膵臓
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27 巻, 4 号
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委員会報告
  • 山口 幸二, 金光 秀一, 羽鳥 隆, 真口 宏介, 清水 泰博, 多田 稔, 中郡 聡夫, 花田 敬士, 小山内 学, 野田 裕, 中泉 ...
    2012 年27 巻4 号 p. 563-571
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    背景:膵癌はIntraductal papillary mucinous neoplasm(IPMN)由来浸潤癌とIPMNとは離れた部位から発生するIPMN併存膵癌からなる.しかし,IPMNと膵癌が近接している場合は両者の鑑別が困難な場合がある.またこれらは通常の浸潤性膵管癌と生物学的に異なる病態であるのか,同一の病態であるのかは不明である.
    目的:IPMN由来浸潤癌とIPMN併存膵癌を鑑別する定義として,位相的関係と組織学的移行像を重要視し,両者の臨床病理学的所見を通常の浸潤性膵管癌と比較した.
    対象:IPMNに対し外科的切除を行った765例を腺腫381例,非浸潤癌157例,微小浸潤癌44例,IPMN由来浸潤癌122例,IPMN併存膵癌31例,IPMN由来浸潤癌かIPMN併存膵癌が確定しえなかった30例の6群に分類した.
    結果:IPMN由来浸潤癌とIPMN併存膵癌の平均年齢は通常の浸潤性膵管癌よりも高かった.粘液癌の割合はIPMN由来浸潤癌ではIPMN併存膵癌と浸潤性膵管癌よりも高頻度であった.IPMN由来浸潤癌とIPMN併存膵癌では浸潤性膵管癌より有意に腫瘍径が小さく,進行度も低かった.両者の生存期間はともに浸潤性膵管癌と比べ有意に良好で,全症例においても,TS2(2.0cm<腫瘍径≤4.0cm)もしくはTS3(4.0cm<腫瘍径≤6.0cm)症例のみに限っても予後良好であった.
    結論:IPMN併存膵癌とIPMN由来浸潤癌は浸潤性膵管癌に比べ,生物学的に良好であり,より早期に診断され得る可能性がある.
  • 木村 理, 森谷 敏幸, 花田 敬士, 阿部 秀樹, 柳澤 昭夫, 福嶋 敬宜, 大池 信之, 清水 道生, 羽鳥 隆, 藤田 直孝, 真口 ...
    2012 年27 巻4 号 p. 572-583
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    「背景」膵漿液性嚢胞腫瘍(SCN)は本邦以外では経過観察例の報告がほとんどなく,経過観察例を多数抱える本邦との違いは明白である.SCNに悪性例はどの程度存在するのか,SCNは手術すべき疾患なのかどうか,解決されていないのが現状である.日本膵臓学会によるSCNの全国施設調査を分析することで,SCNの治療指針を考察した.
    「対象と方法」嚢胞性腫瘍委員会に登録されている施設15施設を対象にSCNに関してアンケート調査を実施した.集積した症例数は172例で経過観察例82例・外科的切除例90例であった.男性50例(29%)・女性122例(71%),平均年齢は60.8歳,平均観察期間は4.5年であった.
    「結果」有症状例は20%で腹痛・背部痛・糖尿病の増悪・腫瘤触知・黄疸などであった.腫瘍の存在部位は膵頭部39%・体部35%・尾部22%.平均腫瘍径は4.1cmであった.本腫瘍による死亡例はなかったが,肝転移を2例(1.2%)に認めた.肝転移以外の遠隔転移やリンパ節転移は認めなかった.画像診断においては,切除例中57例(63%)で術前にSCNの診断を得られなかった.SCNの画像診断で最大の特徴である蜂巣状所見はEUS 77.5%・MRI 63%・CT 60%・体外式超音波検査60%・IDUS 45%で描出されており,EUSでの描出率が高かった.
    「結語」確定診断が得られず,診断に迷う場合,圧迫による機能障害を示す症例や腫瘍サイズが大きい場合には外科切除をすべきである.
