【背景】腸管不全(IF)患児に対して中心静脈栄養(PN)を行う場合には,微量元素製剤の投与は必須である.本邦では亜鉛(Zn),銅(Cu),マンガン(Mn),ヨウ素(I),鉄(Fe)を含む総合微量元素製剤を用いることが一般的であり,それぞれの血清濃度を確認しつつ投与量を調整するが,長期PN施行例ではZn,Cu,Feのバランスを保つことが困難な症例を経験する.今回われわれは長期PN管理を行っているIF患児における微量元素の推移と鉄過剰について検討したので報告する.
【対象と方法】対象は,IF患児9例(短腸症候群4例,腸管運動障害5例)であり,平均年齢は7.2±5.3歳(2~18歳),平均PN施行期間は6.3±3.7年(2~11年)であった.9例についてZn,Cu,Fe,フェリチン(FER)の血清濃度について経時的変化を検討した.また,Fe値とFER値については小腸粘膜量を反映する血清シトルリン(Cit)値との相関関係について検討した.
【結果】9例におけるZnとCuの血清値は全例ほぼ基準値内で推移していた.Fe値については,ほぼ正常で推移が2例,上限を超えることは少ないが上昇傾向で推移が4例,ほぼ常に上限を超えて推移が2例,腸管のうっ滞と関係して推移が1例であった.FER値については,上限を超えて推移が5例,上限を超えた状態から改善傾向が2例,ほぼ正常が2例であった.
Fe,FERとCitの関係では,Fe値とCit値(相関係数-0.744,p=0.021),FER値とCit値(相関係数-0.804,p=0.009)の間には有意な負の相関関係が認められた.
【結論】IF患児に対する総合微量元素製剤の長期投与例において,ZnとCuはほぼ基準値内で維持されていたが,9例中7例において鉄過剰の状態が考えられた.また,Fe値とFER値はともにCit値と有意に負の相関関係を示すことから,IF患児においては小腸粘膜量少ない症例ほど鉄過剰に陥りやすい可能性が示唆された.IF患児の長期PN管理では鉄過剰には注意が必要であると考えられ,鉄を含まない微量元素製剤が必要であると思われた.
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