Otology Japan
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32 巻, 1 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
第30回日本耳科学会総会特別企画
テーマセッション11
  • 稲垣 太郎
    2022 年 32 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    良性発作性頭位めまい症(BPPV:benign paroxysmal positional vertigo)は,耳石器から剥脱した耳石が半規管内に迷入して生じ,半規管内の耳石の状態によって半規管結石症(canalolithiasis)とクプラ結石症(cupulolithiasis)に分類できる.頭位・頭位変換眼振検査で特徴的な眼振像を呈することが知られているが,迷入した耳石が半規管内のどの部位にありどのようにふるまうかで眼振の向きや強さ,持続時間に差異が生じてくる.

    ウシガエルの内耳(膜迷路)を摘出してBPPVモデルを作成し,モデル実験にて平衡斑上,半規管内,クプラ接着面での耳石の様子を示した.内耳(前庭)の構造,耳石やクプラの性状を理解し,頭位・頭位変換眼振検査時に半規管や耳石器内での耳石の状況をイメージすることで,日常臨床で観察される眼振所見がより一層有意義な情報になることを期待する.

  • 今井 貴夫, 原田 祥太郎, 猪原 秀典
    2022 年 32 巻 1 号 p. 6-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    横方向に加速した際には両耳間方向に直線加速度が負荷される.頭部を傾斜させた際には両耳間方向に重力が負荷される.アインシュタインの等価原理により重力と直線加速度は区別することができない.しかし,眼が顔の前に二つ並んでいるヒトやサルはこれらを区別し,横方向に加速した際の耳石動眼反射である水平性眼球運動と頭部傾斜時の耳石動眼反射である眼傾斜反応の二種類を使い分けることができる.一方,眼が顔の横に二つ並んでいるマウスではこれらを区別することができず,耳石動眼反射としては眼傾斜反応しか存在しない.よって横方向に加速した際には直線加速度と重力との合力であるgravito-inertial accelerationに反応した眼傾斜反応が解発される.眼が顔の横に二つ並んでいる動物が前に並んでいる動物に進化する際に中心窩および両眼視による立体視を獲得し,それに伴い原始的な耳石動眼反射である眼傾斜反応がもう一つの耳石動眼反射である水平性眼球運動に進化した.

ネクストジェネレーションセッション2
  • 伊藤 卓, 倉田 奈都子
    2022 年 32 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    組織マクロファージは全身のほぼすべての臓器に恒常的に存在し,免疫担当細胞としてのみならず組織における恒常性の維持に関与している.組織マクロファージは主に炎症時に周囲の血管から誘導される炎症性マクロファージとは様々な点で異なる特徴を有している.血管条の組織マクロファージは常に血管条内血管に接して存在しており,血管周囲マクロファージに分類される.血管条内マクロファージは,Blood Strial Barrierのメンバーとして血管透過性の制御を行っている一方,血管内から組織中に侵入した異物や病原体,沈着物,あるいは組織中の老廃物や変性細胞などをいち早く感知し,活性型に移行して貪食する機能を有している.Slc26a4 KOマウスの血管条では過剰な色素沈着とマクロファージの増加が観察され,マクロファージの活性化が色素沈着によって促進されている可能性が示唆された.

ネクストジェネレーションセッション4
  • 岡野 高之
    2022 年 32 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    耳小骨,粘膜ヒダや靭帯で構成される中耳の区画とその換気ルートについては1867年のPrussakの報告までさかのぼる.従来は解剖学や顕微鏡手術の観点から記述されていたが,近年の光学機器の高解像度化により経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES)が実現するにつれて,粘膜ヒダや区画の手術における意義が再認識されている.粘膜ヒダは位置や大きさに個体差があるものの生体において常に存在する構造物であるとともに,各区画の換気ルートや病態を理解するのにあたり,粘膜ヒダと区画の解剖学的構造を正しく認識することが重要となる.中耳の手術は,顕微鏡を使った骨の手術から,内視鏡を使った粘膜ヒダ靭帯の軟部組織の手術への発想の転換が生じている.TEES術前には粘膜ヒダや区画を念頭において病変の進展範囲の十分な評価を行うとともに,病変の除去とともに換気ルートの確保を意識した術式の決定が求められる.

