陸水学雑誌
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58 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 新井 正
    1997 年 58 巻 3 号 p. 231-240
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    日本の湖沼の相対深度・面積曲線を作成し,曲線の形態を湖沼の成因別に整理した。カルデラ湖・火口湖は一般的には比較的平坦な湖底が急な崖で囲まれている凹型(U字型)の深度・面積曲線を示すが,二重の火口を持つ十和田湖や屈斜路湖では湖底の一部に存在する深い火口を示す極端な凸型(V字型)曲線を表す。火山あるいは山崩れなどによるせき止め湖でも凹型の曲線になるが,比較的新しい歴史時代に生まれた湖沼では湖底に未だに以前の谷の跡が残っており,深度・面積曲線には上向きの凸部が見られる。海跡湖でも同じような傾向があり,湖底に厚い堆積がある比較的浅い湖沼の場合には凹型の曲線に,最大水深が深く未だに最終氷期の谷の跡が残っている湖沼では凸型の曲線になる。断層湖などは複雑な傾向を示す。このように凹型の湖盆が卓越する傾向は,日本列島の地形の特色を反映したものであり,大陸の大規模な湖沼で得られる凸型の相対深度・面積曲線とは異なった傾向にある。このような深度・面積曲線の特徴は,50%深度の位置の面積(S0.5)で表すことができる。
  • 藤井 智康
    1997 年 58 巻 3 号 p. 241-260
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    中海では,潮汐,風の吹走によって振幅2~3mの内部波が頻繁に発生している。この内部波による沿岸への高塩分水の這い上がりは中海沿岸部だけでなく大橋川を通しての宍道湖の水質や生物環境にまで大きな影響を及ぼしていると考えられる。そこで,この水域の潮汐や風の吹走が内部波に及ぼす影響について中立ブイを用いた観測結果に基づいて考察した。解析結果として,中海においては潮汐の内部振動に対する影響は中浦水門付近のみにはっきり現れ,水位変動との位相差1時間で内部振動が発生している。また,風の吹走の内部振動に対する影響としては,風の吹走より2.5~3時間くらい位相が遅れて塩分躍層が傾斜している。この位相の遅れの定常的な解析は行われていないが,傾斜の向きは湖の2層モデルにおける風の吹走と躍層の昇降との関係とよく一致し,東西方向に風の吹走が卓越する夏季の中海では中浦水門付近を除いて風の吹走作用が内部振動に及ぼす影響は潮汐の影響よりも大きいと考えられる。
    回転性の内部波の伝播は,1995年7月および1996年7月の内部振動の各ポイントでの位相のずれから反時計回りに進行していることと周期が慣性周期より長いことおよびこの時期の成層状態から計算される位相速度から求めた位相のずれが観測値に近いことから湖内の内部波の進行は内部ケルビン波としての伝播であることが示された。
  • 長縄 眞吾, 池田 満之, 藤岡 賢哉, 川島 明昌
    1997 年 58 巻 3 号 p. 261-276
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    感潮河川において水制が設置されている水域は,水草類の繁茂や魚介類や鳥類の生息場所として環境保全の観点からみて非常に重要である。そこで,この研究は感潮河川である旭川における現地観測によって,良好な環境状態を保つ河川環境保全計画のために必要な物理環境特性を調べることを目的として行われた。
    観測の結果,感潮河川である旭川のケレップ水制域では,通常塩分躍層が形成されており,下層の高塩分水は潮汐によって水域内で流入と流出を繰り返している。水制は干潮時には水面から露呈し,満潮時には水没し,それを毎回の潮汐で繰り返している。水制が水没しているときは上層の低塩分水は本流と同じ方向に沿って迅速に水制の上を越えて流れている。また,干潮時になるとほとんどの下層の高塩分水が水制域から流出する。したがって,この水域の滞留時間は潮汐の過程による迅速な水の交換のためかなり短い。しかし,溶存酸素濃度はしばしば下層で低い値を示す。これは,水域内での酸素消費によるものではなく本流の貧酸素水が密度流によって浅い水深の水制域へ水平に進入するためである。また,水温については水制域は本流に比べて流速が小さく水深が浅いため,日射が強い時は本流よりも高くなることがあるが,水の交換が迅速であることから,高温になった上層の水は一晩経過した一潮汐後にはほとんど入れ替り水温も本流と同程度になると考えられる。
  • 岩崎 敬二, 大塚 泰介, 中山 耕至
    1997 年 58 巻 3 号 p. 277-291
