口腔内をはじめ,生体内には多くの細菌が存在しており,細菌同士同菌種・異菌種問わず,細菌間コミュニケーションをしている.近年細菌は,生体に様々な影響を与えていることが研究されてきている.胃がんのピロリ菌に代表されるように,細菌が全身の「がん」に関与することが研究されるようになってきた.口腔がんにおいても,細菌の関与について研究されてきている.細菌が「がん」に関与する際は,大きく分けて三つの関与方法があると考えられている.一つ目は,「慢性炎症による刺激」である.慢性炎症による持続的な炎症性メディエーターなどの放出は,細胞増殖や変異誘発,がん遺伝子の活性化などを引き起こす.細胞の増殖に影響するということは,がん細胞の増殖にも影響することを意味する.二つ目は,「アポトーシスの阻害」である.アポトーシスの阻害により,細胞の長期生存が可能になる.三つ目は細菌が「発がん性」物質の産生することによる,直接的ながん化への関与になる.このレビューでは,Fusobacterium nucleatum,Prophyromonas gingivalis,および,そのほかの微生物Candida,virusesが口腔がんにどう影響するかについて概説する.
近年,様々な癌種と腸内細菌との関連が報告されている.腸内と同様に,食道粘膜にも多くの細菌が存在し,多様な食道細菌叢を形成している.食道はその構造上,口腔内からの飲食物の通過や,胃からの胃酸逆流など様々な影響を受けており,それらは食道細菌叢の組成にも影響を与えていると考えられている.本説では,正常食道における食道細菌叢について,また,食道疾患(逆流性食道炎,バレット食道)や食道癌における食道細菌叢の組成やその変化について概説する.