青年期のアイデンティティ発達が本格的に達成に向かって変化するのは成人期初期以降であるという見解が共有されつつある。だが,青年期の早い段階にアイデンティティ探求への端緒が開かれる可能性は否定できない。そこで本研究は,アイデンティティ発達の様相を中学校以前の段階からとらえ,アイデンティティ発達の初期における特徴を明らかにすること,アイデンティティ発達に関連する自己意識の様相について明らかにすることを目的とした。対象は小学6年生から高校3年生までの2,092名であった。多次元アイデンティティ発達尺度(DIDS-J)を用いて,下位尺度得点の学年ごとの差およびアイデンティティ地位の人数の差を検討したところ,DIDS-Jの各得点は中1時点で急激に落ち込み,その後得点が上昇していくこと,アイデンティティ地位は小6では達成地位が多数であるが中1において無問題化型拡散地位が多い状態となり,その後,拡散型拡散地位,モラトリアム地位が多くなるという変化がみられることが明らかにされた。また,DIDS-Jと自己意識特性との相関分析の結果,DIDS-J得点と私的自己意識得点との有意な正の関連が示された。これより,アイデンティティ発達は中学校段階から青年期課題として本格的に展開され始め,学年とともに発達の程度が進んだ状態が優勢になること,それは,特に私的自己意識の高さとの関連において進むことが明らかにされた。
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