発達心理学研究
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20 巻, 2 号
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  • 朴 信永, 杉村 伸一郎
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 99-111
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は3〜5歳児の親を対象に子育てにおける認知過程の構造を明らかにすることであった。特に本研究では,従来メタ認知や内省的注意力などと呼ばれてきたものも含めて省察という概念で統一し,その省察が3つの階層と3つの領域(親自身に関する省察(PR),子どもに関する省察(CR),他者をとおした省察(OR))から構成されるモデルを子育てにおける認知過程として仮定した。先の3つの領域別に親の省察に関する尺度を作成し,自己意識・自己内省,親子関係,母性意識,養育態度を測定する尺度とともに質問紙調査を実施し,259人の親から回答を得た。親の省察尺度について因子分析の結果,PRとORにおいてはそれぞれ2因子,CRにおいては3因子を得た。これらの因子に基づいた低次の省察が高次の省察に影響を及ぼす3層モデルを構築し,共分散構造分析によってその妥当性を確かめた。また,省察尺度の3つの下位尺度(PR,CR,OR)すべてにおいて信頼性は十分高く,親の省察尺度とその他の尺度の相関からも省察尺度の信頼性と妥当性が確認された。
  • 野中 哲士
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 112-124
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    乳児の動画データベース(佐々木,2008)作成のために収集されたビデオ映像を用いて,ある幼児が誕生後14ヶ月から24ヶ月まで家庭で繰り返し行ったブロック収集行為を縦断的に観察した。本研究では特に,幼児の行為の周囲にある環境の表面のレイアウトに注目することで,環境と動物の行為を切り離さずに,行為を含意する環境を記述し,環境を含意する行為を記述することが可能であることを示した。本研究の結果,床面の遊離物の配置がもたらす行為の機会を反映した幼児の柔軟な姿勢の変化が見られ,また,幼児は周囲の遊離物の配置換えを行うことによって,さらなる行為の機会を維持,獲得していたことが示された。環境の表面のレイアウトを反映する新たな行為群の創発と,それとともに生じる制約の変化に際して,幼児がブロック収集という同一の目的を柔軟に遂行していたことは,環境がもたらす制約の中で,幼児の行為群が補償的に結びつく形で選択されていたことを示唆するものと考えられる。
  • 石本 雄真, 久川 真帆, 齊藤 誠一, 上長 然, 則定 百合子, 日潟 淳子, 森口 竜平
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 125-133
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,青年期女子の友人関係のあり方と心理的適応や学校適応の関連を検討することを目的とした。友人関係のあり方を心理的距離と同調性といった2側面から捉え,学校段階ごとに心理的適応,学校適応との関連を検討した。女子中学生96名,女子高校生122名を対象に友人との心理的距離,同調性,心理的適応,学校適応について測定した。その結果,表面的な友人関係をとる者は,心理的適応,学校適応ともに不適応的であることが示された。心理的距離は近く,同調性の低い友人関係をとる者は,心理的適応,学校適応ともに良好であることが示された。心理的距離は近く,同調性の高い密着した友人関係をとる者は,中学生では概して適応的であった。一方,高校生で密着した友人関係をとる者は,学校適応においては適応的であるものの,心理的適応に関しては不適応的な結果も示した。これらの結果から,同じ青年期であっても学校段階ごとに友人関係のあり方が持つ意味が異なるということが明らかになった。高校生においては,心理的距離は近くとも同調的ではない友人関係を持つことが心理的適応にとって重要であることが示唆された。
  • 多田 幸子, 杉村 伸一郎
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 134-144
