日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
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最新号
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原著
  • 福井 菜月, 清水 真由美, 関根 由紀
    2025 年28 巻2 号 p. 4-12
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,地域で暮らす独居高齢者のACPに関連する民生委員の体験を明らかにし,民生委員との連携に関する示唆を得ることとした.

    方法:A県A市の民生委員および元民生委員9人に,人生の最終段階における医療・ケアの検討につながる独居高齢者の思いや意向を把握していく過程と,その過程で抱いた考えや思いについて半構造化面接を行い,その内容を質的記述的に分析した.

    結果:独居高齢者のACPに関連する民生委員の体験は,〖関係性を構築する〗〖対象者の主体性を尊重する〗〖真の意向をとらえようとする〗〖困難感を抱く〗〖立場を踏まえて適切な人に委ねる〗で構成された.

    考察:民生委員は,専門職とは異なる視点や立場から独居高齢者のACPに関する貴重な情報を提供し,対象者の意向理解に寄与しうる存在である.一方で,民生委員がACPに関わるうえでは,心理的負担,専門知識の不足,個人情報の収集と共有に関する課題が明らかとなった.そのため,地域に暮らす独居高齢者のACP推進においては,専門職が主体となり,専門職は民生委員のもつ地域に根差した視点や信頼関係の強みを積極的に活かし,その専門的知見によりACPに関わる活動を補完していく連携体制が不可欠である.

  • 増田 さゆり, 石川 麻衣, 佐藤 由美
    2025 年28 巻2 号 p. 13-21
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,都道府県の本庁勤務保健師(以下,本庁保健師)の『事業化・施策化能力』獲得につながる業務上の経験項目を明らかにし,都道府県保健師の人材育成を検討するための示唆を得る.

    方法:全都道府県の本庁保健師を対象にデルファイ法により,経験項目の同意と重要度について3回調査を実施した.

    結果:調査同意の得られた対象44都道府県749人のうち,40都道府県の本庁保健師から第1回調査195人,第2回調査94人,第3回調査86人の回答が得られた.第3回調査では67項目について同意と重要度を調査したところ,65項目において90%以上の同意が得られ,具体的な経験項目を抽出することができた.重要度については平均値4.0以上(「重要」以上)が37項目であった.「非常に重要」と回答した割合が51%以上の項目は,「法的根拠や国の政策動向を確認する」「解決すべき課題の対応案を作成し,上司と協議する」「対応すべき事業の優先順位をつける」「総合計画や担当分野の事業計画の目指すべき方向性を確認する」「解決すべき健康課題を抽出する」などの9項目であった.

    考察:『事業化・施策化能力』の獲得につながる本庁保健師の65の経験項目とその特徴が明らかになった.この経験項目から保健師の人材育成への活用について示唆を得た.

研究報告
  • ──積極的支援の初回面接に焦点を当てて──
    吉田 裕美, 田口 敦子
    2025 年28 巻2 号 p. 22-30
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:前年度以前に特定保健指導の積極的支援に参加して終了したが改善に至らなかった,もしくは一時的に改善したが1年以内にリバウンドした40~64歳の男性被保険者(以下,リピーター)が,行動変容できた成功事例における初回面接での保健師の支援内容を明らかにすることである.

    方法:保健師6人に,初回面接での支援内容とその意図について行った半構造化インタビューを分析し,支援内容を記述する質的記述的研究デザインである.

    結果:保健師の支援内容として,「リピーターがいまの生活で大切なものを尊重して関わる」「リピーターに保健指導を受け入れてもらえるように関わる」「リピーターと過去の経過を振り返り生活習慣病のリスクが高まっていることへの気づきを促す」「リピーターが目指すべき未来の姿や状態をイメージできるように促す」「リピーターと過去の失敗を振り返り過去とは別の観点から情報提供や行動計画を検討する」「過去の記録からリピーターが短期間で効果が実感でき無理なく続けられる行動計画を立てられるよう支援する」「リピーターが改めて目標に向かうよういままで努力してきたことを承認する」という7つのカテゴリーが抽出された.

