Otology Japan
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最新号
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第32回日本耳科学会総会特別企画
テーマセッション5
  • 三谷 彰俊, 岩井 大
    2023 年 33 巻 3 号 p. 137-146
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    超高齢社会である本邦において,加齢性機能障害のない健康長寿の維持は大きな関心事である.加齢性機能障害の一つとして加齢性難聴があるが,難聴の進行予防法はいまだ確立されていない.こうしたなかで最近,老化システムに免疫老化が関与することが明らかになってきた.免疫系は加齢に伴い機能不全に陥るシステムの1つであり,免疫担当細胞の機能低下により本来,炎症反応によって処理されるべき酸化化合物,炎症性化合物が処理されずに蓄積する.これらの老廃物の蓄積により炎症は遷延して慢性化する.さらに加齢性慢性炎症は持続的な酸化ストレスを引き起こす.こうした免疫老化,慢性炎症,酸化ストレスの悪循環は最近“Oxi-Inflamm-Aging”と呼ばれるようになった.実際,若齢マウスの骨髄細胞や脾細胞の接種やnaïve T細胞の供給により加齢性難聴が予防できることが報告されている.これらの知見から,加齢性難聴発症の機序と予防の臨床応用を検討した.

テーマセッション6
  • 寺岡 正人
    2023 年 33 巻 3 号 p. 147-150
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    Ramsay Hunt症候群(以下Hunt症候群)は難治性顔面神経麻痺の原因の一つであり,新たな治療戦略の構築が求められている.Hunt症候群克服のためには,①早期診断と早期治療,②新たな抗ウイルス治療の確立,③発症予防が重要となる.早期に治療を開始することで治癒率向上が期待できるが,無疱疹性帯状疱疹(Zoster sine herpete: ZSH)をはじめとした非典型例では初診時にBell麻痺との鑑別が困難であり,臨床経過に基づいた実践的治療も必要となる.また,早期に耳鼻咽喉科を受診し,専門的な治療を速やかに開始できるよう顔面神経麻痺の認知度を高めるよう社会への啓発も望まれる.Hunt症候群に対しては,帯状疱疹ワクチンによる発症率の抑制や合併症の軽減が期待できる.日本ではOka株を起源とした生ワクチンである乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」®とVZV表面の糖蛋白EにアジュバントAS01が添加されたサブユニットワクチンであるシングリックス®が50歳以上で適応となっている.

特別企画「伝承したい私の極意・技」
原著論文
  • ―「人工聴覚器のための語音聴取評価検査」iCI2004を用いた検討―
    松田 悠佑, 上江 愛, 山田 悠祐, 津曲 省吾, 市原 さくら, 野尻 尚, 高木 嶺, 東野 哲也
    2023 年 33 巻 3 号 p. 155-160
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    日本耳科学会は2019年に「人工聴覚器のための語音聴取評価検査」iCI2004を作成した.この検査は単音節検査と単語検査からなる.単語は論理的補完がはたらいた上で回答を得るため,単音節より良好な正答率を示すとされる.今回,人工内耳例を対象に単音節と単語の正答率を比較した.対象を成人群n = 50,小児群n = 50,単語のみ群n = 4に分け,比較した.結果,成人群の単音節:平均52.1%,単語:平均72.8%,小児群の単音節:平均57.2%,単語:平均80.1%であり両群とも有意差をもって単語が良好であり,両検査の成績差は20%程度の差を示した.また,単音節と単語の正答率は成人群,小児群,単語のみ群の3群間において有意差を認めなかった(p > 0.05).また,検査は単音節より単語にて低年齢で実施が可能であった.対象が低年齢であれば単音節での検査を実施するのに困難な場面も多く存在するわけであるが,今回の検討に用いたiCI2004の単語検査は単音節検査よりも低年齢での実施が可能であり,単音節検査の実施が困難なCI装用児への有用性が示され,CI術後のマッピングやその後の経過予測に活用できる語音聴取能の評価が可能であると思われる.