ネクストジェネレーションセッション5
  • 伊藤 卓
    2022 年 32 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    Pendred症候群の原因遺伝子であるSLC26A4により合成されるたんぱく質,pendrinはマウス内耳において蝸牛,前庭,内リンパ嚢で発現している.これまでのSlc26a4 KOマウスの解析から,聴覚障害の原因は血管条障害による内リンパ電位の低下が主たる原因と考えられているが,pendrin発現低下が血管条障害へと至る仕組みや平衡障害の詳細は明らかになっていない.筆者は各種Pendred症候群モデルマウスを用いた様々な実験から,胎生期の内リンパ嚢でのpendrin発現低下は内リンパ腔の拡大と内リンパ液の酸性化を引き起こし血管条の正常な発達を阻害すること,成熟期の蝸牛でのpendrin発現は聴力レベルを安定化させること,pendrin発現低下による平衡障害は耳石器あるいは耳石形態の異常が深く関与していることなどを解明した.また,Pendred症候群でしばしば観察されるMondini奇形,Incomplete partition type IIは蝸牛軸の骨化不全を反映したものであり,蝸牛回転の減少は認められず,蝸牛管の発育停止もごく軽度にとどまることなども明らかにした.

  • 細谷 誠
    2022 年 32 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    Pendred症候群は,家族性の変動性進行性難聴,めまいと甲状腺腫を来す症候群として知られる.難聴と甲状腺腫を生じる疾患として,1896年にVaughan Pendred博士によってLancet誌に報告された症例にちなんで命名された疾患である.以来約120年にわたる研究の歴史があり,特に最近20年の疾患研究の進歩には目覚ましいものがある.しかしながら,症候性難聴の中では最も患者数が多いにも関わらず,いまだに特異的な治療方法はなく,病態生理においても不明な点が残されていた.

    本疾患に対して,当科では2013年よりヒトiPS細胞を用いた疾患研究を開始し,その過程でシロリムスを治療候補薬として同定した.本稿においては,ヒトiPS細胞が本疾患研究にもたらした新しい知見について概説するとともに,iPS創薬研究における薬剤同定後の展開について報告する.

ネクストジェネレーションセッション7
  • 穐吉 亮平, 加我 君孝
    2022 年 32 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    脊椎動物は進化の過程でそれぞれの環境に適応するため中枢神経系を発達させてきた.各脊椎動物の脳の進化の程度は,種により異なることが知られている.これまでそれぞれの脊椎動物の中枢神経や行動の特徴は研究されているものの,進化の過程という観点からそれぞれの脊椎動物の脳機能と種に固有な行動様式に注目した報告は少ない.そこで,それぞれの種で保存される共通の組織形態と進化の過程であらたに構築される組織形態について各脊椎動物の大脳・小脳・脳幹標本を観察した.

    魚類・両生類は終脳に比べ小脳・中脳の割合がボリュウム的に大きく細胞構築像もより複雑であった.魚類,両生類では中脳が高位中枢を担い視覚機能に特化した中脳視蓋が高度に発達したためと考えられた.爬虫類・鳥類・哺乳類では終脳の割合が大きく終脳の表層に明確な層構造を認め樹状突起あるいは軸索を示唆する神経線維が認められた.小脳はすべての種でプルキンエ細胞層を含む3層構造を有し,脊椎動物にとって姿勢・運動の調節が生存のために必須であるためと考えられた.

    個体発生は系統発生を繰り返す(反復仮説)と考えられており,脊椎動物の脳の進化の過程を観察することは,ヒトの脳の起源を探る手がかりを与えてくれる可能性がある.

