外科と代謝・栄養
Online ISSN : 2187-5154
Print ISSN : 0389-5564
ISSN-L : 0389-5564
56 巻, 2 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
特集「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
  • 八木 実, 大滝 雅博, 阿部 尚弘
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 51-54
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     外科領域で術前術後や,化学療法・放射線療法併用時にさまざまな愁訴が出現し,その解決に東洋医学(漢方医学)が果たす役割は大きい.実際にNSTでも,しばしばさまざまな症状とその解決依頼に直面する.このような場面こそ漢方医学の出番であると考えられ,個々の臓器の器質的異常に対して対処する西洋医学とは異なる対応が可能である.このような病態への対応にあたり漢方医学的基礎知識は身に着けておくべきである.本稿では外科医として知っておいた方がよい東洋医学(漢方医学)の基本を概説する.

  • 奥川 喜永, 大井 正貴, 北嶋 貴仁, 志村 匡信, 大北 喜基, 望木 郁代, 横江 毅, 問山 裕二
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 55-58
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     第四のがん治療として免疫チェックポイント阻害剤が登場し,腫瘍を直接的に標的とせず,腫瘍宿主相互反応を利用した治療の有用性があきらかとなり,周術期を含むがん治療においても,あらためて宿主の状態を改善する集学的治療の重要性が再注目を集めている.特に超高齢化社会を迎える本邦において,今後の消化器外科手術における周術期管理には,手術を受ける宿主の状態そのものの改善を目的とした漢方薬の有用性が周術期管理向上への一助として期待される.漢方薬は数千年の歴史を持つが,最近では特に消化器領域の漢方薬研究が非常に進捗し,生物学的機序が徐々に解明されている.さまざまな漢方薬がある中でも,特に六君子湯はその臨床的有用性とその作用機序も含め,もっともエビデンスが豊富な漢方薬のひとつといえる.本稿では,六君子湯の周術期管理における有用性を,これまでの報告をもとに紹介する.

  • 西 正暁, 島田 光生, 森根 裕二, 吉川 幸造, 徳永 卓哉, 中尾 寿宏, 柏原 秀也, 高須 千絵, 良元 俊昭, 和田 佑馬
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 59-61
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     近年では漢方の分子生物学的な作用機序の解明が進み, 臨床においても質の高いランダム化比較試験により漢方の有用性が明らかになってきた. 現在では大建中湯を含む多くの漢方製剤が広く臨床の現場で用いられている. 大建中湯は乾姜, 人参, 山椒の3つの生薬に膠飴を加えた漢方で, 外科領域においては癒着性イレウスや麻痺性イレウス, 過敏性腸症候群, クローン病などを適応とし, 消化管運動促進作用, 腸管血流増加作用,抗炎症作用などが報告されている. 近年では, 食道・胃・大腸・肝臓・膵臓・肝移植外科それぞれの領域でランダム化試験が実施され, 大建中湯の周術期管理における有効性が証明されている. また分子生物学的なメカニズムについても解明がすすみ, 現在, 大建中湯は消化管外科・肝胆膵外科の分野を問わず消化器外科全般における周術期管理のkey drugとして位置付けられている. 本稿では消化器外科領域における大建中湯による周術期管理のサポートについて概説する.

  • 小川 恵子
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 62-64
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー
  • 海保 隆
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 65-68
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     外科周術期サポートとしての茵蔯蒿湯の出番は, 減黄不良の閉塞性黄疸症手術例への術前投与や, しばしば大量肝切除を必要とする肝門部領域胆管癌, 術前肝予備能の低下した原発性肝癌などの肝切除後の高ビリルビン血症に対する予防投与などである. 高度侵襲手術による肝内胆汁うっ滞などにも効果が期待されるが, 感染を起因とした肝内胆汁うっ滞にはまず感染のコントロールを優先する.
     留意すべき点として, 有効成分のgenipinは茵蔯蒿湯の構成生薬“山梔子”の成分geniposideが腸内細菌により分解され生成されるので, 健常な腸内細菌叢が保たれていることが肝要である. 術後, 広域抗菌薬の使用により腸内細菌叢が変化していると, 茵蔯蒿湯が有効に働かない可能性がある.
     他に同様の働きをする西洋薬が存在しないために, 万が一の場合には使用する意義が大きいと思われる.

