日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の330件中101~150を表示しています
発表要旨
  • 小畑 きいち
    セッションID: 635
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    大都市圏の郊外拠点都市は、人々の移動の中継により交通結節地となり、商業・業務・行政施設などを中心市街地(多くは駅周辺)に集積することで拠点性を高めてきた。近年、東京都心から30-40Km郊外都市圏において、駅周辺地区は商業集積拡大、中心市街地再開発などで、商業開発促進され商業地競争が過熱している。高度成長から収縮社会への時代変化に対して中心市街地のあり方の再考が急務とされている。本論文は、東京都八王子市中心市街地を事例に、変わりゆく郊外の中心市街地における大規模店舗の推移から課題を検証考察する。
  • 河西回廊の山丹軍馬場を事例に
    傅 鼎
    セッションID: 711
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本研究の目的は、自然的な要因と社会的な要因を多面的に把握し、移動者・環境・移動流などの側面に基づいて、山丹軍馬場における人口移動の実態を考察する。本研究の意義は、山丹軍馬場を現代中国における人口変動の縮図として着目し、人口流出地域の過疎化現象およびそのメカニズムについて解明することにある。研究方法として、2015年~2016年に二回の地域調査を行い、山丹軍馬場の住民に対する聞き取り調査を通じて、地域住民の人口構造や、移動者の諸属性を分析した(計36世帯、105人、最終的な有効回答は78人)。そして、人口移動と地域変動との関連性から、人口移動の契機・目的に基づき、ライフコース研究におけるライフ・パス分析の手法で、時系列で移動パターンを図式化することによって、世代間の人口移動の特徴を考察した。また、その社会的背景、地域の生活環境・機能についても検討した。
  • 松岡 由佳
    セッションID: 617
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    精神疾患は,2013年度から日本の医療計画における五疾病の一つに位置付けられた.メンタルヘルスの問題がますます身近なものとなっている今日にあっては,医学的・心理学的な病理や心的メカニズムとともに,日常の様々な空間とメンタルヘルスとのかかわりを解明する必要がある.英語圏の地理学者は,1970年前後から,既にこうした問題意識のもとで実証研究に取り組み始めた.本発表の目的は,メンタルヘルスを扱う英語圏の研究動向を整理し,その主題や方法論を検討することを通じて,メンタルヘルスへの地理学的な視点の有効性と課題を提示することである.
     戦後,ノーマライゼーション理念の進展と福祉国家の危機は,思想と財政の双方の側面から,精神病院の解体と地域におけるケアの推進を要請した.この大きな政策的転換は脱施設化と呼ばれ,1960年代頃から欧米各国で進展した.地域の小規模な施設やサービスの整備が求められる中で,その立地やアクセシビリティが研究課題となった.サンノゼやトロント,ノッティンガムなど北米やイギリスの都市を事例に,センサスや土地利用に関するデータから,サービス利用者の社会・経済的属性や施設の立地とその背景要因が分析された(例えば,Dear and Wolch 1987).施設立地をめぐる紛争や近隣住民の態度を取り上げた研究も同様に,変数間の関連性を分析する計量的手法に依拠していた.
     医学地理学や公共サービスの地理の一潮流として興隆したメンタルヘルス研究は,1990年前後に主題や方法論の転機を迎える.地理学における文化論的転回や,健康地理学や障害の地理の台頭が背景となり,社会・文化地理や歴史地理などの幅広い視点から,政策の再編とロカリティ(Joseph and Kearns 1996),「狂気」の歴史(Philo 2004),精神障がい者のアイデンティティ(Parr 2008)といったテーマが取り上げられた.史料や文学作品の分析,インタビュー調査や参与観察などの質的手法が導入されるとともに,研究対象となる時代や地域,空間スケールが多様化した.近年は,以上のような精神障がいに着目する研究に加えて,精神的な健康を,貧困や剥奪などの社会環境や,自然や災害・リスクから検討する研究も登場した(Curtis 2010).
     政策の転換に伴う現象を空間的に捉えた一連の研究は,1990年前後を境に主題や手法を多様化させ,個々の研究分野へと細分化する傾向にある.こうした点はメンタルヘルス研究の課題であるとともに,分野間に関連性を持たせ,より大きな枠組みから地理的現象を解明する上で,メンタルヘルスが有効な視点になりうることをも示唆している.
    文献
    Curtis, S. 2010. Space, place and mental health. Routledge.
    Dear, M. J. and Wolch, J. 1987. Landscape of despair: From deinstitutionalization to homelessness. Polity Press.
    Joseph, A. E. and Kearns, R. A. 1996. Deinstitutionalization meets restructuring: The closure of a psychiatric hospital in New Zealand. Health & Place 2(3): 179-189.
    Parr, H. 2008. Mental health and social space: Towards inclusionary geographies? Blackwell.
    Philo, C. 2004. A geographical history of institutional provision for the insane from medieval times to the 1860s in England and Wales: The space reserved for insanity. Edwin Mellen Press.

    本研究の一部には,平成28・29年度日本学術振興会科学研究費補助金(特別研究員奨励費:課題番号16J07550)を使用した.
  • 民間投資の促進と政府間関係に着目して
    佐藤 正志
    セッションID: S405
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに

     地方都市において中心市街地再生や活性化が課題となって久しい.2006年の中心市街地活性化法の改正の中で,コンパクト化を念頭に置いた中心市街地活性化基本計画の策定と認定を通じて,地方自治体での主体的な取組を促しているものの,現状多くの地域では依然としてその達成まで到達できていない状況にある.
     中心市街地活性化に関しては多くの研究がなされてきたが,地理学をはじめとして中心市街地活性化に関与する主体に関する検討では,商業やまちづくりにおける地縁団体や所縁団体に関する意義の検討が中心であった.これに対して,地方自治体の役割に関しては,硬直的な対応やハコ物施設への偏重などが阻害要因として指摘されてきた.
     しかし,基礎自治体は,財政投資や国・都道府県との関係を通じた政策情報や補助金の入手,条例等の制定といった機能を固有に保持する主体である.自治体が固有に持つこれらの機能が中心市街地活性化に果たす役割を論じることは,既往研究で等閑視されてきた自治体が貢献しうる意義を展望する上で有効になるであろう.
     以上を踏まえ,本報告では地方都市の先進事例を対象とし,特に民間投資を喚起するスキーム形成や政策情報の獲得における政府間関係の側面に着目しながら,中心市街地活性化に対する地方自治体の政策対応の役割や意義を論じたい.


    2.中心市街地活性化基本計画の評価の全国動向

     まず,中心市街地活性化の現状について,内閣府地方創生推進事務局で公開されている,各自治体の中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップ報告(2011~2016年度)を用いて把握する.三大都市圏の政令市を除いた延べ115地域337指標について確認すると,「最新指標で目標値を超えた(以下A系)」評価の指標は98(29.1%)だった.反面「最新指標で目標値も基準値も達しなかった(以下C系)」指標は163(48.4%)に上り,全国的に中心市街地活性化基本計画で掲げられた目標達成が困難な状況にある.実際,22地域では目標指標全てがC系評価になる一方,目標指標全てがA系評価になったのは8地域にとどまり,3つ以上の指標を掲げていたのは2地域(日向市,藤枝市)のみであった.
     指標の分野別及び対象地域の人口別評価動向を把握すると,全国的に設定の多い「通行量」「居住人口」「商業・地域経済」では,A系評価を得た地域の割合はそれぞれ29.4%(35地域),18.9%(14地域),22.7%(15地域)と特に低くなる傾向が見られた.一方,人口規模別にみると,A系評価の指標は10万人未満と50万人以上ではそれぞれ30%を超えるのに対し,人口20~30万人規模の自治体を底にして中間の人口規模の自治体ではA系評価の割合が低くなる傾向が見られた.


    3.先進事例における成果と自治体の政策的役割

     全国的な動向を踏まえ,目標指標の達成が実現している藤枝市での中心市街地活性化に向けた取り組みと自治体の政策的対応を考察する.藤枝市では,第1期計画期間に民間リース会社の投資を通じた市有地での図書館・商業複合施設を整備したのを皮切りに,市有地の売却や貸与を通じた商業・回遊施設の整備,駅前地区の市街地再開発を進めてきた.結果,藤枝市の市街地活性化基本計画の第1期計画では「歩行者通行量」「宿泊者数」「公共施設利用者数」の指標全てで目標値を達成した.第2期計画でも,2016年度中間評価では設定している「居住人口」「歩行者通行量」「従業者数」の指標全てがほぼ達成が見込める状況にある.
     この背景には,政令市のベッドタウンとしての位置付けのみならず,①市有地を活用した,財政負担が少なく民間の創意工夫を活かせる手法の確立,②市の担当部局内での利用可能な制度や補助金の探索活動,③国や県からの新規政策や補助金情報の獲得という自治体の政策的対応が,中心市街地整備の促進と,計画目標の達成に結びついている.
     なお,報告時には類似した規模の自治体で,フォローアップ評価が高くない自治体との比較も合わせて検討したい.

    本研究はJSPS科研費基盤研究B(課題番号16H03526 代表者:箸本健二)の助成を受けたものである.
  • - 製作から利用まで -
    西村 智博
    セッションID: S308
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに

     筆者は大学3年生の巡検で初めて地形分類図を作り,その後二十数年間,コンサルタントとして毎年日本のどこかで地形分類図を作成するような業務に携わってきた.

    研究機関と異なり,コンサルタントでは顧客のオーダーに応じて地形分類図を作成することが多く,その結果,山地・低地,寒冷地・温暖地を問わず,全国各地の様々な地形に出くわしてきたと思う.

     ここでは,地形分類図について,製作者・利用者双方の立場から,作業上感じている課題や利活用の事例,将来の展望について述べたい.

    2.製作者の立場から

     市町村単位やそれより狭い地区単位であれば,地域の特性に応じた凡例を検討し,実情に即した地形分類図を作成しやすい.

     しかし,土地条件図や治水地形分類図,土地分類基本調査など,全国や都道府県レベルで統一された基準で整備される地形分類図では,一定の範囲の地形を標準的な凡例に適合するように分類しなければならないため,地域特有の地形を表現するのに苦心することがある.

     治水地形分類図を例にすると,「氾濫平野」から1~2m程度の標高差ながらそれと識別される低い「段丘」や,それが徐々に低地に埋没していくエリアの表現,谷の出口に形成される「扇状地」と「山麓堆積地形」の使い分けにはいつも頭を悩ませる.作業時間の制約もあり,これらの区分を主に空中写真やDEMデータから瞬時に判断しようとするのであるから,悩みはなおさらである.

    GISデータとして整備・表示すると,あたかもその境界がハッキリしているように見えてしまうが,実はかなり境界が不明確な場合も多いのである.

    低い「段丘」の場合,「段丘崖」を描かずに直接他の地形面と接するようにしたり,土石流や洪水流によって形成された地形はなるべく「扇状地」として描いたり,製作者なりにはいろいろ工夫して凡例を適用しているつもりではあるが,うまく利用者にそれが伝わっているか・・・甚だ不安である.

    3.利用者の立場から

     ある地区で豪雨災害が発生したとする.さて,どこが大きな被害を受けているか,報道などの部分的な情報だけではなかなか全体像が把握できない.そこで私たちは,すでに整備されている地形分類図を眺めて,点の情報を面に変換するような作業を行っている.「〇〇地区で浸水」という情報があれば,その地区の地形を見て,同様の地形種では同様の災害が起きているのではないかと推測し,そういった地区を重点的に調査するのである.

     2017年7月には,活発な梅雨前線の影響によって,秋田県雄物川流域で河川の氾濫や土砂災害等の被害が発生した.家屋の浸水が少なく,地方で発生したということもあり,首都圏ではあまり大きな報道はなされなかったが,数十枚の斜め写真が撮影され,すでに整備されている治水地形分類図から浸水範囲は旧河道部が中心であることが読み取れた.
     このように,広域に整備されている地形分類図は,災害箇所と地形の関係を検討するのに役立ち,逆に,災害が起きる前でも,地域の災害特性を理解するのに大いに役立つのである.             
    4.今後の地形分類図への期待と課題

     これまでの地形分類図は,基本的には「印刷図」としての利用を念頭に作製され,製作目的に応じて凡例が取捨選択されてきた.しかし,近年,地形分類の成果はGISデータとして整備・利用されることがほとんどであることから,発想を変えて,使用者が使用目的に応じて凡例を切り替えられるような仕組みに転換できないであろうか? 例えば,地形分類の凡例を大分類・中分類・小分類・細分類・・・といった具合に階層化して属性を持たせ,使用目的や縮尺に応じて容易に表示を切り替えられるようにするのである.

     また,近年,地形計測技術も格段に進化してきている.例えば,精細な航空レーザ測量では樹木に隠れた数十cmオーダーの微地形も表現できるようになってきており,このようなデータが我が国の国土の半分以上を占めるようになってきている.これに伴って,新たな次元での地形解析が可能となっているが,解析技術が未だ追いついていない.詳細な地形データを判読して詳細に区分することにより,防災や土地利用などに地形分類の成果が活かせる可能性があることから,これらの利活用も十分に検討する必要がある.

     最後に,地形分類図の作成に関する課題をいくつか挙げておく.地形分類図は,国土の開発に先駆けて整備されてきた面があり,1970年代に技術が広まった.その後,細々と整備が進められているが,熟練技術者の高齢化が進み,作業機会も減少していることから,経験伝承の機会が減少している.
     最近,AIを利用した地形評価の取り組みが行われつつあるが,熟練工の経験を次世代にうまく引き継げるような仕組みを早急に検討する必要がある.
  • 田中 雅大
    セッションID: 618
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    身体的損傷impairmentを負った人々の生活にさまざまな技術が埋め込まれていくにつれ,障害disabilityを空間-技術-身体の三項関係の中に位置づける必要性が増してきた.そこで本研究では,(1)建造環境,(2)情報通信技術,(3)生物・生命・福祉工学に着目して障害と技術の関係をめぐる地理学的諸問題を整理し,それらを理解するための概念的枠組を検討した.(1)については,健常者中心主義的に生産された建造環境における身体的損傷を負った人々の社会-空間的排除・包摂の道具・象徴・景観等としての技術をめぐる問題が生じている.(2)としては,デジタルディバイド,仮想と現実の境界線上に再定位される障害,インターネットによる物理的移動の価値の転換,交通系ICカードのような建造環境の問題と密接に関係する「移動」の問題等が挙げられる.(3)としては,生体認証技術による「移動」の管理,医療技術や生命倫理の地域差,人工装具に対する周囲の反応,技術と結びついた新しい身体観の創出とそれに基づく「生そのもの」の管理等が挙げられる.そして拙稿で提示した「可能にする/不可能にさせる空間」という概念に基づくと,これらの諸問題を関係論的に理解できると考えられる.今後は関係論的な障害/自立観を基に,技術の物質性や技術性technicity,それを取り巻く制度・政策等を検討していく必要があると筆者は考える.
  • 松宮 邑子
    セッションID: 712
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.問題の所在

    モンゴル国では,近年顕著に首都ウランバートルへの人口と都市機能の一極集中が進んでいる.1990年に民主化をむかえたモンゴルでは,1990年代半ばに国内の人口移動が自由化されて以降,特に2000年代に入り首都への流入が加速化した.この背景として,民主化後の不安定な社会・経済状況に加え,1990年代末から連続的に発生した大規模な寒雪害や2002年に改正・2003年に施行された通称土地法に基づく首都の土地私有開始が追い打ちをかけたと指摘され,2000年時点で35%だった市人口に対する移住者の割合は2010年には50%を超えている.2017年現在,首都の人口は130万人を超え,全国の人口約310万人の半数近くが居住するまでとなった.市人口のうち約60%にあたる74万人の住まいがあるのは「ゲル地区(гэр хороолoл)」と呼ばれる居住地であり,ゲル地区はウランバートルの人口増加とともに拡大してきた.

