難聴が認知症のリスクとして認識されていても,補聴器もしくは人工内耳を用いた聴覚補償が,認知機能低下/認知症,脳形態に対して有益な効果を示すかどうかのエビデンスは限定的である.聴覚補償の認知機能低下/認知症への効果に関する最新のシステマティックレビューおよびメタアナリシスが2023年に公開され,聴覚補償デバイス使用は,長期的には認知機能低下リスクの19%の軽減,短期的には一般的認知テストスコアの3%の改善と,有意に関連すると報告された.このレビュー内に選出された自研究結果をあわせ,認知機能や脳形態の変化に注目した聴覚補償の意義を概説する.認知症の根治療法は未だ容易には望めないことから,難聴へのアプローチに寄せられる社会的な期待は高まってきており,聴覚補償が認知機能に寄与する効果の検証を続けていく必要がある.
小児のBell麻痺やRamsay Hunt症候群において発症早期の完全麻痺症例では,プレドニゾロン3–4 mg/kgから10日程度で漸減投与した 高用量群は0.5–1.0 mg/kgから10日程度で漸減投与した低用量群と比較して,顔面運動,後遺症ともに有意に改善した.小児においても重症例に対しては発症後早期に高用量のステロイドを投与するべきであると考えられた.
ミラーバイオフィードバック療法とは,鏡を見ながら表情の動きをコントロールし,口運動時の不随意は閉瞼を抑制するリハビリテーションであり,顔面運動回復過程で口運動が見られ始めたら開始する.ミラーバイオフィードバックが十分にできた小児の発症後1年後において,十分に指導ができなかった乳幼児と比較し有意に後遺症が少なかった.小児症例では,脳の可塑性が高いため,ミラーバイオフィードバック療法の効果が高いことが示唆された.
聴器を含む放射線治療後の遅発性合併症として難治性鼓膜穿孔がある.通常の鼓室形成術で3回失敗した症例に対し,有茎耳後部頭蓋骨膜弁を用いた鼓室形成術を行った.術後3年9ヶ月経つが再穿孔はない.蓄積症例が少ないが,難治性鼓膜穿孔症例に対する手術治療法の選択肢の一つを示すものと考える.
浅在化鼓膜例では,例外なく病的な骨増生により骨部外耳道は狭小化しており,浅在化鼓膜の一病態と考えられる.浅在化鼓膜の手術においては,増生した外耳道前壁を可能な限り削除し,十分なanterior tynpanomeatal angle(ATA)を確保することが肝要である.残存する外耳道・鼓膜上皮を全周性に伸長させることも自浄作用を有する外耳道を形成する上で極めて重要で,その方策として露出した骨壁の被覆材料に有茎頭蓋骨膜弁を用いている.
Interlay myringoplasty with anterior subannular grafting technique法は,従来のinterlay法とは異なり前下方の鼓膜輪上の表皮層剥離を行わず,鼓膜輪下の組織を剥離しsubannular pocketを作成する方法である.穿孔閉鎖材料に用いるgraftの一部をsubannular pocket内に挿入することにより,graftへの前方からの血流を確保でき,高い鼓膜穿孔閉鎖率が期待できる.前下方鼓膜輪上の表皮層はそのままでATAが温存されるため,浅在化鼓膜やanterior bluntingが生じるリスクは極めて低いと考えている.