  • 宮本 信宏
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 69-72
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     本邦では医療用漢方エキス製剤の普及から西洋医が漢方薬を処方する機会が増え, 西洋医学的エビデンスの蓄積が進んでいる. こうした背景から機能性消化管疾患診療ガイドラインにおいては六君子湯が一次治療に位置づけられ, 外科領域においても開腹術後の麻痺性イレウスに対して大建中湯, 慢性硬膜下血腫の再発予防には五苓散が使用されるのが一般化してきている.
     われわれは呼吸器外科術後のさまざまな症状に五苓散を中心とした利水剤を用いた経験から, 漢方薬は西洋薬と相補的に作用すると考えている. 利水とは西洋医学の利尿剤のような強制利尿ではなく「水毒」と呼ばれる水の分布異常を調整すると考えられており, 浮腫では利尿作用,脱水では抗利尿作用を発揮するとされている. 周術期は水分バランスがダイナミックに変化する局面であり, 浮腫の漢方薬が効きやすい状態である. 五苓散は副作用を心配することなく飲みやすく飲ませやすい漢方薬であり, 五苓散を中心とした利水剤による周術期管理を提案する.

  • 西 健, 田島 義証, 中村 光佑, 林 彦多, 川畑 康成
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 73-76
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     補剤とは, 生体の活力が低下している時に, 生体内に不足している成分を補って機能賦活を行い, 治癒を促進させる漢方薬である. 十全大補湯と捕中益気湯はその代表であり, 免疫賦活効果を中心に, 基礎研究・臨床研究の両面からその有用性が報告されている. 生体に手術侵襲が加わると, 炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの過剰産生が生じ, その結果, 免疫能が低下し, 易感染状態となる. 周術期管理における十全大補湯・捕中益気湯の投与は, 手術侵襲の回復過程における免疫機能のサポートに有用と考えられ, 免疫能が賦活化され, 手術侵襲の負担軽減と生体防御の活性化が期待できる. 十全大補湯は気虚 (気が不足した病態) と血虚 (血が不足した病態) のいずれの病態にも作用する補剤で, 特に高齢者や担癌患者で貧血を伴うような症例でその効果が期待できる. 補中益気湯は気虚 (気が不足した病態) に用いられ, 気が減衰した周術期患者の免疫賦活, 特に感染性合併症の軽減に有用であることが示唆されている.

  • 中村 育夫, 藤本 康弘, 飯田 健二郎, 末岡 英明, 岡本 共弘, 鳥口 寛, 奥野 将之, 岩間 英明, 河端 悠介, 多田 正晴
    原稿種別: 特集
    専門分野: 「外科代謝栄養と東洋医学:漢方による周術期管理へのサポート」
    2022 年 56 巻 2 号 p. 77-80
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

     高齢者の手術増加に伴い, 高齢者にみられる術後認知機能障害 (postoperative cognitive dysfunction : POCD) や術後せん妄 (Postoperative delirium: POD) が問題となり, 周術期の予防と管理が重要である.
     抑肝散と抑肝散加陳皮半夏は神経症, 不眠症, 小児夜泣き, 小児疳症 (神経過敏) が適応で, 消化器症状 (悪心, 嘔吐) を有する場合は抑肝散加陳皮半夏を選択する. 作用機序は, ①セロトニン神経系と②グルタミン酸神経系が関与している. 通常, 成人1日7.5gを2‐3回に分割し, 食前または食間に経口投与する. 術前5~7日前より服用し, 術後早期より再開し退院日まで服用させる. 重篤な副作用に低カリウム血症 (偽アルドステロン症) がある. POCDやPODを改善し, また入院中の睡眠導入剤や抗不安薬などの併用薬の使用を減少させる可能性がある.
     本稿では, 抑肝散と抑肝散加陳皮半夏によるPOCDとPODの予防と管理について述べる.

