発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
34 巻, 4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集序文
特集
原著(依頼)
  • 岡南 愛梨
    2023 年 34 巻 4 号 p. 271-284
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,1歳児クラスで生じたいざこざの出来事について,子どもたちと保育者の行為がニュー・マテリアリズムの視点からどのように捉えられるのかを明らかにする。認定こども園における参与観察のビデオデータに記録されたひとつの出来事について,Lenz Taguchi(2010)の「内的活動の教育学」を理論的枠組みとして微視的に分析した。その結果,子ども同士の叫び合いの状況が,以下のように見えてきた。子どもたちは,それぞれ物と一緒に生成変化する(becoming-with)状態にあり,場に表出された不快感は子ども個人から出てきたものではなく,玩具や「ばっぱー!」という音などとの絡み合いにて生じたものとして捉えられた。保育者の行為と発話は,身体的な働きかけや周りの状況の変化を巧みに使いながら,子どもを取り巻くアレンジメントを組み替えていると考えられた。保育者は,子どものことを援助が必要な未熟な存在としてではなく,ポジティブな差異を生み出す存在として見ていることが示唆された。

  • 伊藤 崇
    2023 年 34 巻 4 号 p. 285-297
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    遍在するデジタル技術と子どもはどのような関係にあるのか。本論はこの問いに対し,Latourらによるアクターネットワーク理論に基づいた関係の記述の仕方を提案することで答えようとするものである。アクターネットワーク理論では人間やモノの連関として現象を記述しようとする。この方法論に基づき,ある家庭内で撮影された映像の観察から得られたデジタル技術使用実践の分析が行われた。家庭内に導入された音声操作可能なシーリングライトをめぐって形成された,子どもを含む家族による生活実践は,人間の声と環境音とを等しく(フラットに)扱う音声認識技術とそれへの対処として電子回路への給電を「遮断」する人間の協働として記述された。その記述において,照明の点灯という実践の連関に含まれる子どもやその声,スイッチやシーリングライトは,新しい意味を互いに付与していた。最後に,アクターネットワーク理論に基づいて子どもとデジタル技術との関係を記述することの発達心理学的な意義について議論した。

  • 岸野 麻衣
    2023 年 34 巻 4 号 p. 298-311
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    幼小接続においては,幼児期の育ちを活かした連続性のある学習を展開していく重要性が提起され,さまざまな実践が提案されてきた。一方で,幼小移行期は,子どもにとっては大きな学習の転換の起こる時期でもある。小学校入学前後の実践例の蓄積に留まらず,子どもの学習プロセスでどのようなことが起こっていくのかを検討することが必要である。そこで本研究では,学習の転換には,身体的空間,言語・文字的空間,記号・数式的空間での相互作用が関わると考え,教室の物や人との相互関係の中でどのようなやり取りが起こり,エージェンシーがあらわれていくのかを検討した。小学1年生の1学級において12か月間のフィールドワークを行い,物と人の相互関係を質的に分析した。その結果,1)身体的空間でのやり取りが言語・文字的空間でのやり取りへ転換されていくプロセス,2)身体的空間と行き来しながら言語・文字的空間でのやり取りがなされていくプロセス,3)言語・文字的空間や身体的空間と行き来しながら記号・数式的空間でやり取りがなされていくプロセスが見られた。子どもたちは,身体的空間,言語・文字的空間,記号・数式的空間を行き来しながら,脱文脈化した論理的抽象的な思考に向かっていくことが示唆された。これらのエージェンシーがあらわれていく過程では,さまざまな物や人のエージェンシーや場の構造が相互に関わり合っていた。

