外科と代謝・栄養
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57 巻, 4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集 「未来医療を科学する」
  • 堀 武志, 梶 弘和
    2023 年 57 巻 4 号 p. 85-87
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

     従来のシャーレを用いた細胞培養系は, 医学・生物学の発展に大きく貢献してきた一方で, 生体内の微小な環境下で起きる細胞間,細胞‐物質間の相互作用を厳密に再現できないという限界がある. この問題を解決するため, マイクロメートルオーダーの微小な空間内で培養液や細胞足場材料などを厳密に制御しながら細胞培養を行うOrgan‐on‐a‐chip(OoC)技術の研究が活発に行われるようになった. 種々の臓器細胞を搭載したOoCが開発されており, 生体組織を模倣した膵島細胞,肝細胞,皮膚細胞などが培養できるようになった. OoCに各種センサーを組み込むことによりさまざまな応用の可能性が広がり, 今後, 研究や臨床の場で必要不可欠なアイテムになるものと考えられる.

  • 大段 秀樹, 大平 真裕
    2023 年 57 巻 4 号 p. 88-94
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー
     肝臓には, 特定の成熟期にあるnatural killer(NK)細胞が局在し, 強力な抗腫瘍分子TNF‐related apoptosis inducing ligand (TRAIL) が誘導可能で, TRAIL受容体を高発現する中・低分化肝細胞癌 (HCC) に対し細胞死を誘導する. そこで, 肝移植時に摘出したドナー肝を体外灌流した排液からNK細胞を回収してin vitroでTRAIL誘導して術後に移入するNK細胞移入療法を考案し, 第Ⅰ相試験を広島大学と米国マイアミ大学で実施し, 安全性と容量依存の無再発率・生存率の改善を報告した. また, TRAIL遺伝子多型が, HCCの遠隔転移再発の危険因子になることを確認した. NK細胞が自己のHLAを認識するkiller immunoglobulin‐like receptor (KIR) を表出すると共に活性が強化される機構をlicenseと呼ぶ. KIR‐HLA遺伝子多型に起因する脆弱なlicense機構の保有患者では, HCCの再発リスクを負うことを解明した.
  • 岸田 晶夫
    2023 年 57 巻 4 号 p. 95-99
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー
     脱細胞化組織は, 生体組織から細胞成分を除去した三次元構造を有する細胞外マトリックス (Extracellular Matrices : ECM) であり, 種々の脱細胞化技術によって得られる. 脱細胞化組織は高い生体適合性を有し, かつ患者の体内で組織再構築が可能で, これらの特長を生かして再生医療のための基盤材料として研究・応用されている. 脱細胞化組織は原料の組織および調製法の違いによって, 得られる脱細胞化組織の構造, 力学的特性, 生物活性は異なる. これまでに循環器系材料, 整形外科系材料, 創傷治癒材料などとしてさまざまな脱細胞化組織が開発されている. しかし製品の多くは米国で展開されており, 日本での開発・応用は後れている. 本稿では, 脱細胞化生体組織の背景, 調製法, 特徴および今後の動向について解説した.
  • 酒井 宏水, 小林 直子, 久禮 智子, 東 寛
    2023 年 57 巻 4 号 p. 100-103
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

     人工赤血球 (ヘモグロビンベシクル) 製剤の投与による外傷性出血, 周術期出血の治療の可能性については, 各種動物モデル試験のデータに基づき本誌54巻4号 (2020) に概説した1). それから3年が経過したが, その間に, 本製剤の実用化を目指す研究開発プロジェクトにおいて, 重要なイベントがあった. 先ず1つ目は, アカデミア主体による治験薬の小規模GMP製造が実施できたこと, そして2つ目は, 健常男性を対象とした第1相臨床試験 (First‐in‐human) の実施である. これらの成果を踏まえて, 現在は第2相臨床試験の実施に向けた準備が進行中である.

  • 萩沢 康介
    2023 年 57 巻 4 号 p. 104-107
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

     H12‐(ADP)‐liposomeは完全に人工合成した血小板代替物であり, 長期保存が可能で緊急時の使用に適している. 血栓症発生などの副作用もなく, 受傷後早期に単回投与することで各種外科領域の凝固障害動物モデルの病態を改善した. 止血凝固を促進するのみならず, 内包したADP由来のアデノシン作用による細胞保護効果も持ち合わせており, 重症外傷の救命率向上が期待できると考えている.

  • 巽 博臣
    2023 年 57 巻 4 号 p. 108-112
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

     術後や敗血症など, 侵襲後の重症患者では異化亢進により高血糖となり, 血糖コントロールに難渋することも少なくない. 血糖値を抑えると同時に, 日内変動を抑えることも予後に影響する. 人工膵臓STG®‐55は, 連続的な採血によって血糖値を測定し, アルゴリズムに基づいてインスリンやグルコースを自動的に注入して, 血糖値を安定化させる装置である. インスリンで血糖値を下げるだけでなく, 必要時にはグルコースを投与して低血糖を回避できる安全機構を備えている. したがって, 手動での血糖コントロールのように, “下がりきらない”, “下がりすぎる”という事象は生じない. STG®‐55により, 厳格血糖管理をより安全に行えることから, 周術期など重症患者の治療成績の改善に寄与できる可能性がある. 人工膵臓STG®‐55の外科・代謝栄養学への応用の可能性・有用性について述べる.