    ゲル地区では,居住者が自ら木や鉄の柵で敷地を囲い区画を形成する.地区内は区画が連なり街区が形成されているものの道の舗装はされておらず,車がやっと通れるほどの道幅だったり,雨が降ると歩くのも困難という場所も多い.居住者は区画の中で,もともとは遊牧生活に用いる羊毛製のテント家屋であるゲルや,木材やレンガなどを用いて自作した固定家屋を設置して生活する.ゲルを住居としつつも家畜を飼うことを主な生計手段とする例は稀である.もう一方の居住地であるアパート地区(байшин хороолoл)とは異なり,上下水道や集中暖房システムは未整備であるものの,地区内には給水所が設置され電気も引かれており,居住者は「都市的」な生活を営む.

     そもそもゲル地区の歴史は古く,1924年にモンゴル人民共和国が成立し「近代化」をむかえる以前から存在する.都市居住地としての姿は社会主義化,民主化を経てなお今日まで続いてきたが,その意味合いは時代とともに異なってきた.すなわち,都市建設の進められた社会主義時代には過渡的な居住地と位置づけられアパート化が進められたのに対し,民主化以降は再開発の進まない一方で無秩序な開発や条件不良地への区画形成が進み拡大の一途をたどっている.

    2.本報告の位置づけ

    これまでの現代ゲル地区を取り上げた研究では,特に2000年代の様相を例に,ゲル地区を「地方からの流入人口により無秩序に拡大してきた居住地」と位置づけ,冬季に排出される煤煙を原因とする大気汚染やアパート地区に比べ貧困層の集積する実態を,都市環境問題や社会問題として取り上げてきた.それに対し本研究では,「居住者が自ら住まい空間をつくりあげてきた」という立場から,ゲル地区の形成過程,つまりは主体である居住者がゲル地区に定着していく過程を明らかにする.モンゴルの都市化を扱った研究では,ウランバートルへの人口集中の実態やゲル地区の平面的な拡大が明らかにされてきた.一方で,その主体となる居住者がなぜ移住・移動するのか,住まいはどのように選択するのかといった,都市化の過程における人の移動に関しては十分な言及がされてこなかった.

    ウランバートルの人口動態を見ると,たしかに2000年代初頭の増加は流入によるものだが,2010年代に入り増加しているのは市内における出生数である.人口ピラミッドからも,若年層の流入による増加とともにその層による世代の再生産が進んでいることが明らかだ.つまり,これまでの指摘ではウランバートルの増加する人口やゲル地区の拡大は流入者に起因するとされてきたが,ウランバートルをめぐる居住地移動を考えるにあたっては,すでにウランバートルで生まれ育った層の存在やそれらの人々の移動も無視できない実状にある.

    こうした課題をふまえ,本報告では2015年および2017年に実施した現地調査の成果から,個々の居住地移動をもとにゲル地区居住者のウランバートルへの移住,その後の都市内移動を経て現居住地に至るまでの過程を分析・整理し,居住者がゲル地区に住まう過程を明らかにする.
  • 加藤 幸治
    セッションID: 911
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本研究では,そのヨルダンにおける,人口と産業の立地・配置について,地域構造論的視点から把握する.ただし,資料や現地調査の制約,また能力的制約などから,その概観を把握するにとどまらざるをえない.したがって,本研究はヨルダンの経済地理学的理解へのアプローチの第一歩的段階の報告である.
  • 岡 岳宏, 高橋 尚志, 須貝 俊彦
    セッションID: P204
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    烏川は,群馬・長野県境の鼻曲山に端を発し,おおむね南東方向に流れる全長約62 kmの河川である.平野部で碓氷川・鏑川・神流川の3河川と合流し,利根川へと合流する.本発表では,湯殿山地すべり付近から碓氷川合流点までを中流域とし,それより上(下)流を上(下)流域と定義する.関東山地北縁部では,南から順に鏑川,碓氷川,九十九川,烏川の諸河川が東流し,これらの河川流路に沿って数段の段丘面が発達している.新井(1962)はテフロクロノロジーに基づく段丘面区分の結果から,烏川では,他の河川段丘に比べ段丘礫層の堆積及び段丘面の発達が悪いことを述べており,第四紀後期に地域的な性質をもつ地盤運動が顕著であることが要因であることを指摘したものの,烏川における詳細な段丘発達についての議論はほとんど行われていない.
    湯殿山地すべり内またはその周辺では,過去約3万年間にすくなくとも6回の液状化履歴が確認されており,深谷断層系北部セグメントとの密接に関連している可能性が指摘されている(高浜ほか,2001).また岡・須貝(2017)では,烏川中流域の段丘面の発達が悪いことについて,深谷断層の下盤側に位置している環境が要因の一つである可能性を指摘した.筆者らは,深谷断層の活動や湯殿山地すべりなどの地域的地殻変動が,烏川上・中流域の段丘発達史に与える影響について検討を行った.

    対象地域において空中写真判読と現地調査による地形面区分を行い,上流域・中流域において,それぞれ地形面が高い順にU1,U2,U3,U’面・M1,M2,M3,Spf面に区分した(図1).U1面は,河床からの比高が約60 mであり,分布は上流側の一部に限られる.U2面は,河床からの比高が約15 mであり,U3面との境界は,比高5-10 mの段丘崖で隔てられる.U’面は,空中写真判読では段丘と認定できるものの,本流方向に向かって大きな傾斜を持つ地形面である.M1面は,烏川の右岸側に存在し,湯殿山地すべり付近に存在する面(M1a),秋間丘陵の北東側に接して北西-南東方向に伸び,烏川に向かって傾斜している面(M1b),秋間丘陵東部に存在する面(M1c)とさらに3つに区分できる.Spf面は,45 ka(下司ほか,2011)に榛名山から噴出した白川火砕流が堆積し形成されたものであり,烏川中流域の右岸側に発達しているものの,上流域ではSpf面に対比される面は確認できない.M2面は,現河床との比高が約10 mであり,M3面とは比高3-5 mの段丘崖で隔てられる.M3面は,現河床との比高が小さく大規模洪水時にはフラッドロームが堆積しうる環境である可能性がある.
    現地調査の結果,U2面はAs-YP降下前に段丘化した可能性が高いことが明らかになった.M2面は岡・須貝(2017)により,As-BP降下以前に段丘化した可能性が高いことが示唆されており、U2面・M2面はともに最終氷期後半に形成されたことが明らかになったが,その形成年代は異なっている.これは以下の理由が考えられる.M2面は柳田(1991)が示す下流部での下刻の波及によって段丘化したと考えられる.しかしこの下刻の波及は湯殿山地すべり付近で止まった可能性が推測される.烏川は,湯殿山地すべり末端部の押し出し・圧縮によりせまい流路を屈曲して流下しており,この特異的な地形が下刻の波及が止まった要因になっていると考えられる.そしてAs-YP降下期以降に上流域において,流量が増えたことで上流域においても下刻が進み,段丘化が進んだ可能性が考えられる.すなわち,M2面形成時期には,現河床で確認できるような湯殿山地すべり付近での河川縦断面系の遷急点(図2)はすでに存在していたと推測される.これは,AT降下前に湯殿山地すべりが最初に活動したとされていることと調和的である.また上流域においてSpfによるダム湖形成の痕跡は見つかっておらず、上流域での段丘地形発達にSpfは大きな影響は与えなかった可能性が高いと考えられる.

    参考文献:新井房夫 1962. 群馬大学紀要, 自然科学編 10(4),1-79.下司・大石 2011. 地質調査報告書,62,177-183.岡・須貝 2017. 日本地理学会要旨集(92),p152.高浜・大塚 2001. 地球科学,55,217-226.柳田 誠 1991. 駒沢地理,27,1-75.
  • 高場 智博, 吉田 英嗣
    セッションID: 436
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    日本列島の小規模扇状地(Af < 2 km2)を対象とした地形計測研究は少なく,それらをも含めた扇状地一般の地形発達過程を論ずる必要性があると考え,筆者らはこれまでに日本列島における小規模扇状地とその集水域の地形計測研究を実施してきた(高場・吉田 2017a, b).
    本研究では集水域のうち起伏比(Rr)を計測し,既に得られている扇面面積(Af)・扇面勾配(Sf)・集水域面積(Ad)の相互関係(Af = cAdnSf = cAdnの各関係)を合わせて,Rr vs. AdAf vs. RrSf vs. Rrの関係(Rr = cAdnAf = cRrnSf = cRrn)により扇状地とその集水域の地形発達過程を検討した.議論に用いるのは,筆者らの地形判読によって得られた日本の26地域864小規模扇状地,ならびに490の大規模扇状地(斉藤,1984, 1988)である.864の小規模扇状地に関して,扇面を形成した岩屑の堆積様式に着目して「土石流」,河川掃流及びそれらの「中間」に大別した.大規模扇状地(Af > 2 km2)はいずれも「河川掃流」によるものと判断した.
    864の小規模扇状地についての各関係を見出した結果,Rr vs. Adには弱い負の相関関係(n = 0.43)がみられ,土石流と中間とではn値がほぼ同じであったものの,c値については土石流で大きかった.Af vs. Rrには相関関係がみられず,おおよそRr > tan 0.1とAf < 10 km2の範囲に散らばる傾向が認められた.土石流に対して中間では,Rrが小さくAfが大きかった.Sf vs. Rrでも同様に明瞭な相関関係はみられず,Rr > tan 0.1とSf > tan 0. 02の範囲に散らばる傾向があった(図1).土石流によるものに対し,中間によるものは,RrSfともに小さかった.
    以上の結果と既往研究の結果(高場・吉田 2017a, b)より,日本において扇状地は次に述べるようにして発達していくと推定される.まず,集水域が狭いうちは起伏比が大きく,ゆえに土石流が主たる岩屑の堆積様式となる.それに対応して,扇面勾配は大きい.この時期をⅠ期と位置付けることが可能である。次に,集水域が広くなるにつれ起伏比は小さくなり,土石流から河川掃流へと岩屑の堆積様式が移行する.その際,扇面勾配は急に小さくなる.この時期をⅡ期とする.最後に,集水域が大きく広がることで起伏比はより小さくなり,河川掃流が主たる岩屑の堆積様式となる.これにより扇面勾配はより小さくなる.これをⅢ期とする.このように扇状地は,地形発達の過程で3つの段階を経ると考えられる.
  • 加賀美 雅弘
    セッションID: S608
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    EUによる地域統合が進むヨーロッパでは,各地で人やモノの移動が活発になっている.その結果,国籍の異なる人々が就業や修学,買い物や観光を目的にして自由に行きかうのが,今のヨーロッパである.実際,多くの人々が流入するEUでは,ダイナミックな変化が各地で生じている.ここではドイツを対象にし,多様な文化や価値観をもつ人々が同居する地域になっていることを,景観写真を用いて理解する方法を提示したい.ドイツでは,ドイツ語以外を母語とする外国人が多く住み,今や移民由来の人口が総人口の20%以上を占めるに至っている.その結果,歴史的に培われてきた産業や文化などとともに,増加の一途をたどる移民や難民などヨーロッパ以外の地域から流入する外国人の文化や社会が共存する状況になっている.以下,具体的にはドイツの都市を事例にして,①固有の文化,②EUにおける人の移動の自由化,③それに伴う多様な文化の共存,という三つのポイントにしぼり,それぞれについての景観写真を用いた組写真を構築して解説する.これにより,ヨーロッパを理解するための景観写真の活用方法を提示する.
  • 小林 岳人
    セッションID: 338
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    GISは高等学校次期学習指導要領地理の必修科目「地理総合」では「地図とGIS」という大項目として位置付けられることになり地理教育の柱の一つとして期待されている。GIS導入に際しては課題も多く普及しているとは言い難い。課題の中でも実際の指導にあたる教員のGISについての知識・技能は重要である。現在、地理教員の世代交代時期にあたっており、地理教員養成課程におけるGIS関連カリキュラムが大きな課題となっている。地理を教えるに際してのGISということで学習指導の中でいかに扱えるかという観点が必要である。それには、実際の授業の場での実践が効果的であり、その場として教育実習は重要である。本発表では教育実習でのGISの扱い事例を述べる。実習生が所属する早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修ではGISの講義が主に地理系に進みたい生徒を対象に開講されている。講義は1年を通して行われ、履修生は主としてArcGISの扱い方を学習する。機材が一定の数しかないため、履修に際しては予備登録がある。また、数は限られるが、学生が自由に使うことのできる教育学部のPCにはGISがインストールしている。実習先の県立千葉高等学校のPC教室にはESRIジャパン小中高支援プログラムによりArcGISがインストールされている。県立千葉高等学校の地理A授業は2単位1年生必修(8クラス)である。通常の地理授業での利用のために週2回のうち、1回はPC教室を利用できるような時間割上の設定がされている。PC教室での地理授業では生徒がソフトウエアを操作しながら地図を作成するなどの利用がされており、各学期末には作成地図について生徒個々がクラス生徒全員の前で、発表・説明などもなされる。教育実習は3週間の日程で組まれているが、中間考査を挟むため、実質2週間で2単位の地理Aでは各クラス4回が実習期間の授業回数である。そこで、前半の2回を指導教員の授業の見学・体験とし、後半の2回を実習生の担当授業とした。前半の1回目は地図読図能力向上のためのオリエンテーリング実習において実習生は、指導教員や生徒の様子の見学、学習者として体験、教授者として体験などをした。2回目は、考査返却と実習のまとめをPC室にて行い、考査返却を通じて考査問題の作成、採点、評価などを研修し、実習のまとめで、GoogleEarth上に表示したオリエンテーリング地図上に実際に走ったルートの記入や、感想や反省を記入する様子を見学した。後半の2回は地誌学習として、GISソフトウエア操作を取り入れた地誌の授業を実習生が実習内容・講義内容などをすべて計画し実践した。具体的には、ArcGISを生徒に操作させる形での実習でエストニアの地域別ロシア系住民の割合の主題図をいくつか作成させた。その際には実習生が事前にデータを準備し、より感覚的にGISに触れられるように工夫を行った。そしてもう1回が教室での講義形式の授業で、生徒各自が作成した主題図を用いて、エストニアの地誌についての内容を行った。また、考査問題は授業の内容のまとめにもなるので、内容については作問も実習に含めた。今回の教育実習における背景は三点である。一つは大学の講義にGISが含まれていたこと、二つ目は実習校の地理授業にGISが含まれていたこと、三つめは実習校のPC教室にGISがインストールされていたこと、である。これに基づいて教育実習がなされ結果的ではあるが大学と高校の連携とみることもできる。地理教育の観点から本実習の実習生の授業実践を見てみると、実践は「生徒個々がGISソフトウエアを操作して地図を作成する形態」を含んだものとなっている。この形態はGIS導入当初に提示された形態である「生徒自身が資料の収集→集計・整理→計算・加工・分析→地図化表現→解釈・考察」を大部分含んだものである。これは、「GISの一連の作業行うことは地理的な見方・考え方が得ることができる」という教育的な意義を含んでいる。次期学習指導要領の必修科目「地理総合」では最初に「地図とGIS」を学習し、後の内容に際してこの技能・知識を生かして学習していくという考え方である。本実践の内容である地誌は選択科目となる「地理探求」の中での扱いとして考えられるが、「地図とGIS」は「地理探求」の内容に対しても及ぶ。この他、高機能、高難度とされているArcGISを使っていること、データが英語圏以外の国のものであること、教育実習中にGISについての考査問題作問も含まれていることが注目される。
  • 三上 岳彦, 平野 淳平
    セッションID: 531
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    冬季に諏訪湖(長野県)が全面結氷した数日後に湖氷が堤防上に盛り上がる「御神渡」の発生頻度が、1980年代末頃から激減しており、地球温暖化に代表される気候変動との関連が主たる要因と考えられる。
    そこで、諏訪測候所(現AMeDAS諏訪)のデータが得られる1946年冬季(1945年12月~1946年2月)以降、最近までの気温観測値と諏訪湖結氷・御神渡記録を用いて、御神渡出現頻度と諏訪の冬季気温変動との関連を分析検討した。その結果、1980年代末を境に、その前後で御神渡の出現頻度が大きく変化していること、同じ時期を境に冬季の平均気温が不連続的に上昇していることが明らかになった。また、冬季気温の急激な上昇期に北半球規模の大気循環場にも大きな変動が生じていることが指摘されており、その関連が注目される。
  • 鈴木 毅彦
    セッションID: 433
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに
    日本列島の地形発達研究においては地球物理学的知見の集積やテクトニクスの議論,火山活動史の構築が進み,問題点も明らかにされつつある.しかしながら内陸盆地や海岸域,とくに相対的沈降地域では,その形成に10-100万年単位の時間を要するにもかかわらず,それらを構成する地下堆積物についての年代データが限定される場合がある.西南~中部日本にかけての内陸盆地や海岸域では,第四紀テフラが地下堆積物から検出され比較的高精度な年代が得られていることが多い.しかしながら東北日本弧の内陸盆地についての地下地質の年代情報は限られており,地形発達過程の復元が限定的である.演者は火山灰編年法に基づき,東北日本弧南部の内陸盆地の第四紀層について中期・前期更新世に遡り堆積史を明らかにし,テクトニックな条件や火山活動が地形発達にどの様に関わるかを検討してきた.その結果,郡山,会津,米沢,山形の各盆地において地下堆積物からテフラを見いだし,長期間に遡る堆積史・地形発達を議論する上でのデータが得られた.以下,それらを整理し東北日本弧内陸盆地各地の地形発達の概要を述べ,講演ではその比較を試みる.


