腸内細菌学雑誌
Online ISSN : 1349-8363
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28 巻, 3 号
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総  説
  • 落合 邦康, 今井 健一, 落合(栗田) 智子
    2014 年 28 巻 3 号 p. 111-120
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    全ての腸内フローラ構成細菌と食物は,口腔を経由して腸管に至り,複雑な腸内フローラが形成される.腸管の生理作用と恒常性維持における腸内フローラの有益性,そして,食物繊維やオリゴ糖の生理作用の本体が短鎖脂肪酸(SCFA)であることは広く知られている.一方,慢性炎症性疾患・歯周病は,糖尿病や動脈硬化などさまざまな全身疾患の誘因となることがさまざまな分野で報告され,口腔と全身疾患との関わりが広く注目されている.歯周病の主要原因菌である一群の口腔嫌気性グラム陰性菌は,大量のSCFA,特に酪酸を産生する.口腔において高濃度の酪酸は,歯周組織にさまざまな為害作用を及ぼすと同時に,口腔環境維持に重要なレンサ球菌群の発育を阻害し,デンタルプラーク蓄積を仲介するActinomyces属の増殖を促進するため,病原性プラークへの遷移が促進される.また,酪酸は,そのエピジェネティック制御作用により,潜伏感染状態にあるヒト免疫不全ウイルスやEpstein-Barrウイルスを再活性化し,AIDSや種々の腫瘍発症に関与すると共に,がん細胞の転移にも関与する可能性が示唆される.細菌の代謝産物・酪酸は,口腔と腸管ではなぜ異なった作用を示すのか,共生細菌と宿主(組織)間の相互作用を理解する上からも興味深い.内因性感染症や共生細菌研究において,菌体が宿主に及ぼす直接的影響の研究と共に,新たな視点から,SCFAなどさまざまな代謝産物の影響を検討することも極めて有意義と考える.さらに,粘膜免疫の帰巣循環システムの視点から,腸内フローラと腸管粘膜経由による口腔・歯周組織免疫応答の維持,改善に関わる研究も期待できる.
  • 渡邉 邦友
    2014 年 28 巻 3 号 p. 121-128
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorders(ASD))とは,子供の社会的な発達,伝達能力の発達,想像力の発達などの一連の発達障害で,5つのサブグループがある.遺伝子の変異あるいは欠失が原因とされる一つのサブグループであるRett disorder以外のASDの原因は不明である.原因不明のサブグループの中に18ヶ月くらいまでは正常に発達していた子供が,その後典型的な症状を呈して後退していくRegressive autism(RA)がある.中耳炎などの感染症の治療に関連して発症することが多く,しかも消化器症状を伴うことが多いことから,抗菌薬による腸内細菌叢の変化が発症に何らかの重要な役割を演じているに違いないと考えられてきた.自閉症とClostridium tetaniと題するE. Bolteによる論文発表から進展した最近の20年間余のRA患者の腸内細菌叢,粘膜生検材料細菌叢に関する研究からAutismの発症あるいは病状の悪化に関連する可能性があるいわゆるAutism-associated bacteriaの存在が指摘されるに至っている.
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