腸内細菌学雑誌
Online ISSN : 1349-8363
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35 巻, 3 号
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総 説
  • 安達 圭志, 玉田 耕治
    2021 年 35 巻 3 号 p. 143-154
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/30
    ジャーナル フリー

    1981年以降,我が国ではがんが死亡原因の一位となっており,現在でもその上昇傾向に歯止めがかかっていない.2019年のがんによる死者は約37万4千人で,全死亡者に占める割合は 27.4%であり,これは,この年の全死亡者の約3.5 人に1人はがんで死亡した計算になる.免疫療法は,外科療法,化学療法,放射線療法に続く第4の治療法として近年急速に発展してきた.特に,治療抵抗性の一因となっているがんの免疫抑制環境を破壊することで治療効果を発揮する『免疫チェックポイント阻害療法』は,これまでにない優れた臨床効果を示す革新的治療法であり,幾つかの阻害薬は承認薬として世界各国ですでに臨床応用されている.しかし,免疫チェックポイント阻害療法にも克服されなければならない重要な課題が残されており,そのなかの一つが,臨床効果や有害事象を予測して最適な患者または治療法の選択を可能にするバイオマーカーの同定である.これまでに報告されたバイオマーカーは,分子,細胞レベルで判断されるものが主流であったが,次世代シーケンサーなどのハイスループットな遺伝子解析システムの発達とともに,患者個々のがん関連遺伝子や腸内細菌叢に着目したバイオマーカーの開発が研究されるようになった.本稿では,がんに対する免疫チェックポイント阻害療法の効果と相関しうる腸内細菌叢解析の進捗について解説する.

  • 河口 浩介, 藤本 優里, 戸井 雅和
    2021 年 35 巻 3 号 p. 155-163
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/30
    ジャーナル フリー

    乳がんは,女性において罹患率が最も高いがんであり,日本においても年々生涯罹患リスクは上昇の一途をたどっている.エストロゲン受容体,プロゲステロン受容体,HER2受容体,Ki67並びに組織グレードに基づく,Luminal A,Luminal B,Her2-enriched,およびトリプルネガティブのサブタイプ分類をもとに治療が行われる(1).乳がん罹患のリスク因子としては,遺伝的要因,ホルモン補充療法,生活習慣,食習慣,年齢,初経・閉経年齢,乳腺密度などが挙げられるが,これらですべての乳がんの罹患を説明できるわけではなく,さらには地域差,人種差ふくめて他のリスク因子を考慮する必要がある(2).近年ヒトの微生物叢(マイクロバイオータ)は,腫瘍生物学を含むさまざまな分野で注目を集めている.ヒトの宿主とマイクロバイオータの間には,ダイナミックかつ非常に複雑なネットワークが張り巡らされている.E-カドヘリン- β -カテニン経路(3),DNA二本鎖切断(4),アポトーシスの促進,細胞分化の変化(5),自然免疫系であるToll様受容体(TLR)との相互作用による炎症性シグナル伝達経路の誘発など,さまざまなシグナル伝達経路の制御に関わっていることが知られている.ヒトのマイクロバイオームとがんとの相互作用は,「オンコバイオーム」と呼ばれ(6),人間の宿主もまた,マイクロバイオータとそのメカニズムに影響を与えるとされている(7).乳がんにおいても腸内細菌との関連が注目されており,重要な研究が加速度的に進んでいる.マイクロバイオームは乳がんのリスク因子であり,薬剤の治療効果にも関連することが報告されている(8).常在細菌叢が乱されると微生物のバランスが崩れ,がんの発生につながる可能性が示唆されている(9).例えば,抗生物質(クラリスロマイシン,メトロニダゾール,シプロフロキサシンなど)が投与されると,一部の細菌群集の生物多様性や豊富さが減少し,腸内細菌叢のバランスが乱れ,乳がんの発症リスク上昇に関連することが示唆されている(10–12).また,健常者と乳がん患者では乳腺組織内マイクロバイオームの構成細菌叢と存在量に違いを認めたという報告もある(8).本項では腸内細菌と乳がんについて最近の知見並びに今後の展望を踏まえて解説する.

報 文
  • 松永 渉, 後藤 章暢
    2021 年 35 巻 3 号 p. 165-172
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/30
    ジャーナル フリー

    ヒトの腸内フローラは健康維持に重要な役割を果たしているが,日本では近年,様々な理由から腸内フローラの異常(ディスバイオーシス)が増えているとされ,腸内フローラの改善を謳う乳酸菌サプリメントが数多く販売されている.ディスバイオーシスの改善には,「生きた乳酸菌」を腸に送ることが効率的だと考えられており,「植物性乳酸菌」と俗称される一部の乳酸菌群が,消化管の過酷な環境に耐えて腸に到達すると期待され注目されている.本研究では,刀根早生種の柿より分離された乳酸菌を含むサプリメントMP-1の長期経口摂取がマウスの腸内細菌叢に与える影響を検討した.実験期間は28日で,通常の飼料とともにタブレット状に成型したMP-1,もしくはサプリメント成分を含まないタブレットを与えた実験群とコントロール群,および通常の飼料のみで飼育した群それぞれで,実験開始前後の糞中細菌叢構成を比較したところ,MP-1摂取群では,10匹中8匹の糞中より実験開始前には検出されなかった乳酸菌が検出される一方,在来の乳酸菌のピーク面積比の低下とバクテロイデス属のピーク面積比の上昇が観察された.通常飼育群およびコントロール群の糞中細菌群には有意な変化は観察されなかった.このことから,サプリメントMP-1の長期摂取は,マウスの腸内フローラに有意な影響を与えていることが確認された.

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