湖水の栄養レベルの異なる日本の31湖沼34水域で,おのおのの湖の表層水中に出現した細菌,ピコシアノバクテリア,真核性ピコプランクトン,小型鞭毛藻(虫)(<20μm),そして繊毛虫の密度を水温が律速しない時期(原則として春,夏,秋の3回)に調べ,湖水の栄養塩濃度との関係,または微小生物問の密度の関係を検討した。その結果,細菌の密度と繊毛虫の密度が,ともに全リン量,全窒素量,クロロフィルa量(全量,>10μm,2-10μm,<2μm)と正の相関を示し,TN:TP比と負の相関を示した。細菌の密度と繊毛虫の密度は,おのおの全リン量(γ
2=0.51)およびクロロフィルa量(γ
2=0.34)の一次回帰式として表すことで,最も高い決定係数が得られた。今回求めた決定係数は,従来の報告ほど高くはなく,両者の問には,従来言われているほど緊密な関係はない,と考えられた。しかし,一次回帰式の傾きとY切片は,従来の報告値と大きく異なることはなかった。鞭毛虫の密度は,過去の報告より低めで,従来報告されているように細菌の密度と密な関係は得られなかった。各湖沼のピコシアノバクテリアの密度の最大値は10
4 cells・ml
-1未満の湖沼(湯の湖と丸池)を除外すると,全リン量と正の(γ=0.40,n=32,P=0.021),TN:TP比(γ=-0.51,n=32,P=0.0028)と負の相関を示した。真核性ピコプランクトンは,湯の湖と阿寒湖で多く観察され,全リン量が7mg・m
-3未満の貧栄養湖には出現しなかった。<2μm,2-10μmおよび>10μmのクロロフィルa量は,全リン量にたいする一次回帰式で表すことができた。これらの回帰式から,<2μmのクロロフィルa量は,それ以上のサイズ分画に比べると,全リン量の低い湖水でより高く,単位全リン量あたりのクロロフィルa量の増加率はより低くなった。<2μmのクロロフィルa量は,ピコ植物プランクトンの密度と相関をもたなかったため,<2μmのクロロフィルa量がピコ植物プランクトンの総量を表すかどうかについて,その中味の検討が課題になった。
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