発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
31 巻, 2 号
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原著
  • 林 亜希恵, 中谷 素之
    2020 年 31 巻 2 号 p. 55-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    高校生のメンタルヘルスを考える上で,援助要請は重要な方略であるが,学業のみならず,進路,自己,対人関係などのさまざまな悩みの領域があるなか,これまでに領域別に援助要請の質を検討した例はみられない。本研究では,高校生活における身近な悩みを反映した主要領域において,どのように援助を要請するのかについて,新たな領域別援助要請スタイル尺度を作成し,適応との関連を検討した。高校生453名を対象に調査を行った結果,作成された領域別援助要請スタイル尺度は,一定の信頼性と妥当性を有することが確認された。教師への自律的援助要請が高い生徒は全ての領域において,対応する領域の適応が高いことが示された。友人への自律的援助要請については,学業,自己,対人関係領域において対応する適応との関連が示された。自律的援助要請が適応的な方略であるとするこれまでの知見とほぼ一致すると考えられる。次に,依存的援助要請が適応に及ぼす影響については,学業および進路の領域において,友人への依存的援助要請が低い生徒は学習適応や進路適応が高いことが示された。そして,対人関係領域において友人への依存的援助要請が高い生徒は社会適応が高いという異なる傾向が示され,依存的援助要請も適応に効果があることが示唆された。また,対応する領域以外の適応においては,教師への自律的および依存的援助要請と学習適応との間に正の相関があることが示された。

  • 水口 啓吾, 湯澤 正通
    2020 年 31 巻 2 号 p. 67-79
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校の生徒を対象として,通常の理科の授業と,先行学習の特徴を取り入れた新しい理科の授業を比較することで,授業デザインがワーキングメモリ(WM)の小さい生徒の授業態度に及ぼす影響について検討した。WMの小さい生徒3名と平均的な生徒2名を各クラスで選出し,授業中の態度を観察した。新しい授業デザインでは,先行学習を参考として,授業冒頭での要点(まとめ)の教示,生徒自身が授業内容の理解度を評定する“自己評価”,要点(まとめ)の知識を深める“活用課題”,そして,教師と生徒との同時視写作業である“共書き”を実施した。その結果,WMの平均的な生徒は,授業デザインに関係なく,一貫して授業への参加が高かった一方で,WMの小さい生徒は,新しいデザインでの授業の方が,授業への参加が高かった。本研究を通して,WMの小さい生徒に限らず,すべての生徒が授業に積極的に参加するうえで,先行学習の特徴を取り入れた授業デザインが効果的に働くことを明らかにしたことで,授業全体に着目した学習支援方略を提示することが出来た。

  • 伊藤 恵子, 安田 哲也, 小林 春美, 高田 栄子
    2020 年 31 巻 2 号 p. 80-90
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(ASD)児のコミュニケーション支援のため,話者の発話意図推測から,かれらの語用論的能力を検討した。17名のASD児と13名の定型発達(TD)児を対象とし,映像によって話者の発話意図を推測する実験を行った。その結果,ASD児,TD児とも冗談と嫌味の推測が困難であったが,ともに話者の発した言語的意味とその発話意図の異同には気づいていた。まず場面状況,次に話者の表情,最後に刺激音声というように,発話意図を推測する上で手がかりとなる情報が顕在的に提示される映像刺激であれば,ASD児もTD児と同様に発話意図を推測できた。視線分析に関しては,状況判断のための事物(例えば上手か下手かといった判断をするための紙に書かれた習字)を,ASD児はTD児よりも長く見ていた一方,それ以外のものに関してはTD児のほうが長く見ていた。これらの事物及びそれ以外のものを見る頻度は,TD児がASD児よりも多かった。話者の発話場面では,ASD児とTD児は,顔,なかでも目や口を見ている時間や頻度に違いがなかった一方,TD児に比べASD児は,話者の体及び鼻への総注視時間が長く,総注視頻度も多かったのに対し,話者以外への総注視時間が短く,総注視頻度も少なかった。支援に関しては,日常生活で話者の発話意図を推測する上で,潜在的に存在する重要な文脈情報を自発的に発見し,その利用を促す学習が必要と考えられた。

  • 汀 逸鶴, 小塩 真司
    2020 年 31 巻 2 号 p. 91-97
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    知的好奇心は知的活動を動機づけ,生涯にわたって心身の健康に関わる特性であることがこれまでの研究により示されている。本研究は,日本人成人を対象とした横断的調査から,知的好奇心の年齢に伴う変化を検討した。分析に際して,情報探索の方向性によって定められた知的好奇心の下位概念である,拡散的好奇心と特殊的好奇心のそれぞれについて検討を行った。オンライン調査に参加した4376名(男性2896名,女性1480名,平均年齢51.8歳)のデータを分析の対象とした。階層的重回帰分析の結果,拡散的好奇心は年齢に伴って曲線的に上昇する傾向が,特殊的好奇心は年齢に伴って直線的に上昇する傾向が認められた。また,拡散的好奇心については男性の方が女性よりも平均値が高い傾向もみられた。これらの結果は,最終学校段階や世帯年収を統制しても同様であった。本研究で得られた結果と先行研究の知見から,日本人の成人期における知的好奇心の役割について議論された。

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