膵臓
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30 巻, 6 号
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特集 膵炎診療ガイドラインの改訂
I.ガイドラインの主な改訂点(急性膵炎診療ガイドライン2015)
  • 五十嵐 久人, 河邉 顕, 伊藤 鉄英, 急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員
    2015 年 30 巻 6 号 p. 733-740
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    「急性膵炎診療ガイドライン」における「薬物療法」の中では,急性膵炎に対する鎮痛,予防的抗菌薬投与,予防的抗真菌薬投与,蛋白分解酵素阻害薬の経静脈的投与,ヒスタミンH2受容体拮抗薬投与の5項目でCQが挙げられている.今回「ガイドライン2015」における「ガイドライン2010」からの改訂点について述べた.急性膵炎に対する予防的抗菌薬投与の有効性について,多くの報告が否定的な見解を示しているが,今回ガイドライン委員会のメタ解析グループは独自にメタ解析を行い,その結果に基づき推奨文を作成した.重症例に対する蛋白分解酵素阻害薬の大量持続的静脈内投与の有効性は,大規模な質の高いRCTによるさらなる議論が必要である.
  • 武田 和憲
    2015 年 30 巻 6 号 p. 741-747
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    1996年に急性壊死性膵炎に対する動注療法の有用性が報告されて以来,RCTを含めて動注療法の有用性を支持する多数のエビデンスが集積されている.一方,DPCデータベースを用いた最近のpropensity score matching解析研究では動注群と非動注群との間に死亡率,interventionの頻度に差がみられなかったと報告されている.重症急性膵炎に対する動注療法の有用性はいまだ確立されていないことから,ガイドライン2015(第4版)では,重症急性膵炎に対する動注療法は推奨度なしと記載された.
  • 白井 邦博
    2015 年 30 巻 6 号 p. 748-754
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    急性膵炎は重症化すると,腹腔内圧(intra-abdominal pressure:IAP)が亢進して重篤な合併症を起こすことがある.World Society of Abdominal Compartment Syndromeは,IAP≧12mmHgが持続または反復する場合をintra-abdominal hypertension(IAH),IAP>20mmHgが持続して新たな臓器障害/不全が発生した場合をabdominal compartment syndrome(ACS)と定義している.重症急性膵炎におけるACSの発症率は4~6%だが,致死率は47.5%と高率で臓器不全数が多く,敗血症や続発性膵感染症など合併率も高い.このため,高い重症度やCTで複数部位液体貯留,大量輸液,腎障害や呼吸障害を認めた場合は,経時的なIAP(膀胱内圧)測定が必要である.IAH/ACSの治療は,IAP≦15mmHgを管理目標として,消化管減圧,腹腔内減圧,腹壁コンプライアンスの改善,輸液負荷の適正化,全身/局所の適正循環管理の内科的治療を行う.しかし,侵襲的なドレナージ術を含めた内科的治療抵抗性の場合は,外科的減圧術を考慮する.
  • 伊佐地 秀司
    2015 年 30 巻 6 号 p. 755-760
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    急性膵炎の膵局所合併症に関するアトランタ分類が2012年に改訂され,新たな概念としてWON(被包化壊死)が定義され,さらに壊死性膵炎に対する内視鏡的アプローチや低侵襲的手術の普及により,壊死性膵炎に対しては低侵襲的アプローチから段階的に侵襲度を上げて治療を行う方法,すなわちstep-up approachの有用性が確認され普及してきたことを受け,急性膵炎ガイドライン2015の膵局所合併症に対するインターベンション治療が大幅に改訂された.改訂のポイントは,膵局所合併症の種数は問わず,感染が疑われるかどうか,全身状態の安定性の有無により,保存的かインターベンション治療が選択され,インターベンション治療については,first stepは経皮的・内視鏡的ドレナージを選択し,その時期については,発症4週以降の壊死巣が十分に被包化されたWONの時期に行うことが推奨されている.
II.ガイドラインの主な改訂点(慢性膵炎診療ガイドライン2015)
  • 阪上 順一, 十亀 義生, 保田 宏明, 加藤 隆介, 土井 俊文, 三宅 隼人, 片岡 慶正, 伊藤 義人
    2015 年 30 巻 6 号 p. 761-766
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎診療ガイドライン2009から慢性膵炎診療ガイドライン2015に移行したなかで,高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤,成分栄養剤による治療が新たに取り上げられた.高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤は慢性膵炎の腹痛に対しては弱く推奨(推奨度2)されており(エビデンスレベルB),脂肪便と体重減少を伴う慢性膵炎には強く推奨(推奨度1)される(エビデンスレベルA).有痛時や腹痛発作を繰り返す慢性膵炎に対しては,禁酒・禁煙を中心とした生活指導を行った上で,成分栄養剤による食事療法を考慮してもよい.
  • 大原 弘隆, 林 香月, 内藤 格, 近藤 啓, 中沢 貴宏, 城 卓志
    2015 年 30 巻 6 号 p. 767-772
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    「慢性膵炎診療ガイドライン2015」では,ESWLを含む内視鏡的治療の腹痛に対する有効性については,前回のガイドライン作成後,比較的長期間での良好な結果が報告されたことと2014年に膵石症に対するESWLが「体外衝撃波膵石破砕術」として正式に保険収載されたことから,より強く推奨されることとなった.また,内視鏡的治療の継続期間は1年前後を一つの基準とすることが推奨された.本稿では,慢性膵炎の治療体系の中におけるESWLを含む内視鏡的治療の意義と位置づけを示すとともに,本治療の臨床症状の改善効果,推奨される治療継続期間および病態阻止への効果について解説した.膵石症に対するESWLが保険収載されたことにより,ESWLを含む内視鏡的治療はさらに広く普及し,本ガイドラインの重要性はより増していくと考えられる.