  • Distal(蝸牛頂側)の電極非活性は,なぜ聞こえを大きく低下させるのか?
    田村 薫, 金丸 眞一, 金井 理絵
    2023 年 33 巻 3 号 p. 161-169
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    人工内耳電極において,Distal部(蝸牛頂側)電極の非活性が聴取能を大きく低下させる理由を検討した.日本語子音は先行子音と後続母音で構成される.67S語音検査の子音の聴取を先行子音と後続母音に分けて分析した.Distal連続7本非活性化は,他の部位に比べて,先行子音と後続母音の聴取が著しく低下し,特に,後続母音への影響が大きかった.サウンドスペクトログラムとフォルマント分析を用いて,後続母音の第1,第2フォルマント(F1, F2)周波数を測定し,実験マップで入力される電極を分析した.その結果,Distalの非活性化は,母音の弁別に主要な働きをするF1,F2両者の入力場所が蝸牛基底部へとシフトし,周波数情報に歪みをあたえ,弁別の低下を引き起こすことがわかった.電極非活性化部位を「cochlear dead region」と考えると,蝸牛の有毛細胞や神経の損傷が,蝸牛基底側より,蝸牛頂側に存在するほうが,母音の周波数情報の欠落やゆがみを起こし,より日本語の聴取に影響を及ぼすと推察できる.

  • 浦本 怜奈, 松本 希, 土橋 奈々, 野田 哲平, 小宗 徳孝, 中川 尚志
    2023 年 33 巻 3 号 p. 170-174
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    細径の蝸牛軸巻き付き型の人工内耳電極は挿入時に蝸牛内で屈曲(tip fold-over)することがある.この問題は電極が曲がる向きと蝸牛が曲がる向きが一致しないミスアライメントという状態のときに起こりやすい.このため,執刀医は電極のコイル平面をなるべく蝸牛のコイル平面に一致させて電極を挿入する必要がある.われわれは,手術中に視認できるキヌタ骨を利用して蝸牛コイル平面を想定する方法を検討した.

    2017年から2021年の期間に,一人の執刀医が施行した人工内耳植込み術症例のうち内耳奇形症例を除外した65耳(右29耳,左36耳)について検討した.キヌタ骨平面と蝸牛コイル平面が為す角度をキヌタ-蝸牛角と定義し集計した.キヌタ-蝸牛角は平均では34.6°であった.左右および手術時年齢による統計的な有意差は見られなかった.本研究により,手術中に確認できるキヌタ骨平面を利用して蝸牛コイル平面を正確に想定することが可能とわかった.

  • 矢部 響樹, 樫尾 明憲, 浦中 司, 小山 一, 山岨 達也
    2023 年 33 巻 3 号 p. 175-180
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    当院でSlim Modiolar電極(CI532/632)を挿入した62症例のうち4例でtip fold overを生じたため,電極挿入経路,tip fold overの頻度,手術手技,その要因などについて検討した.電極挿入経路の内訳は,cochleostomy 0耳(0%),round window approach 48耳(64%),extended round window approach 27耳(36%)であった.電極のtip fold overは4耳(5.3%)に認められた.Tip fold overをきたした4例のうち3例はround window approach,1例はextended round window approachであった.Tip fold overをきたした当科の4症例では挿入時に蝸牛窓膜が十分明視下におかれず,挿入時に先あたりも疑われており,蝸牛窓入口部にシースが接触しシースから電極が脱出した状態で挿入してしまった可能性が考えられた.このことからround window approachではシース挿入時に十分な視野を確保するか,それが困難な場合はextended round window approachを選択し,シースを蝸牛窓内に確実に挿入するように心掛ける必要があると考えられる.また先あたりを認めた場合は一度シースを抜きシースから電極が脱出していないことを確認する必要があると考えられる.

