本論文は地表熱収支モデルと一次元熱伝導論に基づき, サーマルイナーシャモデルを数学的に導き, 土壌水分との関係を論じ, 2時期の航空機リモートセンシングと地上熱収支観測データをもとに土壌水分の推定を試みたものである。
このサーマルイナーシャモデルは土壌水分をはじめとする物理的探査におけるリモートセンシングの基礎をなす。筆者はLaiktmanの温度振幅と熱収支項の関係式と大賀の熱伝導の解法に負い, Watsonらと同様, 分析的なアプローチによりサーマルイナーシャモデルを導出するが, 早朝, 日中の2時期の測定結果によりサーマルイナーシャを求めるサーマルイナーシャモデルである。この点でLaiktmanの解析をさらに発展させたものであり, Kahle, Rosemaなどの, 土壌内部の温度プロファイルを初期値として反復法により計算していく米国に一般的なアプローチとは異なる。また, この物理的に適切なモデルの開発をつうじて, シミュレーションなどのアプローチが不要であることが明らかとなった。本論文では個々のパラメータ, 例えばアルベド及び等湿とされた地表面の相対的な湿りなどのパラメータを正当に吟味するとともに, 明快に, サーマルイナーシャが導出できることを示した。この点でWatsonらの研究を前進させたものである。サーマルイナーシャと土壌水分の関係はde WriesおよびChudnovskyらの土壌物理論及び実験成果に基づき論を進めているが, 本稿の主目的は土壌のサーマルイナーシャモデリングと2時期のリモートセンシングによる個々の熱収支パラメータの導出, それらをもとにした土壌水分推定にある。最近においてさえも, 内外を問わず, 見かけのサーマルイナーシャに基づくリモートセンシング研究が盛んであるが, 本稿は厳密な物理量としてのサーマルイナーシャをもとに実施するリモートセンシングの基礎をなすと思われる。
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