腸内細菌学雑誌
Online ISSN : 1349-8363
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35 巻, 4 号
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総 説
  • 飯島 英樹, 清野 宏
    2021 年 35 巻 4 号 p. 205-214
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/29
    ジャーナル フリー

    消化管の内部には,多数の細菌,真菌などの微生物が生体と共生し,生体の機能に重要な役割を果たしている.消化管内の腸内細菌は,直接的に,あるいは代謝物を介して生体の構成細胞に影響を与え,免疫系の発達と機能をサポートする.消化管管腔内のみならず,小腸パイエル板などの粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue: MALT)内にも細菌が共生しており,生体の機能に影響を与える.食事成分も,腸内細菌叢の構成に影響を与え,生体の消化管粘膜バリアに始まり粘膜免疫系だけではなく全身系の免疫学的状態にも影響を及ぼす.共生微生物,生体の免疫系,食事により摂取された成分は相互に関係することにより生体機能に影響し,さまざまな疾患病態にも関連している.特に,分子に付加される糖鎖や細菌から産生される短鎖脂肪酸などの代謝物が免疫シグナルをはじめとする細胞―微生物間のメディエーターとして働くとともに,腸管に共生する微生物叢の構成に影響を与え,生体機能の制御に大きな役割を与えている.

  • 後藤 義幸
    2021 年 35 巻 4 号 p. 215-222
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/29
    ジャーナル フリー

    腸管は食餌性抗原や腸内微生物など,無数の抗原に常に曝されている特殊な器官である.腸管には,極めて多くの免疫細胞が集積しているが,なかでもCD4陽性T細胞であるヘルパーT細胞の一種であるTヘルパー17(Th17)細胞が恒常的に存在することが知られている.これは,腸内細菌の一種であるセグメント細菌(segmented filamentous bacteria, SFB)のように,Th17細胞の分化・増殖を誘導する微生物が存在するためである.興味深いことに,腸内細菌によって誘導されるTh17細胞は,病原性細菌の感染防御や上皮バリアの構築に寄与し,腸管の恒常性維持に重要な役割を担っている.このため,腸管におけるTh17細胞は全身系組織において病的な炎症を誘導するTh17細胞とは異なる特徴を有すると考えられている.一方で,SFBによって誘導されるTh17細胞は,関節リウマチや多発性硬化症マウスモデルにおいて疾患の増悪に寄与することが報告されている.つまり,腸管Th17細胞は宿主の疾患発症,制御を司る重要な細胞であり,疾患治療の重要なターゲットとなり得る.今後は,腸管Th17細胞の分化誘導および制御機構の詳細を明らかにすることで,様々な疾患に対する新規治療法の開発が期待されている.

  • 長竹 貴広
    2021 年 35 巻 4 号 p. 223-229
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/29
    ジャーナル フリー

    免疫システムの個性や変調はアレルギー・炎症性疾患の発症や感染症など様々な局面で我々の健康に深く関与する.免疫は遺伝的背景だけでなく,食事栄養や腸内細菌といった多様な腸内環境因子によっても制御されることが分子レベルで解明されつつある.本稿では,最近我々が見出した必須脂肪酸代謝物の新たな免疫制御機構について紹介する.α-リノレン酸とリノール酸は植物性食用油に含まれる代表的な必須脂肪酸で,それぞれω3,ω6脂肪酸に分類される.マウス飼料の脂質原料としてα-リノレン酸含量の多い亜麻仁油を用いると,一般的に用いられる大豆油の場合に比べて食物アレルギーの発症が抑制されることがわかった.亜麻仁油餌で飼育したマウスの腸管をリピドミクス解析したところ,17,18-エポキシエイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)が著増することが判明し,本代謝物が亜麻仁油の抗アレルギー作用を担う実効代謝物として働くことが明らかになった.さらに,17,18-EpETEはアレルギー性接触皮膚炎に対しても有効性を発揮することがマウスやサルを用いた実験で示され,その作用機序として,好中球に高発現するGPR40に作用することでRacの活性化を抑制し,仮足形成を阻害することで好中球の炎症部位への遊走を阻害することがわかった.さらに立体構造に着目した研究から17(S),18(R)-EpETEの機能性を見出し,微生物機能を活用した本代謝物の生産法を確立した.また,ω6脂肪酸代謝物のロイコトリエンB4の受容体であるBLT1が腸管IgA陽性B細胞や形質細胞に発現することを新たに見出した.BLT1を介したシグナルはMyD88の遺伝子発現を誘導することで腸内細菌からの自然免疫シグナルを増強し,形質細胞の細胞増殖を促進することで経口ワクチン抗原に対する抗原特異的IgA産生を促進する作用があることがわかり,経口ワクチンの成立に必須の分子機構であることが明らかになった.これにより,経口ワクチンの有効性を規定する因子として,受け手の栄養状態や腸内細菌の存在が重要であることが示唆された.これらの知見は今後,個々の食生活や代謝活性,腸内細菌叢に合わせて最適な免疫療法を提供するための個別化/層別化医療・栄養の創成につながると期待される.

報文
  • 松井 沙樹, 福田 伊津子, 大澤 朗
    2021 年 35 巻 4 号 p. 231-239
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/29
    ジャーナル フリー

    国内の13大学より現地ラボラトリーで飼育しているマウスの糞便を収集し,これらの糞便サンプルから抽出したDNAサンプルについて,次世代シーケンサーを用いたマウス糞便細菌叢の門レベルでの解析とほぼ同等に菌叢解析ができるとされる既報のプライマーを用いた定量PCR(qPCR)を行った.さらに,マウスを用いた食品成分の腸内細菌叢への影響評価の指標として使われている科から種レベルを標的としたqPCRを用いて菌叢解析を行った.国内の実験用マウス糞便細菌叢のqPCR結果を多変量解析に供したところ,分類階層の門および科/属レベルにおいて飼育施設ごとに異なる系統クラスターを形成した.この系統クラスター形成がマウス系統や性別・週齢等の内的要因,あるいは給水,床敷,飼料等の外的要因と相関するかをχ 2検定で調べた結果,飼料の差異で有意な相関が認められた.この結果は,国内の実験用マウスにおいても諸外国の過去の所見と同様,外的要因によって腸内細菌叢が変動することを示すものであり,翻って,経口摂取する食品成分等の機能性評価を正確に行うには,マウス細菌叢の標準化,あるいは実験動物に依らない代替法の検討が必要であることを支持するものである.

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