陸水学雑誌
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57 巻, 3 号
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  • 芳賀 裕樹, 永田 俊, 坂本 充
    1996 年 57 巻 3 号 p. 213-223
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    中栄養な環境にある木崎湖と琵琶湖でアンモニアの再生速度と取り込み速度の日周変化及び季節変化を,15N-同位体希釈法を用いて調べた。
    木崎湖で夏(7月及び8月)にアンモニアの再生速度と取り込み速度の日周変化を調べたところ,いずれの速度も明確な日周変動パターンを示さず,再生速度:取り込み速度比(R:U比)は一日を通して常にほぼ1になった。この結果は,木崎湖では夏の間,有光層中に再生されたアンモニアが,光の強度に関係なく速やかにプランクトン群集によって消費されることを示している。サイズ分画法を用いて<1μm画分のアンモニア再生速度の日周変化を8月に測定したところ,再生速度は一日を通じてほとんど変化せず,バクテリアとその捕食者群集が速やかなアンモニアの回転の原動力となっていたと考えられた。
    木崎湖と琵琶湖でアンモニアの再生速度と取り込み速度の季節変動を調べたところ,いずれの湖においても両速度が夏に最大となることが見いだされた。回帰分析の結果,水温や栄養塩濃度,クロロフィル濃度はアンモニアの取り込み速度を規定する重要な要因とはなっていなかった。水温,栄養塩やクロロフィル濃度の変動に関わらず,木崎湖と琵琶湖では常にアンモニアの取り込み速度と再生速度の比がほぼ1(0.95±0.31,n=18)となり,植物プランクトンは有光層中に再生されたアンモニアを常に最大限の速度で取り込んでいることが明らかになった。
    本研究の結果は,中栄養湖でも貧栄養湖や海洋と同様に,植物プランクトンに対する主要なアンモニアの供給過程が有光層中の生物群集が行うアンモニアの再生であることを示している。
  • 矢島 久美子
    1996 年 57 巻 3 号 p. 225-233
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    貧栄養山岳湖沼におけるセッキ板透明度の影響因子を評価するために,尾瀬沼の1990年~1992年の7項目の水質指標;セッキ板透明度・水温・化学的酸素要求量・懸濁物質・全窒素・全燐・クロロフィルaを用いて,主成分分析を実施した。主成分分析における第一主成分の因子負荷量は,セッキ板透明度・水温・懸濁物質・全燐・クロロフィルaで大きく,植物プランクトン量の因子と考えられた。化学的酸素要求量・全窒素は第二主成分との相関が高く,この湖では自然由来の因子が第一主成分の因子とは異なる挙動を示すことが示唆された。セッキ板透明度は,懸濁物質・全燐・クロロフィルaの3項目を独立変数とした重回帰分析によりほぼ予測されることから,透明度はこの湖の富栄養化の指標として信頼できるものと考えられた。この湖の富栄養化速度を簡便に評価するために,透明度の時系列解析を応用した。透明度は1965年~1990年の26年間に,0.065m・yr-1又は,1.2%・yr-1の速度で減少していた。透明度の減少傾向の一因として,観光客由来の燐の蓄積による湖水中の全燐濃度の上昇,それによる植物プランクトン量の増加が考えられた。
  • 野原 精一
    1996 年 57 巻 3 号 p. 235-243
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    屋外コンクリート池のハス人工群落において生育過程ついて調べた。地上部:地下部比(T/R比)は0.3から3の範囲にあった。ハスは多年生植物であるが,一年生草本と同じように生育期間の後期になって繁殖器官である蓮根(塊茎)の形成を始め,塊茎の寿命は一年以下であった。最大相対成長速度は0.037g・g-1・day-1であった。最大葉面積指数は8月に7m2・m-2になり,その時浮葉と抽水葉の葉数は同じであった。浮葉の葉面積指数は1を越えなかった。
    地下部の初期密度を変えて葉群と現存量へに与える影響について調べた。浮葉の葉柄長は葉密度に影響されなかった。未展開時の葉の死亡率は葉密度に依存していた。浮葉の密度調節は未展開時と充分に展開した後期の2度行われていた。人工群落は約400g乾重・m-2以下の塊茎密度の時,地下部の当年の生産は正の値になると思われた。高いT/R比,伸張速度の大きいストロン,寿命の短い塊茎というパイオニア植物的な性質をハスは持っていた。
  • 高村 典子, 石川 靖, 三上 英敏, 三上 一, 藤田 幸生, 樋口 澄男, 村瀬 秀也, 山中 直, 南條 吉之, 猪狩 忠光, 福島 ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 245-259
