回帰による小規模な開発が起こっており、若年層の人口が増加している下町地域として台東区根岸4丁目を対象とし、(1)下町地域における転入者の実態把握(2)転入者の転入時と現在における地域の魅力に対する意識の変化と地域への入り込み方の特徴(3)下町生活の実態とその背景以上3点を踏まえ、都市更新期における下町への転入者の生活順応プロセスを明らかにした。
  • 長岡市・松本市・高知市・上田市を対象としたケーススタディ
    児玉 寛希, 樋口 秀, 中出 文平, 松川 寿也
    2011 年46 巻3 号 p. 505-510
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    地方都市では、昨今の財政難や今後の人口減少に伴い、税収が減少に転じている。持続可能なまちづくりを行うためには、税収の確保が求められるが、中心市街地・既成市街地の衰退により、都市全体の固定資産税収を減少させている。本研究では、長岡市・松本市・上田市・高知市を研究対象として、固定資産税収動向を市街地区分別に把握するとともに、どのような市街地指標が固定資産税収に影響するかを検討した。その結果、市街地指標と固定資産税収には関連性が見られ、市街地指標が優位な都市では固定資産税指標が高く、低位にある都市では固定資産税収の減少が大きくなっていることが明らかとなった。固定資産税収を確保するためには、評価額の低下を防ぐ必要があり、中心市街地やその周辺の既成市街地へ開発を誘導することが重要といえる。
  • 大阪市密集住宅市街地「優先地区」を対象として
    高木 悠里, 嘉名 光市, 佐久間 康富
    2011 年46 巻3 号 p. 511-516
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    密集市街地では大事震災時に大きな被害が予想され、その対応は急務である一方で、「路地」という魅力的な使われ方をする空間も存在し、このような防災性能の向上と、路地の魅力とを両立する整備手法が必要である。そこで本研究では、大阪市密集市街地を例に、SpaceSyntaxを用いることで、街路パターンと路地の使われ方の関係及び街路パターンと市街地整備手法との関係を分析し、市街地整備手法のあり方を検討した。結果として、街路パターンに応じて路地の使われ方に差があることと、街路パターン分析から効率の良い整備手法が分かることを示した。この2点から、街路パターンに応じて路地の魅力を活かしながら効果的に市街地整備を行う手法に関する可能性を提示した。
  • 姫野 由香, 佐藤 誠治, 小林 祐司
    2011 年46 巻3 号 p. 517-522
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究では、歩行者の回遊行動を誘導できる可能性を有する空間として通り抜け空間に着目する。通り抜け空間とは、中心部にある街区を貫いて移動することができる、車両の通行できない空間であり、主要な通りと裏通りを結ぶ、路地のような空間である。研究対象地域は大分県大分市の中心市街地とした。第一に、対象地域における通り抜け空間の抽出と長さや幅員、高低差、店舗密度といった空間的特性を綿密に調査する。その結果を用いて類型化をすることで空間の特性を類型化し整理する。次に、通り抜け空間に立地する店舗の経営者や来街者にアンケート調査を実施し、通り抜け空間の印象評価や改変希望の内容を把握する。これらの結果、類型ごとの通り抜け空間の改善に関する有益な知見を明らかにした。
  • 東京都目黒区事例における敷地変容と住宅タイプ選択モデルを用いた分析
    國分 昭子, 羽藤 英二
    2011 年46 巻3 号 p. 523-528
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    既成市街地では、個々の敷地において、既存建物や所有者状況の変化によりいずれかのタイミングで更新時期がおとずれる。これに従い、資産活用の観点や相続に伴う売却そのほか様々な要因が絡み、結果的に敷地の分割や統合がおこることによる建物としてのたちあらわれと形態、住宅タイプやプログラムの転換から、都市空間の住環境構成と景観に関して変容がおこる。本稿では、こうした敷地動態と住宅タイプ変容に着目し、既成住宅地空間変容過程の記述と考察を試みる。
  • 茨城県の2地区を事例に
    乾 康代
    2011 年46 巻3 号 p. 529-534
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    建築協定地区における協定違反例を整理し、発生過程、居住者意識、空間計画などを関連づけて分析し、協定違反の発生を構造的に把握した。運営委員会が市と連携して事前協議をすすめてきたT地区と、組織運営のなかったS地区を対象に事例比較した結果、協定違反はS地区で多く、少なくとも35.2%の区画にみられた。T地区で、運営委員会との協議により違反工事が是正された例と是正されなかった例の違いは、協定内容をよく理解せず事前届け出なしに着工した点と、違反を認識して着工した点にある。S地区では、協定規制を実施するうえで空間計画上の制約があり、それが多数の協定違反の発生につながっていた。S地区も含め、居住者が違反発生は協定をよく理解していない場合に多く、協定違反防止策にはまず居住者の協定理解を深めることが重要である。協定規制に対し空間計画上の制約が大きいという問題に対しては、運営委員会の適切な対応策が求められる。
  • 伊藤 浩明, 中出 文平, 松川 寿也, 樋口 秀