  • 松田 信作, 加我 君孝
    2022 年 32 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    内耳道底には,蝸牛に向かう蝸牛神経,前庭半規管へと向かう上・下前庭神経と,顔面筋へ向かう顔面神経がそれぞれ通過するラセン孔列と上,中篩状斑,顔面神経管が存在する.骨性篩状構造を呈するラセン孔列と上,中篩状斑について,その役割・発生過程には未だ不明な点が多い.本研究ではヒト側頭骨病理連続切片を用いて,①ラセン孔列や篩状斑を構成する小孔の孔径サイズ,②胎生期の形成過程とその完成時期を,③小脳出血の1症例の出血進展範囲を観察し,骨性篩状構造の形態学的特徴と役割について調べた.

    ①ラセン孔列と上,中篩状斑を構成する小孔の孔径の定量的評価を行なった.その結果,横稜の上方に位置する上篩状斑は,下方に位置するラセン孔列,中篩状斑と比較して小孔の孔径が有意に大きい事が分かった.②蝸牛軸およびラセン孔列の胎生期における完成時期は,ヒト胎児標本の観察を行なったところ,蝸牛神経の形成と蝸牛内への分布が先行し,骨性篩状構造は胎生17週頃から始まり21週には完成すると考えられる.③小脳出血症例を観察したところ,血液は蝸牛鼓室階の内耳道側まで流入していたが,限局的であった.骨性篩状構造の役割は,構成する小孔と骨膜,篩状構造を通る神経と神経周膜などにより密に構成されており,内耳を保護するためのサイズバリアとしての機能がその一つとして考えられた.

第31回日本耳科学会総会特別企画
シンポジウム4
  • 高野 賢一
    2022 年 32 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    人工内耳装用者にとって,最適なマップを得るために人工内耳フィッティング(マッピング)が重要であるが,専門職種や専門医療機関は限られており,遠方から受診することが装用者やその家族にとって負担となっていた.さらに新型コロナウイルス感染症拡大により,移動や受診に伴う感染リスクおよび対面診療による医療従事者の感染リスク軽減の観点から,遠隔医療の導入が加速している.われわれは広大な面積をもつ北海道において,2018年から遠隔マッピングに取り組んでいる.対象遠隔地に在住の装用者は地元の病院を受診し,ビデオチャット用とマッピング用のそれぞれの端末を,大学病院サイトと遠隔サイトでインターネットを介して結び,対面式と遜色ない遠隔マッピングを実施できている.マッピング用ソフトウェアのアップデートにより,概ね常時装用ができている装用者であれば,未就学児も含めて遠隔マッピングの適応が拡がりつつある.

原著論文
  • 松原 彩, 髙木 明, 木谷 芳晴
    2022 年 32 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    癒着性中耳炎に対して鼓室形成術を施行し,術後1年以上を経過観察した59耳についてその成績を検討したので報告する.そのうち,術後5年以上を経過観察した20耳については,さらに長期経過例として考察を加えた.部分癒着と全癒着例の聴力成績は,それぞれ,47耳中36耳(76.6%),12耳中6耳(50%)の成功であった.CTによる乳突蜂巣発育が確認できた 43 耳のうち,乳突蜂巣の発育不良の症例が31耳で,それらの術後成績は21/31耳(67.7%)で成功であった.この内,5年以上経過を追えたのは14耳あったが,10/14耳(71.4%)が成功であり,蜂巣発育が不良であっても長期成績に悪化をきたすことはなかった.癒着性中耳炎は過去の炎症反復や,真珠腫合併など多彩な病態を有し,さらに再癒着防止を考慮する必要があるので,一般に術後成績が不良とされ手術を控える傾向があるが,その聴力成績は他の鼓室形成術同様であることが分かったので報告する.

  • 清水目 奈美, 佐々木 亮, 武田 育子, 三橋 友里, 前田 泰規, 松原 篤
    2022 年 32 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    今回我々はアブミ骨周囲に硬化性病変がある慢性中耳炎に対するアブミ骨手術について検討した.対象は,過去に当科で鼓室形成術を行ったが聴力改善が得られずアブミ骨手術を行った2例である.伝音再建後の術後聴力成績判定基準(2010)に基づき手術成績を評価したところ成功率は50%であった.アブミ骨周囲に硬化性病変がある鼓室硬化症に対する治療に関しては様々な意見がある.アブミ骨可動術により聴力改善が得られるという報告もある一方,内耳障害をきたすリスクもあるがアブミ骨手術が優れているとする報告もある.今回検討した症例のうち1例で術後の鼓膜の内陥とめまいを生じた.鼓室内の状態が良好な場合には人工耳小骨を用いたアブミ骨手術が良い適応と考えるが,鼓膜の穿孔や術後の内陥が懸念される場合には段階的手術を行い,鼓室及び鼓膜の状態が良好とならなければ,やはり補聴器装用の適応と考えられた.