  • 村上 諄, 増田 正次, 濵之上 泰裕, 齋藤 伸夫, 坂本 龍太郎, 松田 雄大, 小野 修平, 尾川 昌孝, 木村 泰彰, 阿部 陽夏, ...
    2023 年 33 巻 3 号 p. 181-190
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    音響耳管法(音響法)の外耳道音圧上昇値または耳管開大持続時間が耳管通過性の評価能を有しているか検討した.鼓膜穿孔を有する57耳を対象に,耳管機能検査装置により音響法,通過性テストを記録した.通過性テストにおいて耳管機能正常型,狭窄型,開放型耳を各々70%,28%,2%認めた.外耳道音圧上昇値と通過性の定量的指標である受動的開大圧(POP)間では相関係数r = –0.50(p < 0.0001),開大持続時間とPOP間ではr = –0.46(p = 0.0004)と負の相関を認めた.音響法の2変数いずれにおいても通過性の予測能を示すROC曲線下面積 は0.78であり,通過性が予測可能であった.外耳道音圧上昇値のカットオフ値を8 dBと設定すると,音響法狭窄型耳は通過性もオッズ比19.1と高リスクで狭窄型であった.音響法において非狭窄型耳の94%は通過性も非狭窄型であった.音響法は定性的な能動的開大能に加えPOPと相関した通過性の評価能も有していることが示された.

  • 小川 高生, 川出 早紀, 浅井 久貴, 植田 広海
    2023 年 33 巻 3 号 p. 191-196
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    外傷性外リンパ瘻ではどのような症例を手術適応とするか,どのような術式でいつ手術を行うか検討が必要である.今回綿棒が刺さり左耳を受傷し難聴とめまいを生じたが,アブミ骨手術を施行し改善した症例を経験した.初診時,左鼓膜穿孔と自発眼振がありCTではツチ・キヌタ関節の離断と前庭内気腫が疑われた.伝音難聴を認めたが骨導閾値の上昇は認めず,保存的治療をまず行った.めまいは消失したが,8日目に骨導閾値の上昇が出現したため,準緊急的に手術を行った.キヌタ骨を摘出し,アブミ骨も底板全体が脱臼していたため摘出した.生理食塩水を注入し前庭内の気腫と置換した.卵円窓を結合織で覆いその上にマレウスアタッチメントピストンを立て,ツチ骨頸部に固定し,鼓膜穿孔は側頭筋膜をアンダーレイで挿入し閉鎖した.術後聴力は著明に改善し,めまい・眼振も消失した.外傷性外リンパ瘻における手術の時期や術式について考察を行った.

  • 中本 実沙, 草間 薫, 中溝 宗永, 野中 学
    2023 年 33 巻 3 号 p. 197-202
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    過長茎状突起症は,茎状突起の過長や茎突舌骨靭帯の骨化により,咽喉頭や頸部に種々の不快な症状を来す疾患である.今回我々は過長茎状突起症が原因で発症したと考えられる顔面神経麻痺が手術により完治した極めて稀な症例を経験した.症例は30歳男性で,嚥下時の右耳下部痛を主訴に初診し,CTで両側過長茎状突起を認めた.初診の翌日より右顔面神経麻痺が出現し,発症7日目からステロイド漸減療法を行った.顔面神経麻痺の原因部位は鼓索神経分岐部より末梢で,茎乳突孔から茎状突起基部の間と考えられた.13日目に顔面表情筋スコアが8/40点,ENoGが0%になったため,右顔面神経減荷術と茎状突起切除術を施行した.術後14か月目に顔面表情筋スコアが40/40点となり,顔面神経麻痺は完治した.また嚥下時の右耳下部痛も消失した.自験例と過去に報告された論文をまとめると,茎状突起切除術に加えて顔面神経減荷術を施行することは過長茎状突起症に併発する顔面神経麻痺に有用と考えられた.

新規医療委員会報告
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