理論と方法
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23 巻, 1 号
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会長講演
  • 井上 寛
    2008 年 23 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
     数理社会学あるいは社会学にパラダイムが存在しているかどうかを判断すること自体が危うい試みであるが、研究者はコミュニケーションを可能にする共有知を自覚していることも事実である。パラダイムという用語の概念的な厳密さには深入りせず、ここでは、少し広めに、認識の場におけるいくつかの分岐点において、研究者の部分集合によって持続的に共有され、認識のアウトプットを導きあるいは制約する概念、理論、方法、さらには意識的あるいは無意識的な信念あるいは価値意識の複合体としておく。
     結論からいえば、緩やかなパラダイムなしには社会科学の発展はありえないが、現在は必ずしも十全なパラダイムは存在せず、よりよいパラダイムを求める個別パラダイムの相克のなかにあり、またそうであることが望ましいといえるだろう。問われるべきはその相克の様相をできるだけ明らかにすることであり、本稿は、その課題に少しばかりの発言をするものである。
     この作業のためのさしあたりの視点として、科学認識の基本的な2組の様式の分岐点を置くことにする。ひとつは実証的か規範的か、今ひとつは経験的か理論的かである。これらの区別を説明する必要はないと思われるが、「実証的」という用語については注意が必要である。ここで実証的とは経験的研究(計量的研究)に限定されず、理論研究(演繹理論)も含むものとする。その上で、理論と経験的研究を識別する。行動、態度、社会状態(不平等)であれ、その状態の特性を明らかにし、その状態の出現のメカニズムを明らかにすることは、理論にも経験的研究も共通であるが、アプローチが異なる。ただし、この2組の単純化した区別は、議論のなかでもう少し複雑な関係にあることが明らかになるだろう。
特集 計量社会学分析の新標準―相関のあるデータを分析する―
  • ―相関のあるデータを分析する―
    中田 知生, 高田 洋
    2008 年 23 巻 1 号 p. 15-17
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
  • ―TobitモデルのHeckman推定法による分析―
    高田 洋
    2008 年 23 巻 1 号 p. 19-37
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
     民主主義年齢を重ねた国々においては、どの国においても投票率の低下という現象が生じている。投票率の低下は、民主主義の危機のように論じられることがあるが、それはその国がどのような社会的条件にあるかによる。民主主義にとっては、そのときの政治的状況に即座に反応する投票行動ではなく、継続される投票態度の方が重要である。投票態度がどのように備わるかについて、(1)個人の社会経済的背景、(2)個人に内面化された民主的な意識、(3)社会政治的なマクロ状況の3つの要因による因果モデルを分析する。また、積極的な投票態度を持っていない人びとは社会調査に回答しにくいというバイアスを評価するためTobitモデルのHeckman推定法によってこの因果モデルを分析する。日本の2005年のデータを用いた分析の結果、次のことが明らかとなった。(1)学歴や文化資本は、反権威主義的および多元主義的意識を高めるが、この2つの意識は投票態度に直接の影響を持たない。(2)若年期に経験した高度経済成長は、非自己中心的な社会参加を促し、積極的な投票態度を形成させる。(3)若年期の経済成長が大きいほど反功利主義的人間観になるが、これは投票態度に直接の効果を持たない。(4)階層的地位は投票態度に直接の積極的な影響を与える。現代日本においては、反権威主義や多元主義が投票態度と直接には結びつかなくなる一方、経済成長の停滞は、自己中心主義または少ない社会参加を通じて、消極的な投票態度を導く。
  • ―離散時間ロジットモデルによる分析―
    村上 あかね
    2008 年 23 巻 1 号 p. 39-55
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は、社会階層と家族が住宅取得に及ぼす影響を検証することである。住宅は、人びとの生活にとって重要な基盤であり、もっとも重要な資産である。経済的地位と密接な関連を持つにもかかわらず、住宅と社会階層との関連に注目した研究は多くはなかった。1993年から実施されている全国規模のパネルデータに対して離散時間ロジットモデルを用いて分析した結果、(1)世帯の預貯金残高が多いことは持家への移行確率を高めること、(2)夫が専門・技術職の場合には持家となる確率が高いが、全般に夫の職業の影響は弱いこと、(3)親との同居や相続・贈与は家を持つようになる確率を高めること、が明らかになった。これらの結果は、日本は福祉の担い手として家族の役割を重視するという、エスピン-アンデルセンの福祉レジーム論とも、整合的である。
  • ―潜在成長曲線モデルを用いて―
    中田 知生
    2008 年 23 巻 1 号 p. 57-72