    2. 東北日本弧南部内陸盆地の堆積物
    郡山盆地 奥羽山脈の前弧側に位置する郡山盆地では,KR-11-1コアおよび土質試料より, Hu-TK(0.15-0.20 Ma), Sn-MT(0.18-0.26 Ma), Sn-SK(0.17-0.27 Ma), So-OT(0.31-0.33 Ma), Sr-Kc-U8(0.910-0.922 Ma)のテフラが検出された(笠原ほか 2017).現在郡山盆地は下刻傾向にあり段丘地形が発達するが,So-OT降下からHu-TK降下にかけての10-20万年間は砂・泥・泥炭などの細粒堆積物が堆積速度0.32-0.16 m/kyrで連続的に堆積した.この堆積速度が過去にわたり等速であったとすれば細粒堆積物は35-40万年前から堆積が始まったことになる.一方でこの細粒堆積物は約90万年前に噴出した火砕流堆積物Sr-Kc-U8を含む,粗粒な礫からなる河川堆積物を覆う.細粒物の堆積開始は下流側に存在する安達太良火山の活動と関係があると思われ,明確な活断層を伴わない郡山盆地の地形発達をテクトニクスで説明するのは困難である.

    会津盆地 奥羽山脈の背弧側に発達し,東西に活断層を伴う会津盆地の形成史は第四紀以前に遡る.活断層近傍,盆地中西部の会津坂下町(AB-12-2コア)では深度90 mまでの細粒堆積物中に,Nm-NM(5 ka),AT(30 ka),DKP(60 ka),Nm-KN,Ag-OK,TG(0.129 Ma),Sn-MTのテフラが確認され,堆積速度は0.46-0.19 m/kyrである(鈴木ほか 2016).また盆地中央部(GS-SOK-1コア)でもNm-NMとSn-SKが検出され堆積速度は約0.37 m/kyrと見積もられ,盆地西部から中央部にかけては同様な堆積速度を示すとされている(石原ほか 2015).一方で盆地中東部(GS-AZU-1コア)ではAT,Aso-4(87 ka),Nm-SB(0.11 Ma),Sn-MT,Sr-Kc-U8が検出され,後期更新世以降の平均堆積速度は0.45-0.27 m/kyであり盆地西部・中央部と同等であるが,Sr-Kc-U8の検出に示されるように,中部更新統/下部更新統境界は西側へ傾くとされた(石原ほか 2017).会津盆地では活断層の活動や変位速度に規制されて堆積が進んできたと考えられる.

    米沢盆地 奥羽山脈の背弧側に発達し,盆地西縁には米沢盆地西縁断層が存在する.盆地北東部で掘削された2本のコア(B7-1-2 コアおよびB7-1-14 コア)からはAT,Nm-KN,On-NG,Aso-4のテフラが検出された(笠原ほか 2014).Aso-4の深度から堆積速度を見積もると約0.5 m/kyr となり,米沢盆地の盆地床の堆積速度が米沢盆地西縁断層の活動度に依存していると仮定した場合,その平均変位速度0.4-0.5 m/kyr(地震調査研究推進本部 2005)に対して調和的な値である.

    山形盆地 西縁に明瞭な活断層を伴う山形盆地において盆地北部,村山市浮沼において地下によりHj-O(11-12 ka), K-Tz,(95 ka)の各テフラが検出され(鈴木ほか 2014),これらから推定される堆積速度は0.37 m/kyrである.掘削地点西側では盆地中央部地下に伏在する活断層として浮沼断層が推測され,段丘地形と地下堆積物から平均変位速度は0.45-0.55 m/kyrと推定された(瀬﨑ほか 2016).K-Tz以深の堆積物の年代はまだ不明であるが,細粒堆積物の堆積速度が一定であれば少なくとも約20万年前から現在に近い堆積環境で細粒堆積物が堆積してきた.
  • 生井澤 幸子
    セッションID: 916
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    トラーヴェ川の沿岸域の開発とリューベク港との関係に焦点を絞り、都市と港という筆者のテーマに新たなる事例研究を加えることを目的としている。
  • 王 汝慈
    セッションID: 633
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本研究は,LandSat衛星画像データを用いて,東京大都市圏の将来の土地利用を予測しようと試みたものである.その際,リモートセンシングとGISのの技術を駆使して,1)過去から現在までの土地利用変化が将来も継続するケース,2)炭素削減対策を施したケース,3 )緑地環境減少を抑えたケースに分けて,シナリオ分析により将来予測のモデリングを行った.
  • 福井 一喜
    セッションID: S504
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    Ⅰ.はじめに
    観光・レジャーは,ネット利用が最も早くから進展した分野の一つである.とりわけ観光・レジャー情報のアピールにネットが利用されているが,若者を中心に,個人レベルでのネット利用も一般化し活発化している.
    それゆえ近年の観光学では,個人間のオンラインコミュニティ上て゛やりとりされる観光・レジャー情報か゛,個人の観光・レジャー行動を決定つ゛ける最大の原動力になると論じられている.地理学でも,観光者のSNSを用いた情報発信を空間的に捉えようという試みが報告されてきた.これらは観光・レジャー情報の受発信におけるSNSのポテンシャルの予察的な論考であり,またSNS利用者という一部の人々の行動を観光・レジャー資源等の評価指標にしようとする試みである.若者を中心とした,SNSを用いた観光・レジャー情報の受発信が注目されている.
    観光・レジャーにおけるSNS利用の実態把握は観光現象の空間性を把握する上で基本的かつ不可欠な作業といえる.しかしながらデータ取得の困難もあって分析されてこなかった.したがって,観光・レジャー情報の受発信をめぐって,どのような地域での観光・レジャーにおいて,どのようなSNSのアカウントが,どのように,どの程度用いられるのかを明らかにする必要がある.本報告ではそのことを,東京大都市圏の若者に対して行ったアンケート調査をもとに検討する.最も主要なSNSとしてTwitterとInstagramの利用を中心的に分析する.
    なおSNSに限らずICT利用の空間性の解釈論は情報地理学に豊富な蓄積が見られる.後述するように,本調査結果の解釈にもICT利用の一形態として情報地理学の観点が必要と考える.

    Ⅱ.結果の概要
    2018年1月に,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県に居住する15歳から34歳の1,115名を対象にオンラインアンケートを実施した.以下に結果の概要を示す.居住地は多い順に東京都(37.9%),神奈川県(20.0%),埼玉県(18.6%),千葉県(17.6%),茨城県(5.9%)である.回答者の多くは会社員層と学生層で,「会社員,公務員,専門職」(32.9%)と,学生層の「学生(高卒以上)」(24.2%),「中高生・高専生」(14.6%)が主要グループである.SNS利用率はTwitterが84.9%,Instagramは50.7%である.
    都市部と非都市部における観光・レジャー活動中の観光・レジャー情報のSNSでの発信状況は,「していない」の回答者が,都市部では45.1%,非都市部では50.5%で,観光・レジャー情報の発信でのSNS利用率は必ずしも高くない.また都市部と非都市部での差も大きいとは言いにくい.
    一方受信について,どのようなアカウントの情報を参考にするかについては,都市部での観光・レジャーでは非都市部と比較して,企業や店舗,芸能人やマスコミの公式アカウントのほか,現実あるいはネット上の知人友人や,いわゆるインフルエンサーなどの個人アカウントなど,多種のアカウントがより参考にされている.ただし,いずれのアカウントも「よく参考にする」「たまに参考にする」は15~40%程度であり,全体としては,都市部でも非都市部でも,観光・レジャー情報の受信においてSNSが積極的に参考にされているとは言いにくい.

    Ⅲ.まとめ
    以上の結果は,全体として見ると東京大都市圏の若者は,観光・レジャー情報の受発信においてSNSを積極的に利用しているとは言いにくく,また都市部と非都市部での差も小さいと評価することができる.
    ただし,それを結論とするのは早計といえる.情報地理学の視座に立つと,SNSに限らずICTの利用強度には居住地や年齢など現実空間での属性だけでなく,本人のICTへの興味やスキル,価値観などオンライン空間との親和性が大きく関わる点が無視できない.本調査でも,TwitterやInstagramへの登録年には,早い者と遅い者で10年以上の差があり,フォロワー数も50人以下から1万人以上の者まで見られる.すなわちSNSに関する習熟度や影響力に大きな差がある.こうしたオンライン空間との親和性に着目して都市部と非都市部における観光・レジャー情報受発信を分析していく.
  • 坪井 塑太郎, 辻岡 綾, 中林 啓修
    セッションID: 627
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    Ⅰ.問題所在と研究目的
     自治体の危機管理・防災部局に退職自衛官を任用する動きは,1995年の阪神・淡路大震災を契機にはじまり,近年の災害対応においては自治体内で主導的な役割を担う事例もみられる.しかし,その任用状況や,自衛隊組織出身という特性・技能については,必ずしも明らかになっていない.そこで本研究では,主として防衛白書をもとに時系列での把握を行い,併せて,2016年の熊本地震および台風10号の対応を担った,熊本県庁および岩手県庁でのヒアリング調査を踏まえ,現状と課題の検討を行う.

    Ⅱ.退職自衛官の任用状況
    わが国における自衛官の任用制度は,「士」を対象とした任期制と,「曹」以上を対象とした若年定年制に大別され,このうち後者は,階級に応じて60歳未満で定年を迎える.同人材に対しては防衛庁(当時)より,「専門的知識・能力・経験の活用の推進」において再就職支援が行われている.任用の動向は,2004年の国民保護法の成立を受け,同対応計画策定の必要性が生じた2000年代中盤以降において増加をしているほか,東日本大震災(2011年)以降においても増加しており,2017年統計において,全国に402人の退職自衛官が着任している.地域別での着任動向では,東海地方の伸びが顕著であり,次いで,九州地方,東北地方となっている.退職自衛官が自治体の危機管理部局に再就職(着任)する利点には,自衛隊との連携強化のほか,訓練設計・指導や,災害対応指揮等を通じた地域防災力の向上が想定されるが,退職自衛官が自治体を含む公務団体に着任する割合は,直近では2011年(6.0%)が最も高いが徐々に低減しており2015年(2.8%)と退職自衛官全体に占める割合は,相対的に低いことが特徴として挙げられる.

    Ⅲ.自治体における退職自衛官と災害対応における地図技術
     自衛隊はその訓練において主として紙地図操作の技術が蓄積されており,熊本県では自衛隊出身の防災企画監により2016年の地震発生前より5種類の地図(状況図,行動図,経過図,ハザード図,気象図)により構成される指揮台(地図台)において情報集約と対応が行われていた.また,広域での被災と孤立が発生した台風10号での対応を行った岩手県庁においては,初動における救助計画にあたり,自衛隊との連携において,UTM座標のメッシュ地図が用いられることで,地点の明示とヘリコプターによる迅速な対応調整が行われた.

