腸内細菌学雑誌
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29 巻, 4 号
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総 説 <平成26年度日本ビフィズス菌センター研究奨励賞受賞>
  • 牧野 聖也
    2015 年 29 巻 4 号 p. 163-167
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
    高齢者や子供は感染症に対するリスクが高いため,免疫力を高く維持することが重要である.乳酸菌が産生する菌体外多糖には免疫賦活作用が報告されていることから,免疫力を高める機能性ヨーグルトの開発を目的として,菌体外多糖を産生する乳酸菌の選抜,ヨーグルトへの活用が検討された.その結果,免疫賦活作用を有する菌体外多糖を高産生する乳酸菌としてLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1が見出され,本株で発酵したヨーグルトはマウスではNK活性増強効果,抗インフルエンザ活性を発揮した.また,本株で発酵したヨーグルトの摂取は高齢者の免疫力を高め,風邪症候群への罹患リスクを低下させた.さらに,本ヨーグルトは大学生を対象とした試験において,インフルエンザワクチン接種後のワクチン株特異的な抗体価の上昇を増強することが明らかとなった.
総 説 <特集:腸内細菌叢Microbiotaの分子生物学的解析法の成果と未来>
  • 関口 幸恵
    2015 年 29 巻 4 号 p. 169-176
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
    近年,臨床分野や医薬品製造,食品製造分野での微生物検査において,MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight;マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型)の質量分析計を用いた手法が新たな微生物同定法として使用されつつある.本技術では,微生物菌体そのものを測定対象とし,タンパク質由来のピークが見られる約2,000~20,000 Daの範囲のスペクトルを用いて微生物同定を行う.他の微生物同定法と比較して,本技術では一検体あたりのコストが安価であり,操作が簡便で,コロニーを得てから同定結果までの時間が非常に短い.また,本技術による同定結果は,生化学的手法と比較して,遺伝子学的手法による同定結果との一致率が高いことも特長である.一方で,本技術では培地上に発育したコロニーそのものを測定対象とするため,同一菌種での菌株間の差や培養条件の差が同定結果に影響を及ぼしやすい.また,市販の装置によってデータベースやアルゴリズムが異なっており,同定菌名を導くプロセスは同一ではない.これらの点は,通常の同定試験を行う場合やデータベースに菌種あるいは菌株情報を追加する場合,さらに同定試験以外への応用を行う場合には,十分な注意が必要である.本技術においても,他の技術同様,長所と注意点を理解した上で,適切に使用および応用検討することが重要である.
総  説
  • 岡 健太郎, 高橋 志達, 神谷 茂
    2015 年 29 巻 4 号 p. 177-185
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
    Clostridium difficileは芽胞形成性のグラム陽性偏性嫌気性細菌で,主に抗菌薬投与後に下痢や偽膜性大腸炎(pseudomembraneous colitis, PMC)などのC. difficile関連下痢症/疾患(C. difficile-associated diarrhea/disease, CDAD)を引き起こす原因菌として知られている.本菌は一部の健常者の腸内に定着する常在菌の一種であり,通常は他の腸内細菌により抑制されているが,抗菌薬の投与により正常腸内細菌叢が撹乱されると異常増殖と毒素(トキシンAおよびトキシンBなど)産生を引き起こしCDADが発症する.抗菌薬関連下痢症(antibiotic-associated diarrhea, AAD)のうち,5-20%が本菌によるものと考えられており,治療には原因抗菌薬の中止とバンコマイシンまたはメトロニダゾールの経口投与が有効であるが,10-35%に再発が認められ,近年では再発を繰り返す症例が問題となっている.CDADは,腸内に定着した常在性C. difficileによるものの他に,保菌健常者やCDAD発症者の糞便を介した接触感染が主な感染経路であり,特に芽胞を形成する菌であることから,芽胞が長期間にわたって環境中に生残して院内感染や再発の感染源となることが考えられる.特に入院患者では,本菌の検出率は入院期間と相関することが知られている.また,芽胞は抗菌薬に抵抗性であることから,再発例の一部では,治療後に芽胞の形態で腸内に生残して再発を引き起こすものと考えられる.従って,CDADあるいは再発性CDADの治療および予防法としては,原因抗菌薬の中止やバンコマイシンまたはメトロニダゾールの経口投与による治療や接触感染予防策や環境清掃などによる一般的な感染予防法に加え,抗菌薬の使用制限による正常腸内細菌叢の撹乱防止や,何らかの方法による正常腸内細菌叢の維持および早期回復が重要となる.これまでに,正常腸内細菌叢の維持および早期回復を目的としたプロバイオティクスによる予防の有効性が多数の研究者により報告されており,CDADの治療および予防においては,主に抗菌薬の補助療法としてプロバイオティクス製剤等が使用されている.プロバイオティクスには病原性細菌の生育阻害作用と腸内細菌叢の改善作用があることから,C. difficile腸炎の予防や治療補助に有効であると考えられるが,その効果や作用機序はプロバイオティクスの菌種や菌株によって異なり,菌種あるいは菌株ごとの大規模臨床試験による科学的検証が望まれている.
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