腸内細菌学雑誌
Online ISSN : 1349-8363
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20 巻, 1 号
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Review
  • 林 秀謙
    2006 年 20 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/02/21
    ジャーナル フリー
    これまでヒト大腸内菌叢の研究は培養可能な細菌を中心に行われて来た.しかしながら,70~80%の細菌が難分離,難培養性細菌で占められているために,培養法ではヒト大腸内細菌叢の全体像を理解する上では不十分であった.本研究はヒトの大腸内菌叢とその機能を明らかとするために,16S rRNA遺伝子ライブラリーおよびT-RFLPを用いて大腸内菌叢の解析を行った.得られた約1800クローンの解析を行ったところ,個体差はあるが約75%のクローンが未同定な菌種の配列に分類され,未同定な細菌が多数存在することが明らかとなった.系統解析の結果,成人男性では Clostridium leptumサブグループ(Clostridium rRNAクラスターIV), Clostridium coccoidesグループ(Clostridium rRNAサブクラスターXIVa), Bacteroidesグループが主要な構成菌種として常在していた.一方,高齢者では C. coccoidesグループの検出率が低く,“Gammaproteobacteria”に属するクローンが高頻度に検出されることを明らかにした.菜食主義者では C. leptumサブグループ,C. coccoidesグループ,Bacteroidesグループ, Clostridium rRNAクラスターXVIIIに含まれる菌種由来の配列を検出した.以上の成果からヒト大腸内菌叢の全体像の一部が明らかとなった.消化管各部位における腸内菌叢の多様性を解析するために,老人の消化管各部位における大腸内常在菌の16S rRNA遺伝子ライブラリーとT-RFLPより解析を行ったところ,空腸,回腸においては“ Gammaproteobacteria”,LactobacillusStreptococcusEnterococcusグループ,Bacteroidesグループが高頻度に検出し,盲腸,直腸ではC. coccoidesグループ, C. leptumサブグループ,Bacteroidesグループ,“Gammaproteobacteria”に属する菌種を検出し,消化管各部位おいて腸内菌叢の構成パターンが異なることを認めた.さらに大腸内常在菌の機能解析の一環として,食物繊維分解に関与している考えられるキシラナーゼ遺伝子を培養することなく,eDNA-PCRにより増幅を行ったところ,5種類の新規キシラナーゼ遺伝子の取得に成功し,ヒトの大腸内のキシラナーゼ遺伝子は多様性に富んでいることを示した.さらに高頻度に得られたキシラナーゼ遺伝子を自己組織化地図(Self-Organizing Map)により解析を行ったところ, Bacteroidesまた近縁の菌種由来の遺伝子であることが推定された.以上の成果から分生物学的手法を用いることによるヒトの大腸内菌叢が明らかとなった.
Full papers
  • 柏木 秀樹, 湯川 研一
    2006 年 20 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/02/21
    ジャーナル フリー
    キトサンは,エビ,カニの甲羅に含まれるキチンのアミノアセチル基を脱アセチル化して得られる安全性の高い素材であり,胃および小腸内では分解されず,大腸内において Bacteroidesなどの腸内常在菌により資化され分解される.胃および小腸における消化酵素などとの接触を避け,大腸への「物質」送致を目的としてキトサンを素材とした大腸崩壊性のハードカプセルが考案されたが,崩壊部位についての直接観察はされていなかった.今回,われわれはこのカプセルに硫酸バリウム末を充填して製したカプセルを健常成人男性に摂取させ,経時的なX線造影により崩壊部位を観察し,大腸の上行結腸から横行結腸において崩壊することを証明した.
  • 矢島 昌子, 矢島 高二, 桑田 有
    2006 年 20 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/02/21
    ジャーナル フリー
    ラットの乳仔では,健常な母乳哺育仔において哺乳期間を通じて腸間膜リンパ節までのバクテリアルトランスロケーション(BT)が起こっているが,肝臓等全身性のBTは全く検出されなかった.しかし,人工乳哺育を行う目的で3日齢のラット乳仔に,胃内カニューレを装着すると,カニューレ装着術により,人為的に全身性のBTが起こった.その後カテーテルを装着のまま人工乳で哺育された(AR)仔では,カテーテルを抜去し母乳哺育された(Sham)仔に比べて,肝臓へのBTが長期に持続した.ラットのAR仔は健常な母乳哺育(MR)仔に比べて,ほ乳期を通して糞便内の大腸菌数レベルが有意に高く,小腸や結腸への付着菌数が高いこと,肝臓へのBTの頻度は大腸菌群が最も高いことを既に報告した.そこで,AR仔の腹腔滲出性白血球(PMNL)によるFluorescein isothiocyanate(FITC)標識ラテックスビーズ貪食活性を測定し,MR仔の場合と比較した.その結果,AR仔では,MR仔に比べて,PMNLの貪食活性は約60%と低くなっていた.次に健常なMR仔におけるPMNLの貪食活性に及ぼす腹腔内リポ多糖(LPS)投与の影響を調べた.その結果,LPSの投与は経時的に,また濃度依存的に,PMNLの貪食速度を低下させた.これらの結果から,胃内カニューレを装着させてARを行った乳仔でBTが長期に持続することの背景の一つとして,病原菌排除に役立つPMNLの貪食活性が,BTにより生体内に侵入したLPSによって低下することが考えられた.
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