    Ⅳ.課題
     自衛隊と自治体においては「組織文化」の違いも想定されるが,具体的な災害対応力の強化に向けては,退職自衛官の有する,マネジメント経験のほか,特に状況認識の共有に資する地図技術の活用方策を検討していくことが課題として挙げられる.
  • 佐藤 彩子
    セッションID: 619
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    現在、高齢者急増に伴い介護サービス需要が高まっているが、この産業の大きな課題として従業者不足の解消がある。2016 年時点で約6 割の事業所が従業者不足を感じ、約半数の事業所が経営課題として「良質な人材の確保が難しい」点を挙げている(『平成28 年度介護労働実態調査』)。したがって、介護サービス産業では量だけでなく質の点でも従業者確保を行うことが重要である。
     加茂・由井(2006)はこの産業が求める労働力として、①家事・育児経験のある既婚女性、②不規則勤務が可能な者、③専門職と非専門職があることを指摘している。①②は加茂・由井(2006)等で議論され、介護サービス産業は断片的な就業時間帯の組合せによる女性非正規雇用に支えられていることが指摘されている。他方で、③に関して、地理学的な視点からその就業実態を論じた研究は存在しない。
     多様な介護サービスがあるが、中でも施設サービスにおける専門職従事者確保の取組やその就業実態の解明は重要である。施設サービス利用者の多くは専門的な介護を必要とするからである。365日24時間にわたって切れ目なく、しかも夜間や早朝等に必要な専門職従事者を確保するには、この人たちの通勤範囲を考慮する必要があると予想される。
     本報告では、大分市を対象に、専門職従事者の通勤圏とこれを規定する要因を解明する。大分労働局(2016)によれば、大分地区の有効求人倍率(パートを含む全数)は2016年度時点で1.36と高い。ここではあらゆる産業で労働力需給が逼迫しており、大分市の 2009年から2014年の介護サービス事業所の伸び率は県内市町村で最も高く85.6%を示す(『平成21・26年経済センサス基礎調査』)。したがって、大分市では労働力需給が逼迫する中でいかに介護サービス労働力を確保するかが課題である。中でも、大分県の「社会福祉の専門的職業」(パートを含む全数)求人の充足率は2016年度時点で29.1%と職業平均(24.2%)を超えるものの、「事務的職業」(45.7%)、「農林漁業の職業」(41.1%)と比べると低い。本報告では、介護サービス専門職従事者の充足率が低い大分県に関して、指定都市・中核市の計63都市の中で特別養護老人ホーム(以下、特養)利用者の平均要介護度が4.25と最も高い大分市を対象に、専門職従事者の通勤圏とこれを規定する要因を解明する。         
     2017年8~10月に、大分市内の特養9施設の専門職(介護福祉士・正看護師・准看護師・介護支援専門員)と非専門職の従事者にアンケートを行った。調査対象期日は2017年7月1日時点、調査票は訪問時に持参し郵送で回収した。有効回答数(率)は259人 (うち専門職214人、非専門職45 人) (68.2%)である。アンケートの結果、専門職従事者について次のことが判明した。
     第1に、看護師は全員が女性である。第2に、男性は介護福祉士・介護支援専門員ともに9割以上が正規職員であるのに対し、女性は3専門職の正規職員比率が5~7割台と男性に比べると低い。第3に男女計で見ると、正規職員では9割以上が通勤距離2km以上であるのに対し、非正規職員では6割台にとどまる。このことは、非正規専門職従事者の通勤距離は正規専門職従事者と比べてより狭域であることを示唆し、専門職従事者でも就業・勤務形態によって通勤距離には差があるといえる。インタビューによると、専門職従事者間での通勤距離に差をもたらす要因として通勤手当と賞与が関係している。9施設中、7施設で非正規職員には正規職員より少ない金額でしか賞与が支払われず、非正規職員の中でもパートタイム勤務者には数万円程度の寸志か、支払いすらない施設も存在した。通勤手当について情報の得られた2施設では正規職員への支払いはあるが、非正規職員についてはフルタイム勤務者に関して1施設、パートタイム勤務者では2施設が支払っていないことが判明した。
  • 周 宇放
    セッションID: 934
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1)研究の背景
     長江三峡は中国政府に認定された国家を代表する知名度の高い景勝地・観光地である。三峡地域の観光は長江三峡ダム建設以前の1990年代まで、三峡下りに代表される「川下り」であった。しかしダム完成後、三峡下りはクルーズ旅による旅へと変化し、クルーズ船の寄港地が観光スポットとなった。長江三峡ダムの建造によって、景勝地であった三峡の風景が変化し、従来の三峡下り観光は衰退の様相を呈していくこととなった。巫山県では,山峡下り観光衰退への対策として、観光客のニーズに合う,地域資源を活用し,周辺地域の住民をターゲットとした新たな観光形態と観光スポットの創出を行っている。

    2)研究目的と研究対象地域

     本報告は三峡地域における観光形態の変化を明らかにするとともに、中国における条件不利地域における観光発展の特徴を明らかにすることを目的とする。

     研究対象地域とする重慶市巫山県は三峡地域の奥に位置し、三峡観光の中に最も有名な観光スポット(小三峡)を持っている。山地面積が地域全体の96%を占め、平地面積はわずか4%に過ぎず、中国内陸部のなかでも条件不利地域に位置している。

    3)調査方法と調査内容

     巫山県において、地元住民と観光客に対して聞き取り調査を実施し、観光客の行動と地元住民における観光への取り組みに関して検討する。

     観光客に関する聞き取り調査は、夏季の三峡下り客と秋季の紅葉観賞客を対象に実施した。調査内容は主に観光客の行動と観光目的である。地元住民の調査は、観光埠頭および周辺の屋台のオーナーと市街地に立地する大規模なホテルの支配人を対象に実施した。調査内容は個人オーナーに対して巫山県の観光及び観光客についての考え方を伺い、ホテルの支配人に対しては、年間の稼働率と宿泊客の属性に関するデータを収集した。

    4)結論

    (1)三峡下りの観光形態は、上陸見学を主とした「物見遊山型観光」から、クルーズ船による船旅自体を目的とする「体験型観光」へ変化している。

    (2)近年では,地域主催のイベントである「紅葉祭り」により来訪者数が増加している。巫山紅葉の名は周辺地域に広がっている。「紅葉祭り」による来訪者の多くは、レジャー目的による一泊二日の短期旅行者である。地域主催イベントによる観光集客圏は比較的狭く,周辺地域に限られていることが考えられる。

    (3)地元住民は観光客に対する関心は相対的に低く、地域内でのつながりを重視している。周辺の景観への関心も高くないことがわかった。ホテルでの聞き取りによると、観光客の宿泊率が高いのは,秋のイベント開催時に限られており、観光客向けの特別な取り組みもみられない。

    (4)地域住民の多くが観光に無関心であるのに対して、巫山県などの地域行政は積極的に観光事業を取り組んでいる。長江三峡というブランドを維持しつつ、新たな地域的特色を持つ観光ブランドの開発に取り組んでいる。そこでは点在する観光スポットから面的な観光地への展開を目指す動きがみられる。
  • 小原 丈明
    セッションID: 912
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    Ⅰ.はじめに
     ヨルダン・ハシミテ王国(以下,ヨルダン)の地域構造を理解するためには都市に着目し,ヨルダン国内の都市(群)システムや周辺国の都市との関係性を明らかにすることが求められる。そして,それら都市(群)システムを理解する基盤として,個々の都市の成り立ちや性格についても理解を深めることが必要となる。
     本研究ではヨルダン国内における特定の都市に焦点を当て,その都市の性格について詳述し,ヨルダンの地域構造の把握の一助とすることを目的とする。大枠の理解として,ヨルダンの都市(群)システムは首都であるアンマンを中心とするものであるが,アカバについてはやや特殊な側面があることから,本発表ではアカバの都市の性格について概観する。
     本研究は現地調査と統計資料や地図・空中写真等による資料分析から成る。統計資料はJordan Statistical Yearbookなどヨルダン統計局発行の紙媒体の資料,および同局HPのデータを使用し,また,地図・空中写真等は王立地理院発行の地形図,観光地図,空中写真およびGoogle Earthの画像を使用する。

    Ⅱ.ヨルダンの都市
     ヨルダンの主要都市はイスラエルとの国境に近い西部に位置するが(図1),国境がヨルダン川や死海,ワジアラバ沿いの低地に走っているのに対し,それらの都市の多くはヨルダン高原上に立地している。ヨルダンの人口(2016年:979.8万人)の多くはアンマン県(42%)やイルビド県(19%),ザルカ県(14%)のある北西部に集中し,それらの県は都市的地域の人口比率が高くなっている。また,人口分布と同様に,事業所の分布もアンマンを中心とする北東部に集中する形となっている。

    Ⅲ.都市アカバの性格
     ヨルダンの主要都市の多くが北部の高原上に位置するのに対し, 国の南端にあるアカバは低地に立地し,唯一海洋(アカバ湾)に面している。現在の都市としての骨格はあまり古くなく,1980年代の空中写真では確認できるが,1950年代には見られない。市街地の中心部の旧市街の北側には新市街があり,リゾート施設や住宅開発により,市街地はさらに拡大しつつある。
     主要産業は観光業であり,マリン・リゾート地として国内外から集客がある。アカバ県の人口は19.3万人(2%)に過ぎないが,ホテルなどの宿泊施設の事業所はアンマン県に次いで多く(78事業所,15%),活発な観光業や不動産開発により,「新たなドバイ」と評せられている(Russell and Cohn 2012)。近年のリゾート開発では,開発事業体としてレバノンやUAE,サウジアラビアなど近隣諸国を中心に多数の外国企業を誘引している。

    付 記
     本研究は,平成27・28年度学術研究振興資金「ヨルダンの環境と地域構造の変化に関する地理学的研究」(代表者 長谷川 均)による成果の一部である。
  • -名古屋市の歴史的町並みに現れる緑への注目―
    齊藤 由香, 長谷川 泰洋, 竹中 克行
    セッションID: 117
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.問題意識
     現在われわれの目に映る都市の姿とは,基層をなす地形・水文環境の上に,町割・地割といったフレームが形成され,そこに人間による土地・空間利用が積み重なることで生み出されている(東京大学都市デザイン研究室,2015)。いかなる都市にも,時間とともに蓄積された独自の文脈があり,これが現在の都市空間に固有のかたちを与えている。こうした都市の持続的文脈を読み解くことは,まちの個性を活かした都市発展が問われるグローバル化の時代において,今後のあるべき方向性を示すことにもつながるのではないだろうか。
     都市の持続的文脈を明らかにするなかで,今回は都市の緑に注目したい。自然環境を構成する要素のなかで,緑は,地形や水文などと比べて変化のサイクルが短い。しかし,変わりゆく姿を確認できるからこそ,人間が意識的・主体的にかかわるものでもある。そうした人と緑のかかわり合いや,その結果としての緑の立ち現れ方は,同じ都市の中であっても他の持続的文脈(地形・水文環境,町割・地割,土地利用など)の条件に規定されながら,大きく異なることが想定される。
    このような問題意識から,本研究では名古屋市の歴史的町並みに現れる緑に着目し,エリアに特徴的な緑のパターンを明らかにするとともに,そうした緑の現れ方に,都市の持続的文脈の変化がどう関わっているのかを考察することを目的とする。
     ここでいう歴史的町並みとは,名古屋市が指定する「町並み保全地区」を指し,今回はそのうち「白壁・主税・橦木」(以下,白壁エリアと称す)を対象とする。歴史的町並みを取り上げる理由は,長きにわたって人と土地とのかかわり合いのプロセスが刻印された場所として,都市に蓄積された持続的文脈を読み解く上で相応しい対象と考えるためである。

    2.研究方法
     まずは現在の緑の現れ方を把握するため,2017年10月から12月にかけて,白壁エリアの緑の現地調査を行った。2か所の調査地区(80×400m)を設定し,道路から視認可能な範囲の緑を対象として,主に観察により樹木の分布や位置,樹種,樹高,樹形などを調査した。その結果に基づき,緑の現れ方のパターン化を試みた。続いて,こうした緑の現れ方の背景を明らかにするため,航空写真,都市計画図,住宅地図など,過去の地図資料を使った分析を行う。今回はとくに「町割・地割」,「土地利用」の変化に焦点を当て,こうしたまちのフレームや土地利用の変化が,現在の緑の現れ方にどう関係しているのかを,緑被率の変化などと併せて考察する。発表当日は,現地調査のデータを提示しながら,上記の分析結果について報告を行う。

    [文献]
    東京大学都市デザイン研究室編 2015.『図説 都市空間の構想力』 学芸出版社.
  • 内藤 亮
    セッションID: 212
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.研究目的
     日本各地で中心商店街活性化に向けたイベントは多く実施されてきたが,いずれも一過性のもので継続されていない場合が多い.今回取りあげる「まちゼミ」は,商店主が講師として商品に関する知識や情報を客に教えるイベントである.愛知県岡崎市で始まり,現在約300か所で実施・継続されている.まちゼミは,まちづくりのための企画として広く知られているが,まちゼミに関する研究は岡崎市を対象に店舗調査・ヒアリング・資料分析を行った内藤(2017)のほかは乏しい.本研究では,全国各地で実施されているまちゼミについて,その特徴と課題・可能性を明らかにする.

    2.研究方法
     本研究では,まず文献等から様々な中心商店街活性化事業の長短所を整理し,当事業におけるまちゼミの特徴を位置づけた.次に,各地域のまちゼミについて,Webページや資料・文献等で実態を把握した.3点目に,まちゼミを実施している地域の担当部署にアンケートを送付し分析した.以上を踏まえ,中心商店街活性化事業としてのまちゼミの特徴や課題・可能性を考察した.

    3.結果
     様々なまちづくり活動や中心商店街活性化事業の中でも,まちゼミは(1)必要なモノ・費用が少なく実施が容易,(2)日常の買い物として中心商店街を利用する地元住民が対象,(3)顧客と店主とのつながりができることで固定客となり得る,(4)必ずしも商店街全店舗が参加する必要はなく,参加意志のある店主のみで実施できる,といった点を長所とする.一方,①チラシによる広報が主流であるため,外部から顧客を呼び込んで商店街を利用してもらうことがない,②まちゼミ受講にあたって事前に予約する必要があるため,講座当日に気軽に受講することが容易ではない,といった点が課題とされる.
     Webページや文献等の資料分析によって,特色ある講座の実施など,独自の発展を遂げているまちゼミが存在することが分かった.
     アンケート調査によって,補助金を活用している地域が多いこと,金銭面で自立できていても運営面で自立できていない地域が多いこと,売り上げが増加した地域が少ないこと,岡崎と同様に広報が不十分で認知度が低い地域が多いことが明らかになった.

    4.考察
     本来,まちゼミは補助金に依拠せずに実施できるイベントとして注目されていたが,実際は補助金を活用している地域が多く,まちゼミのもつ特徴が全国で活かされていないと考えられる.
     アンケートにおいて,運営を商工会議所から店主有志に移行できない旨の回答が多く,担い手不足や店主の意欲面などの課題もみられた.店主有志が主体となる活動のため,積極的な担い手がいない場合は存続するのも難しい.
     個人店の強みを活かしたまちゼミだが,中心商店街活性化の観点から捉えると,売り上げ増加や新規客増加,固定客増加に結び付いた地域は少ない.店舗を知るきっかけにつながった地域は多いため,継続して実施することで,まちゼミの効果が高まると考えられる.
     広報が不十分で認知度が低いことを課題と捉え,対策に取り組んでいる地域では,売り上げ増加や新規客増加,固定客増加の効果がみられた.まちゼミの企画の特徴を押さえた上で,リーダーを育成することで,まちゼミの効果が現れ,店舗の売り上げ増加に寄与すると考えられる.