    2011 年46 巻3 号 p. 535-540
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、平成9年以降に新設もしくは拡大した都市計画区域を対象として、都市計画区域指定の実態を明らかにする。そこで、アンケート調査により近年の都市計画区域の動向を明らかにした。そして、土地利用規制を目的とした都市に着目し、ヒアリング調査を行った。その結果、都市計画区域指定範囲は個別規制法で規制の強い地域を境界とする、もしくは行政区域全域に指定する必要があることを明らかにした。また、都市計画区域の決定権者である都道府県が、広域的な視点から周辺市町村との一体性を考慮し、都市計画区域指定に関わっていく必要があることを明らかにした。その他、都市計画区域指定の障害である既存不適格の発生を防ぐために都市計画法と建築基準法の法体系を改善する必要があることを明らかにした。
  • 開発許可制度の適用方法に着目して
    酒本 恭聖, 瀬田 史彦, 矢作 弘
    2011 年46 巻3 号 p. 541-546
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    近年、人口減少の時代となり、人口減少に対する政策転換が求められるようになった。しかし、法改正はその必要性が認識されながらも進んでおらず、一方で、低密度の市街地拡大の課題が指摘されている。そこで、地方の人口減少都市を対象に、市街地拡大の抑制を例外的に緩和する制度がどのように適用され、同じ制度であっても都市ごとの実情に応じて異なる性質を持っていることを明らかにする。加えて、その結果から、これから本格的に求められる人口減少に対する都市計画の方向性を示唆する。
  • 内木場 正樹, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    2011 年46 巻3 号 p. 547-552
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究では、平成21年3月末までに全国の非線引き白地地域で策定された地区計画(以下、白地地区計画)の全19地区を対象とし、以下の知見を得ることができた。・白地地区計画の一部には、下水道事業等を導入するための事業手法として策定されたものの他、事業導入に指向したことでその制限項目が乏しいものも確認された。・集積や立地といった地理的条件、広範囲に渡る土地利用規制ビジョン、農林調整の問題から、用途地域を規制手法として検討しない、あるいはその指定が先送りされている中で、白地地区計画の役割が期待できる。・白地地区計画は、白地地域全体の将来像を実現する手法としても活用されていた。しかし、広範囲の適用を想定すると、重複指定が原則認められない他法令の指定区域や既存不適格建築物の存在を考慮しなければならない。
  • 鎌倉市及び大磯町まちづくり条例の場合
    田所 篤, 加藤 仁美
    2011 年46 巻3 号 p. 553-558
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、鎌倉市及び大磯町まちづくり条例による地域特性に即した開発事業の計画的誘導と審査基準をめぐる課題を明らかにすることである。分析の結果、条例に基づくまちづくり審議会等の第3者機関により、行政計画及び法規制の不整合について、裁量的判断による調整が行われていることが分かった。しかしながら、硬直的で一律の開発基準が、事業計画の水準に大きな影響を与えていることも確認された。したがって、第3者的機関及び自治体においては、開発基準を柔軟に運用することが必要とされていることが確認された。
  • 佐藤 英人, 清水 千弘
    2011 年46 巻3 号 p. 559-564
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、東京大都市圏における持家取得者による住居移動を分析することである。少子高齢化に伴う人口減少社会への移行によって、郊外住宅地の縮退と選別は、いわばモザイク状に進行していくと推測される。しかしながら、従来の研究では調査手法の限界やデータの不整備などにより、ある特定の住宅地を研究対象とする着地に焦点を定めた分析、あるいは市区町村単位データもしくはメッシュデータの経年比較から、人口の増減を相対的に比較する分析が多い。ある期間にある空間内で発生する住居移動の全体像を俯瞰して、郊外住宅地の縮退や選別の可能性を検討するためには、従来の研究のみでは十分とは言えない。そこで本研究は、持家取得者の発着地を同時にとらえることができるOD(Origin-Destination)データを用いて、東京大都市圏内で実施された持家取得者の住居移動を分析する。このODデータを分析することで、これまで明らかにされてことなかった持家取得者個人の住居移動を町丁目レベルで精密にトレースすることができる。
  • 轟 修
    2011 年46 巻3 号 p. 565-570
