発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
33 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 廣戸 健悟
    2022 年 33 巻 3 号 p. 112-122
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    幼児期の向社会的行動の発達的変化を明らかにすることを目的とし,向社会的行動が発生してから事態が収束するまでの行為者と受け手の一連の相互作用を記録した。従来の発達研究では,他者の窮状に接した直後の子どもの一回性の反応のみが着目され,そこで向社会的行動が行われたか否かという点にもっぱら関心が向けられてきた。しかし,行為が受け手に伝わらない,あるいはネガティブな反応を引き起こした場合,行為者は向社会的行動を柔軟に「調整」することが求められる。そこで本研究では,幼児が受け手の反応に応じていかに向社会的行動を調整するかに着目し,3歳児と5歳児を対象に自然観察を行った。観察された受け手の反応を分類した結果,3歳児は5歳児に比べてネガティブ反応が多く,5歳児は3歳児に比べて受容反応が多くみられた。また,向社会的行動の適切性を検討するため,ニーズ,動機,方略の妥当性,利益の4つの基準を設けて分析した結果,5歳児は3歳児に比べて適切な向社会的行動を多く示した。また,向社会的行動の調整についての年齢差を検討したところ,受け手が受容反応とネガティブ反応を示した場面で,5歳児は3歳児に比べて受け手の反応に応じてより適切な向社会的行動に調整していることが示された。本研究より,幼児期において,調整プロセスという観点から向社会的行動を捉えることで,新たな発達的変化が存在する可能性が示唆された。

  • 小川 翔大
    2022 年 33 巻 3 号 p. 123-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    本研究では,障害者に対する健常学生の態度が身体障害学生(車椅子利用者)との友人関係に与える影響を,混合研究法により検討した。フェーズ1(量的研究)では,大学に通う健常学生を対象に,障害者観(顕在的態度)と「障害者は能力が低い」というスレテオタイプ(潜在的態度)を指標にして接触仮説を検証した。その結果,身体障害学生の友人あり群(18名)は友人なし群(63名)より全指標で偏見が弱く,仮説は支持された。フェーズ2(質的研究)では,友人あり群の健常学生(15名)とその友人の身体障害学生(3名)にグループインタビューを行い,交流内容を検討した。その結果,身体障害学生と健常学生は障害特性の情報を共有し,相互にサポート提供する中で,不安や葛藤を感じていた。フェーズ3(データの統合)では,「障害者は能力が低い」という潜在的態度が強い健常学生は身体障害学生に過度なサポートを提供して,どちらの学生も不満や葛藤を抱くことが示された。最後に,インクルーシブ教育で友人関係を維持するサポートの互恵性について考察した。

  • 松葉 百合香, リー スティーブケイ, 原口 幸, 岩崎 美奈子, 大月 友, 桂川 泰典
    2022 年 33 巻 3 号 p. 137-145
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    本研究の目的はThe Mentalization Scale(以下,MentS)の日本語版を作成し,尺度の信頼性,妥当性の検討をすることである。尺度の翻訳使用に関する原著者の承諾のもとMentSを日本語訳し,大学生352名を対象に調査を行った。原版の因子構造に基づく確証的因子分析の結果,一部に項目の減少はあったものの,原版と同様の3因子構造(自己に対するメンタライジング,他者に対するメンタライジング,メンタライゼーションへの関心)が明らかとなった。内的整合性および再検査信頼性においては,十分ではないものの一定の値が確認された。基準関連妥当性のための相関分析の結果,一定の妥当性が示された。また構成概念妥当性の検討のために行った偏相関分析の結果,MentS-Jは境界例心性尺度,自閉症スペクトル指数と負の相関がみられた。これらの結果からMentS-Jにおける一定の信頼性および妥当性が示され,自記式質問紙によるメンタライゼーションのアセスメントへの活用可能性が示された。

  • 久原 恵理子, 宮寺 貴之, 藤原 佑貴
    2022 年 33 巻 3 号 p. 146-157
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    本研究では幼児を対象として,被誘導性及び記憶における作話(歪曲と捏造)と認知機能との関連を検討した。女児(5–6歳)に対して,被誘導性を測定するテスト(The Bonn Test of Statement Suggestibility)とWISC-IVを実施し,65名を分析対象とした。分析によって,以下の結果が明らかになった。選択式質問による誘導と言語理解との間に負の関連が示された。一方で,はい・いいえ質問(YNQ)による誘導と質問の繰り返しによる誘導の両方ともWISC-IVのいずれの指標とも有意な関連はみられなかった。しかしながら,YNQ及び質問の繰り返しによる誘導は月齢と有意な関連がみられた。YNQによる誘導は月齢が上がるほど減少するが,質問の繰り返しによる誘導は月齢が上がるほど増加した。記憶における作話について,歪曲はWISC-IVのいずれの指標とも有意な関連がみられなかったが,捏造はワーキングメモリーと負の関連がみられた。本研究で得られた知見から,幼児に対する聴取への応用的示唆について議論した。

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