    文献
     内藤 亮 2017.岡崎市まちゼミにみる地方都市中心商店街の再生の取り組みと課題.新地理 65(3):51-68.
  • 澤柿 教伸, 福井 幸太郎, 山口 悟
    セッションID: 425
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに
     北アルプス北部の立山・剱岳山域の多年性雪渓のいくつかが現成氷河であることが、ほぼ確定的となった(福井・飯田 2012, 福井ほか 印刷中)。とはいえ、これらの氷体に関しては、氷厚測定やGPS流動測定などの現地観測による結果がようやく出そろった段階であり、涵養・消耗機構や流動機構については未解明な点が残されている。特に、当該氷体に、年間20mを超す多涵養/多消耗の質量収支特性や底面剪断力の大きな季節的変動が認められるなど、従来の研究では注目されてこなかった新しい課題も浮かび上がってきた。
     本研究は、発表者らがこれまでに開発してきた地形と氷河流動のカップリングによるELA決定モデル(澤柿ほか2014a,b)を立山・剱岳山域の多年性雪渓に適用させて、多年性雪渓から氷河への遷移機構や氷体の形成・維持に関する物理的・気候的メカニズムを明らかにすることを目指している。氷河と認定する段階からさらに踏み込んで、多年性雪渓から氷河への遷移機構や氷体の形成・維持機構を解明する段階に発展させようとするものである。
    2.ELA決定モデル
     本研究で用いるELA決定モデルは、そもそも、氷河地形と涵養域面積比(AAR)に基づいて決定される過去の平衡線高度(paleo-ELA)が抱える問題点を解決すべく、3次元数値地形モデルで復元された氷河の動力学的妥当性を客観的・解析的に吟味できるように開発したものである。モデルで算出される解析結果を客観的根拠として地形学的な氷河復元にフィードバックすることも目指している。これまでに、モデル構築の第一段階として、観測データが豊富な欧州の典型的氷河でELA決定モデルの妥当性を検証・確認した(澤柿ほか2014a)。さらに第二段階として、このモデルを後期更新世の日高山脈に発達した山岳氷河に適用して、そのpaleo-ELAを算出している(澤柿ほか2014b)。
    3.立山の氷体への適用
     本研究では、上記のモデルに改良を施し、現成氷河の可能性が指摘された立山・剱岳山域の氷体とそれらの近傍の多年性雪渓に適用する。
     対象とする氷体は、立山東面に分布する「御前沢雪渓(氷河)」、および剱岳東面に分布する「三の窓雪渓(氷河)」と「小窓雪渓(氷河)」の3つである。ELA決定モデルは地形と氷河流動のカップリングを基本原理としており、これまでの現地調査で概要が判明している基盤地形と表面形状について、モデル計算に適用可能とするための数値化作業を行った。また、氷体底部の基盤地形は、アイスレーダー探査の結果を用いて数値化した。
    4.計算条件
     現段階では、入力データの整備が完了した段階であり,今後,順次,底面滑りの有無や,側壁の効果などの条件を変えながら,複数の条件設定で計算を行い,比較検討していく予定である.
  • 相馬 拓也, プレブ エンフジャルガル, 梶山 貴弘
    セッションID: 837
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに
    本研究は、アルタイ山脈北部の非公的な在来カザフ語地名を記録し、遊牧社会に伝わる伝統的な土地利用観の在来知を実証的に解明する民族地理学研究である。現地カザフ遊牧民には、牧畜生活の文脈にもとづく宿営地、放牧地、狩場、水源、資源採集地(天然塩、ソーダなど)の土地利用上の空間共有知が、カザフ語の固有地名とともに継承された。しかし、伝統的な現地カザフ語地名は行政上・国土地理上は認められておらず、その地名の一部も、社会主義時代を通じてモンゴル語地名へと改名されてきた可能性がある。同県地方部の生活では、地名の多くが在来地名で呼称され、その多くは地図化されていない。そのため、現地カザフ語固有地名の記録と土地利用観の解明は、伝統文化保護の観点からも社会的要請度の高い課題となっている。

    2. 対象と方法
    本報告では以下の4系統の課題達成により、アルタイ地域の地理空間認識と、遊牧世界の文脈とを合わせて総合的に解明することを、本研究の最終目標としている。
    RT 1: 在来カザフ語地名のドキュメンテーションおよび地図化
    RT 2: 在来モンゴル語地名の分類と計量分析
    RT 3: イヌワシ捕獲地点と土地利用観の特定
    RT 4: 地名由来の民間伝承・オーラルヒストリーの記録
    フィールド調査は2016年9~10月、2017年5~6月の期間、バヤン・ウルギー県サグサイ村を中心に合計40日間実施した。構成的インタビュー調査では、モンゴル語およびカザフ語のネイティヴ話者を動員し、両語の正確な地名記録を行った。

    2. 結果と考察
    RT 1: 在来カザフ語地名のドキュメンテーションおよび地図化
    モンゴルで社会主義時代に作成されたバヤン・ウルギー県サグサイ郡のモンゴル語地名地図『Газар Нутгийн Нэрний Зураг』(1986)をもとに、地域の古老・長老・年長者を訪問し、カザフ語地名の表記・別名などを聞き取り調査した。サグサイ群内では、在来のカザフ語地名を全105件記録・収集した。これら収集された地名の位置・空間範囲も合わせて記録し、ArcGISにより地図化した。同郡の在来の地理空間区分には3階層、1. 地方名 (n=4)、2. 地域名 (n=7)、3. 在来地名 (n=94)、が確認された。

    RT 2: モンゴル語地名語彙の計量分析
    モンゴル語地名語彙の計量分析では、サグサイ、アルタイ、アルタン・ツォグツの3カ郡内の地名1,862件を抜出した。これら地名構成要素(単語・語彙)の成分カテゴリーから、以下の3分類目13カテゴリーに任意で小分類を行った。
    A. 地理的分類目:
    A1. 地形/A2. 位置・方角・形状/A3. 色彩
    B. 生態的分類目:  
    B1. 植物/B2. 動物
    C. 質的分類目:
    C1. 形容表現/C2. 道具/C3. 人物・人名・人体/C4. 数字/C5. 建物/C6. 食物/C7. 地名/C8. その他
    対象地域5ヵ村で出現回数10件以上の上位23分類項について分散分析を行ったところ、地物分類についての地域間に有意差は見られなかった[F(4/135)=2.43>1.34 / P=0.25>0.05]。

    RT 3: イヌワシ捕獲地点と土地利用観
    地域の特徴的な土地利用観のひとつであるイヌワシ捕獲地の在来地名と位置について、インタビューをもとに特定した。調査期間中、現地に現存するイーグルハンターn=41名に構成的インタビューを実施して該当データを収集した。イヌワシ捕獲地点はウルギー市西方のアルタイ山地深部が好まれ、とくにウラン・フス北部~サグサイ南部・アルタイ北部にかけて集中する傾向がみられた。逆にウルギー市より東部ではほとんど見られなかった。

    RT 4: 地名由来のオーラルヒストリー
    同臨地調査では、在来地名の語源や由来を示す民間伝承・オーラルヒストリーを収集した。その一部は現地在住の作家シナイ・ラフメット氏収集の民話などを一部参照した。サグサイでは、カザフ語およびモンゴル語地名双方の地名伝承等が聞かれた。また一部の伝承については、20世紀に入ってからの比較的新しい時代も含まれている。これらのドキュメンテーションは、長老・古老の減少により緊急性を要すると思われる。

    3. 今後の展望
    本研究は「地名研究」の枠を超えて、臨地調査・巡検での地名の記録・収集⇒その分類と計量分析⇒社会調査による土地利用観と地名由来の特定⇒地理学的・自然科学的特徴と地名の照応関係、を分野横断的に解明する「民族地理学」研究の道筋を示す意図がある。当該研究の進展は、個別民族・社会・文化に特有の在来地名・地理空間・土地利用観を固有の知的資源・在来知・伝統知として再定義することで、社会的・学術的貢献に資する民族地理学の担うべき使命が示されると思われる。
  • 兼子 純, 菊地 俊夫, 田林 明
    セッションID: P327
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.研究課題と目的

    発表者らはこれまでカナダ・ブリティッシュコロンビア州(BC州)における農村空間の商品化の特性について明らかにしてきた。すでに報告されたローワーメインランド,オカナガン,バンクーバー島の事例は,カナダにあっても大都市の近郊に位置し,恵まれた自然条件を活かして農村空間を変容させていた。しかし,大消費地から遠隔に位置し,自然条件も厳しい地域はBC州の多くの部分を占める。本報告はそうした地域の事例として,BC州ピースリバー地域(PRRD,図1)を対象に,その農村空間の商品化の特徴を明らかにする。



    2.PRRDの自然条件と人文条件

     PRRDはBC州の北東部に位置し,面積は約12万㎢でBC州全体の13%を占める。西側にはロッキー山脈が連なり,地域の東部は緩やかな傾斜地となりアルバータ州の大平原へと続く。気候は大陸性気候で,年間平均降水量は350~500mmである。冷涼な気候で,無霜期間は100~110日(5月後半~9月前半)である。地域の名称の由来となったピースリバーは,ロッキー山脈に端を発し,ハドソンズホープにあるW.A.C. ベネットダムを経由して,地域を東流してアルバータ州へと続く。このピースリバー両岸の標高の低い地域が,農業適地となっている。

     広大な面積を持つ地域であるが,人口分布は希薄である。ただし,1996年の56,477から2016年の62,786と人口は増加している。都市(行政市)はフォートセント・ジョン(20,155人)とドーソンクリーク(12,178人)の二つであり,その他タンブラーリッジ,チェットウィンド,テイラー,ハドソンズホープ,ポス・クーペといった人口2千人未満の小地区や小村から構成される。地域の産業は,農業,観光,製造業に加えて,石油採掘や水力発電といったエネルギー産業や林業である。



    3.地域の農業と天然資源

     大都市の市場から遠隔に位置し,厳しい自然条件にもかかわらず,PRRDにおいて農業は最も重要な産業である。地域の農業はピースリバー両岸に沿った肥沃な土壌を持つ地域を中心に保全農地(ALR)おいて展開し,これらは人口分布地域とほぼ合致している。

     2016年の農家数は1,335で1990年代以降は漸減傾向にあるが,1農家当たりの耕地面積は増加している(2016年602ha/戸)。主要作物はコムギ,エンバク,オオムギ,アルファルファ,飼料作物,キャノーラである。その生育期間の短さから野菜栽培は少なく,ファーマーズマーケットの開催は盛んではない。

     PRRDの農地の至る所で目にするのは,石油の採掘施設である。当地では石油や天然ガスの埋蔵が豊富であり,フォートセント・ジョンでは主要産業となっている。PRRDにおける農家の59%がこうした産業への農外労働に従事しており,この割合はBC州全体よりも高い。

     

    4.タンブラーリッジでのジオパークへの取り組み

     人口規模は小さいものの,各自治体ではそれぞれの農村空間の特徴を転化させた観光への取り組みを行っている。ロッキー山脈という山岳地域との近接性を活かしたウィンターアクティビティ,ドーソンクリークにおけるアラスカハイウェーの起点0マイルポイントという街道の歴史性,チェットウィンドにおけるチェーンソーカービングによるまちづくりなどがある。なかでも2014年にタンブラーリッジが北アメリカで2番目の世界ジオパークに認定された。本報告では,わずか人口2千人弱の地区におけるジオパークの取り組みをはじめとするこの地域の特徴的な農村空間の商品化に関する活動の実態を紹介したい。
  • 浜田 崇, 北野 聡
    セッションID: P126
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    気候変動による水温への影響を正確に把握するためには,水温の長期的な観測が重要である.そこで,長野市飯綱高原の小渓流において延べ約10年間にわたって観測された水温データを整理したので報告する.水温観測は,長野市飯綱高原に位置する長野県環境保全研究所の敷地を流れる小渓流にて行った.水温測定地点は標高986mの地点である.水温観測は2004年12月7日~2008年6月2日,2011年2月1日~2013年11月24日,2014年5月28日~2017年10月17日の期間において実施した.結果は以下の通りであった.最高水温が最も高い月は8月ないしは9月であった.一方,最低水温が最も低い月は12月~翌3月にみられた.月毎の最高水温と最低水温との差は,3月と4月,11月と12月に大きかった.この月は概ね落葉シーズンと一致していた.水温は気温に比べて季節変化が小さく,11月から3月にかけては気温より高く,逆に4月から10月にかけては気温より低かった.水温と気温の年平均値の関係は正の相関(r=0.77)があり,気温が高い年は水温も高いことが明らかとなった.
  • HAO GONG
    セッションID: P308
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    Rapid urbanization in Shanghai has led to a sharp decline in green space while built-up land is growing. Land availability has a great constraint for the development of cities and influences the urban environment, economic activities and residents' life. In order to protect and conserve the diversity of natural land, a more sustainable urban growth strategy should be developed. As a robust tool to help provide crucial decision supports in the urban growth management, geospatial predictive modeling has been used in many urban studies. The main purpose of this research is to investigate the spatiotemporal process of urbanization in Shanghai and provide feasible alternative future development patterns by using geospatial predictive model.
  • 愛媛県「八幡浜お手伝いプロジェクト」における援農者を事例に
    池田 和子
    セッションID: 114
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は,本来観光ではない活動に内在する満足やレクリエーション要素を抽出し,報告者らが検討する「オーセンティック・ツーリズム」において需要者が期待する体験の価値がどのようなものかを検討することである.本報告では,援農活動に参加した企業への聞き取り調査の結果および,参加者個人へのアンケート調査の一次集計の結果を示し,考察を行う.
  • 村木 昌弘, 須貝 俊彦
    セッションID: P218
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本研究では礫層の堆積環境と古地形を復元して、現地形と比較することで、大磯丘陵東部の構造運動を解明することを目的としており、そのためにまず金目川現河床礫と相模湾現海浜礫を検討した。また、この地域に広く分布する最終間氷期を主堆積時期とする吉沢層(町田・森山, 1968)を中心に更新統の構成礫を採取し、堆積環境の復元を試みた。
     現河床礫は金目川の上流部から下流部にかけて5 地点、現海浜礫は金目川(花水川)河口付近から西へ4 地点で、1m×1m の枠を設け、100 個の礫を採取した。地層中の礫は、高麗山-浅間山山地内の湘南平南部の標高約108 m地点の0.5m×2m の露頭から100 個の礫を採取したほか、他の位置からも同様の手法で採取した。採取試料は礫径(長・中間・短径)、礫種、円磨度、風化度、球形度の計測・測定、および、運搬堆積過程を推定するために形態分類(Sneed・Folk,1958)を行った。
     金目川現河床礫の平均礫径は下流へ8cm 程度から3cm 程度に減少し、円磨度は0.3 から0.6 へ増大した。平均球形度は 0.7 付近で概ね一定していた。構成礫種は、上流では火砕岩類が多数を占め、下流では砂岩・泥岩・礫岩の割合が増加した。これは金目川下流の東を流れる相模川が、周辺に発達する砂州・砂丘を形成する過程で金目川の支流として流れ込んでいた可能性が挙げられる。相模湾沿いの現海浜礫は、平均礫径は金目川河口付近で2.5cm 程度、他地点では4cm 程度であった。円磨度は0.7 程度、平均球形度は約0.6 で、大磯丘陵東部の西側のみ0.7 を示した。礫種は砂岩と泥岩が卓越し、金目川河口から西に向かって泥岩の割合が増加していた。海浜礫の給源河川が大磯丘陵東部の東側と西側で異なる可能性が挙げられる。また、形態分類より現河床礫と現海浜礫の分布が概ね2 つのクラスターに分かれた。湘南平南部で採取した礫は、砂岩と泥岩が卓越し、平均礫径は金目川河口付近の海浜礫と同程度ゆえ、海成層の可能性が高い。しかし、平均球形度と形態分類は金目川中流部の礫に近く、陸成層である可能性も完全には否定できない。発表では他の更新統から採取した礫分析の結果も踏まえ、当該地域の古地形について報告する。
  • 大貫 靖浩, 生沢 均, 古堅 公
    セッションID: 417
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    資源活用を目的とする伐採という人為的なインパクトが、林床環境にどのような影響を与えるのかを定量的に把握するための一環として、沖縄本島北部の森林伐採地に試験地を設定して土砂移動量を実測し、傾斜や植被率との関係について検討した。梅雨、台風、冬季の降雨のそれぞれの影響は冬季<台風<梅雨の順に大きく、特に重機による林床攪乱が大きかったプロット内では台風の降雨後に非常に高い値を示した。冬季の総降雨量は台風の総降雨量より多いが、降雨強度が小さいため土砂移動量は少なくなったものと推察される。また、林内であっても、傾斜の急なプロットにおいては、皆伐地のプロットと同程度の土砂移動量を示した。一方、土砂受箱周辺が下層植生でほぼ覆われている皆伐地のプロットでは、降水量の多寡にかかわらず林内のプロットと同程度の小さい値を示した。植被率と土砂移動量の関係を検討したところ、植被率が100%もしくはそれに近ければ、下層植生は土砂流出を止める大きな効果があるが、植被率が50%程度の場合、土砂移動量は傾斜に大きく規定されることが明らかになった。
  • 手代木 功基
    セッションID: P103
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに