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    湖水の栄養レベルの異なる日本の31湖沼34水域で,おのおのの湖の表層水中に出現した細菌,ピコシアノバクテリア,真核性ピコプランクトン,小型鞭毛藻(虫)(<20μm),そして繊毛虫の密度を水温が律速しない時期(原則として春,夏,秋の3回)に調べ,湖水の栄養塩濃度との関係,または微小生物問の密度の関係を検討した。その結果,細菌の密度と繊毛虫の密度が,ともに全リン量,全窒素量,クロロフィルa量(全量,>10μm,2-10μm,<2μm)と正の相関を示し,TN:TP比と負の相関を示した。細菌の密度と繊毛虫の密度は,おのおの全リン量(γ2=0.51)およびクロロフィルa量(γ2=0.34)の一次回帰式として表すことで,最も高い決定係数が得られた。今回求めた決定係数は,従来の報告ほど高くはなく,両者の問には,従来言われているほど緊密な関係はない,と考えられた。しかし,一次回帰式の傾きとY切片は,従来の報告値と大きく異なることはなかった。鞭毛虫の密度は,過去の報告より低めで,従来報告されているように細菌の密度と密な関係は得られなかった。各湖沼のピコシアノバクテリアの密度の最大値は104 cells・ml-1未満の湖沼(湯の湖と丸池)を除外すると,全リン量と正の(γ=0.40,n=32,P=0.021),TN:TP比(γ=-0.51,n=32,P=0.0028)と負の相関を示した。真核性ピコプランクトンは,湯の湖と阿寒湖で多く観察され,全リン量が7mg・m-3未満の貧栄養湖には出現しなかった。<2μm,2-10μmおよび>10μmのクロロフィルa量は,全リン量にたいする一次回帰式で表すことができた。これらの回帰式から,<2μmのクロロフィルa量は,それ以上のサイズ分画に比べると,全リン量の低い湖水でより高く,単位全リン量あたりのクロロフィルa量の増加率はより低くなった。<2μmのクロロフィルa量は,ピコ植物プランクトンの密度と相関をもたなかったため,<2μmのクロロフィルa量がピコ植物プランクトンの総量を表すかどうかについて,その中味の検討が課題になった。
  • 大塚 泰介, 岩崎 敬二, 熊谷 明生, 小西 民人
    1996 年 57 巻 3 号 p. 261-266
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    琵琶湖南湖東岸の抽水植物帯の面積を実測調査した。抽水植物帯のうち約65%はヨシを優占種とする群落だったが,ウキヤガラ,マコモ,キシュウスズメノヒエ,ヒメガマ,フトイの各種が優占種になっていた場所もあった。抽水植物帯の面積は1981年から1995年までに半分以下に減少し,衰退が近年になって急激に進んでいる事が確かめられた。群落の衰退の原因としては湖岸・湖中堤建設の影響が大きいと考えられたが,他に藻類の打ち寄せ,水位変動など多くの原因が考えられた。ヨシ群落の株立ち化が多くの場所で観察された。株立ちの内部では稈の密度が著しく高かった。
  • 平松 和也
    1996 年 57 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    定着性の巣網をもつウルマーシマトビケラの巣室長を用いて,齢期及び個体重(湿重)の推定を試みた。3~5齢幼虫の巣室長と湿重量は,3・4齢では十分な相関が認められなかったが,5齢については回帰式y=0.395x1.624で高い相関が認められた(Y=0.731)。しかし,巣室長からの齢期の判定については,十分な精度で行うことは困難であった。これは各々の齢のなかでの幼虫サイズ(湿重)の拡がりが,齢間でみられる幼虫サイズの差異以上に大きいことを反映していると思われる。
    そこで野外での巣室長からの湿重推定法としては,巣室長を1mm毎に区分けし,それぞれについて巣室長と湿重との平均値を求め,それらの平均値より求めた回帰式y=0.081x2.413(γ=0.970)を用いると,十分な精度で湿重の推定を行うことが可能であることが示された。
  • 山室 真澄, 平塚 純一, 越川 敏樹, 桑原 弘道, 石飛 裕
    1996 年 57 巻 3 号 p. 273-281
    発行日: 1996/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    汽水性潟湖である宍道湖における魚類相の周年変化を,1994年10月から1995年9月にかけて毎月1回,定置網の1種であるます網を用いて調査した。汽水種であるコノシロやサッパはます網で大量に捕獲されていたが,宍道湖では水産資源として利用されず放棄されていた。また季節によって出荷されたり放棄されたりする魚種もあった。このことから,宍道湖では漁獲統計から優占種を推定することはできないことが分かった。また調査期間を含む1994年夏季から1995年冬季は例年よりも水温と塩分が高めに推移したが,このことが調査水域の魚類相に反映されていた。海産の漁獲対象種であるスズキの幼魚は,従来考えられていたよりもずっと早い時期である5月に,体長(全長)32±3.4mmで宍道湖に進入していた。その幼魚は9月には体長165±6.8mmに成長していた。スズキの餌となる汽水種のマハゼも,5月には32±2,1mmであった体長(全長)が,9月には114±16mmに成長していた。以上からスズキの初期成長にとって宍道湖は餌資源が豊富な,重要な水域であると推察された。
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