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,自分が内部に入り込むことができない長方形の模型空間を用い,再定位における幾何学的情報とランドマーク情報の利用の程度を明らかにするとともに,それらの情報利用に定位喪失時の身体移動が及ぼす効果を検討することであった。実験1では成人32名を,実験2では3-6歳児60名を対象に,定位を喪失させた後に対象探索課題を実施した。その結果,成人は幾何学的情報とランドマーク情報を組み合わせて正しい角を探索したが,3-6歳児は幾何学的情報よりもランドマーク情報を利用し,2つの情報を組み合わせて利用することが困難であった。また,成人では,定位喪失時に身体移動を伴わない模型空間回転条件の方が参加者回転条件に比べて,幾何学的情報を利用していた。しかし,3-6歳児では,幾何学的情報とランドマーク情報の利用に対する身体移動の効果がなかった。以上より,模型空間における幼児の再定位では,移動可能空間と異なり,ランドマーク情報に重点が置かれた空間表象が形成され,身体移動は大きな役割を果たさないことが示唆された。
  • 近藤 綾
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,年少児,年中児,年長児を対象に,発話者の特定を行う外部情報のソースモニタリング能力に関する発達的検討を行った。まず学習として,各年齢の半数の参加者には自己紹介文,残りの半数には単語を,男性と女性の音声刺激でそれぞれ提示した。その後のテスト時では,再認テストとソースモニタリングテストを行った。ソースモニタリングテストでは,"男性の声だけで聞いた","女性の声だけで聞いた","男性と女性の両方の声で聞いた","どちらの声でも聞かなかった",の4つの項目から判断させた。その結果,年中児と年長児は,年少児よりもソースモニタリングテストの成績が良かった。また,年中児と年長児は,単語と比較して自己紹介文のほうが判断成績が良かった。そして,どの年齢においても4つの判断項目のうち"両方に共通する情報(両方の声で聞いた)"の項目に対する判断成績が最も悪く,幼児は2人の発話者の両方から提示された情報を判断することが困難であった。以上の結果から,年中児以降では,自己紹介文のほうが単語よりもソースモニタリング判断を行いやすいことが示唆された。また,年少児でも,一定のソースモニタリング能力は備わっていることが明らかとなった。
  • 青木 直子
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,ほめられる際の他者の存在の有無によって,感情反応に差異がみられるかを検討したものである。調査1では,教師からほめられる際,教師と一対一の状況とクラスメイトがいる状況を提示し,それぞれの場合に生じると思われる感情についてたずねた。その結果,どちらの状況でも肯定的な感情が生じると報告するパターン,どちらの状況でも肯定的な感情が生じるが,クラスメイトがいる状況では否定的な感情も同時に生じると報告するパターン,教師と一対一の場合には肯定的な感情,クラスメイトがいる状況では否定的な感情が生じると報告するパターン,一対一の状況よりもクラスメイトがいる状況でほめられる方がより肯定的な感情が生じると報告するパターンの4つがあることが明らかになった。調査2では,調査1で用いた2つの状況のうち,ほめられてうれしい場面とその理由についてたずねた。ほめられてうれしい場面として選択された状況に偏りはみられなかったが,教師と一対一の状況を選択した子どもはその状況の静かさ,クラスメイトがいる状況を選択した子どもはクラスメイトからもほめられる可能性を状況選択の理由として挙げることが多く,状況ごとにうれしさを生じさせる背景が異なることが示された。
  • 奈田 哲也, 丸野 俊一
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 165-176
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,奈田・丸野(2007)を踏まえ,「自分とは異なる他者の考えを聞き,双方の考えを比較・検討することで自分の考えを捉え直す(自己省察する)という一連の過程を繰り返し体験していく中で,異なる考えの有効性や新たな解決方略を発見し,最終的には,単独で有効方略を実行できるようになる」という内面化過程を想定し,その促進化を図る実験を行った。小学3年生を対象に,プレテスト(単独),協同活動セッション,ポストテスト(単独)という流れのもとに,最短ルートで指定された品物を購入してくる買い物課題を行わせた。協同活動セッションでは,"他者の異なる考えを聞く"と"自己省察を行う"といった2側面の有無の組み合わせから成る4条件を設定した。また,内面化の過程には,認知面での認識の変化を実際の遂行過程で実感することの体験が不可欠であるという前提のもとに他者とのやりとりの内容を8試行繰り返した。その結果,他者の異なる考えを示し,自己省察する2側面を兼ね備えた条件では,やりとりを繰り返し行っていく中で課題解決にとって最適な方略をスムーズに内面化できるという作業仮説を支持する結果が得られた。