    高山の氷河後退域における植生分布は,氷河から解放された年代や種々の環境要因に影響を受ける.ケニア山における水野の一連の研究は,氷河の後退に連係して植物が前進していることを定量的に明らかにしてきた.これらの研究の中では,熱帯高山に特徴的にみられるSenecio keniodendron (SK)やLobelia telekii (LT)といった大型半木本性植物についても分布が検討され,地形面や岩屑の大きさとの関連が指摘されている(水野 2003).しかし,大型半木本性植物の植生遷移との関係や広域スケールの立地環境については十分に明らかになっているとはいい難い.

    大型半木本性植物は,ケニア山をはじめとする熱帯高山の植生景観を特徴づけるものであり,今後の当該地域におけるエコツーリズムや景観保全を考えていく上では,分布や定着に関する理解をさらに深めることは重要である.本研究では,大型半木本性植物の氷河後退域における分布とその要因について,現地調査とGIS解析から検討する.

    方法

    ケニア山は0°6′S,37°18′Eの赤道付近に位置する火山であり,山頂のBatian峰の標高は5,199 mである.調査対象としたTyndall氷河は,ケニア山においてLewis氷河に次いで 2 番目に大きな氷河で,末端部の標高は4600m程度である.氷河は少なくとも過去100年間継続的な縮小・後退がみられる.特に近年の氷河の後退速度は著しく,気温上昇が影響していると考えられている.

     現地調査は,2016年8月に実施した.約100年前に形成されたTyndallモレーンによって形成されたリッジよりも内部を踏査し,そこに出現した背丈3cm以上のSKとLTの位置・背丈を記録した.記録の際には,周辺の岩屑の状況等についてもあわせて記載した.

    次に,調査地域周辺の全世界デジタル3D地形データ(cNTT DATA, RESTEC Included cJAXA)より作成された5mメッシュのDTMを用いて,SK及びLTの分布図を作成するとともに,標高・傾斜・斜面方位・日射量などとの関係性を検討した.

    結果と考察

    現地調査の結果,調査対象地であるモレーンリッジ内部の氷河後退域にはSKが169個体,LTが215個体出現した.出現したSKの背丈の平均は19.7cm,最大の個体は100cmであり,LTの背丈は平均が24.5cm,最大の個体が199cmだった.両種の分布は,標高が低い(氷河から離れている)ほど個体数が多い傾向を示した.生育している場所の斜面傾斜角は10°前後の平坦な部分が多かったが,急傾斜な場所にも生育していた.斜面方位との関係をみると,南東向き斜面に分布する個体が他の方位に比べて突出して多い傾向がみられた.さらに地形情報から算出した日射量との関係をみると,日射量が多い場所ほど両種ともに個体数が多くなる傾向があった.また,背丈が高い個体も日射量が多い場所に分布していた.
     これらの結果から,植生が土地に侵入する最前線である氷河後退域において,大型半木本性植物の分布を大局的に規定する要因として,日射条件の重要性が示唆された.今後はミクロな環境条件についてあわせて検討するとともに,より広域スケールにおける分布の現状と規定要因を明らかにすることによって,ケニア山の景観を特徴づける大型半木本性植物の実態解明を進めていく.
  • 立木 咲希, 山本 遼介, 泉 岳樹
    セッションID: 724
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
  • 三橋 さゆり
    セッションID: S307
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.河川の管理とは

    ・利根川上流河川事務所の管理区間は。

    ・築堤や水門建設などの河川整備、河川管理施設の管理、防災危機管理、環境対策等を行っている。



    2.治水地形分類図の整備

    ・治水地形分類図の更新は、河川事業費により国土地理院が実施。

    ・地方整備局(河川事務所)は、河川管理施設データ、管内図、洪水防御図などを提供。

    ・図案の段階で、河川管理者も内容の補完・修正作業に参加。



    3.活用その1(堤防強化等のための基礎調査)※要するにハード整備

    ・旧河道が堤防と交差する場合は「行止まり地盤」を形成しやすく、漏水やすべり破壊が生じる原因ともなるため、要注意地形として治水地形分類図から判断する。

    ・さらに、被災履歴等の他の条件とあわせ、一連区間の細分を行う。これによってそれぞれの区間の堤防構造の設計を行うことができる。











    4.活用その2(重要水防箇所の決定)※要するに危機管理

    ・重要水防箇所とは、河川の堤防などにあらかじめ設定する、洪水時に水防団等と連携して重点監視を行い、出水時に必要に応じて自治体の避難判断の目安とする箇所。

    ・利根川上流管内の、重要水防箇所(旧河道)の具体例。現地の状況等。
  • 矢ケ﨑 典隆, 矢ケ﨑 太洋
    セッションID: 833
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    ワインツーリズムが展開するのは生産と消費が同時に行われる農村空間であり、ワインツーリズム研究には、ブドウ・ワイン産業、ツーリズム産業、ツーリスト、関係団体・組織の関与を地域の枠組みに即して考察することが必要になる。カナダのブリティッシュコロンビア州内陸部に位置するオカナガンバレーは南北アメリカでもっとも新しい主要なワイン産地で、20世紀末以降、著しい発展がみられた。カナダを代表するこの高級ワイン産地には、約160軒の多様なワイナリーが存在する。本研究は現地調査や関係資料を活用して、ワイン生産地域の特徴とワインツーリズムの展開について考察した。
     南北に長いオカナガンバレーは、全体としてブドウ栽培に適した自然環境を有するが、ミクロスケールの環境条件を反映して、醸造用の多様なブドウの栽培が可能である。そのため、全体として多種類のワインが生産されている。また、オカナガンバレーには、ケローナ、ペンティクトン、オソユースなどの都市が立地しており、これらの都市の人口増加は、地域内におけるワイン需要の拡大を引き起こしている。また、ブランドワインとして、オカナガンバレー産のワインは主にカナダ国内で高い評価を受けている。
     各種資料と現地調査によってワイナリーの設立年代、創業者の属性、営業形態、併設レストランなどを調べ、ワイナリーデータベースを作成した。その結果、地域外からの資本と人材の流入に伴って、活力に満ちたワイン産業が展開してきたことが明らかになった。
     詳細に見ると、オカナガンバレーのワイン生産地域とワインツーリズムには地域性が存在する。そうした地域的多様性は、3つの地域を対象とした土地利用変化の検討から明らかになる。
     北部に位置するケローナ地域は、オカナガンバレーのワインツーリズムのショーケースである。都市的土地利用とワイナリーの混在が観察され、有名ワイナリーや小規模ワイナリーが集中し、多様で活発なワインツーリズムを作り出している。中部に位置するペンティクトンからナラマタにかけての地域では、湖岸段丘に形成された果樹地域がブドウ栽培地域へと転換するとともに、新しい住宅地開発も進行しており、美しいワインツーリズム景観が形成されている。一方、南部のオリバーからオソユースにかけての地域を見ると、西側の伝統的な果樹地帯では新しいいワイナリーが混在する一方、東側の乾燥した傾斜地では、牧場から大規模ブドウ園・ワイナリーへと土地利用が大きく変化した。また、湖岸の別荘地開発、ファーストネーションによる大規模文化・宿泊施設・ワイナリーの経営も見られる。
     オカナガンバレーは多様なワインツーリズム資源に恵まれる。それらは、多種類のワインの生産、ワイナリーの多様な活動、併設レストラン、宿泊施設、ワインツアー、ワイントレイルなどである。また、オカナガンバレーは、水辺のレクレーション、トレッキング、風光明媚な景観などの観光資源にも恵まれる。湖岸の別荘地開発や文化的レクレーション施設も存在する。すなわち、オカナガンバレーのさまざまな観光資源と観光活動は、ワインツーリズムの展開を促進する要因として機能してきた。
  • 公開シンポジウムの趣旨
    河本 大地, 有馬 貴之, 柚洞 一央
    セッションID: S201
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    Ⅰ.背景と目的

    2008・9年に公示された現行の学習指導要領には,持続可能な社会の構築の観点が,ESD関連記述として各所に盛り込まれている。2017年3月に公示された小・中学校の新しい学習指導要領ではこれが強化され,「持続可能な社会づくり」,「持続可能な社会の創り手」等の表現で,前文・総則から地理を含む各教科・分野に至るまでこれらが盛り込まれている。2018年3月に公示予定の高等学校についても,「地理総合」等において重視される見込みである。

    持続可能な開発はジオパークでも強調される。「ユネスコ世界ジオパークは,保護と教育と持続可能な開発というホリスティックな概念で管理された,国際的にみて地質学的に重要なサイトや景観のある,ひとかたまりの地理的範囲」であり(ユネスコのウェブサイトを河本訳),ユネスコの事業ではない日本ジオパークについても,ジオパーク学習で期待されているものがESDと一致する(高木・山本 2015)。とはいえ,各地のジオパークで蓄積されている知見や教材は学校教育において十分活かされているとはいえない。多忙化している学校教育関係者がジオパークを積極的に活かせるような態勢を整える必要がある。

    そこで本シンポジウムでは,これからの学校教育におけるジオパークの可能性について,地理教育とジオパークの関係者とで具体的に議論したい。



    Ⅱ.方法

    まず,ESDとジオパークに関する筆者らの考え方を示す(図1)。そのうえで,ESDと次期学習指導要領との関係やそれをふまえたジオパークへの期待について,及川幸彦氏に整理していただく。氏は,東日本大震災を気仙沼市立小学校教員として経験したESD実践・研究者であり,日本ユネスコ国内委員やESD円卓会議長を務めている。続いて,これからの地理・社会科教育におけるジオパークの可能性について,志村喬氏に整理・考察していただく。氏は,地理教育・社会科教育の研究者であり,海外の地理教育事情にも詳しく,日本学術会議では学校地理教育小委員会委員を務めている。

    次に,ジオパークと学校教育関係者とのマッチングを図るべく,休憩を兼ねて,会場内に各地のジオパークの小ブースを設置する。本稿執筆時点では,浅間山北麓,伊豆大島,糸魚川,栗駒山麓,島原半島,下北,下仁田,白滝,銚子,南紀熊野,箱根,三笠,三島村・喜界カルデラ,Mine秋吉台,室戸,ゆざわの各ジオパークが出展予定である。参加者はこれらを自由にまわることができるので,積極的に各地のジオパークに触れてほしい。

    続いて,北海道の白滝と三笠,秋田県のゆざわ,宮城県の栗駒山麓の各ジオパークの専門員から,学校教育関係の取り組みについて報告していただく。それぞれの抱えている課題や可能性も抽出したい。

    その後,再度休憩およびブース設置の時間を設け,最後に全体での討議をおこなう。

    なお,ESDに関心のある方に地理学・地理教育やジオパークへの興味をもってもらうことと,各地のジオパーク関係者への本シンポジウムの周知を目的に,日本ESD学会および日本ジオパークネットワークの後援を受けている。本シンポジウムの場を,学校教育関係者とジオパークとをつなぎ,持続可能な社会をつくる一助としたい。

     

    図1 持続可能な社会づくりの担い手を育む場としてのジオパークにおける教育の全体像.河本(2016)の図を一部更新.



    文献

    河本大地 2016. ESD(持続可能な開発のための教育)とジオパークの教育.地学雑誌, 125: 893-909.

