発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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21 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 今尾 真弓
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 125-137
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,成人期以降に慢性疾患に罹患した人々におけるモーニング・ワークの検討を通して,病気の捉え方の特徴を明らかにすることを目的とした。成人前期から中年期にかけての慢性疾患は,その発達期の特徴から,(A)慢性疾患が深刻な葛藤を伴うものとして経験される,(B)慢性疾患がtypicalな「身体の衰え」として,スムースに受け止められるという,2つの異なる類型が出現すると予測された。成人前期から中年期に慢性の腎臓疾患に罹患した11名(男性6名,女性5名)を対象に半構造化面接を実施し,発病後に焦点づけたライフ・ストーリーを聴取した。分析の結果,対象者は(1)病気への葛藤が深刻な群,(2)病気への葛藤が緩やかな群,(3)モーニング・ワークが出現しなかった群の3つに分類され,想定された2つの類型が適切であることが示されるとともに,穏やかな「否認」が出現する類型を加える必要性が示された。また類型の相違には,発病時の症状や,発病前の困難な問題の有無,親や身近な他者の病気・死の経験が関係していた。この中で,身近な他者や親の老い・病気・死といった出来事が,自身の病気を位置づけていく心理過程に重要な意味を持つと考えられたことから,今後はこの問題に焦点をあて,より詳細に検討を行っていく必要性が示された。
  • 石 暁玲, 桂田 恵美子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 138-146
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,「相互協調性・相互独立性」を認知的スタイルを表す変数とみて,心理学的ストレスモデル(Lazarus&Folkman,1984/1991)に基づき,育児期母親のディストレスとの関係について検討すること,その際,従来論じられてきたソーシャル・サポートを含めて検討することであった。2〜6歳児を持つ母親272名を対象とした質問紙調査の結果から,日本の育児期母親において,ソーシャル・サポートの効果を統制しても相互協調性・相互独立性が直接母親のディストレスに寄与することが見出された。しかも,相互協調性・相互協調性がいままで強調されてきたソーシャル・サポートよりも重要な要因であることが示唆された。さらに,相互協調性・相互独立性の組み合わせによるパターンの検討からも,相互協調性が高ければディストレスは高まり,相互独立性が高ければディストレスが低くなるという関連性が確認された。以上より,人間関係における文化依存的な認知を変容するアプローチは,育児支援の一つの新しい方向性であることが示唆された。
  • 佐藤 由宇, 櫻井 未央
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 147-157
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    広汎性発達障害者の抱える心理的な問題として,他者との違和感や自分のつかめなさといった自己概念の問題の重要性が近年指摘されているが,その研究は非常に困難である。本研究では,当事者の自伝を,彼らの自己内界に接近できる数少ない優れた資料であると考え,中でも卓越した言語化の能力を有する稀有な当事者による自伝を分析することによって広汎性発達障害者の自己内界に迫り,自己の特徴と自己概念獲得の様相を探索的に明らかにすることを目的とした。1冊の自伝を取り上げ,KJ法で分析を行った。結果,311のエピソードを取り出し,28のカテゴリーを生成した。その当事者の自己の様相においては,自己感の曖昧さや対人的自己認知の困難などの特異的な困難が明らかとなった。それらの困難ゆえに,対人的自己認知の獲得の過程において,主体としての自己を喪失する危機が生じやすいが,その際,自己感の曖昧さや対人接触の拒絶,解離など一般に障害あるいは症状とみなされる現象が危機に対する対処として機能していると考えられた。さらに,対人的自己認知は困難であるとはいえ,対人的経験の中で自己感を得られる新たなコミュニケーションスタイルを獲得しうる可能性も示唆された。
  • 向井 隆久, 丸野 俊一
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 158-168
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,心的特性の起源(氏か育てか)に関する概念の発達を説明する上で,「概念は,状況・文脈から独立にあらかじめ成立している(伝統的概念観)のではなく,概念と状況・文脈が互いに整合する形で構成されて初めて成立する」という概念観の妥当性・有効性を検討することであった。そのため,小学2〜6年生300名を対象に,特性の起源を問う課題構造は同一であるが,子どもに認知される課題状況・文脈に違いがあると想定される2つの課題(乳児取り替え課題,里子選択課題)を用意し,状況・文脈の違いによって,特性の起源に関する認識に違いが生じるのか否かを実験的に検証した。特に本研究は,あらかじめ場合分けされた知識・概念では対応できないような,場に特有の内容で子どもに認知される状況・文脈(目標解釈や思い入れ,意味づけ)に着目した。結果は,乳児取り替え課題では,特性の規定因を'生み育て両方'とはみなしにくい低学年児の多くが,里子選択の状況では高学年児と同等に'生み育て両方'を規定因とみなし,特性の起源に関する認識が状況・文脈に整合する形で即興的に構成されることを示した。こうした結果を受けて考察では,子どもの示す理解の仕方は状況・文脈と一体となって絶えず変動するとみなし,「状況・文脈と概念との相互依存的で整合的な構成のされ方の変化」として概念変化を捉えることが適切ではないかという新たな概念観の有効性を議論した。