    考察:リピーターの行動変容を促すために,過去の保健指導とは別の観点から情報提供を検討し,保健指導を受け入れてもらえるように関わる,短期間で効果が実感でき無理なく続けられる行動計画を立てられるよう支援することが重要であると示唆された.

  • 中谷 久恵
    2025 年28 巻2 号 p. 31-39
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,保健師がオンデマンドのeラーニングで家族アセスメントを学ぶ映像教材の有効性を評価することである.

    方法:保健師21人に任意で研究協力を依頼した.調査方法は,家族アセスメントを学ぶeラーニング研究への参加に同意した保健師が投稿したアセスメントと看護計画の内容を分類し,アセスメントを書いた家族の間柄を確認して,複合課題が記述されているかを把握した.学習目標は,家族援助技術の3項目の投稿内容を把握した.eラーニング実施後には動画と学習目標の評価をたずねる任意の質問紙調査をWebで行った.映像教材の有効性は,家族アセスメントと学習目標の定性的分析とそれらを投稿した保健師の人数,および質問紙調査の肯定的回答の記述統計から評価した.

    結果:保健師13人が投稿し,11人が質問紙に回答した.保健師がアセスメントを書いた家族員は,子どもが12人,母親10人,父親13人,祖父母10人であり,これらのアセスメントは複合課題を含んでいた.学習目標は項目ごとに9~11人の保健師が投稿していた.複合課題をもつ家族のアセスメントが学べたと回答した保健師は11人中7人だった.

    考察:制作した映像教材を用いたオンデマンドのeラーニングにおいて,保健師は家族アセスメントを学べることが明らかとなった.

  • ──大規模地震災害時を想定して──
    佐藤 太地, 石田 千絵, 井口 理
    2025 年28 巻2 号 p. 40-48
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:公営住宅居住高齢者が大規模地震災害時に生活を継続することに関する意識を明らかにする.

    方法:首都直下型地震で震度6強が想定される公営住宅Aアパートに居住する高齢者9人に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

    結果:分析の結果,6つのカテゴリーが抽出され,【これまでの災害体験が現在の備えの土台となっている】【災害時のトイレや倒壊のリスクを心配しつつもここで生活を続けたい】【日常的に支援ニーズが高い住民が多いこと自体が問題】【非常時には自分のことで手いっぱいになる】【つながりをもつことで非常時に支え合える】【動ける身体を維持することこそ災害対策の要である】ことが明らかになった.

    考察:Aアパートに居住する高齢者は,発災後の建物倒壊のリスクを考えつつも,公営住宅で支援を得ながら生活し続けることを想定しており,昇降手段が制限される場合には孤立してしまう可能性が示唆された.そのため,大規模地震災害の場合には在宅避難を選択する高齢者が多い可能性を考慮したうえで災害時の対応を検討すべきあり,日常的に支援機関からの住民個々へ自助を促し,日ごろからの住民同士の関係構築や防災計画,発災後の情報収集の仕組みづくり等の互助を支えるための公的支援の必要性があると考えられる.

  • ──安否確認で困難を伴ったケースに着目して──
    山村 典弘, 都筑 千景, 田中 健太郎
    2025 年28 巻2 号 p. 49-58
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:地域包括支援センター看護職が行う,独居高齢者の安否確認に困難を伴ったケースに対するアセスメントの様相を明らかにすることを目的とする.

