発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
15 巻, 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 西條 剛央
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 281-291
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,母親が自分の子どもを次第に抱かなくなって行く発達的過程を「離抱」と名付け検討し,その概観を明らかにすることを目的とした。1-13ヵ月の乳幼児を持つ母親達を対象とした質問紙調査を行ない,抱き時間や乳幼児の発達に関する情報を集めた。その結果,未頸定段階に6時間以上あった抱き時間は,歩行段階には2.5時間へと減少していくことが明らかとなった。さらに,乳児の発達的側面から,離抱に影響を与える要因を検討した。その結果,(1)姿勢運動発達,(2)身長,(3)体,(4)授乳形態,(5)子の体を動かす行動,(6)子の抱っこから降りたがる行動が影響を与えていることが示された。それを踏まえ,親性投資,システム論的観点等から離抱に対する考察がなされた。最後に,今後,観察研究,縦断研究,ダイナミックシステムズアプローチ,比較文化的アプローチといった観点から検討する必要性が示唆された。
  • 鈴木 亜由美, 子安 増生, 安 寧
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 292-301
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児の社会的問題解決の能力を「心の理論」の発達との関連から検討した。3歳児21名,4歳児20名,5歳児20名を対象に,仮想的な対人葛藤場面において,相手の意図(故意・偶然)を理解しているか,また葛藤を解決するためにどのような方法を用いるかをたずねた。同時に,誤った信念課題によって「心の理論」の発達を調べた。その結果,相手の意図の理解は誤った信念課題の正誤と関連していることが示された。また,「心の理論」を獲得した子どもは,相手の意図(故意・偶然)に応じて異なる葛藤解決方法を選択するであろうという仮説に反して,そのような区別は見られず,相手の意図に関わらず,攻撃的方法の選択が減少し,自己抑制的方法の選択が増加することが示された。これらの結果より,対人葛藤場面における相手の意図の理解は,「心の理論」と密接に関連しているが,意図の違いによって葛藤解決方法に区別が見られるというわけではなく,むしろ状況に関わらず一貫した解決方法を選択するようになる,ということが示された。
  • 李 相蘭
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 302-312
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,無気力傾向と進学動機の不明確性,進路未決定および自我同一性との因果関係を通じて,日本と韓国の高校生における無気力傾向に見られる違いを比較・考察することにある。日本の東京都内の高校生(男子164名,女子146名),韓国のソウルおよび京畿道内の高校生(男子124名,女子128名)を対象に,質問紙法による調査を行なった。無気力傾向尺度は2因子を抽出し,アンヘドニアおよび未来へ対する自己不破実感を表す'自己不全感'と対人関係における消極的または受動的な態度を表す'消極・受動'となった。本研究の分析は,国と性によって4つの母集団に分けて行なったが,国より性による違いがより明瞭となっていた。男子高校生の自己不全感は進路が決定していないために引き起こされることが推測された。しかし,女子高校生の方は,進路を決定しているためにかえって自己不全感が高くなる可能性が推測された。一方,消極・受動は,自我同一性の未確立問題によって影響されており,特に男子高校生の方が高かった。男女とも進学動機が不明確であることによって進路を決めるのが困難となる可能性が推測され,進路決定について感じる困難は,続いて自己不全感に影響を与えていた。国による差において,自己不全感が自我同一性によって直接的に規定される程度は,日本の男子高校生においてほとんど意味を持たないのに比べて,韓国の男子高校生の方はより高い係数で規定されていた。一方,女子高校生の場合,消極および受動的な性向が自我同一性の未確立によって影響される程度において,日本の女子高校生の方が韓国の女子高校生に比べて明瞭に高かった。また,日本の女子高校生の自己不全感は,韓国の女子高校生に比べて進語末決定の問題を介する傾向が示された。本研究において,日・韓男女高校生とも自己不全感に進学動機不明確性が影響していることが確認されたことは,いままでの知見を一歩進めたものとなる。
  • 植松 晃子
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 313-323
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本人留学生の異文化適応の様相を明らかにすることを目的とし,1)滞在国の対人スキル獲得,2)民族的側面(民族同一性・他民族志向),3)セルフコントロール(調整型・改良型セルフコントロール)といった要因と,異文化での充実感・満足感を示す異文化適応感との関連を中心に検討した。アメリカに滞在する143名の日本人留学生を対象に質問紙調査を実施した。異文化適応感について4因子抽出された(「滞在国の言語・文化」,「心身の健康」,「学生生活」,「ホスト親和」)。また因果モデルに基づくパス解析の結果,民族同一性と他民族志向からは,滞在国の対人スキル獲得と異文化適応感因子に有意なパスが見られ,民族意識の持ち方によって異なる適応のタイプが示唆された。さらに調整型セルフコントロールからも滞在国の対人スキル獲得や異文化適応感因子への有意なパスが見られ,情動制御や気のそらしといったコントロールが特に有効であることが明らかになった。また滞在国の対人スキル獲得は全ての異文化適応感因子に関与しており,異文化適応において非常に重要な要因であることが明らかになった。
  • 上淵 寿, 沓澤 糸, 無藤 隆
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 324-334
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    学習時における児童・生徒の援助要請および情報探索に対する達成目標の影響が,学年によってどのように発達するのかを,小学校4年生から中学1年生を対象に,調査した。その際に,学年ごとのモデルの潜在変数の同質性を保証するために,多母集団の同時分析を行った。その結果,学習目標が援助要請の利得感に正の影響を与えること,遂行目標が援助要請の利得感に正の影響をもたらすこと,援助者に対する援助性認知が,援助要請の利得感に正の影響を与えることが示された。また,援助要請の利得感の方が,援助要請の損失感よりも,実際の援助要請行動に影響していた。最後に,情報探索行動には,どの学年においても,学習目標が正の影響を与え,遂行目標は有意な影響を与えなかった。