  • 千葉 史子, 増本 幸二
    2023 年 57 巻 4 号 p. 113-117
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

     小腸瘻患者に対し栄養素吸収効率の増加,肛門側腸管の廃用性萎縮の防止,肝機能障害の回避などの点から,腸瘻口側腸管排液を回収し肛門側腸管へ注入する管理の有用性がいわれており,施行する施設は増加してきている.しかしこれまで施行されてきた方法では手間がかかることが多い.われわれは,腸瘻口側腸管排液を肛門側腸管に自動的に持続注入するシステムを考案し,乳児から年長児まで幅広く使用しており,本システムの実際と有用性について紹介する. 本システムの概要は以下である. ストーマパウチからチューブを通してボトルに腸液を回収し, 肛門側腸管にはバルーンカテーテルなどを挿入しておく. ボトルの下部にチューブを接続し注入用ポンプを使用して肛門側腸管に腸瘻口側腸管排液の自動注入を行う, 高位空腸の場合には三方活栓を用いて栄養剤の同時注入も可能である. この方法では管理が簡便かつ安定した持続注入が可能で, 腸瘻排液の注入管理において非常に有用であると考えている.

原著(臨床研究)
  • 田部 大樹, 宮島 功, 塚田 暁
    2023 年 57 巻 4 号 p. 118-126
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    【背景】胃切除術後の体重減少は重要な課題であり栄養量の確保が必要であるが, 高齢患者が増加している. そこで75歳以上の胃切除術後患者において術後入院中の摂取エネルギー量と長期的な体重減少の関連を検討した.
    【方法】胃がんに対して胃切除を行った88名を75歳未満と75歳以上の患者で比較した. その後75歳以上の46名を平均摂取エネルギー量が基礎代謝量の50%以上を確保群, 50%未満を不足群に分け, 術後6カ月の時点までの体重変化率を比較した.
    【結果】確保群において, 術後3・6カ月の時点の体重変化率が抑えられ, 術後の補助化学療法を施行していた患者が少なかった. 重回帰分析を行ったところ, 術後3カ月の時点の体重変化は (Basal Energy Expenditure : BEE) に対する充足率, 術後6カ月の時点の体重減少は術後補助化学療法の有無がそれぞれの予測因子となった.
    【結語】75歳以上の胃切除術後患者では基礎代謝量に対する術後入院中の摂取エネルギー量の充足率が術後3カ月の時点での体重変化を予測しうる.

  • 安枝 明日香, 西村  潤一, 池田 聖児, 原口 直紹, 秋田 裕史, 和田 浩志, 松田  宙, 大森 健, 安井 昌義, 田宮 大也, ...
    2023 年 57 巻 4 号 p. 127-134
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

     フレイル (Frailty) は健康な状態と要介護状態の中間に位置し, 身体および認知機能の低下が見られる状態を指す. 癌領域においてフレイルは高率に発生し, せん妄や感染をはじめとする術後合併症, ならびに生存期間の短縮, 施設退院, 再入院に影響することが報告されている. 本検討では, 消化器癌に対し外科療法を施行された症例を対象に, フレイルの発生頻度, 手術成績を調査することを目的に検討を実施した. 2021年7月から9月に大阪国際がんセンターにおいて6分間歩行距離などの術前身体機能評価を実施した201例を対象に, 2020年改訂日本版CHS基準 (J‐CHS) を用い, フレイルの発生頻度と術後成績を調査した. 結果, 201症例のうち, フレイルは27例 (13%) , プレフレイル126例 (63%) であった. うち, 高齢者ではフレイル症例が22例 (81%) であり, プレフレイル/ロバスト症例と比較し有意に高率であった (p=0.004) . 在院日数はフレイル症例で17 (5‐98) 日であり, ロバスト症例と比較し有意に延長した. (p<0.001). また, 術後合併症はフレイルで13例 (48%) , プレフレイルで36例 (29%) , ロバストで6例 (13%) であり, 多変量解析の結果フレイルは術後合併症発症の独立したリスク因子であった. 以上のことより, 消化器癌領域では高齢症例でフレイルは高率に発生し, 在院日数の延長, 術後合併症の発症に影響を及ぼすことが示唆された.

症例報告
  • 坂神 裕子, 辻 恵理, 伊藤 奈緒子
    2023 年 57 巻 4 号 p. 135-143
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー
     フルニエ壊疽は外陰部を中心に発症する壊死性筋膜炎と定義されている.今回フルニエ壊疽を発症した患者に対し, 外科的治療と併行して栄養補助食品を用いた栄養管理介入を行い, 良好な経過が得られた1例を経験したので報告する.
     症例は41歳男性.フルニエ壊疽に対し, 開放ドレナージとデブリードマン, 人工肛門造設術を施行した.術後早期からの栄養介入と, 創傷治療過程に応じて4段階に分けた栄養管理を行った.第1段階では感染リスクの制御とし抗炎症作用のあるDHA・EPA含有の消化態栄養剤を開始し, 第2段階では蛋白同化を企図して, 創傷治癒に有用なHMB配合飲料を追加した.第3段階では創部の肉芽形成に必要な蛋白合成を目的とし至適エネルギー量の倍以上を投与した.第4段階では上皮組織の合成に関与するコラーゲンペプチド含有飲料を投与した.病態や治療過程に応じた段階的な栄養管理により, 植皮も良好に生着し有効な治癒促進効果を得ることができた.
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