  • 川床 靖子
    2023 年 34 巻 4 号 p. 312-322
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    女性の手織り伝承グループ,ゆうづる会は,松阪木綿の伝統的手織り技術を次の世代に伝える役割を担おうとする強い意思,エージェンシーを活動と共に育んできた。松阪木綿に関わるモノや事や人,並びに,他のコミュニティーとの相互交渉を通して,ゆうづる会員は自らのエージェンシーを複合的なものに作り変えていった。本稿は,エスノグラフィックな調査に基づき,ゆうづる会員と会員を取り巻く社会技術的アレンジメントとの異種混淆のインタラクションを通して,会員のエージェンシーがどのように集合的に形づくられ,変化したのかを詳述する。多様な人間エージェンシーは,社会技術的アレンジメントの再編と活動の展開による絶え間ない作り直しのダイナミクスの中でよりよく捉えることができる。本研究は,発達研究の分野にエージェンシー概念及び社会技術的アレンジメント概念を導入することによって,対象事例における活動内容とそれを取り巻く人,モノ,装置の働きを豊かに描出し分析することが可能になることを示すものである。

  • 城間 祥子
    2023 年 34 巻 4 号 p. 323-335
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,小学校の総合的な学習の時間に行われている文楽学習の活動を対象に,主体的な学習を成立させる要件について検討する。まず,文楽学習の活動の1年間の流れと初年度の活動立ち上げのプロセスを記述する。学校内外の多様な人々(教職員,技芸員,卒業生,保護者,地域の人,文楽関係者など)が子ども文楽を支えていることを示す。次に,外部講師である技芸員が,どのように子ども文楽と自らを結びつけているのかを明らかにする。文楽を取り巻く社会的状況とインタビューでの語りから,技芸員の重層的で複合的なエージェンシーが見いだされた。最後に,学校教育を取り巻く社会的状況を踏まえ,子ども文楽を結節点として多様な人,モノ,制度がつながりあうことで,子どもたちが文楽を学習するというエージェンシーが集合的に達成されていることを確認する。そして,生徒エージェンシーを育むには,学習者がエージェンシーを発揮できる環境を,学習者と共同で作り出していくことが必要であることを論じる。

  • 川野 健治
    2023 年 34 巻 4 号 p. 336-343
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,復興における文化の役割を明らかにするために,社会物質性アプローチの観点から行った事例研究である。東日本大震災に見舞われたコミュニティにおいて,文化的なもの・ことが人や他のものと関係していくプロセスを観察することで,復興過程において人にはどのようなエージェンシーが現れるのかを把握し,レジリエンスにおける文化の役割を評価しようとした。岩手県大槌町臼澤集落の郷土芸能鹿子踊について,3つの研究報告を2次資料として分析したところ,(1)伝統芸能を担ってきた文化装置,あるいは人とモノのアレンジメントが,そのまま避難所運営に転用されたこと,またその避難所が郷土芸能を披露し避難者や集落の住民を力づける背景となったこと,(2)祭りが広く外部との関係主体性を導いたこと,(3)「不在のアレンジメント」が集合的なエージェンシーを底支えしたのではないかという3点が議論された。

  • 東海林 麗香
    2023 年 34 巻 4 号 p. 344-354
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    「チームとしての学校」が求められるようになって久しいが,今なお,教員の「個業化」「孤業化」は課題として残り続けている。この状況は,教員の健やかな発達を難しくさせている。本稿では社会物質性アプローチを援用し,人・モノ・制度の布置である「アレンジメント」という観点から,このような課題状況を打破する手がかりを示すことを試みる。まず,アレンジメントを可視化するために,教師を教員(教育職員)として捉え直すこととした。その上で,「個業化」「孤業化」と関連するディスコースとして,学級担任に関するディスコースと,人事異動に関するディスコースを取り上げ,どのような制度,設備・備品等がそれらに関わるのかについて検討した。検討に当たっては,政府統計や行政機関による文書,また教育経営学等の心理学以外の分野における先行研究を主な資料とした。結論として,「学校教育における基本的な単位が学級であること」「教員のキャリアが学級担任として開始される可能性が高いこと」,「人事異動の仕組みが見えないこと」による「年単位で業務が規定されることによる職務の不確定性」「異動を前提としていないように見える職場環境」がこれらのディスコースのエージェンシーを顕現化させるアクターとなり,「個業化」「孤業化」という課題状況が再生産され続けていることを示した。