  • 渡辺 実
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 169-181
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,知的障害児において,どの程度の精神年齢で,どの程度の文字・書きことばの習得が可能なのかを明らかにし,教育実践に役立てることを目的とする。そこで,知的障害児51名に対してグッドイナフ人物画知能検査を実施し,精神年齢(MA)を測定した。同時に,各児の文字・書きことばの習得状況を調査した。文字・書きことばの習得状況については,8段階に区分した文字・書きことばの習得段階にあてはめて分類した。これらの資料を基に,精神年齢と習得状況の関連について検討した。その結果,MA4:0前後で,かな文字のなぞり書きが可能になる。MA4:6過ぎからは,かな文字の視写が可能になり,かな文字単語を自筆で書ける児童も出現し,生活年齢の高い児童の中には書きことばの短文が書ける児童もいる。MA4:6〜MA5:6では,主部述部を伴う書きことば文の書字が可能になり,MA5:6を超える頃から,統語的に正しく,表現したい自己イメージにそった書きことば文の書字が可能になることが明らかになった。また,MA6:6を超える頃から長文の文章書字が可能になるが,一方で,パターン化した文章表現に留まる児童がいることが示された。知的障害児において,文字は単語や文章中で意味ある書きことばとして意識され,文字と書きことばの双方が密接に関連する中で習得が進んでいくと言える。
  • 髙坂 康雅
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 182-191
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,大学生のアイデンティティの確立の程度及び推測された恋人のアイデンティティの確立の程度と,恋愛関係の影響との関連を検討することである。現在恋人のいる大学生212名を対象に,高坂(2009)の恋愛関係の影響項目40項目,加藤(1983)の同一性地位判別尺度18項目,恋人のアイデンティティの確立の程度を推測できるように修正した同一性地位判別尺度18項目への回答を求めた。その結果,回答者本人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「時間的制約」得点が低かった。また推測された恋人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「自己拡大」得点や「充足的気分」得点が高く,「他者交流の制限」得点が低かった。これらの結果から,恋人のアイデンティティが達成型やフォークロージャー型であると,恋愛関係をもつことが青年の人格発達に有益にはたらくことが示唆された。
  • 中川 愛, 松村 京子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 192-199
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/10/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,女子大学生の乳児への関わり方が乳児との接触経験により違いがみられるかどうかについて,あやし行動,あやし言葉,音声の視点から検討を行った。実験参加者(18〜23歳)は,乳児との接触経験がある女子大学生16名(経験有群),乳児との接触経験がない女子大学生14名(経験無群)である。対象乳児は,生後3〜4ヶ月児(男児3名)である。実験の結果,あやし行動は,乳児との接触経験有群の方が,経験無群よりも,乳児への行動レパートリーが多く,乳児のぐずりが少なかった。あやし言葉は,経験有群が経験無群よりも発話レパートリーが多く,乳児の気持ちや考えを代弁するような言葉かけをした。音声については,両群ともに乳児へ話しかける声の高さは高くなり,Infant-directed speechの特徴が出現した。さらに,発話速度については,経験有群の方が,ゆっくりと話しかけていた。以上のことから,乳児と接触経験をもっている女子大学生は,多様なあやし行動を身につけていることが示唆された。
  • 石川 隆行
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 200-208
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本調査は,小学校4年生,5年生および6年生計367名を対象として,罪悪感と学校適応感の関連を検討した。その際,罪悪感を感じる場面として対人,規則場面を設定し,またそれらの罪悪感場面における子どもの対応として同調と傍観を設定した。調査の結果,対人と規則の両場面において,小学生は同調による罪悪感を傍観による罪悪感よりも強く感じること,また小学校4年生の同調と傍観による罪悪感が小学校6年生よりも強いことが見いだされた。性差については,女子小学生が男子小学生よりも同調と傍観による罪悪感を経験しやすいことが明らかになった。一方,罪悪感と学校適応感の関連を検討するため,学年,男女別に相関分析を行ったところ,すべての学年,性別において罪悪感と学校適応感の関連が認められた。また,その関連においては,小学校6年生にのみ罪悪感と級友関係(正)の関連が低いながら認められ,他学年とは異なる発達的様相が示された。このことから,問題場面において強く罪悪感を感じる児童は学校で上手く生活を送ることができ,また小学校6年生の罪悪感には良好な友達関係が関連する可能性が明らかになった。以上より,学校教育の中で子どもの適切な罪悪感の喚起を促すことができ,そのことが問題行動において傍観する子どもを減少させることに繋がると示唆された。
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