  • 辻 あゆみ, 高山 佳子
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 335-344
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    幼児期の自閉症児とその母親とのシャボン玉遊び場面を観察し,対象児が「自分-もの-母親」との間で三項関係を成立させる過程を分析した。シャボン玉遊びの中で,対象児は,三項関係を成立させ,母親の吹く行動を真似るに至るまでに,物ならびに母親に対して39項目の行動を表出させた。初回のやりとりにおいて,対象児は物に働きかけることが多く,母親に対して働きかけることは少なかった。また,対象児が母親に対して働きかけた場合においても,母親を見ることはなかった。最終回のやりとりにおいて,対象児は,母親を見ながら母親に働きかけることが多くなり,物と母親との間で視線を移動させるようになった。対象児は,シャボン玉遊びを介したやりとりを通して,物を操作している母親を理解するようになり,その結果,母親の行動を真似ることが可能になったと考えられた。他者と相互主体的なやりとりを展開することが困難な幼児期の自閉症児に対して,他者を意識できるような遊びを展開できるように支援することが,必要であると考えられた。
  • 神藤 貴昭, 尾崎 仁美
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 345-355
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    近年,大学における教育的側面が検討されるようになってきた。本研究の目的は,大学授業における教授者のストレスと対処行動の過程を明らかにすることであった。研究1では大学授業における教授者の認知するストレッサーの種類を調査した。研究2では,3名の大学教員によっておこなわれた実際の7つの授業をもとにして,教員への面接や授業VTRの分析をとおして,教授者と授業中のストレッサーとの相互作用を詳細に記述した。主な結果は以下のようであった。(1)全体的には学生の反応に関するストレッサーが多いこと,(2)放置という対処が多く見られたこと,(3)教授者の経験年数が少ないほど,学生の否定的反応に関するストレッサーを多く認知していること,(4)対処行動にもかなり個人差があるということ,(5)あるストレッサーを解決しようとすると,別のストレッサーが生起する可能性があること,の5点である。これらの結果はファカルティ・ディベロップメントの観点から議論された。
  • 天谷 祐子
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 356-365
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    「私はなぜ私なのか」「私はなぜ他の時代ではなく,この特定の時代に生まれたのか」といった,私そのものへの問い-自我体験-が,どれくらいの割合で,いつ頃見られ,どのような情動や行動を伴うのか,そして自我体験の内容について検討することを目的に,中学生から大学生881名を対象に,自由記述を伴った質問紙調査を行った。その結果,379名(43%)から自我体験が報告され,初発については,小学校後半を中心にややバラツキが見られることが示された。また,必ずしもきっかけがなくても生起し,他者への開示はあまり見られないことが示された。そして,自身の自我体験に意味を見出している人は少数派であったが,より年上の世代の方が,意味を見出している人が多い結果となった。本研究の結果,自我体験は一般に多くの人に共有されている問いであることが示された一方で,全ての人に見られる現象ではないことが示された。また子ども世代であっても,「私」について抽象的に考えることができる可能性が示唆された。
  • 赤木 和重
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 366-375
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究は社会的知能のひとつのあらわれである教示行為に注目して行われた。特に, (1)1歳児における積極的教示行為(active teaching)の有無,(2)積極的教示行為の生起と自己鏡像認知(mirror self-recognition)の成立との関連,を明らかにすることを目的として研究を行った。1歳Oヵ月〜1歳11ヵ月の幼児43名を対象に,「他者による問題解決困難場面提示課題」とよばれる独自の課題およびGallup(1970)の開発したマーク課題を実施した。「他者による問題解決困難場面提示課題」とは,実験者が,新版K式発達検査で用いられるはめ板と円板を素材として,円板を四角孔にいれようと対象児の目前で試行錯誤するという課題である。その結果, (1)1歳8ヵ月以降の幼児のおよそ60%が積極的教示行為を生起させた,(2)積極的教示行為の生起と自己鏡像認知の成立との間に関連がみられた,という2点が明らかになった。以上の結果から,積極的教示行為および自己鏡像認知の成立には1歳半ころの表象能力に基づく自他の分化が基盤にあることが示唆された。
  • 坂田 陽子, 川合 伸幸
    原稿種別: 本文
    2004 年 15 巻 3 号 p. 376-384
    発行日: 2004/12/20
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    4・6歳児を対象に,ビデオ映像と子どもとの間で対話を通して双方向コミュニケーションが取れるようにした場合,幼児の記憶が促進されるかを検討した。2群を設けた;対話あり群;実験者が隠れてマイクを通して披験児と対話をしながらビデオを呈示,対話なし群;セリフの入ったビデオを見せ対話なし。ビデオのストーリーは,登場人物が子どもにとって未知の食品を10項目購入していき,途中で6種のエピソードが組み込まれているというものであった。対話あり群には,ビデオ視聴中に,購入した項目の名前を言うよう要求したり,エピソードについてコメントをさせたりした。一方,対話なし群にはビデオを視聴させるのみで,何も要求しなかった。ビデオ視聴後,披験児は,エピソード記憶,購入項目選択および再認の3課題を試行した。その結果,対話あり群は,対話なし群と比較して,エピソード記憶成績が良かった。以上の結果から,子どもとビデオ映像との対話を通したインターラクション状況下でのビデオ視聴は,幼児のエピソード記憶を促進させる効果があることがわかった。
feedback
Top