発達心理学研究
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32 巻, 4 号
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特集序文
特集
展望(依頼)
  • 天野 大樹
    2021 年 32 巻 4 号 p. 171-183
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    生まれて間もない幼若動物は養育行動の無い状態では生き延びることが出来ない。また虐待やネグレクトといった不適切な養育行動を受けることで精神疾患の罹患率や重篤度が上昇する。養育行動を司る最も重要な脳部位は内側視索前野であることは知られているものの,内側視索前野は養育行動以外にも性行動や睡眠,体温調節など様々な本能行動に寄与しており,どのようにして行動選択がなされているのか,子供に対する攻撃に寄与する脳部位との関係はどのようになっているのかなど不明な点が多いのが現状である。またライフステージや外部環境によって脳がどのような影響を受けるのかについても考える必要がある。近年では遺伝子操作技術が向上し,自由行動下の特定の細胞の活動パターンの観察や神経細胞の機能操作時における行動実験が広く行われている。本稿では養育行動だけでなく子供への攻撃に影響を与える脳機能や神経回路の機能について最新の知見を紹介する。また内分泌系や薬剤によって行動や脳機能がどのように変化するか薬学研究者の観点から明らかにしようとする取り組みについて紹介したい。

  • 松永 倫子
    2021 年 32 巻 4 号 p. 184-195
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    ヒトの乳児は生まれて間もない頃から,表情の変化や発声,身体の動きといった情動シグナルを養育者に発信し,身体状態や欲求を伝える。乳児によるシグナルは,養育者の注意をひきつけ,養育行動を促進する。ヒトの養育者が敏感かつ適切に養育行動を行うためには,(1)乳児の非言語シグナルから乳児の情動状態や欲求を読み取ること,(2)自分自身の情動を制御しながら行動すること,がともに求められる。本稿では,養育行動を支える神経生理学的基盤に着目し,養育行動に関わる脳の神経ネットワーク(i.e., 親性脳)とオキシトシンホルモンに関する研究を概観する。親性に関する脳―身体―心の働きは,母親のみならず父親も妊娠期からみられはじめ,産後の経験によって変容していく。私たちは,養育経験による母親の身体や表情知覚の変容とその個人差を生み出す要因について検討を重ねてきた。また,父親にかんしても,妊娠期からはじまる親性脳発達の萌芽とその個人差について研究を進めている。これまで得た最新データに基づきながら,親性発達の統合的理解と現場における支援の可能性について議論したい。

  • 田中 友香理
    2021 年 32 巻 4 号 p. 196-209
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    ヒトは共同養育という形質を取って進化してきた。しかし,共同養育は実質的に崩壊し,その結果生じた孤立育児や,それに伴う母親の心身の不調は,育児に対する心身の負担感を増大させている。こうした育児に対する心身の負担感は,少子化の一因となっている。孤立育児を解消し,養育者の育児に対する負担感を軽減させるためには,育児の主体者である親の心的特性についての理解を深め,真に必要な育児支援策を社会に実装していくことが課題である。これまで,行動観察や内観報告によって親の心的特性が「親性」として定義され,親性の発達過程やそれに影響する要因などが検討されてきた。他方,親性発達の個人差を早期から評価し,孤立育児に陥る可能性の高い家庭を検出するという点では課題が残されてきた。これに対して,近年の神経生理学的研究から,親性発達の基盤となる脳の情報処理システム(i.e., 親性脳)がわかりつつある。本論では,親性の定義を踏まえ,親性脳の発達と個人差,親性脳とうつやストレスとの関係について論じる。さらに,親性脳に関する基礎研究の知見に基づき,父親の親性発達を促す個別型教育への応用可能性について論じる。

原著(依頼)
  • 藤澤 隆史, 島田 浩二, 友田 明美
    2021 年 32 巻 4 号 p. 210-218
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    養育行動は生命の存続において重要なプロセスであり,種を超えて幅広く観察される向社会行動の中で最も重要なものの一つである。本論文では,ヒトにおける親性に焦点を当て,これまでの養育行動に関連する脳イメージング研究によって明らかにされてきた知見を概説することでヒト親性の神経基盤について検討する。まず,養育機能が健常な場合の脳機能について検討するために,げっ歯類を対象とした研究における養育行動の神経・内分泌基盤に関する基本的知見に触れた後,ヒトにおいて特徴的である大脳皮質ネットワークの養育行動に対する関与について,脳イメージング研究によって明らかにされてきた知見に基づきながら検討する。次に,養育機能が低下している際の脳機能について検討するために,養育ストレスが親性の脳機能に及ぼす影響について,筆者らが行った脳機能イメージング研究を交えて概説し,また養育失調に対する心理的介入が行動や脳機能の改善にもたらす効果について検討する。さらに養育準備期にある青年期の脳機能について検討するために,青年期における乳幼児との継続的接触経験が親性の脳機能に及ぼす影響に関する研究について概説する。最後に,近年の脳科学研究の進展に基づいた養育者支援の今後の展望について提案する。