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    賀茂川中流域の川岸植物群落内の水生動物群集:京都・賀茂川の中流域の3ヶ所で,川岸の植物群落の中の水生動物群集を調査した。上流よりのツルヨシ群落では,流れの弱い川岸に生息するシリナガマダラカゲロウやオオフタオカゲロウなどのカゲロウ類が冬と春期には優占し,ツヨシの葉を使う携巣性のトビケラやカワトンボ科・ヤマトンボ科も採集された。中州が発達した中流部のツルヨシや単子葉植物の群落では,上述の流水性昆虫ばかりでなく,アメンボ類やミズカマキリ・タイコウチ・マツモムシといった止水性の半翅目昆虫の成虫も夏一秋に出現した。京都市街地の中にある下流部のツルヨシ群落とミゾソバ群落では,イトトンボ科・カワトンボ科と,ミズムシ・シマイシビル・サカマキガイなどの汚濁域に数多く出現する種とが共存していた。魚類では,カワムッ・カワヨシノボリの稚魚が生息していた。川岸植物の存在は,止水性または植物体に依存した動物群の生息をも可能にし,河川中流域の水生動物相を多様にしているものと考えられた。
  • 年間を通じた流況変動
    奥村 康昭, 遠藤 修一
    1997 年 58 巻 3 号 p. 293-303
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    この論文では,長期連続観測の結果に基づいて,一年間を通してみた琵琶湖の流況の特徴を調べ,同じデータを使用してスペクトル解析を行った。
    最初に,ベクトルダイヤグラムを描いて,成層期と非成層期,上層と下層の流れを比較した。その結果,成層期の上層には環流の存在を示す一定方向の流れがあり,非成層期には環流は存在しないことが分かった。
    次に,上層の水温の変化と流れの関係を調べた。下層の水温は年間を通じて約7℃と一定であり,上層の最高水温は約30℃で,較差は20℃以上になる。そして,非成層期の流れの変動は小さいが,成層が進み上層の水温が約10℃を越えると,流れの変動が激しくなり,流速の平均値が不規則に変化する。これは,成層する事によって,風の影響が上層にだけ閉じこめられ,下層までおよび難くなったために,非成層期に比べて,相対的に風速の弱い成層期の方が,風の影響のために流れが不規則に変動するものと思われる。風と流れの関係は複雑であり,簡単な相関分析では互いの関係は見いだせなかった。
    最後に,長期連続観測のデータを使用して,FFTによってスペクトル解析を行った。風の強制振動である80~90時間と24時間周期の成分が見られ,日周変化を示す24時間の成分は非成層期に特に顕著である。40~50時間周期の内部波はあまり明瞭には見つからなかった。20時間周期の慣性振動と,11時間~17時間周期のボアンカレ波による周期成分も見られることがあった。
  • 速水 祐一, 藤原 建紀, 坂本 亘
    1997 年 58 巻 3 号 p. 305-316
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    琵琶湖北湖南部において,水温の成層構造および内部波の季節変化について調べるために,1992年3月から10月にかけて全層サーミスタチェーンによる水温鉛直分布の長期連続観測をおこなった。最初に季節躍層が形成されたのは4月末であった。しかし,6月上旬までは季節躍層は安定して存在せず,しばしば不明瞭となった。また,この時期にはしばしば季節躍層の他に表水層内に二次水温躍層が形成された。北湖の基本モードの内部静振は,季節躍層がみられるようになったばかりの5月前半にすでに発生し,成層構造の変化とともにその周期が変化しながら,9月後半を除いて観測終了までほぼ常に存在した。夏季停滞期および秋季部分循環期には,基本モードの内部静振の他に,約半日周期の内部波が卓越して生じた。約半日周期の内部波は間欠的に発生し,特に夏季の深水層ではしばしば10mに達する大きな波高となった。また,夏季にはしばしば内部サージと思われる現象が発生していた。
  • 山室 真澄
    1997 年 58 巻 3 号 p. 317-322
    発行日: 1997/09/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    大型植物の漁獲が富栄養化湖沼における栄養物質の削減対策としてどの程度の効果を期待できるのかを見積もるために,閉鎖性汽水域である中海の大型藻類の窒素・リン濃度を分析した。Gracilaria uerrucosa(オゴノリ)の窒素・リン濃度はそれぞれ3.1%drywおよび0.21%dry wであったことから,オゴノリの漁獲が盛んであった1960年当時の年間出荷量(551t dry w)には窒素とリンがそれぞれ17tおよび1.2t含まれていたと見積もられた。これは現在の宍道湖・大橋川・中海への窒素とリンの年間流入負荷量の0.56%および0.41%に相当した。
    1960年当時のオゴノリの漁獲量は生産量の約13%であったと推定されていたことから,年間漁獲量を5倍(年間生産量の65%)に増やせるとすると,宍道湖・大橋川・中海への窒素とリンの流入負荷に対して2.8%および2.0%を中海におけるオゴノリの漁獲だけで除去することが可能になると見積もられた。
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