    高木秀雄・山本隆太 2015. 学校教育調査の結果. http://www.geopark.jp/activity/research/p20151002.html 日本ジオパークネットワーク.(最終閲覧日:2018年1月14日)
  • 小疇 尚, 清水 長正, 澤田 結基, 武田 一夫, 川内 和博
    セッションID: P215
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    十勝地方の9か所でアースハンモックの分布地を確認し調査を行った。分布地は一か所を除いて海抜170m以下の比較的排水不良の低地で、各分布地には数十から800以上のハンモックが密集している。
     アースハンモックは、凍上性の強い火山灰土の分布地で、根系が密な草やササに覆われ、地下水位が浅く冬季の凍結深が数十㎝に及ぶ土地に分布している。しかし最近、公共工事等による地下水位の低下と土壌の乾燥化とそれに伴う植生の変化、さらに温暖化の影響で凍結深が浅くなり、表土の凍上が不活発になって、アースハンモックの生長は不活発の状態になってきている。
  • 苅谷 愛彦, 松四 雄騎
    セッションID: P201
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    安倍川上流部にある静岡県静岡市有東木地区(東沢流域)では約6000年前に泥流が発生した.その後,長い時間差をおかず身延山地の主稜線付近を発生域とする岩石なだれ(深層崩壊)が起こった.約5500年前には泥流堆積物や岩石なだれ堆積物を覆うように,流域の広範囲に土石流が発生した.以上のマスムーブメントの誘因は不明であるが,駿河-南海トラフ起源の海溝型巨大地震が関係した可能性がある.
  • 佐々木 明彦, 東郷 正美, 長谷川 均, 牛木 久雄, 小原 丈明
    セッションID: 914
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    ■はじめに 
     中東のヨルダン・ハシミテ王国では,砂漠地域の河谷の多くはワジとなっており,その表面は細粒の水成堆積物で覆われる。この水成堆積物からなる谷底表面はアラビア語でQa’aとよばれ,同地域の地形景観を特徴づける。本研究では,Qa’aの成因や地形の変化傾向を明らかにすることを目的として,その形態的特徴を明らかにした。

    ■地域の概観 
     ヨルダンは北緯30°11’~33°22',東経34°59~39°12'に位置し,国土の4分の3は砂漠である。調査は,白亜紀のおもに砂・泥岩,チャート,石灰岩からなる標高800~900 mの高原を開析するWadi Abyadhとよばれる河谷で実施した。調査地付近の年降水量は50 mm程度である(Al-Easawi 1996)。

    ■河谷地形とQa’aの形態的特徴および堆積物 
     調査を行ったWadi Abyadh は,谷底と周囲の高原の頂部斜面(平坦面)との比高が20~30 m,谷壁斜面の傾斜が2°前後の,非常に浅い河谷である。頂部斜面および谷壁斜面はシートウオッシュが働いて運搬されたとみられる小礫に覆われ,谷壁斜面には所々にガリーが形成されている。Qa’aはこの谷底にみられ,その延長距離は約21km,最大幅は700 mほどの規模で広がる。Qa’a表面の平均勾配は0.6‰(0.03°)であり,ほとんど平坦である。Qa’aの表面には,明瞭な流水によって侵食された痕跡や粗砂~細礫など流水で運搬された堆積物が薄く広がる部分もあるが,大部分は干上がった湖底面のようにみえ,そこには流水の構造は認められない。また,Qa’aの表面には河谷の方向に直行する矮低木の帯が一定間隔でみられる。この植生の帯はネブカとよばれ,Qa’aの表面の谷幅いっぱいに延びる。ネブカは細砂~粘土からなる高さ50 cm前後,幅2mほどの,かなり固結した砂堆をともなう。この砂堆が低い部分の表面に前述の流水の痕跡が認められる。なお,1953年に英国が撮影した1/25000航空写真と2017年に撮影されたGoogleの航空写真とを比較すると,ネブカの位置や規模に変化はほとんど認められない(図1)。Qa’a表層を掘削したところ,地表から4~6cmは,層理が明瞭なシルト~粘土層で,その下位は無層理のシルト・粘土層となっっている。おおむね30cm深に非常にコンパクトなシルト・粘土層がみられ,水をかけても軟化せず,掘削することができなかった。これは最も浅部に存在する難透水層である。

    ■考察と課題
     Qa’aが水成堆積物からなることは確実であるが,その全層厚がどの程度あるかは明らかではない。形成年代については,ヨルダン北西部のQa’aの堆積物から37~32 ka,15.5~13.9 kaの湿潤期に対応する年代値が得られており(Al-Tawash 2007),本地域のQa’aの生成期もそれに対比される可能性が考えられる。また,堆積物の表面に特徴的に形成されるネブカは,少なくとも最近60年はほぼ同じ形態を保っていることから,Qa’aの表面はほとんど変化していないと考えられる。一方,ネブカの成因は,その規則性ゆえにQa’aの表面の構造に規定されていることが考えられるが,現在までにそれを考察する材料は得られておらず,今後の課題である。
  • 広島女学院大学国際教養学部「アジア・アフリカフィールドワーク」の取り組みとその効果
    伊藤 千尋
    セッションID: P321
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1 はじめに
     国内外の地域情報に、容易にアクセスできるようになった現代社会においても、実際に現地へ赴き、見聞きすることの重要性は失われていない。特に、アフリカをはじめとする途上国に関する日本語の情報は限定的であり、中学・高校の地理教育においてもアフリカが取り扱われる割合は少ない。そのため、多くの大学生はアフリカについて偏ったイメージを持っている(船田, 2010)。
     一方、アフリカは2000年代以降、経済成長をとげ、いまや世界が注目する「最後のフロンティア」へと変貌した。中間層の出現、大規模な都市開発、中国によるアフリカ進出、携帯電話の急速な普及といった出来ごとは、現代アフリカを象徴する事象である。大学生、ひいては一般の多くの人が持つ「アフリカイメージ」と「現在進行系のアフリカ」との間にあるギャップをいかにして埋め、多角的な地域理解を主体的に築かせることは、地理教育における重要な課題である。
     報告者は、広島女学院大学国際教養学部において、2017年度「アジア・アフリカフィールドワークI・II(以下、AAFW)」を担当し、学生6名とザンビア共和国を訪れた。本報告では、その取組を紹介するとともに、参加者との対話や報告レポートから、ザンビアを訪れたことによる教育効果について検討する。また、海外フィールドワークを実施する上での課題についても検討する。

    2 授業の概要
     AAFWは国際教養学部の2年生以上を対象としている。参加学生は、ザンビアでの研修だけでなく、事前・事後学修、学内報告会での発表、報告論文の執筆に取り組む。
     今回の参加者は6名(4年生2名、3年生4名)であり、アジアやアフリカに関心をいだいている学生がほとんどであった。
     現地での滞在期間は、2017年8月26日から9月5日までの11日間である。

    3 FWの内容
     現地でのプログラムは、「アフリカの「現在」を肌で感じ、日本とアフリカの関係、経済発展や開発援助がコミュニティに与える影響について考える」ことを目的とて、報告者が企画した。主な行き先は、首都ルサカ、報告者が調査しているチルンド県農村部、地方都市シアボンガ、ローワーザンベジ国立公園、である。
     首都ルサカでは、ザンビア大学との交流イベント、日系企業訪問、国際協力に携わる日本人へのインタビュー、在ザンビア日本大使館表敬訪問を実施した。報告者が調査している農村及び地方都市では、住民の生活・文化を体験した。国立公園では、野生動物観光を体験しながら、アフリカの自然保護政策について考えた。

    4 効果・課題
     参加学生の多くが、最も印象深かったプログラムとして、農村部での滞在を挙げた。その他には、都市部の景観(ショッピングモール、渋滞、中国語の看板)や、携帯電話の使用などに特に関心を持っていた。発表では、報告書やアンケート結果に基づき、参加学生のアフリカイメージの変化について詳しく報告したい。
     課題としては、引率教員の負担や、学生の金銭的負担、現地での通信手段などが挙げられる。
     今回は、滞在中に大きな病気や怪我はなく、トラブルに巻き込まれることもなかった。しかし今後、大学だけでなく、中学・高校においても、国内外での臨地教育の機会が増加する状況において、様々な状況のリスク、トラブル対応についての情報を共有していくことが重要であると考えられた。
  • Ahmed Derdouri
    セッションID: P302
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    The aim of this study is to develop a suitability model of onshore wind farms by combining geographical information systems (GIS) and analytical hierarchy process method. The model was applied in Fukushima prefecture of Japan. According to identified legal and factual constraints, areas were excluded from the analysis. The left areas were then evaluated based on a set of environmental, social, and economic criteria. These criteria were assigned weights as a result of a pairwise comparison survey among local wind energy experts and stakeholders. The results show that 11% of the total area is still available for wind development projects.
  • - 災害の概要及び石狩川水系の被害状況 -
    河合 貴之, 西村 智博, 研川 英征, 関口 辰夫, 野口 高弘, 田村 俊和, 平井 幸弘, 石丸 聡
    セッションID: P128
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    近年,各地で異常降雨が頻発しているが,2016(平成28)年8月には東北地方及び北海道地方で甚大な豪雨災害が発生した.
    北海道では,8月17日から23日の1週間の間に,7号,11号,9号の3つの台風が上陸し,さらに29日からの前線と台風10号の接近に起因する大雨によって,十勝川水系や石狩川水系,常呂川水系を中心に堤防の決壊や河川の氾濫,日高山脈の東側斜面での崩壊・土石流などが多発し,甚大な被害が生じた.
    治水地形分類調査は,河川堤防の立地する地盤条件を包括的に把握し,さらに詳細な地点調査を行うための基礎資料を得ること,及び河川周辺の土地の性状と地形変化の過程や地盤高などを明らかにすることを目的として,1986(昭和51)~1988(昭和53)年度にかけて実施され,2005(平成17)年8月から国土地理院ホームページで公開されている.
    2007(平成19)年度からはその内容を見直し更新する作業が着手され,更新された治水地形分類図(更新版)についても順次公開されている.
    北海道地区では,2009(平成21)年度から本格的に更新作業が始まり,2016(平成28)年度末時点で石狩川・天塩川・十勝川・鵡川・沙流川の各水系の更新が完了している.
    石狩川水系では,8月23日からの台風9号によって,旭川市神居町神居古潭から深川市石狩地区にかけての石狩川本川沿い低地で約120haの浸水被害及び6戸の家屋浸水が発生した.
    筆者らは9月12日に浸水範囲について現地調査を実施し,その結果を治水地形分類図(更新版)「神居古潭」「石狩深川」と比較して被災の特性を検討した.
    浸水被害が発生した区間は,石狩川が旭川盆地の出口にあたる神居古潭の狭窄部を抜けて石狩平野に流出する位置にあたる.両岸とも低い段丘面に挟まれた幅500m(河道を含む)程度の狭い氾濫平野及びそこに形成された旧河道を中心に浸水被害が発生している.ごく一部では段丘面まで浸水が及んでいるが,多くは圃場整備等によって整地する際に切り下げられた地形面と考えられる.
  • 渡辺 満久, 越谷 信
    セッションID: 437
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1 はじめに

    北上低地帯北部においては、新第三系と第四系との境界にMBF(Master Boundary Fault)があり、MBFより数100m~1km程度東方(低地側)には後期更新世の地形・地質を変形させるFAF(Frontal Active Fault)が認められている。また、FAFの隆起側(西側)には東上がりのSAF(Secondary Antithetic Fault)がある。なお、FAFよりさらに1~1.5km東側にも活断層が存在するという見解もあるが、演者らはこの断層の存在には懐疑的である。活断層の位置形状は、地形・地質構造解析のみならず、地震規模想定や地震被害想定などにも係る重要なデータである。上記見解の相違点を検証すべく調査を継続してきたので、その結果を報告する。

    2.断層変位地形

    本地域には、複数の河成段丘面(M面:MIS 5d、L1面:MIS 2、L2面:MIS 1)が分布している。L1面の鉛直変位量は、6~7m(FAF),1m程度(SFA)である。FAFの東方には、新第三系の火山岩類から構成される飯岡山・湯沢森・城内山・北谷内山などの丘陵が南北に連なっている。小坂ほか(2011)は、これらの丘陵の東縁部において、後期更新統が東へ撓曲(西側隆起)する露頭を観察し、周辺にはL2面に変形が見られるとした。また、城内山付近のL1面には幅数100m程度の膨らみが形成されているとし、丘陵の東縁部に活断層(F3断層)を認定した。

    小坂ほか(2011)の露頭のすぐ東側では、後期更新統が西へ急斜(20~30度)していることを確認できた。すなわち、後期更新統は局部的に向斜状に変形しているのであり、露頭の東西で地層に高度差は認められない。L2面の変形とされたものは、合流(合成)扇状地面の地形境界を横切る測線で認定されており、初生的な起伏を断層変位と誤認している可能性がある。また、城内山付近においても、扇状地面の初生的な起伏を横切らなければ、L1面に異常は認められない。一部の道路近傍ではL1面がわずかに盛り上がっているようにも見えるが,全体としてL1面は滑らかに連続している.盛り上がっているように見えるのは、人工改変による可能性が高い。

    3.地質構造

    楮原ほか(2011)は、城内山付近で反射法地震探査を実施し、F3断層は城内山の安山岩類を地下で切断する逆断層であると解析している。断層面は、標高-1,000m付近から地表まで連続するとされている。ただし、この反射断面を見る限り、リズミックな反射面の部分が安山岩類にアバットしているようにも見えるので、必ずしも断層面を想定する必要はないとも考えられる。

    越谷ほか(2012)は、城内山周辺地域の地質調査と重力探査を実施し、地下構造を検討した。その結果、城内山は中部中新統の飯岡層(火山岩類および砂岩)の堆積後に貫入した岩体であり、鮮新-更新統の堆積岩類(志和層)はこの貫入と同時に堆積を始めていることが明らかになった。MBFやFAFが活動を始めるのは、志和層上部の堆積期からである。密度構造モデルを適切に想定すると、本地域の重力異常は、城内山のような火山岩体の存在によって説明できる。すなわち、城内山の貫入岩体が志和層に乗り上げるような断層構造は想定しにくい。

    4.考察およびまとめ

    想定されるF3断層トレースに沿っては、西側隆起の断層の存在を示すような変動地形学的あるいは地質構造的な異常は認められない。城内山付近では、局所的にわずかな盛り上がりが存在するかもしれない。しかし、これを標高-1,000から連続するような断層による変型と考えることは非常に困難である。

    本地域の重力異常は、火山岩体の存在によって説明することが最も妥当であり、F3断層の存在を示してはいない。反射断面の解釈については、慎重に再考すべきであると考えられる。

    【文献】 楮原ほか,2011,地学雑誌,120.小坂ほか,2011,活断層研究,34.越谷ほか,2012,日本地球惑星科学連合2012年大会,SSS35-08.
  • 企業と協同組合によるマルーラ製品の販売
    藤岡 悠一郎
    セッションID: 839
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに

     植物の果実や油脂などの非木材林産物(NTFPs)は、アフリカの多くの農村において、自給用に採集、消費されてきたが、近年では国際機関やNGOなどが現金稼得源としての利用に注目し、各国で積極的に利用されるようになっている。そうしたなか、企業による加工品販売に住民が強く関わる事例や住民が協同組合を立ち上げる事例などが、アフリカの農村でみられる。本研究では、南部アフリカの半乾燥地域に広く分布する、ウルシ科の落葉高木であるマルーラ(Sclerocarya birrea)の商品化とその影響について、経済成長の著しい南アフリカに注目して検討した。マルーラの果実は、南部アフリカの各地で酒や油の原料として広く利用されていることが知られている。南アフリカでは、酒造会社Distell社が1983年にマルーラの蒸留酒を開発し、現在では南アフリカの主要な土産物となり、海外にも輸出している。こうした企業および協同組合の立ち上げなどにより、住民によるマルーラの利用や資源管理がいかに変化しているのかを明らかにした。

    2. 方法

     南アフリカ北東部リンポポ県に位置する地方都市ファラボルワとその周辺のタウンシップ、農村において現地調査を実施した。ファラボルワには、Distell社が開発したアマルーラという蒸留酒をつくる工場があり、そこの担当者にインタビューを行った。また、周辺のタウンシップに立ち上げられた協同組合を訪れ、組合員に聞き取りを実施した。さらに、街中やタウンシップでマルーラの果実を採集している人に聞き取りを行い、果実の利用方法などに関する情報を取得した。

