腸内細菌学雑誌
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19 巻, 1 号
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総説
  • 佐々木 雅也, 荒木 克夫, 辻川 知之, 安藤 朗, 藤山 佳秀
    2005 年 19 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/05
    ジャーナル フリー
    腸管粘膜細胞の増殖・分化は,消化管ホルモンなどの液性因子や食餌由来の腸管内増殖因子などにより巧妙に調節されている.腸管内の増殖因子として,ペクチンなどの水溶性食物繊維には顕著な腸粘膜増殖作用があり,それには発酵性と粘稠度が関与している.発酵により生じた短鎖脂肪酸,特に酪酸は大腸粘膜細胞の栄養源であり,腸管増殖因子としても作用する.一方,酪酸には抗炎症作用があり,傷害腸管の修復にも関与する.これらは,デキストラン硫酸(DSS)にて作成した潰瘍性大腸炎モデルにおいても確認されている.さらに,酪酸産生菌である Clostridium butyricum M588経口投与によってもDSS大腸炎の炎症修復が確認された.一方,発芽大麦から精製されたGerminated barley foodstuff (GBF)は,潰瘍性大腸炎モデルなどによる基礎研究の成績をもとに臨床応用され,優れた臨床成績から病者用食品として認可されている.また,レクチンにも食物繊維と同様の腸粘膜増殖作用があるが,これらは腸内細菌叢に影響を及ぼすことなく,おもに腸粘膜への直接的な増殖作用とされている.これらの増殖因子は傷害からの修復にも寄与するものと考えられる.
  • 尾崎 博, 堀 正敏, 堀口 和秀, 鈴木 敏彦, 平山 和宏, 伊藤 喜久治
    2005 年 19 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/05
    ジャーナル フリー
    以前から,腸管の粘膜炎症と腸内フローラの乱れは密接に関連することが知られてきた.一旦粘膜に炎症が起こり,これが進行して炎症が筋層に及ぶと,腸管の運動機能障害を引き起こす.腸管運動は腸内フローラ維持の最重要な因子であり,ここに乱れが生じると粘膜炎症が悪化し,一つの悪循環の状態をもたらしてしまうことになる.我々は,ヒルシュスプルング病モデルラットにおいて,腸内フローラの乱れに付随して筋層でみられる炎症反応が,筋層間神経叢部分に常在するマクロファージに依存するのではないかとの仮定のもとに実験を行い,これを証明し,さらに本病態モデルでみられる運動機能障害にこれが関わることを見出した.本総説では,腸内フローラと腸管運動機能障害との関係を紹介する.
  • 平山 和宏
    2005 年 19 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/05
    ジャーナル フリー
    近年大豆イソフラボン類の健康増進効果や疾病予防効果が注目されている.大豆イソフラボン類はエストロジェン様活性を示し,乳癌や前立腺癌,骨粗しょう症,高コレステロール血症,心疾患などに予防効果があることが示されている.大豆に含まれるイソフラボン類は主にgenisteinとdaidzeinであるが,発酵食品を除けばそのほとんどは配糖体として存在している.大豆イソフラボン類は配糖体のままでは腸管から吸収されないことが知られており,その吸収には加水分解によりアグリコンとなることが必要である.加水分解には腸内フローラの β-グルコシダーゼの活性も重要な役割を果たしていると考えられる.また,吸収された大豆イソフラボン類は肝臓で抱合されて胆汁中へと排出されるが,腸管内で脱抱合されて再びアグリコンとなって腸肝循環をする.この脱抱合に腸内フローラの β-グルクロニダーゼが関わっている.大腸に達した大豆イソフラボン類はさらに代謝されている.たとえばdaidzeinはエストロゲン様活性や抗酸化作用が強いequolと活性のない O-desmethylangolensinに代謝されるが,これらの代謝には腸内フローラの存在が必須である.daidzeinからのequolの産生には非常に大きな個体差があることが知られており,その個体差は腸内フローラの違いによるものと考えられている.このことは,同様に大豆イソフラボン類を摂取しても腸内フローラの構成の差により得られる保健効果が個体によって異なる可能性を示している.しかし,これらの代謝を担う菌種や菌株を分離,同定した報告は少なく,今後の研究が期待される.
  • 須藤 信行
    2005 年 19 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/05
    ジャーナル フリー
    常在細菌叢は,体表面積の95%以上を占める広大な粘膜面を介して生体と接触しており,その細菌数は成人で10 14,重量にして1 kgにも相当するとされている.これら常在細菌は,生後の消化管免疫組織の分化,発達において重要な役割を演じているが,最近では他の様々な生理機能へも関与していることが明らかにされつつある.ストレスにより腸内細菌叢が変化することは,古くから指摘されてきたことであるが,最近の研究により腸内細菌の違いがストレス曝露時の主要経路のひとつである視床下部-下垂体-副腎軸の反応性を変化させることを明らかにした.このように脳と腸内細菌は神経系,内分泌系,免疫系を介して相互に情報伝達していることが明らかとなった.
  • 渡邉 映理, 白川 太郎
    2005 年 19 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/05
    ジャーナル フリー
報文
  • 山野 俊彦, 福島 洋一, 高田 麻実子, 飯野 久和
    2005 年 19 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/05
    ジャーナル フリー
    健康な成人男女27名を対象に,Lactobacillus johnsonii La1株を含む発酵乳の摂取がヒト血中貪食細胞活性に与える影響について検討した.試験食として L. johnsonii La1株(1×109 cfu /120 g)を含む発酵乳を,プラセボ食として L. johnsonii La1株を含まない発酵乳を用い,いずれか一方の発酵乳を1日1カップ120 gを21日間連続摂取させる無作為二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験を実施した.摂取第I期において,試験食を摂取した被験者の摂取21日目における血中貪食細胞活性は,試験食摂取前と比較して有意に上昇し (p<0.001),その活性は,同様に活性の上昇が認められたプラセボ食を摂取した被験者の活性よりも有意に高値となった(p<0.05).29日間のウォッシュアウト期間後においても活性の高い状態は維持された.摂取第II期において,試験食を摂取した被験者の血中貪食細胞活性は,摂取前と比較して有意に上昇したが(p<0.05),プラセボ食を摂取した被験者の活性に有意な上昇は認められなかった.また健康な成人男女10名を対象に, L. johnsonii La1株を含む発酵乳を摂取目安量の3倍量である1日3カップ360 gを14日間連続摂取させたところ,試験食摂取後の血中貪食細胞活性の有意な上昇が認められた(p<0.005).自覚症状,医師による検診,血液検査ならびに尿検査において試験食摂取による健康状態に異常が認められた者はなく,試験食の安全性が確認された.以上の結果から, L. johnsonii La1株を含む発酵乳の摂取は,血中貪食細胞を活性化してヒト自然免疫を賦活する作用が認められ,また過剰量の摂取において安全性に問題のないことが示された.
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