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    人口縮小時代を迎え、集約型都市構造への志向が強まる中で郊外のあり方について議論を深化させていくには、郊外に存する不動産流通市場の実態を改めて検証しておく必要がある。本研究では不動産流通市場の実態把握を目的に、近年に整備が進んでいる不動産競売データに関する実証的な分析を都市計画区域の区域区分を用いて行った。その結果、都道府県単位では競売物件数と人口等との比較では地域的な偏在は認めにくかったが、市街化区域等の市街地と比べて市街化調整区域等の郊外で競売物件発生率が高くなっていた。次に地方部のスタディとして取り上げた岐阜地方裁判所管内でも同様に競売物件発生率が市街化調整区域で高くなっていた。また売却価額と売却基準価額の比である買増率が市街化調整区域等の郊外で負、つまり減価傾向にあった。今後、ストック重視の不動産市場を形成するには物件の残存価値を高めていく必要があるが、市街化調整区域等の郊外には何らかの減価要因を含んでいるものといえ、今後の施策を考える上での課題を提示することができた。
  • 羽曳野市羽曳が丘地区を事例として
    仁井 亮太, 大浦 寛登, 瀬田 史彦
    2011 年46 巻3 号 p. 571-576
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究では、1960年代に開発された郊外戸建地を対象に戸建住宅ストックの更新推移と居住意向の事例から今後の郊外戸建て住宅地の戸建住宅ストックの利用に影響をあたえる要因の知見を得ることを目的としている。研究方法として、まず建築年代ごとの住宅の更新状況の概略を航空写真の屋根形状から把握する。次に居住者へのアンケート調査を行い、住宅ストックの現状、更新の状況と時期、更新の理由、居住者意向を建築年代別に分析を行った。このことから建築年代別の更新の要因と近年の住宅ストックの長期利用の可能性とそのための課題の知見を得ることが出来た。
  • 平 修久, 吉川 富夫, 西浦 定継, 保井 美樹, 斉藤 麻人
    2011 年46 巻3 号 p. 577-582
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    人口減少に直面している都市では、ガバナンスの各主体の統治能力が弱体化している。市民は地域コミュニティに対する興味を失うとともに、住宅の維持管理を十分に行わなくなる。産業界は、業績不振にともない、金銭的に地域コミュニティに貢献できなくなる。不動産業者は住宅市場の弱まりのため、市場から撤退する。このようにして、市民や民間セクターは地域コミュニティの統治行為から遠ざかる。自治体は税収減となっているが、市民や民間セクターの代わりに、雑草や空家の除去、放棄された不動産のマーケティングをせざるを得ない。こうして、人口減少都市は、ガバナンスはガバメントの統治状態に戻る。米国オハイオ州の中小都市において、その典型な状況が見られる。
  • 東京都における都市再生特別地区を対象として
    北崎 朋希
    2011 年46 巻3 号 p. 583-588
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、都市再生特別地区による公共貢献と規制緩和の実態と課題を明らかにしたものである。都市再生特別地区は、2010年12月末時点で全国51件指定されており、約7割が東京都、大阪市、名古屋市において活用されている。事業者から提案された公共貢献には、制度創設初期は従来の規制緩和手法で用いられていた「広場・通路」などのハード面の取組みが中心であった。しかし近年では、「防災、環境・景観」などの社会的要請の高まりに対応した取組みが増加しており、さらに「地域貢献施設」のようにソフト面の取組みを重視するものが増加している。一方、規制緩和によって同水準の不動産価値が付与された事業の公共貢献を比較すると、公共貢献と不動産価値との間には一定の関係性がみられなかった。この公共貢献の評価と規制緩和の決定は、非公開の事前協議において実質的な審査が行われており、第三者が審査経緯を把握することは困難となっている。そのため、正式提案後の審査手続きである都議会都市整備委員会や都市計画審議会においても、事前協議の審査内容は公開されておらず、規制緩和の公平性及び公正性の担保不足が指摘されている。
  • 西勝 史人, 中川 義英
    2011 年46 巻3 号 p. 589-594
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は都市計画道路見直しの検証プロセスの違いや特徴を、その実績とともに都道府県間の比較・分析を通して考察を行う。また、全国で既に見直しが行われた事例にも着目し、その実相把握から今後の見直しのあり方への知見を得ることを目指す。全国の見直し方法を都道府県見直しガイドラインを基に整理を行い、いずれも明確な差異を確認できた。また県職員へのヒアリング調査を基に見直し実績の時系列的経緯やプロセスごとの実務レベルでの作業実態を把握した結果、その見直し方法や府県と市町の役割分担の違いで事例ごとに特徴が見られ、考察を行った。そして見直し結果の全国的な調査により、その傾向と各理由の事例検証を行い、現時点の実績は見直しの行いやすかった事例が多いこと、併せて都市計画のズレが生じた路線を対象から外れることなく、早期に見直し検証行うための判断基準を考察し、その概略を提示した。
  • 田川 浩司, 姥浦 道生
    2011 年46 巻3 号 p. 595-600
