Otology Japan
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32 巻, 3 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
第31回日本耳科学会総会特別企画
シンポジウム1
  • 川島 慶之
    2022 年 32 巻 3 号 p. 275-282
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    多くの急性感音難聴において,その病態は不明あるいは不確定である.近年,主にMRIの画像診断技術の進歩により多くの急性感音難聴疾患において特徴的な画像所見が可視化されるようになったが,難聴の病態と画像所見の関連については未解明な点が多い.本稿では,最近当科で得られた興味深い急性感音難聴症例のMRI所見の中から,1)脳表ヘモジデリン沈着症で見られるT2*強調画像または脳槽撮影における脳表および内耳神経周囲の低信号,2)突発性難聴で見られる内耳道内の血管ループ,3)各種の急性感音難聴で見られる内リンパ水腫像,4)聴神経腫瘍および迷路内神経鞘腫で見られる遅延造影3D FLAIRにおける内耳の著明な高信号についてまとめて報告する.

シンポジウム2
  • ―デバイス使用に関するアルゴリズム提案―
    神崎 晶
    2022 年 32 巻 3 号 p. 283-287
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    伝音難聴や混合性難聴に対して,さまざまな医療機器デバイスが開発されてきた.2021年には埋め込み補聴器であるBone anchored hearing aid(BAHA)も適応が拡大され,同年秋には,皮膚上に貼付するAdhear(アドヒア)や埋め込み補聴器であるBone Bridgeなどが国内で承認された(以下は略)

    従来からある骨導補聴器や聴力改善手術に加えて,さらに選択肢が増えたという点で喜ばしいことである.

    従来の骨導補聴器は以下のような欠点があった.1)耳周囲の皮膚に振動子を当てるため,皮膚や皮下組織に振動エネルギーが吸収されて伝音効率が悪い.個人差と周波数によっても差があるが10–15 dBの損失があり,特に高音域では加振力不足が生じる1)こと,2)強く押し当てる必要があるため装用には痛みを伴うこと,これらの短所を補うべく新しいデバイスには改良が加えられている.

    ただし,各デバイスにも長所短所があることや適応もオーバーラップしていることから,各デバイスを用いた治療を整理して考える必要があり,当然のことながら,患者にもわかりやすく提示したうえで選択してもらうのが望ましい.以上の点をふまえて本稿では各デバイスの特徴をまとめ,アルゴリズムを提案する.

特別企画「伝承したい私の極意・技」
原著論文
  • 仲野 敦子, 有本 友季子, 外池 百合恵
    2022 年 32 巻 3 号 p. 299-303
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行が小児滲出性中耳炎に及ぼした影響について,2019年度と2020年度に千葉県こども病院で実施した鼓膜換気チューブ留置術(以下,チューブ留置術)症例を後方視的に検討した.

    チューブ留置術は,2019年度は106件から2020年度は63件(59.4%)に減少していた.口蓋裂合併例は33例から31例ほぼ変化がなく,口蓋裂合併症例を除くと,2019年度73例から2020年度32例(43.8%)に減少していた.特に低年齢での手術症例が減少していた.

    チューブ留置術の減少は,COVID-19流行による受診控えなどの要因も考えられたが,COVID-19感染対策が小児滲出性中耳炎の発症や遷延化に対しても影響を及ぼしていたと考えられた.その一方で口蓋裂合併症例では,滲出性中耳炎の発症及び遷延化の要因として耳管機能障害があり,感染の関与が少ない可能性が示唆された.

  • 内田 真哉
    2022 年 32 巻 3 号 p. 304-310
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    近年,難治性の滲出性中耳炎や癒着性中耳炎にたいしてsubannular tube(SAT)の挿入が行われている.当科にて緊張部型真珠腫を含めた中耳換気障害例全般に対して,内視鏡とカーブドリルを用いてSATを挿入する方法,内視鏡下鼓膜輪下チューブ挿入術を考案した.

    2016年8月から2020年10月までの期間に,当科で内視鏡下鼓膜輪下チューブ挿入術を施行した24耳を対象とした.平均病脳期間は5.8年,平均観察期間は31ヶ月であった.チューブ留置率は41.7%,平均留置期間は17.2ヶ月であった.緊張部鼓膜所見が良好に経過している例が全体の83%であったが,緊張部鼓膜に問題のあった4耳はすべて再手術をした.鼓室形成術を併施した13例における耳科学会聴力判定基準での成功率は84.6%であった.本術式は術後早期の感染に注意すれば,難治性中耳換気障害に有効な方法として推奨できる選択肢の一つである.