原著(臨床研究)
  • ―BCAA単回投与と長期持続投与のinsulinotropic actionの相違―
    櫻井 洋一, 難波 秀行, 王堂 哲
    原稿種別: 原著(臨床研究)
    2022 年 56 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    【目的】インスリン (INS) は骨格筋に対し最も強力な蛋白同化作用を示すanabolic hormoneであり, 侵襲下においても骨格筋蛋白同化作用をもつことが報告されている. したがってインスリン分泌促進作用 (insulinotropic action, ITA) を有する栄養投与は骨格筋同化作用を発揮する. 今回L‐カルニチン (LCAR) とBCAAのエネルギー投与後のITAに対する効果を検討した. 【方法】健常者39名 (平均年齢20.8±0.1歳) を対象に, 対照群 (C群, n=16) , LCAR単独投与群 (L群, n=10) , LCAR+BCAA単回併用投与群 (L+SB群, n=6), LCAR+BCAA長期持続投与群 (L+CB群, n=7) の4群に無作為に分けた. L群ではLCAR (1,000mg/day) のみ, L+SB群では臨床試験2日前までの14日間のLCARと臨床試験当日にBCAA単回のみ投与, L+CB群ではLCAR (1,000mg/day) とBCAA (7.2g/day) をともに臨床試験前14日間の経口投与した後, 臨床試験を行った. 臨床試験前日よりovernight fastingの後, 当日は運動負荷 (50% VO2 max 60分間) 2時間前に低血糖を予防するために200kcal (栄養補助食品+glucose) のエネルギー投与を行い, エネルギー投与および運動負荷の前後で血糖値([BS]), 血清INS値([INS]) を測定し, 各群のITAについて検討した. 【結果】エネルギー投与前におけるLCAR単独投与群の[BS], [INS]は他の群に比較して有意に低値であった. 運動負荷前かつ栄養投与後では, すべての群で栄養投与前 (Pre EX‐120) に比較して[INS]は増加したが, L群は栄養投与前 (Pre EX‐120) の値はC群の値に比較して有意に低値であった (P<0.05). L+SB群, L+CB群の[INS]は, いずれも著明に増加したが, L+SB群の[INS]はL+CB群の[INS]に比較して有意に高値であった (P<0.05). 【結語】BCAA単回投与によりエネルギー投与後のITAは増強し, BCAA単回投与後と同様にBCAA長期持続投与後でかつ血清アミノ酸値が上昇していない状況でもITAは増強した.

  • 森 ひろみ, 佐藤 弘, 永田 早紀, 上村 聡, 佐藤 雅子, 高木 敏之, 間野 政行, 鈴木 海馬, 古田島  太
    原稿種別: 原著(臨床研究)
    2022 年 56 巻 2 号 p. 90-97
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー
     栄養アセスメントは複数の指標を組み合わせ多角的に行うこととされているが, 栄養状態の判定には明確な基準がない. 当院NSTの回診時に栄養状態の判定において改善か不変かで意見が二分することがある. 判定に有意に影響する要因を検討した.
     2019年4~6月に2回以上回診を実施し介入終了となった患者98名を介入時と終了時の栄養状態の判定の推移から改善・不変・悪化の3群に分け, そのうちの改善群と不変群91名のSGA5項目 (BMI, 褥瘡, 浮腫, 消化器症状, PS) , ODA2項目 (CONUT値,栄養充足率), 栄養ルートについて介入時と終了時の状態を比較した.
     介入時は全項目で有意差はなかったが, 終了時は改善群で消化器症状, PS, CONUT値, 充足率に有意差を認め, 栄養ルートは輸液から経口管理への有意な推移を認めた. ただし, 改善群の平均CONUT値5.04は中等度不良に該当し, 栄養状態の判定と合致しなかった. 改善か不変かの判定は, 患者の自立性に影響されることが多く, 客観的指標が過小評価される傾向を認めた.
  • 井上 善博, 藤井 研介, 阿部 信貴, 山本 誠士, 内山 和久
    原稿種別: 原著(臨床研究)
    2022 年 56 巻 2 号 p. 98-105
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー
    【背景】肝細胞癌に対する肝切除術の有効性は確立しているが, 発症年齢は一貫して上昇しており, 今後高齢者の手術症例の増加が推察される.
    【対象・方法】2009年から2019年までに施行した肝細胞癌肝切除症例344例を対象とし, 高齢者 (75歳以上) 肝細胞癌肝切除症例の術後成績を非高齢者 (75歳未満) と比較・検討した. なお, 手術適応基準は, 全症例で残肝重量/体重比≥0.8%および幕内基準に準じた.
    【結果】高齢者群で心疾患の併存や他臓器悪性腫瘍の既往が多かった. 術前アルブミン値は有意に低値であり, 全肝容積も小さかった. 手術成績, 術後合併症発生率, 在院死亡率や術後在院日数は2群間に有意差を認めなかった. 残肝の容積・機能変化, 無再発および累積生存率は2群間に有意差を認めなかった.
    【結語】高齢者の肝切除術は, 非高齢者と同様の手術適応基準で, 同等の安全性・根治性を期待しうると考えられた.
あとがき・編集委員会名簿
feedback
Top