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、都道府県による法定制度を中心とした広域調整の運用実態を調査し、その効果と課題を明らかにすることを目的とする。研究方法は、アンケート調査、ヒアリング調査、現地調査によった。都道府県が定める広域調整の運用指針より、対象と定められる都市計画、都道府県の同意基準、手続きをまとめ、次に広域調整の全国的状況をまとめた。そして、中核都市周辺の市町における計画の調整事例を3件抽出し、調整内容を明らかにした。広域調整は大規模集客施設を主な対象としている。具体的な開発内容が確定する以前の段階で関係市町村間の意見調整が可能であることにより、自治体が手続きを段階的に慎重に進めることになる。手続は会議形式でも行われており、関係市町村間で積極的に合意形成が図られている。計画は、都市レベルでは適正立地がなされているが、その広域的な機能や役割は不明確である。都道府県は広域的な都市づくりの方針を明らかにしたうえで調整を行うべきである。また、複数の都市計画区域間の調整の必要性が指摘される。そして、広域調整を実質化するためには、商業調整と都市計画的調整との線をどこに引くのかを再度見直し、明確にする必要がある。
  • 佐藤 雄哉, 中出 文平, 松川 寿也, 樋口 秀
    2011 年46 巻3 号 p. 601-606
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、建築基準法第51条に基づくただし書き許可の実態を全国的に把握し、運用上の問題点や課題を提示している。本研究では、以下の点が明らかになった。過去10ヵ年での運用件数は、各都道府県で大きくばらついており、運用に対する方針や基準などを策定している都道府県は3割に満たなかった。また、全国の自治体がほとんど違いのない運用状況である実態を確認できた。さらに、多くの事例では、施設立地による地域住民への影響検証が実施されておらず、住民の知る機会が十分に確保されていないことを把握した。加えて、隣接自治体と協議する制度がなく、都市計画決定には消極的であり、自治体側も法制度の問題点と認識していることを明らかにした。
  • 津田 夕梨子, 十代田 朗, 津々見 崇
    2011 年46 巻3 号 p. 607-612
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、経年的に発行されている旅行専門雑誌『旅』(1924~2004年)を用いて、(1)温泉地全般に対するアピールポイント及び(2)各温泉地の地域イメージはどのように変遷してきたかということを明らかにし、さらに(3)イメージと観光資源、取り組みを比較することでその関係を探る。その結果、以下の3点が明らかとなった。1)温泉地のアピールポイントは自然景観や宿泊施設といった主要かつ不易なものを持ち、かつ社会背景や観光動向の影響を受けながら時代ごとに変化する。2)一定規模の38温泉地の各期のイメージを類型化すると、5つのイメージタイプに分類することができ、過半数の地域でイメージタイプの変化がみられた。3)山中、山代、片山津、粟津の4温泉地の事例によると、イメージタイプに変化が生じた山中、山代温泉では歴史資源の活用や情緒の創出といった地域特性に見合った課題を掲げ、他温泉地に比べて早期から取り組みに落して行った様子がうかがえ、取り組みが記事の観光資源にもあらわれていることがわかった。
  • 松浦 健治郎, 稲垣 達也, 浦山 益郎
    2011 年46 巻3 号 p. 613-618
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本稿では、低密オープンスペース創出・住商共存型の商店街再整備をしている滋賀県彦根市本町地区「四番町スクエア」を対象として、再整備の実態・可能になった要因・到達点と課題を明らかにすること、を目的とする。明らかとなったのは、1)土地区画整理事業に加えて共同整備事業を採用することにより、地区全体の将来空間像を地権者が検討することが可能になったこと、2)オープンスペースの維持管理組織として修景維持会を組織することによって、持続的にオープンスペースを運営していくことが可能になったこと、3)まちづくり協定委員会を立ち上げ、マスターアーキテクト方式を採用したことにより、実施設計時に事前協議・指導が可能になったこと、4)生鮮食料品・日用雑貨品の店舗では、近隣住民による利用がなされていることである。
  • 石 鼎, 石川 幹子, 片桐 由希子
    2011 年46 巻3 号 p. 619-624
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究では、近代観光事業が1910年代に導入されてから今までおよそ100年間に西湖風景名勝区における文化的景観に与えた影響について検討を行った。杭州西湖は中国の代表的な文化的景観地である一方、古来の文人の行楽地として広く知られている。近代観光事業が導入後に行われた風景の整備、観光施設の建設、新しい観光スポットの開発などによって、もとの景観が大きく変貌させた。本研究によって以下の点が明らかになった。第一に、近代観光事業が西湖風景再生の主な原因である。第二に、その影響は100年間を経て次第に西湖から里山における茶畑や農村集落に広がっている。第三に、「西湖十景」を始め、風景の代表である観光景点は整備工事で復旧、補強されることによって、西湖の文化的景観の特質や核心価値は継承されている。
  • 李 薈, 石川 幹子, 片桐 由希子
    2011 年46 巻3 号 p. 625-630
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、都市における緑地遺産を保存・活用するため、南運河帯状公園の歴史変遷と空間構成を目的とする。結論としては、清朝末期に万泉河付近に良好な水辺環境を有するため、小河沿が瀋陽最初の行楽地として賑わった。1930年代「大奉天都市計画」により、万泉河とため池の周りに公園の建設が計画させた。また公園道路と水路を介する公園系統計画が策定された。その後、一部の水路が埋め立てられたが、1952年都市衛生と雨水排出のため、人工的に運河を開削し、既存の渾河の河跡とため池を連続させ、南運河帯状公園を整備した。南運河帯状公園の成立は瀋陽の旧市街地を区分し、良好な環境を提供できるため、都市南部の文化教育区域を生み出したことがわかった。