  • 伊藤 鉄英, 李 倫學, 河邉 顕
    2015 年 30 巻 6 号 p. 773-776
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎診療ガイドラインが2015年に改訂され,新規糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬の慢性膵炎に伴う膵性糖尿病の使用についてのClinical Questionが追加された.現在のところ,慢性膵炎の糖尿病に対するインクレチン関連薬の有効性を示すエビデンスの報告はなく,診療の上でベネフィットがリスクを上回ると判断した場合に限って使用することが提案された.さらに,sodium glucose co-transporter 2(SGLT2)阻害薬も新たに登場してきたが,現在のところインクレチン関連薬と同様に慢性膵炎に合併する糖尿病に関しての有効性を示すエビデンスはない.
  • 竹山 宜典
    2015 年 30 巻 6 号 p. 777-782
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    2015年に改訂された慢性膵炎診療ガイドラインの外科治療に関する改訂の要点を紹介した.内視鏡ステント治療施行不能例や不成功例には,外科治療が推奨される点に関しては,2009年の旧ガイドラインに比較して大きな改訂点はない.ただし,膵管拡張を伴い膵頭部病変を伴う症例の難治性腹痛に対する術式選択として,Frey手術のほうがBeger手術よりも周術期合併症の頻度が少なく,我が国ではBeger手術はほとんど行われていないことから,Frey手術が推奨されている.また,慢性膵炎の機能温存を目的とした外科治療の適応としての記載がなされ,代償期慢性膵炎に対して,膵内外分泌機能障害の進行を遅らせる目的で膵管ドレナージ術を行うことが提案されている.
総説
  • 明石 隆吉
    2015 年 30 巻 6 号 p. 783-795
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    急性膵炎の発症,重症化に関して,プロテアーゼ(トリプシン)活性化受容体-2(PAR-2)は膵管口閉塞,膵管内圧負荷の有無により真逆の反応を呈する.ERCP関連手技により膵管上皮,膵腺房細胞が侵襲をうけると,トリプシンの活性化によりERCP後膵炎(PEP)が発症する.同時にPAR-2が膵管上皮,膵腺房細胞に発現し,膵管上皮からは膵液分泌を促すことで膵管内の毒物の洗浄を行い,膵の更なるダメージの回避を試みるという膵炎に対しては予防的な作用をする.しかし,膵液分泌が亢進した状況下にファーター乳頭が閉塞していると,膵管口からの膵液排出が困難となるためにPAR-2は更に膵管の洗浄を試みようと膵液分泌を促し,膵管内圧は更に上昇するという悪循環が生じて結果的にPEPは重症化すると考えられる.すなわち,PEPの発症予防,重症化阻止には膵管内圧上昇の回避が重要である.
症例報告
  • 北口 和彦, 高橋 進一郎, 小林 達伺, 相澤 栄俊, 工藤 雅史, 大久保 悟志, 高橋 大五郎, 中山 雄介, 西田 保則, 加藤 祐 ...
    2015 年 30 巻 6 号 p. 796-804
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    症例は60歳代,男性.主膵管拡張とCA19-9高値を指摘され,精査目的に当院紹介となった.ERPにて主膵管は膵頭部で途絶する所見を認め,膵管ブラシ擦過細胞診により腺癌の診断を得た.腹部造影CTにて血管解剖を観察したところ,hepatomesenteric typeの総肝動脈分岐変異が存在し,さらに上腸間膜動脈起始部に閉塞が認められ,血管造影検査や3次元画像解析にて精査を行った上で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.肝血流および上腸間膜動脈末梢領域の血流確保のため,可能な限り側副血行路を温存することで血行再建の必要なく安全に手術可能であった.上腸間膜動脈の狭窄や閉塞を伴った膵頭部腫瘍の切除例は散見されるが,本症例ではhepatomesenteric typeの総肝動脈分岐変異を伴っていたことから,切除に際して肝血流確保も考慮した十分な血行動態の把握と慎重な手術操作が必要と考えられた.
  • 神澤 真紀, 宮本 直和, 沢 秀博, 黒田 大介, 佐貫 毅, 全 陽
    2015 年 30 巻 6 号 p. 805-811
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/02/18
    ジャーナル フリー
    EUS-FNAで膵腺房細胞癌(ACC)と診断し得た2例について,その組織像を中心に報告する.2例とも70歳代男性で,腫瘍径はそれぞれ95mm,56mmであった.いずれも発見時に肝転移が認められた.EUS-FNAで得られた腫瘍組織は,類円形核,好酸性胞体を持つ異型細胞の充実性から腺房様増殖からなり,ACCと神経内分泌腫瘍(NET)が鑑別となった.免疫染色では種々の程度にsynaptophysinなどの神経内分泌マーカーが陽性となり,ACCとNETとの鑑別を要したが,いずれの症例もBCL10がびまん性かつ強く発現しており,腺房細胞癌と診断し得た.BCL10はACCに特異性の高いマーカーとして近年同定され,Trypsinを含めた既知のマーカーよりも発現がびまん性かつ強いことが多く,EUS-FNAを含めた微小検体でのACCの診断に有用であると思われる.
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