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は、高齢期における主観的健康の悪化や退職のプロセスと教育の関係を、潜在成長曲線モデルから明らかにすることである。「Longer life but worsening health仮説」、すなわち、高齢期において、健康悪化が急激に起こるか、もしくは緩やかに起こるかが社会的地位としての教育の程度によって異なるかを検証した。用いたデータは、「老研-ミシガン大全国高齢者パネル調査」のウェーブ1から3までである。潜在成長曲線モデルを用いた分析の結果、以下が明らかになった。(1)教育は、主観的健康の悪化に対しても退職のプロセスに対しても効果を持っていない、(2)女性と比較して男性ほど、年齢が上昇するにつれて主観的健康が急激に悪化する、(3)ウェーブ1調査時における高い健康が、長く就労を続けることに影響を持っており、また、就労つづけていることは、急激な主観的健康の悪化を押さえることに対しても効果を持つ。これらのように、横断的調査では明らかにできない主観的健康および退職のプロセスと教育の関係の一端が明らかになった。
原著論文
  • 長松 奈美江
    2008 年 23 巻 1 号 p. 73-89
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
     所得格差を説明する理論の多くは、個人が仕事において発揮する技能が高い所得と結びつくことを指摘する。しかし、技能は直接測定することが困難であるため、技能と所得格差との関係を実証的に明らかにする試みは多くはない。本稿は、技能を、「仕事における裁量」と「仕事の複雑性」という二つの側面から測定し、所得格差をもたらす技能の役割を実証的に明らかにした。
     2004年に全国の成人男女を対象に実施された社会調査データをもちいて所得決定構造の分析を行った結果、以下の三つの知見が得られた。第一に、高い所得に結びつく技能は、発言権や決定権をもったり、資料の分析や企画を行うといった組織における意思決定に関する技能や、機械装置の操作に関する技能であった。第二に、性別、学歴、雇用形態、企業規模、勤続年数の所得への効果の一部は、技能の所得への効果により媒介されていた。しかし第三に、技能をコントロールしても、性別、雇用形態、企業規模の所得への効果は大きく、同じ技能を発揮していても、女性ほど、パートほど、そして企業規模が小さいほど所得が低いことがわかった。
  • Jacob DIJKSTRA, Marcel A.L.M. Van ASSEN
    2008 年 23 巻 1 号 p. 91-110
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
         Many real-life examples of exchanges with externalities exist. Externalities of exchange are defined as direct consequences of exchanges for the payoff of actors who are not involved in the exchange. This paper focuses on how externalities influence the partner choice in exchange networks. In an experiment two externality conditions are created such that different exchange patterns are predicted in the simplest exchange network with two structurally different complete exchange patterns, the 4-Line. Predictions concerning exchange patterns and ratios are derived from a generalization of the core from game theory. Hypotheses are derived by comparing the predictions for the experimental conditions and by comparison to data from previous experiments on the 4-Line, without externalities. Hypotheses concerning the changes in exchange patterns were corroborated.
  • ―日本の国会議員Webサイトから見た政治家の中心性とグループ―
    村井 源, 山本 竜大, 徃住 彰文
    2008 年 23 巻 1 号 p. 111-128
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2008/08/11
    ジャーナル フリー
     複雑な人間関係を数理的に解析するために、近年ネットワーク解析が盛んに用いられるようになった。また、解析用のネットワークを構築するための基礎データとして、WWWのハイパーリンクが用いられるケースが増えてきている。本論文では政治家間の人間関係を示すネットワーク構造の構築に、ハイパーリンク関係を用いる妥当性を検討するため、日本の国会議員のWebページをデータとして用い、議員間のハイパーリンクと議員の名前のテキスト上での言及関係によって二種類のネットワークを構築した。また、得られたネットワークに対してネットワーク解析の手法中心性とクリーク分析の解析を適用し、結果を比較した。得られた結果より、言及関係によるネットワークは、集団における重要性を表す指標としての妥当性があり、ハイパーリンクによるネットワークでは派閥の分析が可能であることが分かった。現状として、大規模政党においては、比較的Webの利用は進んでいないが、今後政治領域でもWebの利用がより一般化することが期待される。このため、将来的にはより多様な関係性の計量的解析にWebデータが利用可能になると考えられる。
書評特集 統計分析法の教育とテキスト
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