総説
  • 真嶋 浩聡, 大西 洋英
    2012 年27 巻4 号 p. 584-592
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    急性膵炎は,トリプシノーゲンの異所性活性化をひきがねとして,消化酵素により組織が自己消化を受ける病態であり,トリプシンが中心的な役割を果たすと考えられてきた.しかし,急性膵炎は自己消化に止まらず,血流障害,炎症細胞浸潤,局所的・全身的な炎症症候群などの多くの側面をもち,近年の遺伝子改変モデルを用いた研究成果の蓄積はこの考えに疑問を投げかけている.IRF2ノックアウトマウスは急性膵炎発症の初期像を呈する遺伝子改変マウスであり,SNARE蛋白質の変異から膵調節性外分泌が障害され,腺房細胞内でオートファジー,トリプシンの亢進が生じている.IRF2が制御する調節性外分泌,このマウスで生じている細胞内シグナル異常を分子レベルで解明することは,急性膵炎の発症機構,トリプシノーゲンの異所性活性化のinitial triggerの解明につながる可能性を秘めている.
原著
  • 海野 純, 廣田 衛久, 正宗 淳, 菅野 敦, 菊田 和宏, 粂 潔, 濱田 晋, 有賀 啓之, 下瀬川 徹
    2012 年27 巻4 号 p. 593-600
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎に対する内視鏡的治療の意義を栄養改善の観点から検討した.12ヶ月以上の内視鏡的治療を要した19例を対象とし,栄養状態の評価指標としてBMI,血清アルブミン(Alb),総リンパ球数(Lym),小野寺のPrognostic Nutritional Index(PNI),総コレステロールの経時的変化をレトロスペクティブに解析した.治療開始後,腹痛発作がなかった12例では各栄養指標は有意に改善したが,腹痛発作が1回以上発生した7例では改善がみられなかった.Alb,Lym,PNIは治療後1~3ヶ月の期間に有意な改善を示し,BMIについては7~9ヶ月で有意な増加を認めた.内視鏡治療によって,腹痛発作を完全に防止できれば栄養指標の改善効果が得られ,その効果は10ヶ月以内に達成された.外科治療に先行する短期間の内視鏡治療は栄養障害の改善という見地からも有効な治療ストラテジーとなり得る.
  • 廣田 衛久, 津田 雅視, 辻 喜久, 菅野 敦, 菊田 和宏, 粂 潔, 濱田 晋, 海野 純, 有賀 宏之, 滝川 哲也, 林 晋太郎, ...
    2012 年27 巻4 号 p. 601-607
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    自己免疫性膵炎(AIP)は膵癌(PC)との鑑別が臨床上の問題である.本研究では,Perfusion CTによる膵血流解析が両者の鑑別に有用であるかを検討した.AIP 12症例(全例type 1)とPC 22症例にPerfusion CTを施行し,single-compartment kinetic model法を用いて画像解析を行い,3つのパラメータを用いて両者を比較した.FV値はAIPで平均81.3/分に対しPCでは平均19.3/分と有意に低値(p=0.0005),VD値はAIPが28.8に対しPCでは93.6と有意に高値(p=0.0084),R2値はAIPが0.659に対しPCでは0.250と有意に低値(p<0.0001)であった.また,カラーマップ画像も鑑別に有用であった.本研究は,AIPとPCの鑑別におけるPerfusion CTの有用性を示す最初の報告である.
症例報告
  • 吉見 聡, 佐々木 民人, 芹川 正浩, 小林 賢惣, 神垣 充宏, 南 智之, 岡崎 彰仁, 行武 正伸, 石垣 尚志, 石井 康隆, 小 ...
