理論と方法
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34 巻, 1 号
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論文
  • 坂口 尚文, 中村 隆
    2019 年 34 巻 1 号 p. 3-17
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

     本稿では,階層型コウホート(HAPC)モデルによる推定でコウホート効果がフラットになるメカニズムを明らかにし,ベイズ型コウホート(BAPC)モデルで用いられているパラメータの1次階差に着目することが妥当であることを述べる.HAPCモデルは近年のコウホート分析において標準的手法であり,一般的に時点とコウホートを個々の対象者が属する集団の効果として,それらを変量効果として扱う混合効果モデルである.しかしながら,HAPCモデルによる推定はコウホート効果が想定よりもフラットになりやすいとの批判もなされてきた.他方,BAPCモデルはパラメータの1次階差に正規分布を仮定した経験ベイズ流の枠組みで従来とらえられてきたが,混合効果モデルとしてとらえることも可能である.両者とも変量効果の導入で識別不足を解消する点は共通だが,コウホート分析における識別問題へのアプローチは異なる.実証例として,コウホート効果が大きいと考えられる男性大学卒割合を用いて,両モデルの推定結果の違いを示す.HAPCモデルの推定はコウホート効果がフラットであるのに対し,BAPCモデルはコウホート効果が大きく,新しい世代ほど大学卒割合が高くなるという特徴を捉えていた.

特集 社会学と因果推論
  • 筒井 淳也, 大久保 将貴
    2019 年 34 巻 1 号 p. 18-19
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー
  • 大久保 将貴
    2019 年 34 巻 1 号 p. 20-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     因果推論とは,因果効果を識別するための仮定を満たすような工夫や戦略のことを意味する.因果推論については,すでに膨大な理論と方法が提起されている.ただし,因果推論が必ずしも具体的な方法と対応しているわけではないため,因果推論といった時にイメージする理論と方法は分野間で大きく異なる.本稿では,社会科学のみならず様々な分野の視点を考慮し,因果推論の理論と方法を体系的にレビューする.さらに,因果推論の限界と可能性について,今日でも繰り広げられている論争を紹介する.

  • 観察データに基づいた社会の理解に向けて
    筒井 淳也
    2019 年 34 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     統計的因果推論は計量分析の主流となっているが,計量社会学におけるその意味やインパクトについて体系的に論じた研究はいまだに少ない.本論文では,因果推論モデルを含む計量分析の手法について,異質性という概念を軸に整理し,その上で計量社会学が異質性に対して他の分野の手法とは異なったアプローチをとる傾向があることを示す.このことは,マルチレベル分析とも呼ばれる混合効果モデルの活用において明らかである.さらに,介入や切断を用いる因果推論アプローチと,要因間の関連性を強調する計量社会学的アプローチの違いを説明し,それが人々の概念連関を参照する社会学の特性の現れである,ということを論じる.

  • 瀧川 裕貴
    2019 年 34 巻 1 号 p. 47-64
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     分析社会学はヨーロッパを中心に普及しつつある有望な社会学研究プログラムであり,その成否の検討は,社会学的研究一般の将来にとっても重要な意味をもつ.本研究は,なかでもその理論構想の基礎にある因果メカニズムの解明という考えに焦点をあて,その因果概念をめぐって,統計的因果推論との関係において検討を進める.具体的には,分析社会学の提唱するメカニズムによる因果説明と統計的因果推論との関係について,分離モデルと連続モデルという2つの可能性を示し,後者の連続モデルを採用すべきだと論じる.その上で,行為水準における因果の解明を社会学の課題としつつ,マクロな現象のマイクロな行為への分解という分析社会学のプロジェクトは,行為の理解可能性ではなく,一般化可能で外的妥当性の高い因果推論の実施という観点から正当化されるべきだと主張する.

  • 藤原 翔
    2019 年 34 巻 1 号 p. 65-77
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     本論文は,教育社会学的研究における因果推論の動向を示す.具体的には,教育社会学と社会階層研究に関連した(1)教育機会の不平等,(2)学校効果・トラッキング,(3)近隣効果,(4)学歴の因果効果とその異質性(5)社会移動と学歴,(6)ひとり親世帯,(7)多世代の移動に関する海外での因果分析の研究成果を紹介する.これらの研究動向をふまえれば,社会学者が因果の識別について長年にわたって取り組み,統計学や他の社会科学領域で発展した方法を社会学的研究に適用してきたこと,そして単に因果関係の識別だけではなく,関連を生じる交絡やセレクションといった様々な要因の解明に対しても関心を持ってきたことが分かる.これら因果推論に関する研究成果をふまえた上で,今後の日本の社会学における因果推論研究の課題を示す.そして,因果推論が社会現象を理解するための重要な分析枠組みであることについて議論する.