  • 吉田 尚生, 平塚 康之, 草野 純子, 田口 敦士, 大江 健吾, 田中 千智
    2022 年 32 巻 1 号 p. 75-81
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    過去10年間に当科で鼓室形成術を施行した先天性真珠腫新鮮例32耳について臨床検討をおこなった.手術方法は2018年以前は耳後部切開による顕微鏡下手術を主体とし,鼓室洞進展例について内視鏡を併用した.2018年以降は乳突洞に進展がなければ経外耳道的内視鏡下耳科手術を行い,乳突洞に進展があれば顕微鏡下手術をおこなった.その結果,25耳に顕微鏡下手術,7耳に経外耳道的内視鏡下耳科手術が行われた.乳突洞非進展例における治療成功率は顕微鏡下手術が78%,経外耳道的内視鏡下耳科手術が71%であった.乳突洞進展例における顕微鏡下手術の治療成功率は57%であった.段階的手術は81%(26/32耳)に行われ,そのうち38%(10/26耳)に第2次手術で遺残性真珠腫を認めた.

    先天性真珠腫で乳突洞非進展例における各手術方法の治療成績に差はなく,遺残性真珠腫の発見や侵襲性を考慮すると先天性真珠腫に対する内視鏡下耳科手術は有用な方法であった.

  • 安井 徹郎, 野田 哲平, 岡 正倫, 玉江 昭裕
    2022 年 32 巻 1 号 p. 82-86
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    2018年07月から2019年10月までの期間に当院で行なった耳科手術は191例であり,そのうち穿孔閉鎖目的の手術は65例66耳であった.うち6ヶ月以上追跡可能であった60耳を経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal Endoscopic Ear Surgery: TEES),顕微鏡下耳科手術(Microscopic Ear Surgery: MES)に分け,MESをさらに経外耳道的顕微鏡下耳科手術(耳内法MES),耳後切開顕微鏡下耳科手術(耳後法MES)に分けて検討した.

    鼓膜穿孔閉鎖率は95%,聴力改善成功率は95%であり,今回の検討ではTEES・耳内法MES・耳後法MESの各手術法別で閉鎖率および聴力成績に統計学的有意差は認めなかった.

    侵襲度の検討としては手術時間では耳内法であれば鼓膜形成術・鼓室形成術I型ともにTEESおよびMESにおいて有意差はなかった.

  • 森口 誠
    2022 年 32 巻 1 号 p. 87-91
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    当科において2014年7月より2016年12月までに行った顕微鏡下耳科手術(MES)と2017年1月から2020年3月までの間に局所麻酔下日帰り経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES)を行った症例の内,術後1年以上経過観察しえたMES 39例およびTEES 60例について疾患,再建術式,術後聴力成績,術後合併症について検討を行った.日本耳科学会術後聴力成績判定基準(2010)の成績は術式別にMES I型21耳中17耳(81.0%)TEES I型43耳中41耳(95.3%),MES III型14耳中10耳(71.4%)TEES III型15耳中11耳(73.3%),MES IV型4耳中1耳(25.0%)TEES IV型2耳中1耳(50.0%)の成功であった.全体ではMES 71.8%に対してTEES 88.3%の成功であり,有意差を認めたが,TEESでの結果は諸家の報告と同等であった1).術後骨導閾値の上昇や顔面神経麻痺など合併症は特になかったが,それぞれ2耳で再穿孔を認めた.対象とする疾患を選別することによりMESからTEESで行う局所麻酔下日帰り手術へと移行していったことは結果において妥当であると考えられた.

