ヘビトンボProtohermes grandis (Thunberg, 1781)(広翅目,ヘビトンボ科)の生活史を,兵庫県内の4河川(杉原川,越知川,円山川,木津川)で比較した。また,各河川の水温条件と餌条件が,生活史や成虫の体サイズにどのような影響を及ぼしているか検討した。木津川では大部分の個体が2年の幼虫期間を有していたが,他の3河川では,幼虫期間が2年の個体と3年の個体が混在していた。上陸間近の終齢幼虫は,杉原川ではおよそ6月から8月上旬まで,越知川と円山川では6月から7月中旬まで採集されるのに対して,木津川では5月しか見られなかった。杉原川では成虫の出現期間が最も長く(6~9月),木津川では最も短いと推定された。木津川では終齢幼虫の頭幅が他の3河川に比べて小さく,成虫も小型化していると推定された。4河川の年間の積算温量(≧12℃)は1300~1900℃dayであった。日本から台湾(中華民国)にかけて分布するヘビトンボ属4種15個体群の生活史の比較調査から,年積算温量900~2300℃dayにおいて幼虫期間が2年,または2年と3年が混在することが知られており(Hayashi,1994),本研究結果はこの範囲内に包含された。また,この15集団の比較調査から,幼虫期に利用可能な餌の個体数密度(とくに大きな餌の密度)が低下している河川では,幼虫の成熟時の体サイズ(終齢幼虫や成虫の体サイズ)が小型化することが示されている。本研究においても,終齢幼虫の体サイズが小さかった木津川では,他の3河川に比べて餌の個体数密度(とくに大型の餌の密度)が低い傾向があった。逆に,大型の餌の個体数密度が高かった杉原川,越知川,円山川の3河川では,成虫の体サイズが,これまで知られているヘビトンボ属の個体群の中でも,最大の部類に位置づけられることが明らかとなった。
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