  • 神奈川県・相模原市・愛川町を事例として
    根岸 勇太, 片桐 由希子, 石川 幹子
    2011 年46 巻3 号 p. 631-636
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、都市における樹林地保全のための逆線引きの事例を即地的に調査し、その実態と特徴を明らかにすることである。対象地は、神奈川県と、相模原市、愛川町とした。まず、全6回にわたる線引き見直しにおける樹林地保全のための逆線引きの事例をGISデータ化し、地形と他の地域制緑地との関係性に着目しその実態と特徴を分析した。さらに、相模原市と愛川町における樹林地保全のための逆線引きの具体的な事例に着目し、その経緯や議論を調査した。結果として、都市における樹林地保全のための逆線引ききが、実質的な意味を有していないものであったとは結論付けられなかった。また、当初線引き前、また線引き後の地域制緑地指定の試みが、今日までの樹林地保全のための逆線引きに対し、空間的に重複しているのみならず、実際の逆線引きの実施の議論の中においても影響を与えてきたことを明らかにした。
  • 東京都新宿区立おとめ山公園を対象として
    吉田 葵, 片桐 由希子, 石川 幹子
    2011 年46 巻3 号 p. 637-642
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、都市内の崖線上に存在する緑地について、その歴史的背景、保全に至る経緯とその考え方を踏まえた上で、現況における緑地の生態的な質を明らかにし、その持続的な質、つまり生態系機能の向上に対する保全・管理に繋がる基礎的な知見を得ることである。対象地は落合崖線とその崖線上に存在する緑地である新宿区おとめ山公園である。その結果、以下の2点が明らかになった。1)崖線緑地の多くは明治期における邸宅の存在が緑の継承に大きな役割を担っていることがわかった。またおとめ山公園は、江戸期から現在に至るまで、所有者や利用目的がさまざまに変わりながらも、守られてきた貴重な緑地であった。2)崖線上の緑地の質は、種構成において常緑樹の割合が高く、遷移が進行しているという一様な状態であった。また、おとめ山公園の緑地の質を明らかにするために、落葉樹二次林から生態遷移が進行し常緑樹が優占している状態までの植生遷移の段階に着目したビオトープタイプ区分を行った。上層木における常緑樹の割合が高くなるほど裸地化しており、その裸地化した区域の7割が急斜面地であった。また、上層木に落葉樹の割合が高いと更新が起きていた。
  • 景域概念を規範に用いた分析
    森 正史, 片桐 由希子, 石川 幹子
    2011 年46 巻3 号 p. 643-648
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は、洪積台地に谷戸を形成し、明治時代における東京市の郊外としての緑豊かな環境が一連のスプロール型開発により侵食されてきた東京都目黒川流域において、樹林が保全されてきた要因を抽出することである。上記の目的のため、景域の概念に基づく緑地構造の歴史的変遷について分析を行うにあたり、主要幹線道路や鉄道により分節される対象流域を空間単位とした上で、景域概念の前提となる対象流域の地形特性を基盤に伸展した土地利用の変遷や蓄積されてきた文化資産との関係性を考慮した。その結果、緑地構造の変遷タイプ間の比較に基づき、研究対象地で樹林が保全される主要因は、大規模な文化資産等の存在及び斜面地形であることを把握できた。
  • ペンシルバニア州フィラデルフィア市の雨水規制長期計画を題材に
    遠藤 新
    2011 年46 巻3 号 p. 649-654
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は米国フィラデルフィア市のグリーンインフラ計画とその成果を分析し、日本の雨水流出抑制施策に対する知見を考察したものである。米国グリーンインフラでは治水の考え方よりも、水質保全の考え方が基盤にあるため雨水の浸透と再利用の効果を持つ緑地の重要性が高くなっている。わが国への適用には、水と緑を総合的に扱う視点を持ちながら、浸透と再利用による雨水流出抑制施策を原則とする等の施策展開が考えられる。また、グリーンインフラとしての緑を自然領域以外の既成市街地で増やすためには、民間開発に対しては、総合設計制度や開発許可制度等の中で、緑による雨水流出抑制を機能させるよう審査基準等に設計仕様を加えることが考えられる。公共空間の緑については、広く街路網全体にグリーンインフラとしての緑整備を推進する方策を展開することで、自然領域の整備に偏りがちな水と緑のネットワーク事業を補完することが考えられる。
  • 花井 建太, 遠藤 新
    2011 年46 巻3 号 p. 655-660
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は、グリンストリートプログラムの特徴と政策、実態を明らかにすることである。この研究は米国の自治体や連邦機関の文献と現地調査に基づいて組み立てている。米国のグリーンストリートを導入している都市の動向から、グリーンストリートを最も幅広く先進的に導入している都市はポートランドであることが明らかになった。ポートランドの政策や実態からは、プログラムの運用体制、全体計画、民間とのパートナーシップ、戦略的な実行計画が重要であると明らかになった。