  • 小林 泰輔, 伊藤 広明, 小森 正博, 兵頭 政光
    2022 年 32 巻 1 号 p. 92-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    耳小骨離断は主に頭部外傷や先天性奇形によって引き起こされる.中耳の感染がなく,術野は中耳に限られているため,経外道的内視鏡下耳科手術(TEES)が適切な手術方法と思われる.本研究では,当施設における耳小骨離断に対する鼓室形成術の結果を後ろ向きに調査した.対象は,当施設で約10年間にTEESで手術を受けた耳小骨離断症例20人,22耳である.病因は,先天性耳小骨奇形13耳,外傷性耳小骨離断7耳および術後性耳小骨離断2耳である.平均術前聴力は56.1(±17.9)dB,術後は30.2(±22.6)dBに改善し,統計学的に有意差を示した.日本耳科学会の聴力成績判定基準によると,22耳のうち20耳(90.9%)が「成功例」であった.外傷性耳小骨離断と先天性耳小骨離断の間に聴力改善に有意差はなかった.顔面麻痺,めまい,骨導閾値の上昇などの合併症はなかった.TEESは,耳小骨離断の治療において適切な手術方法と考えられる.

  • 西平 弥子, 坂田 俊文, 妻鳥 敬一郎, 三橋 泰仁, 宮崎 健, 河野 浩万
    2022 年 32 巻 1 号 p. 98-106
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    耳管疾患の耳管機能は短時間で変化することがある.そのため診療時間内に耳管機能を正しく評価することは必ずしも容易でない.近年普及し始めたコーンビームCTは診断の一助となるが,その価値は定まっていない.そこで本研究では,耳管開放症または耳管閉鎖不全を診断する上で,コーンビームCTの有用性を検討した.

    コーンビームCTにて計測した①耳管の閉鎖帯長,②耳管咽頭口容積,および音響法による③耳管開放時間の3つを説明変数としたロジスティック回帰分析の結果,判別的中率は76.6%と高くはなかった.次に各説明変数のR0C曲線からcutoff値を求め,1点か0点でスコア化したところ,スコア合計3点,2点,1点,0点に占める耳管開放症または耳管閉鎖不全の割合は,それぞれ94.1%,45.8%,24.8%,18.2%であった.コーンビームCTは診断学的に一定の有用性があるものと考えられた.

  • 濵本 真一, 福島 久毅, 原 浩貴
    2022 年 32 巻 1 号 p. 107-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    好酸球性中耳炎は高率に気管支喘息を合併し,好酸球浸潤が著明な膠状の中耳貯留液が特徴的な難治性中耳炎である.治療抵抗性の重症例に対する治療法はまだ確立されていない.近年,難治性の気管支喘息において抗インターロイキン-5(IL-5)抗体薬が保険適応となり,併存疾患である好酸球性中耳炎や好酸球性副鼻腔炎に対してもその有効性が報告されている.今回,抗IL-5抗体薬を導入した好酸球性中耳炎の3症例を経験した.中耳病態が,慢性中耳炎穿孔型の症例では良好な経過を認めたが,慢性中耳炎肉芽型で肉芽形成が著明な症例では,耳漏や肉芽が遷延し,重症度スコアの著しい改善は得られていない.本剤の中耳局所への効果は,下気道や副鼻腔病変と比較し十分な好酸球性炎症の抑制効果が得難く,肉芽形成が著明な症例ではその効果は乏しい傾向が示唆された.

  • 神田 裕樹, 森口 誠, 角南 貴司子
    2022 年 32 巻 1 号 p. 115-120
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    孤発性線維性腫瘍(Solitary Fibrous Tumor:以下SFT)は稀な間葉系細胞由来の腫瘍であり胸腺・腹膜等に発生が多く報告されている.耳科領域においては外耳道での発生の報告がある.今回,我々は診断的加療を目的に手術加療を施行し,SFTの診断に至った中耳腫瘍症例を経験したので報告する.症例は52歳,女性で難聴を主訴とした.鼓膜所見および画像所見より中耳腫瘍を認めたために,乳突削開術,腫瘍摘出,鼓室形成術を施行した.術後病理ではSFTの診断であり,悪性所見は認めなかった.術後1年後に再発を認め,再度摘出術を行った.再手術後3年を経過するが再発は認めていない.