    2012 年27 巻4 号 p. 608-616
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    症例は40歳代の男性.心窩部の違和感にて当院を受診し,血液検査で炎症反応と膵酵素の上昇を認めた.CTでは,膵尾部に限局した腫大を認め,平衡相で淡い造影効果を認めた.EUSで同病変は43×27mm大の低エコー腫瘤として描出され,MRIではT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号,拡散強調画像(DWI)で著明な高信号を呈した.ERCPでは膵尾部主膵管に約20mmの狭細像を認めた.EUS-FNAでは悪性所見は認めず,慢性炎症細胞浸潤を認めた.また,血清IgG4は432mg/dlと上昇を認めた.以上より膵尾部に限局した自己免疫性膵炎と診断しPSL 40mg/日より開始した.治療開始7日目のDWIでは膵尾部の高信号域の縮小および信号低下を認め,ADC値は1.05×10-3mm2/sから1.25×10-3mm2/sと改善を示した.治療開始2週間後には膵尾部の腫大,膵管の狭細像の改善を認めた.
  • 簑田 竜平, 植木 敏晴, 川本 研一郎, 大塚 雄一郎, 野間 栄次郎, 光安 智子, 松井 敏幸, 永川 祐二, 二見 喜太郎, 前川 ...
    2012 年27 巻4 号 p. 617-625
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    症例は67歳男性.2008年,左下腹部痛を主訴に当院を受診し腹部超音波検査(以下US)で膵頭部に腫瘤を指摘され,精査加療目的で当科に入院となった.US上,膵頭部に径10×10mmの低エコーで一部高エコーが混在した腫瘤を認めたが主膵管の拡張はなかった.MDCTの冠状断の動脈相で膵頭部に淡い低吸収域の腫瘤を認め,その腫瘤は主膵管と離れた膵被膜直下に存在していた.ERCPでは,膵管に途絶像や狭窄像はなく胆管の狭窄もなかった.Stage I膵癌と診断し,外科に転科し膵頭十二指腸切除術を施行した.開腹所見では腹膜播種や肝転移を示唆する所見はなかった.術後病理診断は,浸潤性膵管癌(高分化から低分化の管状腺癌)で,No13aのリンパ節に転移を認めたことよりStage IIであった.稀な示唆に富む主膵管に変化のない小膵癌を報告する.
  • 田崎 貴子, 永井 敬之, 中嶋 宏, 中川 善文, 久松 朱里, 橋永 正彦, 大河原 均, 佐藤 竜吾
    2012 年27 巻4 号 p. 626-632
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,女性.2001年に健診異常にて精査の結果,膵尾部の自己免疫性膵炎と診断した.プレドニゾロンを開始し漸減中止したが,1年後に膵頭部に再燃し下部胆管狭窄と閉塞性黄疸を来した.プレドニゾロンを再開し5mg隔日投与まで減量したが,6年後に膵頭部及び膵尾部に再燃し,硬化性胆管炎を伴っていた.自己免疫性膵炎は未だに病態に不明な点が多い.本症例は,ステロイド中止あるいは漸減中に,長期経過を経て2度異時性異所性に再燃しており,自己免疫性膵炎の予後を考える上で示唆に富むと考え,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 又木 雄弘, 新地 洋之, 前村 公成, 蔵原 弘, 松下 大輔, 上野 真一, 迫田 雅彦, 飯野 聡, 高尾 尊身, 夏越 祥次
    2012 年27 巻4 号 p. 633-638
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性.13年前,右腎癌(RCC)にて右腎部分切除を施行(pT3a,N0,M0,pStage III).今回,タール便を主訴に受診.Hb 5.4mg/dlと高度貧血を指摘.上部消化管内視鏡検査で,十二指腸下行脚に1/3周性の2型腫瘍あり.潰瘍底の露出血管より出血認め,クリッピングにて止血.CTで,膵頭部に4個の高吸収性腫瘍を認め,腎癌術後膵転移の十二指腸浸潤の診断.膵以外に病変のないことを確認後,膵頭十二指腸切除術を施行した.腎細胞癌,膵転移症例の報告はこれまでも多数なされているが,有症状でかつ消化管出血であった症例は本邦より10例の報告と稀であった.消化管出血を伴う腎癌膵転移症例に対し,切除可能な場合,外科的切除を第一選択にすべきと考えられた.
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