  • 高野 裕作, 佐々木 葉
    2011 年46 巻3 号 p. 661-666
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は街路パターンの持つ位相幾何学的特性と形態的特性という二つの特性の関係性を明らかにする事と、それら両側面からの地区の特性記述の方法を示す事を目的としている。街路ネットワークの位相幾何学指標をSpace Syntax理論のAxial分析によって、街区の形態的指標をGISデータをもとに算出した。また町丁目で規定される地区の単位でこれらの指標を集計した。集計された指標間の相関関係から街路ネットワークの位相幾何学的特性に関係の強い形態的指標と、弱い指標があることを明らかにした。また様々な指標を組み合わせることで、地区の特性の差異を記述できることをケーススタディによって示した。
  • 清水 健太, 佐藤 徹治
    2011 年46 巻3 号 p. 667-672
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    近年、わが国では、農山村部の限界集落のみならず、都市郊外部においても人口減少地区からの撤退が現実的な政策課題として浮上している。本稿では、都市郊外部における高齢化および人口減少が進展しつつある住宅団地からの撤退の考え方、撤退に伴う様々な費用(例えば、引っ越しに伴う金銭的・非金銭的費用に対する住民への補償金)と便益(例えば、撤退団地の住宅やインフラの維持管理費用および建て替え・大規模更新費の節約)を整理し、撤退の条件および撤退の最適タイミングの算出方法を提案している。提案した方法を千葉県船橋市の2つの郊外住宅団地に適用したケーススタディの結果、一方の住宅団地の住宅建て替えのタイミングに、当該団地の全住民がもう一方の住宅団地に移住することが社会的に望ましいこと等が示された。
  • 渡辺 俊一
    2011 年46 巻3 号 p. 673-678
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本稿は、日本語「まちづくり」の定義の論理構造の解明にむけられています。まず予備作業として、用語の定義に関する論理的議論をおこないます。ついで、都市計画・建築系の4人のまちづくり論者の言説による「まちづくり定義」の論理分析をおこない。それらは、西山夘三、田村明、佐藤滋、澤村明の4氏(6例)です。その結果をうけて、これら多様な「まちづくり定義」を体系的に整理する方法として、定義語に「次元」と「広義・狭義」の概念を導入することによる仮説枠組を提起してむずびとします。
  • 中沢一夫の活動と業績
    大塚 康央
    2011 年46 巻3 号 p. 679-684
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、1950年代における大阪府茨木市における都市計画の取り組みから、都市財政の困難の中で、健全な都市経営を目標に取り組んだ中沢一夫の活動と業績を明らかにすることで、先駆的な活動の背景と現代に通じる意義を考察したものである。中沢一夫は、茨木市職員となって以降、大都市近郊である茨木市の都市計画の中心的な役割を果たし、「田園都市論」を市広報で市民に紹介するとともに、「田園都市論」と「近隣住区論」をベースに都市計画行政を進めていた。その背景には、中沢の田園都市論解釈に基づく逼迫する市財政を踏まえた工場等の誘致、自立的な都市経営などの考え方が存在した。また、当時としては先駆的な都市のマスタープランを作成し、そこに近隣住区論の考え方を取り入れるなどしていたところである。この取り組みは、住民等が責任をもって都市を経営するという今日的な課題に共通することでもあることを示した。
  • 基本構想(案)・実施計画(案)の分析を通じて
    嘉名 光市, 増井 徹
    2011 年46 巻3 号 p. 685-690
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究では船場センタービル建設における、事業手法検討段階で提示された数多くの基本構想(案)に着目し、その検討に至る経緯、および複数提示された案について、その内容を比較し、各案の考え方を示す。さらに、中層ビル案に決定した後の、建物の配置検討を行った実施計画(案)の変遷を把握し、船場センタービルの計画思想を明らかにすることを目的とする。基本構想(案)の段階では幹線道路を建設するにあたって、近代的なビルを建設する高層ビル案、中層ビル案に対し、既成市街地にはできるだけ手をつけずに幹線道路を通すトンネル案も存在した。また道路法の改正を必要としない平面街路案も存在した。これらの案は、通過交通を排除するという計画思想が共通していた。また、案の多くが再開発により市街地を刷新する計画思想であった。しかし、実施計画(案)の段階では、筋の連続性をできる限り残すための変更がなされ、隣接市街地との関係について一定程度の配慮する計画思想があった。具体的には、変更によって筋の連続性が保たれたこと、東西方向沿道に歩廊を設置したことが挙げられる。
  • 松原 康介
    2011 年46 巻3 号 p. 691-696