  • 村尾 拓哉, 大脇 成広, 大江 祐一郎, 清水 猛史
    2022 年 32 巻 1 号 p. 121-128
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    骨巨細胞腫は良性の骨腫瘍で,四肢長菅骨に好発するが,側頭骨に発生することは稀である.治療は,完全な外科摘出である.切除不能例,不完全切除例,再発例に対して放射線治療が行われるが,放射線感受性や悪性転化の観点から依然議論の余地がある.骨巨細胞腫は再発率が高く,肺転移を起こすことがあるため,長期的な経過観察が必要である.我々は伝音難聴をきたした側頭骨巨細胞腫を発症した45歳男性の症例を経験した.耳鏡検査で腫瘍により右外耳道は閉塞し,純音聴力検査で53.3 dBの右伝音難聴を認めた.画像検査で右側頭骨を主座とし,頭蓋内や下顎窩まで骨破壊性に進展する腫瘍を認め,生検で骨巨細胞腫と診断された.術前に栄養血管を塞栓し,腫瘍を全身麻酔下で全摘出した.術後放射線治療を50 Gyで施行した.術後に外耳道閉塞は消失し,聴力は25 dBまで改善した.術後1年現在,臨床所見,画像所見で腫瘍の再発を認めていない.

  • 高橋 優宏, 岩崎 聡, 吉村 豪兼, 古舘 佐起子, 岡 晋一郎, 西尾 信哉, 宇佐美 真一
    2022 年 32 巻 1 号 p. 129-135
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    一側伝音・混合性難聴症例に対し臨床研究「一側性伝音・混合性難聴に対する埋め込み型人工中耳の有効性に関する探索的臨床試験」において人工中耳(Vibrant Soundbridge®: VSB)埋込み術を4例施行した.

    本邦における人工中耳臨床試験(両側難聴)と同様に裸耳骨導閾値はいずれの周波数においても維持され変化がみられず,装用後6ヶ月での安全性が確認できた.さらに4例とも人工中耳臨床試験(両側難聴)と同様に良好な自由音場装用閾値を示し有効性が確認された.また,本研究における騒音下での語音弁別,方向定位検査も良好な結果であり,一側性伝音・混合性難聴症例において人工中耳VSBの有効性が示唆された.今後,本邦での適応拡大が期待される.

  • 小林 万純, 吉田 忠雄, 杉本 賢文, 曾根 三千彦
    2022 年 32 巻 1 号 p. 136-142
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/25
    ジャーナル フリー

    蝸牛軸近接型のSlim Modiolar電極(CI532/632)は,蝸牛外側壁に設置するSlim Straight電極(CI522/622)と比較して術後成績の改善が得られ,蝸牛の損傷リスクや鼓室階から転座する可能性も低いとされる.一方,手術手技においてシース挿入の難易度が高いこと,tip fold-overを起こしうることが問題とされる.当科で最近1年間に施行されたCI532/632挿入例31耳とCI522挿入例を比較した.CI532/632挿入例では正円窓を拡大して電極を挿入した症例が多く,術中Neural response telemetry(NRT) 閾値や術後半年後のインピーダンスは蝸牛頂周辺電極でより低かった.手術時間や術後の短期的な聴取成績に差は見られなかった.CI532/632を挿入する際は正円窓経由で電極を無理に挿入することで先端の屈曲をきたす危険があるため,後鼓室を広く開放し正円窓周辺の骨突出部を削除し正円窓窩を露出した後,さらに卵円窓側の骨を十分に削除し,必要に応じて正円窓を拡大することとしている.今回CI532/632挿入例はCI522挿入例と比較して半年後の装用効果に有意差は認めなかったが,短期的にはNRT閾値やインピーダンスは良好であった.渉猟しうる限りSlim Modiolar電極の装用効果は良好であるという報告も踏まえ,今後長期的な検討は必要だが,正常蝸牛例ではSlim Modiolar電極はSlim Straight電極の代替となりうると考えられた.

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