  • 富田 昌平
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 177-188
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,サンタクロースのリアリティに対する幼児の認識を調べた。研究1と2では,私たちは"昼間に保育園のクリスマス会で出会う大人が扮装したサンタ"(直接的経験)と"夜中に子どもの寝室にプレゼントを届けてくれるサンタ"(間接的経験)について子どもにインタビューした。その結果,4歳児は大人が扮装したサンタを"本物"と判断する傾向があるのに対し,6歳児は"偽物"と判断する傾向があることが示された。他方,6歳児は夜中にプレゼントを届けてくれるサンタを"本物"と判断していることが示唆された。研究3では,研究1と2の2種類のサンタに加えて,"デパートで出会うサンタ","昼に子どもの家を訪問するサンタ","夜に空を飛んでいるサンタ","夜にサンタ国に子どもを招待するサンタ"について,本物か偽物かの判断を求め,その根拠も求めた。その結果,5歳児は外見の類似をもとにサンタを「本物」と判断する傾向があるのに対し,6歳児は伝承されているサンタクロース物語と登場文脈との一致をもとに,"寝室","空の上","サンタの国"サンタを「本物」,"デパート","保育園","玄関"サンタを「偽物」と判断する傾向があった.以上の結果は,サンタクロースのリアリティ判断の発達における直接的経験と登場文脈の影響という点で議論された。
  • 小林 佐知子
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 189-197
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,乳児をもつ母親の抑うつ傾向と夫からのサポートとの関連について,育児関連ストレスへのコントロール可能性を含めて検討することを目的とした。3〜4ヶ月児をもつ242名の母親を対象に,育児関連ストレス,夫からのサポート,ストレスへのコントロール可能性と抑うつ傾向との関連について検討した。その結果,育児関連ストレスは抑うつ傾向と直接的に関連をするとともに,コントロール可能性を介して間接的に関連をすることが明らかになった。一方,夫からのサポートは抑うつ傾向と関連しなかった。夫からのサポートとコントロール可能性の交互作用がみられ,コントロール可能性は抑うつ傾向と負の関連をするが,その関連性は夫からのサポートによって異なることが示された。コントロール可能性が低い場合でも,夫からのサポートが多い母親は,少ない母親に比べて抑うつ傾向が低かった。これらの結果から,抑うつを予防するためには,母親自身がストレスへのコントロール可能性を認知することが必要であること,コントロール困難な場合には,夫からのサポートが有効であることが示唆された。考察では,これらの知見を踏まえた産前教育の必要性が論じられた.
  • 山根 直人
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 2 号 p. 198-207
    発行日: 2009/06/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    これまで幼児期の楽音の音高識別力については,Seashore(1936)の音楽能力テストや音研式音楽能力診断テスト(音楽心理研究所,1966)などで取り上げられているものの,音高識別力の機序は充分に明らかにされていない。その理由として,幼児の音高識別力の評定する確立した方法がないということがあげられる。現代の乳幼児を取り巻く音楽環境の多様さを考慮すると,幼稚園,保育所における指導,教材等の方法を検討する際,音高識別力の発達の様相を知ることは重要と考える。本研究では,幼児の音高識別力の評定方法について検討するため,まず実験1で3歳児を対象に音研式テストをもとに開発した,絵と音高列とのマッチングによる音高識別実験を行った。そこから明らかとなった評定方法の問題点を考慮し,実験2で音感ベルを刺激とした音高識別実験を,2〜6歳児に実施した。その結果,2,3歳児と4,5,6歳児の間で有意な識別成績の差が見られた。本実験で用いた評定方法より得られた結果は,幼児の音高識別力は識別成績が加齢とともに上昇する傾向を示すものだった。さらに,2,3歳児のための楽音の音高識別力の評定方法の必要性が明らかとなった。
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