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    番匠谷堯二の時代以来、シリアの首都ダマスカスでは日本の国際協力が継続されてきた。現在の最新のプロジェクトであるダマスカス首都圏都市計画・管理能力向上プロジェクトでは、都市保全が主題の一つとされ、カスル・ル=ハッジャージュ通りの歴史的ファサードの改善に焦点が当てられている。本稿は、ファサードの現地調査を実施して、歴史的正統性とイスラームに根差した空間構成に基づく、原状復旧型ファサード改善のあり方を考察する。土地利用計画図およびファサード立面図の分析に基づき、この地区は住宅地であり伝統的なまちづくりの材料がまだ生きていることがわかった。結論として、派手な観光開発ではなく、穏健な改善方針がこの静かな地区のために提案された。
  • ペドレガル・デ・サント・ドミンゴ地区住民の認識史から
    吉田 祐記, 土肥 真人
    2011 年46 巻3 号 p. 697-702
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、不法占拠を地区形成の起源に持つ非合法居住地区ペドレガル・デ・サント・ドミンゴの歴史に着目し、その形成過程において住民らが受容あるいは対抗してきた制度的支援を抽出する。さらに、それら制度的支援が住民にどのように捉えられていたのかを明らかにすることで、不法占拠から始まる地区への効果的な制度的支援を検討することを目的とする。本研究の結論は以下の通り。1)サント・ドミンゴ地区に受容された制度的支援は、インフラ整備・土地所有合法化支援とは別の文脈から端を発するソフト支援である。2)段階的な組織化と自助努力によりインフラ整備がサント・ドミンゴ地区住民の認識史に好意的に蓄積されている。3)公共のインフラ整備に対して住民参加を前提に支援を行うPCMBは、住民の認識しに接続しうるプロジェクトを実施し得るものであり、インフォーマルな不法居住区の社会・空間を包摂することを可能にする施策であると考えられる。
  • 似内 遼一, 後藤 純, 小泉 秀樹, 大方 潤一郎
    2011 年46 巻3 号 p. 703-708
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    日本では、総合計画が策定されても、実行されないことや、地域の課題解決に必ずしもつながっていない。その原因として、政部門間の不十分な調整、計画を実施する主体が行政のみであること、実施のためのリソースの不足、計画の抽象性などの問題が指摘されている。その結果、地域を総合的に改善していくことが困難となっている。イギリスでは、2000年に、地域の課題を総合的に解決することが目的とされたコミュニティ戦略の作成が自治体に義務付けられた。また、政府は地域協定を導入し、コミュニティ戦略の実施計画の作成を促す制度を導入した。この地域協定を通じたコミュニティ戦略の実現の枠組みは、日本の総合計画の実現に有益な知見を与えるが、その枠組みの運用の課題について明らかにされていない。そこで、本論文は地域協定を中心としたコミュニティ戦略の実現の枠組みを明らかにし、その枠組みの運用から、実現のプロセスにおける地域協定の意義と課題を明らかにした。
  • 傅 舒蘭, 永瀬 節治
    2011 年46 巻3 号 p. 709-714
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、中国・杭州の都市形態が近代化により大きく変化した1910年代から20年代にかけて行われた新市場の湖浜地区計画の内実を明らかにするものである。景勝地である西湖に隣接する杭州では、近代の杭縣政府の設立により、湖岸の軍用地であった旧満営の城壁が取り払われ、跡地には、公園と商業地を主体とする「新市場計画」が立案された。本研究では、同計画に関する限定的な文献史料に加え、近代杭州に関する地図、地誌、新聞、旅行記などを用い、新市場計画の内容・経緯を跡づけた。計画実施前後の地区の状況を比較した結果、1)道路網、2)土地利用、3)住民・業種、4)街路景観、5)湖浜空間の5点に大きな変化が見られ、杭州の中心市街地は西側に移動し、西湖の景勝地と都市空間が、視覚的にも動線的にも連接されることで、その後の観光都市としての杭州の発展の礎となったことが明らかになった。
  • 五島 寧
    2011 年46 巻3 号 p. 715-720
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は朝鮮に於ける市区改正の実態を分析し、その概念を考察した。治道事業から派生した朝鮮の市区改正は、主に市街地の道路建設として展開し、朝鮮市街地計画令公布後は街路整備として近代都市計画の実現手法の一つとなった。さらに本研究は、京城市区改正の起源である治道事業と伊藤博文の統治構想との関係に注目した。治道事業は、韓国の財政的自立を促すための基幹的な産業戦略であったことを示した。
  • 台中市、彰化県員林鎮、台南市を主な対象として
    木村 雄人, 伊藤 裕久, 栢木 まどか, 村田 真理子
    2011 年46 巻3 号 p. 721-726