    3. 結果と考察

    (1)マルーラの分布:南アフリカ北東部に位置するファラボルワは、市街地の周辺に複数のタウンシップや農村が立地している。この地域はマルーラが自生する地域であり、市街地やタウンシップ、農村に多数のマルーラの木が分布していた。これらの木の多くは、人が意図的に栽培しているものではなく、半栽培状態であった。

    (2) マルーラの商品化:Distell社は、マルーラの果汁を原料にした蒸留酒アマルーラを1994年から国際市場で販売し、現在では100か国以上に輸出している。その原料となるマルーラの果実の80%以上をファラボルワ周辺20km圏内で入手していた。工場ではマルーラを栽培してはおらず、原料のすべてを地域の住民から工場が買い取っていた。住民が果実を集めると携帯電話で工場に連絡をし、担当者が車で回収し、工場でお金を支払うという仕組みになっている。他方、2000年以降、ファラボルワ周辺のタウンシップにおいて、マルーラ酒や油の原料となる種子の仁を販売する協同組合が複数設立されていた。

    (3)住民によるマルーラ利用:企業によるマルーラの買い取りが行われるなか、協同組合の設立やインフォーマルセクターでの個人的な酒の販売など、人々の自律的な生計戦略の結果として、現金稼得源としての利用が多様化していた。そして、協同組合の設置は、マルーラの木をさらに増やそうとする活動にも、限定的ながら結び付いていた。
    付記 本研究は,文部科学省科学研究費助成事業若手研究B「アフリカ半乾燥地域における農地林の形成過程と機能の解明」(17K12970)の助成を受けて実施した。
  • 長谷川 均
    セッションID: 913
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    ヨルダン川東岸のヨルダン渓谷と周辺地域では,1960年代のキング・アブドラ運河の建設で灌漑農業が本格的に始まり,1970年代以降の地下水の利用で土地利用形態,規模などが変化していった.ティベリアス湖から死海北岸までのヨルダン渓谷は,農業区分から北部,中部,南部.に三区分されることが多いが,これらは1960年代以降の水利用の変化に呼応して生じた結果といえる.それ以前のヨルダン川とサイド・ワディの水を利用していた時代は,この区分は必ずしてあてはまらない.また,耕地の地割り形態も特徴的である.
  • 那覇市の事例
    若林 芳樹, 久木元 美琴, 由井 義通
    セッションID: P332
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    2012年8月に成立した子ども・子育て関連3法に基づいて,子ども・子育て支援新制度(以下,「新制度」と略す)が2015年4月から本格施行された.これにより,市区町村が保育サービスを利用者へ現物給付するという従来の枠組みから,介護保険をモデルにした利用者と事業者の直接契約を基本とし,市区町村は保育の必要度に基づいて保育所利用の認定や保護者向けの給付金を支払う仕組みへと転換した.また,待機児童の受け皿を増やすために,保育所と幼稚園の機能を兼ねた認定こども園の増加や,小規模保育所や事業所内保育所などの「地域型保育」への公的助成の拡大が促進され,保育サービスのメニューも広がった(前田, 2017).しかしながら,こうした制度変更の影響について地理学的に検討を加えた例はまだみられない.そこで本研究は,新制度導入から3年目を迎えた現時点での保育サービス供給の変化と影響について,若林ほか(2012)がとりあげた沖縄県那覇市を中心に検討した.

     新制度では,認可保育所などの大規模施設で実施される「施設型保育」に加えて,より小規模な「地域型保育」も公的補助の対象になった.このうち「施設型保育」については,認可保育所以外に認定こども園の拡充が図られている.2006年から幼児教育と保育を一体的に提供する施設として制度化された認定こども園は,制度や開設手続きの複雑さなどが原因となって普及があまり進んでいなかったが,新制度では幼保連携型認定こども園への移行を進める制度改正が行われた.その結果,2019年4月における保育の受け入れ枠の14%を認定こども園が占めるようになった.

     一方,「地域型保育」には,小規模保育(定員6~19人)・家庭的保育(定員5人以下)・事業所内保育・居宅訪問型保育があり,主に0~2歳の低年齢児を対象としている.これらは,住宅やビルの一部を使って実施されるため,従来の認可保育所に比べて設備投資が小さくて済み,小規模でも公的補助が受けられる.そのため,用地の確保が困難なため認可保育所で低年齢児の定員枠の拡充が難しい大都市では,待機児童の受け皿となることが期待されている.この他にも保育士の配置などで認可基準が緩和され,公的補助のハードルが全体的に低くなっている.その中でも小規模保育は,新制度への移行後の保育枠の増加に大きく寄与している.

     新制度に対応した那覇市の事業計画では,需要予測に基づいて2017年度末までに約2500人の保育枠を増やすことになっている.そのために,認可外保育所に施設整備や運営費を支援して認可保育所に移行させ,認定こども園や小規模保育施設を新設するとともに,並行して公立保育所の民営化を進めることになっている.工事の遅れや保育士不足などによって,必ずしも計画通りには進んでいないものの,地方都市では例外的に多かった同市の待機児童数は,2018年4月から1年間の減少幅では全国の自治体で最も大きかった.これは,保育所定員を2443人増やした効果とみられるが,依然として200人(2017年4月)の待機児童を抱えている.

     新制度実施前の那覇市では,認可外保育所が待機児童の大きな受け皿となっていた(若林ほか, 2012).保育の受け入れ枠を拡大するには,それらの施設の活用が考えられるため,認可外保育所の代表者6名にグループインタビューを行ったところ,認可外保育所の対応は3つに分かれることがわかった.比較的大きな施設は,施設を拡充したり保育士を増やすなどして認可保育所への移行を図っているが,規模拡大が困難な施設は小規模保育として認可を受けるところもある.しかし,認可施設に移行すると既存の利用者の多様なニーズに柔軟に応えられなくなる恐れがあり,保育士の増員も困難なため,認可外にとどまる施設も少なくない.

     また,事業所内保育施設については,市が施設整備費補助制度を設けていることもあって増えている.そこで新規に認可を受けた事業所内保育所2施設に対して聞き取りを行った.A保育所は,都心からやや離れた場所にある地元資本のスーパー内の倉庫を改装して使用し,運営は県外の民間業者に委託している.利用者は事業所従業員と一般利用が半数ずつを占める.B保育所は,風営法により認可保育所が立地できない場所にある都心部のオフィスビルに1フロアを改装して新設されている.定員のうち従業者の利用は少なく,大部分は地域枠として募集しているが,入所待ちの児童もあるという.これらの小規模保育施設に共通することとして,2歳児までしか受け入れ枠がないため,3歳児から移行できる連携施設を近隣に確保するのが課題となっている.
  • 山田 親義, 河東 仁, 田中 恭子
    セッションID: P339
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに

     2000年以降,「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成十一年法律第八十七号)」(通称:「地方分権一括推進法」)の施行に伴い,各自治体は,政府から様々な権限の移譲を受けた。里道,水路といった公共物(以降 : 法定外公共物)についても,法定外公共物の管理を行う際,物件の位置を確認する必要がある。位置については,政府と自治体が譲与契約を行った際に紙などにて作成した国有財産譲与図面がある。

     国有財産譲与図面は,各自治体の方針により,保管や電子データ化などが行われた。

    本報では,自治体において有効活用を行う必要がある国有財産譲与図面がどの様に電子化されたかについて報告を行う。

     紙で作成が行われた国有財産譲与図面の電子データ化は,主にGIS(地理情報システム(Geographic Information System)による運用若しくは画像データ化である。

     本報は,各自治体が国有財産譲与図面を電子化した経緯や方法,現況などをまとめ,報告する。

    2. 調査対象及び内容

     聞き取り調査は,東京及び埼玉の自治体を中心に,東京から半径30km圏内(東京圏)の15自治体を対象とした。比較した地域は,大阪市を中心に半径30kmの圏内(大阪圏)の5自治体とした。

     聞き取り調査内容は,国有財産譲与図面の電子化が行われているか,行われていた場合,経緯を含め,どの様な方法であるかでとした。

    3.結果及び考察

     調査の結果を表1に示す。東京圏,大阪圏ともに,人口や行政面積による電子化への影響については,特に見られなかった.

     聞き取り調査から,国有財産譲与図面の電子化は東京圏ではGIS化や画像化が11自治体で行われていた。国有財産譲与図面が統合型GISで運用されている自治体が1自治体あった。電子化が行われていない3自治体では,電子化の予算が取れないとの回答が得られた。一方,大阪圏の自治体では,国有財産譲与図面が紙の自治体が4自治体であり,電子化の1自治体を大きく上回った。電子化しない理由については,国有財産譲与図面を電子化する発送がなかったと回答した。また,次年度以降に,電子化したいと全て自治体が回答した。

     東京圏の方が大阪圏に比べ,国有財産譲与図面の電子化が行われていた.今後,大阪圏では,国有財産譲与図面の電子化について行う自治体が増加すると考えられる。
  • 中田 高, 後藤 秀昭, 堤 浩之, 宮内 崇裕
    セッションID: P223
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    活断層と海成段丘の分布図をフィリピン全域にわたって整備し,活断層の位置・形状および海成段丘の分布と旧汀線高度変化をもとに地震発生ポテンシャルについて検討した.
  • フランシュ・コンテ地域圏、カンティニ村の事例
    市川 康夫, 中川 秀一, 小川G. フロランス
    セッションID: 714
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    フランス農村は、19世紀初頭から1970 年代までの100年以上に渡った「農村流出(exode rural)」の時代から、人口の地方分散と都市住民の流入による農村の「人口回帰」時代へと転換している。農村流出の契機は産業革命による農業の地位低下と農村手工業の衰退であったが、1980年代以降は、小都市や地方都市の発展、大都市の影響圏拡大によって地方の中小都市周辺部に位置する農村で人口が増加してきた。しかし、全ての農村で人口増がみられるわけではなく、とりわけ雇用力がある都市と近接する農村で人口の増加は顕著に表れる。本稿では、地方都市と近接する農村でも特に人口が増えている村を事例として取り上げ、移住者へのインタビューからフランス農村部における田園回帰の背景とその要因を探ることを目的とする。本調査が対象とするのは,フランスのジュラ山脈の縁辺に位置する山間の静かな農村地帯にあるカンティニ村(Quintigny)である。カンティニ村は、フランス東部フランシュ・コンテ地域圏のジュラ県にあり、ジュラ県庁所在地であるロン・ル・ソニエから約10km、車で20分ほどの距離に位置している。カンティニ村では、フランス全体の農村動向と同じく、19世紀末をピークに一貫して人口が減少してきたが、1980年代前後を境に、周辺地域からの流入によって人口が増加し、1975年に129人であった人口数は、2017年には262人と2倍以上になっている。隣村のレ・エトワール村は、「フランスで最も美しい村」に指定されており、観光客の来訪や移住者も多い。一方で、カンティニ村は目立った観光資源などは持たないが、移住者は静かな環境を求めて移住するものが多いことから、この点に魅力に感じて移り住むケースが多い。

     カンティニ村への移住者は、20~30歳代の若年の子育て世代の流入が多く、自然が多い子育て環境や田園での静かな生活を求め、庭付き一戸建ての取得を目的に村に移住している。カンティニ村内は主たる産業を持っておらず、ワインのシャトーとワイン工場が2件あるがどちらも雇用数は10人程度と多くない。農家戸数も1950年代に26戸あったものが、現在では2戸になり、多くの農地はこれら農家に集約されたほか、移住者の住宅用地となっている。
    本研究では、2017年8月にカンティニ村の村長に村における住宅開発と移住者受け入れ、コミュニティについて聞き取り調査をし、実際に移住をしてきた15軒の移住世帯に聞き取り調査およびアンケート調査を実施した。移住者には、移住年、家族構成、居住用式、居住経歴、移住の理由等、自由回答を多く含む内容で調査を行なった。
     カンティニ村における移住者は、1980年代より徐々に増加し、特に2000年代以降に大きく増加している。カンティニ村における移住には2タイプあり、一つは村が用意した移住者用の住宅区画に新しい住宅を建設して移住するタイプ、もう一つは、②空き家となった古い農家建築を移住者が購入し、居住するタイプである。古い農家建築は築200~300年のものが多く、リフォームやリノベーションが必要となる。
     農村移住者の多くは、ジュラ県あるいはその周辺地域の出身者であり、知人からの口コミや不動産仲介からの紹介、友人からの勧めをつてにカンティニ村を選択していた。移住者の多くは、小都市ロン・ル・ソニエに職場を持っており、ここから通える範囲で住宅を探しており、かつ十分な広さと静かな環境、美しい自然・農村景観や農村建築を求めて移住を決めている。いずれも土地・住宅は購入であり、賃貸住宅や土地の借入はない。
     移住者がカンティニ村を評価する点としては、都市に近接しながらも今だに農村の風情や穏やかな環境、牧草地やワイン畑が広がる豊かな景観があること、美しい歴史地区の農村建築群、安価な住宅価格と広い土地、そして新しい住民を歓迎する村の雰囲気が挙げられている。そして、特に聞かれた点としては、主要な道路から外れてれおり、村内を通り抜ける車がないこと、村内に商店がワインセラーを除いて1件もないことに住民の多くは言及しており、「静寂」と「静けさ」を何よりの評価点として挙げている。また、多種多様な活動にみられるように、「村に活気がある」という点も多く聞かれた。また住民の仕事の多くは時間に余裕のある公務員であり、歴史建築を購入し自らリノヴェーションすることが可能であったこと定着の背景である。
  • 釜堀 弘隆, 藤部 文昭, 松本 淳
    セッションID: P117
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    19世紀末以降の気候変動を明らかにするため、アメダスの前身である区内観測のデータレスキューを行っている。区内観測は紙ベースの観測記録であるため、データベースとして活用するため、デジタル化を実施している。両者の接続の際には、気象庁の「気象観測統計指針」に準拠した接続可否の判断を行った。初期結果として東海地方の19世紀末以降の極端降水の変動を調べた。一例として、三重県尾鷲市では1938年の測候所開設以降の日降水量観測を用いると、日降水量200mm以上の年間日数はほとんど増えていないが、この観測記録に区内観測を接続させ1891年以降の変動を調べると、200mm以上の日数は増加していることが分かった。両者の差異は数十年規模の変動のため80年間の測候所観測記録のみでは、気候変動のシグナルを抽出するには期間が短すぎることによる。気候変動に伴う長期変動を明らかにするには、数十年規模変動のタイムスケールよりさらに長い100年以上の統計を取る必要があることが分かった。加えて、200年に一度の確率降水量を調べた。愛知県内では200-400mm程度の値となったが、三重県ではさらに大きく、特に尾鷲では799mmという値が得られた。このことから、確率降水量は地域特性が非常に大きいことが分かった。これまでに、気象庁が作製した異常気象リスクマップにおいて、気象台や測候所の観測を用いて全国51地点の確率降水量が求められているが、これらは都道府県に1地点程度の情報であり、防災基礎情報としては十分な密度ではない。区内観測とアメダス観測とを接続させた高密度の長期統計が必要と考えられる。
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