発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
最新号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 石崎 一郎, 大川 一郎
    2024 年 35 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/29
    [早期公開] 公開日: 2024/02/06
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,長期にわたる夫の家事・育児への継続的関与を通して,「主夫」である夫が,ジェンダー・ステレオタイプを克服し,ジェンダー役割の囚われから脱却するプロセスを明らかにすることを目的とした。3~20年にわたり主夫をする夫16名にインタビューを実施し,M-GTAにより分析した結果,夫と妻がジェンダー役割に囚われる要因として,それぞれの潜在意識,組織・学校・地域社会に内在する「無意識の思い込み」が大きな要因となっていることが明らかになった。加えて,夫が家事・育児への関与を深め,ジェンダー役割から脱却するためには,(1)夫と妻の間での情報の齟齬をなくし,情報共有の質と量を高めること,(2)夫が孤独な育児と苦悩を体験し,ジェンダーの囚われと葛藤する中で,社会に遍在する無意識の思い込みに自ら気づくこと,(3)地域社会との関係を試行錯誤し,主夫コミュニティなどを通じて,新たなソーシャルサポートを獲得すること,(4)ジェンダーに対する認知の「パラダイムシフト」が必要であることが推測された。さらに,夫の家事・育児に対する認知が,家庭内役割への継続的関与により「仕事」として価値転換され,それにより多様性の理解と柔軟な思考を促進させることが示唆された。

    【インパクト】

    夫の家事・育児への参加を促進する条件が整いつつあるにもかかわらず,なぜ日本では夫の家事・育児への関与が遅々として進展しないのか。この問いに対して,本研究の結果からは,夫と妻双方の「ジェンダーの囚われ」という解が見出された。従来の成人期男性の発達研究にはなかった視点から,仕事と家庭の狭間で葛藤する男性の心理に関する知見を得ることができた。

  • 田口 恵也, 溝川 藍
    2024 年 35 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/29
    [早期公開] 公開日: 2024/02/26
    ジャーナル 認証あり

    嘘は対人葛藤を回避し,円滑な対人関係を維持する上で役立つとされる反面,近年ではその使用が抑うつを高めることも指摘されている。本研究では,他者のためにつく向社会的な嘘の使用傾向と抑うつの関連について,1,034名(中学生126名,高校生540名,大学生368名)を対象に検討した。その結果,いずれの学校段階においても向社会的な嘘の使用傾向が高いほど抑うつが高いこと,中学生においては向社会的な嘘の使用傾向が友人関係の良好さと負に,大学生においては向社会的な嘘の使用傾向が友人関係の良好さと正に関連すること,中学生や高校生では向社会的な嘘の使用傾向と抑うつの間に対人疲労感が介在していることが明らかになった。また,大学生の向社会的な嘘の使用傾向は,中学生および高校生に比べて高かった。本研究の知見から,青年期において向社会的な嘘の使用傾向と抑うつの間には一貫して関連が見られるものの,関連する過程や向社会的な嘘の使用傾向には学校段階による違いがあることが示された。

    【インパクト】

    本研究によって,向社会的な嘘の使用傾向と抑うつの関連が青年期(中学生・高校生・大学生)において一貫して見られることが明らかになった。また,学校段階が上がるにつれて,向社会的な嘘を使用するほど友人関係は良好になり,対人疲労感も生じにくくなることが示された。これらの知見から,同じ青年期の中でも,対人関係の構造の違いやコミュニケーションスキルの発達に伴って向社会的な嘘の効用が変化することが示唆された。

  • 加藤 道代, 神谷 哲司
    2024 年 35 巻 1 号 p. 26-38
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/29
    [早期公開] 公開日: 2024/03/25
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,父親が子育てと家事のニーズを感知し,感受性と応答性をもって自ら関与しようとする姿勢(感応的協働性)に対する母親の認知を測定する尺度(母親の認知する父親の感応的協働性尺度)を作成し,その信頼性と妥当性を検討することであった。6歳未満の子どもを持つ母親497名(調査1)と母親499名(調査2)がウェブ調査に参加した。調査1では,母親の認知する父親の感応的協働性尺度10項目について探索的因子分析により1次元性と高い内的整合性(α=.95)が得られた。調査2では主成分分析により1次元性を再確認した。他の変数との相関では,母親の認知する父親の感応的協働性の高さは,母親による父親の育児行動への促進の高さと批判の低さ,夫婦関係満足感の高さ,母親の認知する父親の共感性(他者指向的反応と視点取得)の高さと有意に関連した。また,母親の認知する父親の感応的協働性は日本語版コペアレンティング関係尺度(CRS-J)の5下位尺度と有意な正の関連を認め,母親の認知する父親の感応的協働性が高いほどコペアレンティングがうまくいっていることが示された。加えて,夫婦で子育てのことを話し合える信頼感の高さとも有意な関連がみられた。以上により,母親の認知する父親の感応的協働性尺度は,高い内的整合性をもち,調和的コペアレンティングとして先行研究が示す構成概念を備えた尺度として妥当性を有することが示された。

    【インパクト】

    本研究は,パートナー(本研究では父親)が子育てと家事のニーズに,感受性と応答性をもって自ら関与しようとする姿勢を父親の感応的協働性と定義し,主要な育児担当者(母親)の認知するパートナーの感応的協働性を測定することにより,調和的コペアレンティングの評価を可能にした。コペアレンティングにおける「察する」関係の重要性に着目した本尺度は,今後のコペアレンティング研究の展開に大きく寄与することが期待できる。

  • 向井 隆代, 小山 直子, 石井 礼花, 德田 若奈, 森 千夏
    2024 年 35 巻 1 号 p. 39-52
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/29
    [早期公開] 公開日: 2024/03/26
    ジャーナル 認証あり

    児童期中期から青年期の愛着を評価する測定方法は確立されていなかった。Child Attachment Interview(CAI)は,児童期中期以降の愛着を評価するために開発された半構造化面接法であり,愛着を次元およびカテゴリーで評価する。本研究では,CAIプロトコルの日本語版を作成し,日本人児童における実施可能性と妥当性を検討した。93名(平均年齢9.8歳,男児46名)の児童に対し,CAI,Kerns Security Scale(KSS),およびWISCの下位検査を実施した。保護者は児童の気質に関するEarly Adolescent Temperament Questionnaireを記入した。本研究の結果は,先行研究の結果をほぼ追認するものであり,CAIによる愛着分類(安定型,軽視型,とらわれ型,非組織化型)の分布は,海外の報告とほぼ同様であった。性別や母親の就業状況による愛着分類への影響はみられなかった。母分類,父分類のそれぞれで,安定型の児童は不安定型の児童に比べて対応するKSS得点が高く,CAIによる愛着分類の妥当性が確認された。CAI尺度得点は,KSSと予想された相関を示し,気質とは相関がみられなかったことから,CAI尺度の妥当性も確認された。しかし,母分類で安定型の児童は不安定型の児童に比べ,WISC「単語」の得点が有意に高く,語彙力とCAIの関連についてはさらに検討が必要である。

    【インパクト】

    本研究は,日本人児童を対象に半構造化面接によって愛着を評価する初めての試みであり,新奇性がある。これまで愛着を測定することが不可能であった年齢層の児童の愛着測定方法として,海外では学術研究のみならず臨床・福祉領域でも活用されているCAIを,日本でも使用することが可能になることの社会的意義は大きい。イギリスで開発された質問項目や評価の手続きを日本人児童に実施可能かどうかを確認し,妥当性の検討を行った。

feedback
Top