展望(依頼)
  • 大澤 直樹
    2021 年 32 巻 4 号 p. 219-232
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    基本的生活習慣の補助と自立に向けた支援が必要とされる乳児期後半から歩行開始期,幼児期にかけては,子どもの世話や社会化など,養育を担う親の役割は多面的になる。本稿では,世話に着目した実践研究と社会化に着目した基礎研究の両面から先行研究のレビューを行った。前半では,基本的生活習慣(食事・排泄・睡眠・着脱衣・清潔)における子どもの自立過程と親による補助・自立支援行動の時系列的関連を概観した。各基本的生活習慣について子どもの自立が進む期間は,親は保護・統制・足場かけなど多面的な関わりを行っていることが示された。後半では,親の役割の多面性に着目する基礎研究として,社会化の「領域固有性アプローチ」ならびに養育行動に対する親の動機づけに関わる「目標制御モデル」を概観し,実践的観点から両者の関連を検討した。親の養育行動を支援するためには,様々な場面で必要となる自己制御の多様性を重視し,個々に効果的な親の役割を提案する研究が必要である。

原著
  • 中島 卓裕, 伊藤 大幸, 明翫 光宜, 髙柳 伸哉, 村山 恭朗, 浜田 恵, 香取 みずほ, 辻井 正次
    2021 年 32 巻 4 号 p. 233-244
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,抑うつや攻撃性などの情緒・行動的問題が顕在化しやすい児童・青年期(小学4年生から中学3年生)において,自閉スペクトラム症特性と二次障害的な心理社会的適応(向社会的行動,抑うつ,不安および攻撃性)を媒介する変数としての休み時間の役割を検討することであった。小学4年生から中学3年生までの通常学級に所属する5,366組の一般小中学生及び保護者から得た大規模データを用いて検討を行った。パス解析の結果,ASD特性が高いほど休み時間に非対人的な遊びをして過ごしていることが多いことが明らかとなった。また,ASD特性と心理社会的適応の関連を媒介変数の休み時間がどの程度説明するかを推定した結果,休み時間の遊びを介した間接効果は,全間接効果(休み時間+友人関係)の2~6割,総合効果(直接効果+間接効果)の2~4割程度に及ぶことが示された。休み時間の遊びは,友人関係の下位要素の一つと見なすことができるが,向社会的行動では間接効果の65%,抑うつでは46%,攻撃性では26%を説明したことから,友人関係における休み時間の重要性の高さが示唆された。

  • 寺坂 明子, 稲田 尚子, 下田 芳幸
    2021 年 32 巻 4 号 p. 245-254
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学生を対象としたユニバーサルな予防的教育としてのアンガーマネジメント・プログラム『いかりやわらかレッスン』(全5回・1回45分)の有効性を予備的に検討するため,小グループでの実践を行った。異なる2つの地域において募集した小学3~6年生計25名を対象とし,プログラムの内容理解度,児童の自己回答および保護者評定による怒りや攻撃性のプログラム前後での変化,1ヶ月後のスキル使用頻度の3つの点から,妥当性と有効性とを検討した。その結果,内容理解度とスキル使用頻度から本プログラムの内容が小学3~6年生を対象としたものとして概ね妥当であること,児童の自己評定と保護者評定による攻撃性の得点において一部減少が認められたことから,本プログラムが小学生の攻撃性に対して一定の有効性をもつ可能性が示唆された。また,児童の自己評定による攻撃的行動の得点においては実施グループ間で変化に違いが見られ,事前に高い値を示していたグループで減少が認められた。プログラム内容の理解度とこれらの測定値との相関は,敵意との間でのみ有意であった。今後は,対象者の人数を増やすとともに,通常学級における実践を通して,ユニバーサルな教育プログラムとしての有効性の検討を行うことが求められる。

  • 中間 玲子, 杉村 和美, 畑野 快, 溝上 慎一, 都筑 学
    2021 年 32 巻 4 号 p. 255-266
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    青年期のアイデンティティ発達が本格的に達成に向かって変化するのは成人期初期以降であるという見解が共有されつつある。だが,青年期の早い段階にアイデンティティ探求への端緒が開かれる可能性は否定できない。そこで本研究は,アイデンティティ発達の様相を中学校以前の段階からとらえ,アイデンティティ発達の初期における特徴を明らかにすること,アイデンティティ発達に関連する自己意識の様相について明らかにすることを目的とした。対象は小学6年生から高校3年生までの2,092名であった。多次元アイデンティティ発達尺度(DIDS-J)を用いて,下位尺度得点の学年ごとの差およびアイデンティティ地位の人数の差を検討したところ,DIDS-Jの各得点は中1時点で急激に落ち込み,その後得点が上昇していくこと,アイデンティティ地位は小6では達成地位が多数であるが中1において無問題化型拡散地位が多い状態となり,その後,拡散型拡散地位,モラトリアム地位が多くなるという変化がみられることが明らかにされた。また,DIDS-Jと自己意識特性との相関分析の結果,DIDS-J得点と私的自己意識得点との有意な正の関連が示された。これより,アイデンティティ発達は中学校段階から青年期課題として本格的に展開され始め,学年とともに発達の程度が進んだ状態が優勢になること,それは,特に私的自己意識の高さとの関連において進むことが明らかにされた。

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