  • 前田 豊, 鎌田 拓馬
    2019 年 34 巻 1 号 p. 78-96
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     本稿では,個別事例の因果推論におけるSynthetic Control Method(SCM)の利用可能性を検討する.SCMは処置前の結果変数と共変量で処置を受けた主体と一致するように,対照群を適当な重みづけから統合したsynthetic controlを構築し,このsynthetic controlと処置群との比較から個別主体の因果効果の識別を行う.本稿ではSCMのアプリケーションとして,阪神淡路大震災が貧困層拡大へ与える影響を検討した.分析の結果,震災発生後にラグ期間を伴って生活保護後受給者数は増加し,震災発生から15年たっても,震災効果が持続することが示された.本稿ではさらに,推定のパフォーマンスの観点からSCMのオルタナティブとなる差の差(Difference-in-Differences,DD)分析との比較を,実データ,およびモンテカルロ・シミュレーションを用いて行った.結果として,主体毎に異なる時間的トレンドが存在しない場合には,SCMとDDは同様の推定値を導くが,主体毎に異なる時間的トレンドが存在する場合は,SCMの方がバイアスの少ない推定量であることが示された.これらの結果は,個別主体の因果推論において,とくに未知の時間的トレンドが存在する場合に,SCMが適した推定手法であることを示している.

小特集 ベイズ統計モデリングの応用可能性
  • 石田 淳
    2019 年 34 巻 1 号 p. 97-98
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー
  • ランダム効果モデル,リッジ回帰モデル,ランダムウォークモデルの比較
    松本 雄大
    2019 年 34 巻 1 号 p. 99-112
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,ベイズ統計モデリングによってAPC分析の既存モデルを体系的に整理することである.年齢・時代・コーホートには線形従属の関係があり,識別問題を解消するための制約条件が必須となるが,その分析枠組みは現状においてまとめられていない.そこで本稿では,パラメータの縮小化に着目し,正規分布を事前分布として仮定することで各モデルが表現できることを示す.Intrinsic Estimatorと同等なリッジ回帰モデルは,デザイン行列のランク落ちを純粋に数理的な現象として捉え,すべてのパラメータの2乗ノルムを最小化することで「あらゆる特殊解の平均」に相当する推定値を得る方法である.ベイズ型コウホートモデルとして知られるランダムウォークモデルは,パラメータの1次階差の重み付け2乗和を最小化する制約であり,時系列構造を想定した付加条件というAPCの識別問題を考慮した克服方法となる.他にも等値制約モデルとランダム効果モデルを紹介し,シミュレーションによって各モデルの推定値と,その結果が得られる数理的なメカニズムを検討した.

  • 統計モデリングアプローチ
    清水 裕士, 稲増 一憲
    2019 年 34 巻 1 号 p. 113-130
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,保守‐革新についての政治的態度の母集団分布の形状を推定することである.これまで単項目の政治的イデオロギー尺度によって分布の形状が分析されてきたが,回答の難しさと反応バイアスの影響を強く受けることが指摘されてきた.そこで本研究ではSGEDを態度の事前分布とした一般化段階展開法による項目反応モデルを用いて,反応バイアスを補正する統計モデリングを活用し,母集団分布の形状を推定した.また同時に,政治的知識の程度によって形状がどのように変わるのかを検討した.分析の結果,反応バイアスを除去する前の分布はラプラス分布に似た中に収斂した分布となり,バイアスを補正したのちには正規分布に近づいたが,依然尖度が高い分布となった.また政治的態度による違いが大きく,政治的知識が少ない回答者の分布は中に収斂する一方,多い回答者の分散が大きく,正規分布に比べて尖度が小さい一様分布に近い分布となった.このことから,政治的知識の程度に応じて,周りから受ける影響が異なる態度形成メカニズムが推論できる.

  • Hiroshi Hamada
    2019 年 34 巻 1 号 p. 131-144
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    The purpose of this study is to build a Bayesian model for the income distribution generating process. Mathematical models of income distribution have been developed in the social sciences field; however, these models lack empirical validity. Human capital approaches have been developed to estimate the effect of individual investment on earnings, but those approaches lack rigorous mathematical consistency with the probability distribution of income. There is no appropriate probability model for testing the empirical validity of the theory that can explain the genesis of the distribution through human capital. To solve the problem, we built a generative income distribution model, expressed as a stochastic model, which formally represents human capital theory and a rigorous micro-macro linkage. Using nationwide survey data in Japan, we estimate the posterior distributions of the parameters of the probabilistic toy model using Markov chain Monte Carlo method. Moreover, we try to check the predictive accuracy of the models using the widely appreciable information criteria and the leave-one-out cross-validation. As a result, we conjecture that the predictive accuracy of the theory-based model is as good as that of the generalized linear model and provides interesting information about latent parameters.

研究ノート
  • Attitudes of Residential Young Workers in Iide, Japan
    Shiro Horiuchi
    2019 年 34 巻 1 号 p. 145-152
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    Japan is experiencing the depopulation of many rural areas due to the outmigration of younger residents, who seek higher wages than those accrued from local small- and medium-sized enterprises (SMEs). However, some rural residents appear to be relatively satisfied with their daily lives. Few studies have investigated variations among young residents’ attitudes toward their jobs and personal lives and willingness to remain living in or leave their residential rural areas. This study used open interviews with a group of rural SME workers as the basis for the creation and administration of social surveys among a sample of 220 young workers in Iide, Yamagata Prefecture, Northern Japan. Analyses of the survey results demonstrated that although most respondents were dissatisfied with their work salaries and positions, they expressed satisfaction with their residential communities. Participants who were more willing to remain in their residential rural area had a higher satisfaction from their leisure and progress at work, but also reported a lower satisfaction from their coworkers. Rural SMEs can retain more young workers in rural areas by ensuring a better work-life balance and empowering employees with a greater sense of responsibility.

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