  • 北本 遼太, 広瀬 拓海
    2023 年 34 巻 4 号 p. 355-367
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    現代社会では,グローバル化の進展に伴ってそれまでの標準が崩れ,ニーズの多様化や変化の加速が進んでいる。このような時代の発達の困難に応答するためには,人,モノ,制度を自明なものとせず,それらを「アレンジメントの効果」として捉えて丁寧に記述する社会物質性アプローチの観点が有効である。本論では,このアプローチに基づいた介入研究の方法論を具体的な事例とともに提案した。地域若者サポートステーションへの介入のプロセス(研究I)だけでなく,その介入を論文としてまとめたことで生じた実践(研究II)までを視野に入れて,アレンジメントの展開プロセスをアリのように地道に追った。この結果,介入から多くの支援利用者が離れたことや,当初の想定とは異なる人物の変化など,介入によって生じる複雑で多様な変化が捉えられた。これらの変化は,困難を効率良く解決するものではないが,より良い状態に向かう次の変化を起こす契機になり得るものであることが指摘された。

原著
  • 谷口 あや, 野上 慶子, 山根 隆宏
    2023 年 34 巻 4 号 p. 368-379
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,第一に父母ペアデータを用いて,父母個人の養育スタイル(以下,個人レベル)と父母双方の養育スタイル(以下,二者関係レベル)が子どもの問題行動や自己制御の発達とどのように関連するかを検討すること,第二に父母の養育スタイルの組み合わせの類型化を行い,父母の養育スタイルの組み合わせと問題行動および自己制御の関連を探索的に検討することであった。マルチレベル構造方程式モデリングの結果から,個人レベルと二者関係レベルでは自己制御と問題行動の場合で関連する養育スタイルが異なることが示された。肯定的働きかけについては,個人レベルでは自己制御の全ての下位尺度と関連していたのに対し,二者関係レベルでは関連がみられなかった。この点について,クラスター分析の結果から,自己主張と自己抑制に対しては,父親の肯定的働きかけと,母親の叱責,育てにくさが重要な要因となることが示唆された。個人レベルと二者関係レベルの結果が異なることから,父母の養育スタイルと子どもの発達の関連については,個人の役割と父母という集団の役割が異なる可能性が考えられる。

    【インパクト】

    本研究のインパクトとして,父母ペアの縦断データを用いてマルチレベル構造方程式モデリングを行うことによって,養育スタイルと子どもの問題行動および自己制御の関連を個人レベル,二者関係レベルでそれぞれ実証的に示した点である。さらに,父母の養育スタイルの組み合わせを検討することで,単に変数間の関係を示しただけではなく,父母の相補性のある養育スタイルの可能性についても示唆した。

  • 荒木 友希子
    2023 年 34 巻 4 号 p. 380-394
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,保育者のワーク・エンゲイジメントと職務ストレッサーおよび特性的コーピング・スタイルとの関連について横断的に検討をおこなうことを目的とした。270名の保育者を対象に質問紙調査を実施した。保育者の経験年数などの属性を統制して重回帰分析をおこなった結果,子ども対応・理解のストレス,給与待遇のストレス,および,諦めコーピングがワーク・エンゲイジメントと負の関連があることが示された。また,問題解決コーピングと子ども対応・理解のストレス,および,問題解決コーピングと保育所方針とのズレによるストレスとの交互作用項がそれぞれ有意であった。特に,問題解決コーピング得点の低い人では,子ども理解ストレスとワーク・エンゲイジメントとの関連はみられなかったが,問題解決コーピング得点の高い人では,子ども理解ストレスとワーク・エンゲイジメントとの間に有意な負の関連がみられた。子ども理解ストレスという職務ストレッサーを強く認知している保育者の場合,問題解決コーピングを用いてもワーク・エンゲイジメントは高くならず,保育者にとって問題解決コーピングが必ずしも適応的なコーピング・スタイルとはいえない可能性が示唆された。

    【インパクト】

    保育者が仕事に対して熱意を持っていきいきと働くには保育現場の問題にどのように対処すればよいのか,調査によって分析した。その結果,子ども理解の困難さや給与待遇への不満を感じている保育者はワーク・エンゲイジメントが低かった。特に,保育者が子ども理解に困難を感じる場合,個人でどのような対処をしても役に立たなかったことが示唆された。保育者個人だけではなく,組織としての対応が望まれる。

feedback
Top