    方法:10年以上の看護職歴を有するおおむね5年以上の業務経験のある地域包括支援センター看護職に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

    結果:独居高齢者の安否確認に関わるアセスメントの様相として,【生死に関わる事態から,救命救助が必要と判断する】【本人の異変の有無がつかめず,本人の無事を確かめる必要があると判断する】【日常生活動作の異常に気づき,ひとり暮らしを続けることに支障があるかを予測する】【毎日の訪問で無事であることを確認する必要があると判断する】【本人の状況に合わせ,家族に協力を求める必要があると判断する】【本人に信頼をしてもらうよう,相手との関係性を意識した関わりを重視する】【本人の様子を確認するため近隣住民の協力が必要と判断する】【関係機関と連携して本人への対応について協力を得る必要があると判断する】の8つのカテゴリーが得られた.

    考察:今回得られた独居高齢者の安否確認に関わるアセスメントの様相は,生死と居宅生活の維持に関わるもので,安否確認後の生活の進め方まで見据えたものであった.安否確認に関わる方略により,高齢者との関係性をつくり,近隣住民や関係機関により安否確認がとれない事態や緊急時,居宅生活の破綻に備えることができると考える.

  • ──介護支援専門員と医療関係者に焦点を当てて──
    藤井 智子, 塩川 幸子, 水口 和香子
    2025 年28 巻2 号 p. 59-69
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:小規模自治体における地域ケア会議への介護支援専門員と医療関係者の継続的な参加体験を明らかにする.

    方法:X自治体主催の地域ケア会議の参集職種である介護支援専門員4人,医療関係者4人に半構造化面接を実施し質的帰納的に分析した.

    結果:介護支援専門員は【準備を入念にして会議に臨む】姿勢で,【サービス導入中心の事例検討は苦しい】と感じる一方,【アセスメント力が向上してきた】【医療との距離が近づいてきた】【地域の強みと課題がみえてきた】と認識し,【地域ケア会議の一員として前向きに変化した】体験をしていた.医療関係者は【医療に期待される情報をもって会議に臨む】【医療の敷居をさげることを念頭におく】姿勢をもち,【疾病中心から地域で生活するための思考に変化した】【ケアマネジャーの役割の深さに敬意を抱く】【地域全体のなかの医療の立ち位置がみえてきた】【地域ケア会議の目的は地域のあらゆる人々がつながることに気づく】ことを認識し,【会議が楽しいと感じる】体験をしていた.

    考察:事例検討を軸に介護支援専門員は医療の視点を加えたアセスメント力向上,医療関係者は生活の視点を取り入れる思考に変化し,関係が深まる体験となっていた.双方に俯瞰的にみる視点が培われ,地域における役割の自覚につながることが示唆された.

  • 宮﨑 梓
    2025 年28 巻2 号 p. 70-77
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:高齢ストーマ保有者の社会参加の状況や社会参加の動機を明らかにし,社会参加に関連する要因を検討することである.

    方法:65歳以上の高齢ストーマ保有者を対象に,ストーマ装具販売店を経由した郵送法による無記名自記式質問紙で調査し,社会参加「あり」と「なし」に分け,社会参加の状況を比較した.

    結果:対象は,ストーマ装具販売店16店舗からストーマ保有者1,330人に質問紙を送付して有効回答が得られた338人(25.4%)である.社会参加割合は39.6%であった.社会参加に関連する要因は,「精神的・時間的・体力的側面の余裕」「ストーマ管理上の不安」「個人の積極的な動機」とともに,身近な人から活動の誘いを受けるなどの「同伴者の存在と助力」の4つの観点が存在した.

    考察:高齢ストーマ保有者の社会参加に関連する要因は,「精神的・時間的・体力的側面の余裕」が自覚され,「ストーマ管理上の不安」も軽減され,「個人の積極的な動機」が出現することである.これらは主観的な健康状態が改善したことを意味する.さらに,「同伴者の存在と助力」による他者からの肯定的な後押しも,高齢ストーマ保有者における社会参加に関連する重要な要素である.これら4つの要素は,互いに影響を及ぼし合う複合的な課題である.そのため,関係する職種・機関が連携し,協働で地域支援体制を整備していくことが必要である.

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