  • 佐藤 公宣, 三橋 亮太, 三橋 敏順, 田中 久一郎, 梅野 博仁
    2022 年 32 巻 3 号 p. 311-319
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    Transcanal-infrapetrosal approachは外耳道前壁を削開し内頸動脈の外側からドレナージルートを作成する錐体尖コレステリン肉芽腫のアプローチ方法である.経外耳道的内視鏡下耳科手術でのTranscanal-infrapetrosal approachにより治療した錐体尖コレステリン肉芽腫を報告する.症例は13歳男性,主訴は左難聴と耳漏であった.内頸動脈の外側まで進展し耳管を閉塞する錐体尖コレステリン肉芽腫に対してTranscanal-infrapetrosal approachでドレナージルートを作成した.術後は中耳腔の含気と耳管通気が確認され,コレステリン肉芽腫は縮小していた.Transcanal-infrapetrosal approachは,内頸動脈の外側まで進展する錐体尖コレステリン肉芽腫に対して内視鏡下でも安全にドレナージルートを作成できる術式と考えられた.

  • 笠原 健, 西山 崇経, 中山 梨絵, 小澤 宏之
    2022 年 32 巻 3 号 p. 320-327
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    中耳外傷により耳小骨まで損傷が及ぶ例は多くなく,特にアブミ骨底板が卵円窓に陥入したという報告は外傷性耳小骨損傷の7.7%~19.0%と比較的少ない.今回,左耳かきによりアブミ骨が卵円窓へ陥入し外リンパ瘻を伴った症例を経験した.術前に55 dBの混合性難聴を認め,激しいめまい症状を認めた.来院当日に手術加療を行い,術中はアブミ骨が卵円窓へ深く陥入し整復困難であったため摘出し,アパセラム耳小骨Cにて伝音再建を行った.術後めまいは速やかに改善し,聴力も徐々に改善した.アブミ骨の卵円窓への陥入が軽度な症例は,アブミ骨の整復のみで治療が可能という報告があるが,本症例のようにアブミ骨が深く卵円窓へ陥入している症例に関しては,アブミ骨摘出を伴う伝音再建術が必要となる.アブミ骨摘出を要する症例では術後聴力改善が得られない症例も少なくなく,術前から聴力予後が悪い可能性についての説明が重要であると考えられた.

  • 安本 眞美, 山崎 博司, 藤原 敬三, 濵口 清海, 道田 哲彦, 戸部 陽太, 上田 啓史, 内藤 泰
    2022 年 32 巻 3 号 p. 328-332
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    人工内耳を長期装用している高齢者において,その有用性と課題について後方視的に検討した.対象は当科において人工内耳植込術を施行した成人中途失聴者で,10年前に65歳以上で人工内耳を装用していた22名のうち,通院を自己中断した1名を除外した21名とした.これらの患者について,現在の装用状況,人工内耳装用効果,語音聴取成績の年齢による変化を後方視的に検討した.21名中15名は現在も人工内耳装用を継続しており,多くの症例で良好な装用効果が維持されていた.経過中の死亡が3名あったが,生前の装用効果は良好で,最期まで人工内耳を装用していた.装用中止が3名あり,いずれも語音聴取成績が不良で,人工内耳を活用できていなかった.また語音聴取成績の年齢による変化をみると,後期高齢者に至るまでは安定して良好な成績が得られていたが,その後は加齢に伴い聴取成績低下の傾向がみられた.

  • 矢野 輝久, 白井 杏湖, 河野 淳, 冨岡 亮太, 服部 和裕, 塚原 清彰
    2022 年 32 巻 3 号 p. 333-338
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    人工内手術合併症の一つとして,インプラントの位置の移動が挙げられる.今回,小児両側同時人工内耳手術後に,インプラント本体が頭側へ偏移した症例を経験したので,手術時の固定法や術後の注意点などの考察を踏まえて報告する.症例は1歳7ヶ月女児.両耳同時人工内耳植え込み術(コクレアCI522)を施行した.手術中のインプラントの固定は,インプラントシートと骨膜ポケットのみであった.手術後は俵状のガーゼと包帯で創部を圧迫し,感染や皮弁部の血腫などは認めなかったため,術後4日目に退院した.術後10日目再診時にインプラントが頭側に偏移していた.初回手術から1ヶ月後にインプラント位置修正のために再手術を施行し,tie down法でインプラントを固定した.両側同時手術で,特に術後に安静を維持できない小児症例の場合,術後圧迫のための包交や,圧迫そのものが,インプラントの偏移の原因となった可能性があり,圧迫法に注意を要する.偏移を予防するためには,インプラントの固定方法としてtie down法による追加固定が有用であると思われる.

日本耳科学会保険医療委員会報告
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