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、台中・員林・台南の公設市場を主な対象として、日本統治期の台湾における市場建築の空間構成と街区形成過程について復原的考察を加えている。その結果、台中市第一・第二市場では、市区計画の一等道路に面して本館を配置し、表長屋形式の亭仔脚付店舗や糶場を街路に沿って段階的に整備することで連続的な街区・街路景観を形成したこと。員林公設市場でも、市区計画道路沿いの既設市場や店舗を再編成しながら、交差点からアプローチする本館の特徴を活かした市場街区を実現したこと。台南西市場では、城壁跡に新設された幹線道路に面して庭園を設けたが、街路沿いに亭仔脚付店舗、庭園に様々な店鋪が集合する「浅草マーケット」が増設され、複合的な商業施設として「銀座通り」と連携しながら繁華街へ展開することなど、台湾の公設市場が、周辺地域から独立した閉鎖的な公共施設ではなく、周辺街区の形成に大きな影響を与えたことが判明した。また、市場建築の空間構成には地域性がみられ、本館はY字型・中庭型・L字型と異なる平面形式もち、かつ表長屋形式の亭仔脚付店舗も二階の意匠(和風・洋風・倉庫)等に相違点を見出すことが可能である。
  • 地方計画法案・関東地方計画要綱案の策定過程に着目して
    阿部 正隆, 西村 幸夫, 窪田 亜矢
    2011 年46 巻3 号 p. 727-732
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    1910年代にイギリスで誕生し、アメリカへと普及したRegional Planningは、1920年代前半に内務事務官飯沼一省により日本へ「地方計画」として紹介された。地方計画はその後日本において海外事例の影響を受けながら展開し、内務省及び企画院において検討された。本論文は戦前における内務省地方計画構想のひとつの終着点として、内務省に1940~41年にかけて設置され、地方計画法案を策定した都市計画及地方計画に関する調査委員会、1941~42年にかけて設置され、関東地方計画要綱案を策定した都市計画連絡協議会に着目した。前述の委員会、協議会の一次資料を解析し、地方計画法案、関東地方計画要綱案の策定過程を明らかにし、戦前における内務省地方計画構想の一終着点を明らかにした。
  • 絵画史料と文献史料による分析
    齊藤 知恵子, 三浦 卓也
    2011 年46 巻3 号 p. 733-738
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    郡上八幡は中世末期に砦を構えた地に城を築き、近世初期に城の改築や城下町の整備にされた城下町である。今回、伝統的建造物搗群保存対策調査の一環で実施した都市史調査で、絵画資料や文献資料を収集し、分析した。近世の絵画資料では城下町の骨格に大きな変化はなく、近代化を経ても町人地はよく継承され、武家地は細分化するものの町家群が建ち並んでいることが郡上八幡の特徴である。本稿では、城下町の継承に関して、近世に的を絞り絵画資料と文献資料からその構造や構成要素について分析し、近世の城下町の姿を明らかにすることを目的としている。また、郡上八幡の町家は小規模なものが多いことが特徴だが、各地区の敷地形状が地形により異なるため、一概に同一平面計画とはいえない。町人地の敷地形状を文献資料により確認することで、町人地の町割の継承と、小規模平面が多いことが裏付けされた。また、家主・仕込家・割家など、借家や購入、分割を繰り返す、城下町の町屋敷の所有形態も明らかとなった。今後は、近代の資料も併せて分析し、城下町の町割復原や、近代化を明らかにすることにより歴史的風致の確かな裏付けとなる研究が望まれる。
  • 森本 章倫
    2011 年46 巻3 号 p. 739-744
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本研究では都市のコンパクト化の評価指標として財政面と環境面に着目し、地域の現状をできるだけ反映した推計モデルの構築を行なった。また、宇都宮市を対象として分析を行なった結果、コンパクト化は財政面、環境面の双方において有利に働くことが確認された。特に、都市構造の変化の影響を受けやすい財政面における効果は大きいことが分かった。しかし、従来から効果が期待されていた環境面については、財政面ほどの効果が発現していない。これは交通分野の低炭素化は、都市のコンパクト化だけでは困難であることを示しているといえる。地方都市の交通部門のCO2排出量の大半は自動車交通であり、自動車交通の総トリップ長の減少がそのカギを握っている。個人の交通行動がより環境にやさしいモードへシフトするような施策の実施や、通過交通量の多い道路の道路円滑化など、総合的かつ広域的な施策が不可欠である
  • 伊藤 孝史, 中川 大, 松中 亮治, 大庭 哲治
    2011 年46 巻3 号 p. 745-750
    発行日: 2011/10/25
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    日本の地方都市では、郊外化の進展に伴い交通弱者である高齢者にとっては移動が困難な状況となっている。コンパクトシティ構想の実現のためには鉄軌道のサービスレベルの向上が重要であるが、高齢者の人口分布と鉄軌道駅の整備の関係性を明らかにした研究はない。そこで本研究では、日・仏・独において高齢者の人口分布と鉄軌道駅の空間データを構築することで、運行頻度の高低による鉄軌道駅周辺の高齢者の人口分布の違いについて把握した。その結果、フランスやドイツに比べ、日本では高齢者が多く居住する地域において運行頻度の高い鉄軌道駅が少ないことを明らかにした。また、運行頻度が高くなるにつれ、駅周辺に居住する高齢者人口は増加していき、高齢者割合は減少していく傾向があることを明らかにした。さらに、日本では、鉄軌道駅の周辺では高齢者人口は増加しなくなってきており、その傾向は運行頻度が高い駅ほど強いことを明らかにした。
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